概要
『プライベート・ライアン』(原題:Saving Private Ryan)とは、1998年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督のアメリカ映画で、第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台に、主演のトム・ハンクスが演じる大尉と精鋭七人が原題の通りマット・デイモン演じるたった一人の兵士(Private)を救出する物語。
実際の戦争を彷彿させるリアルで凄惨な戦闘シーンが映されており、特にオマハビーチの戦闘を描いた二十分は戦争映画史に残ると謳われているほど好評を博した。
凄惨な戦闘以外にも、救出部隊の心理的な葛藤や確執も描かれている。
あらすじ
時は第二次世界大戦中の1944年6月6日。
ノルマンディー上陸作戦が実施され、多大な犠牲を払いながらも海岸を確保した連合軍。一方、死亡告知書を作成していたタイピストが普通の一家であるライアン家の息子四人兄弟の内、兄三人が同時期に別々な場所で戦死してしまったことを偶然気付いてしまう。
タイピストらの報告を受けたアメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルは、いくら戦時中とはいえ三人の死を同時に知らされる一家の母を哀れだと思い、まだ戦死の報告が上がっていない末弟のジェームズ・ライアン一等兵を本土に送還することを決定するが、ノルマンディー上陸作戦前日の空挺降下で行方不明となっていたことから地獄のノルマンディー上陸作戦を生き残った第2レンジャー大隊C中隊指揮官のミラー大尉にライアン一等兵の救助任務が与えられる。
その命令を受けたミラー大尉は、生き残った部下とドイツ語とフランス語が話せるアパム五等技能兵を通訳として加えた七人を選抜するが、彼らのほとんどが広い戦場で「すでに戦死しているかもしれないたった一人の兵士のために、何故八人の命を危険に晒しながら助けなければならないのか?」という理不尽な命令に反感を抱いていた。
それでもミラー大尉とともにライアン一等兵の救出に向かうのであった………
登場人物
- ジョン・H・ミラー(一番左下の人物)
アメリカ陸軍大尉。第2レンジャー大隊C中隊指揮官。M1A1サブマシンガンを使用。
優秀な指揮官だが、着任前の経歴が謎に包まれている。
演じた俳優はトム・ハンクス。
- マイケル・ホーヴァス(一番左上の人物)
北アフリカ戦線から戦い続けているベテランだが、小太りで動きが遅い。
- リチャード・ライベン(一番右上の人物)
一等兵。BARを使用する分隊支援要員。
口が悪く気が短い性格。ライアン救出任務を特に嫌がっている。
- ダニエル・ジャクソン(真ん中下の人物)
二等兵。狙撃手。スプリングフィールドM1903A4(右利き用)を使用。左利き。
口は悪いが敬虔なカトリック信者。狙撃の腕に高い自信を持っており、狙撃する時は祈りを口にする。
演じた俳優はバリー・ペッパー。
- スタンリー・メリッシュ(左から二番目の人物)
二等兵。M1ガーランドを使用。
ユダヤ系アメリカ人であり、ナチスを特に憎んでいる。ダビデの星が描かれているネックレスを持っており、捕虜のドイツ兵達に見せつけていた。
- エイドリアン・カパーゾ(真ん中上の人物)
二等兵。M1ガーランドを使用。
長身の男で、高圧的な性格だが、逃げ遅れた一家から子供を保護しようとするなど人情味溢れる面がある。
演じた俳優は、『ワイルド・スピード』シリーズの主役、ドミニク・トレットを演じるヴィン・ディーゼル。
- アーウィン・ウェイド(右から二番目の人物)
四等技能兵。衛生兵。
ミラー大尉とホーヴァス軍曹とは長い付き合い。救出隊の中では温和な性格。
- ティモシー・E・アパム(一番右下の人物)
五等技能兵。M1ガーランドを使用。唯一、ミラー達とは原隊が違う。
訓練以外で銃を撃ったことがないほどの新兵だが、フランス語とドイツ語が堪能(フランス語は若干訛りあり)。
ライアン救出任務の際、通訳としてミラー大尉によって救出隊に加わる。
- ジェームス・F・ライアン
一等兵。第101空挺師団所属。今回の救出目標人物。M1ガーランドとバズーカを使用。
兄三人が同時期に別々の戦場で戦死したことにより、急遽前線勤務を解かれ、本国へ送還されることになる。
演じた俳優はマット・デイモン。
「Private」について
「Private」はそのまま陸軍と海兵隊の二等兵を示す単語でもあるが陸軍の一等兵と二等兵をまとめて指す場合もある。
また二等兵は「教育期間中の新兵」でありそのまま戦地に赴くと考えられないことから本作の「Private」は「一等兵」と訳した方が正当と思われる。
劇中のライアンのジャケットの左腕には一等兵を示すと考えられる記号が黒色で書かれている。
賛否
公開当時、この映画を観た日本人の評価に「この映画の面白さ、良さが判らない。何が言いたいのか判らない」というものが多数見られた。
娯楽作品でもなく感動する作品でもなく、只ひたすらに無駄ともいえる作戦を遂行する部隊に疑問を抱いた人が多かったのだが、これは映画の視点が「政治的な目的で決まった作戦(要するに戦争全般)が如何に理不尽であるか」を描くことに特化したため当時の日本人には素直に共感できなかった内容であったと思われる。
余談
撮影では、救出部隊とライアン二等兵との険悪さをより醸し出すために、クランクイン前にトム・ハンクスら救出部隊を演じる俳優達は元軍人の指導のもと、10日間もの過酷なブートキャンプを行われた後に休む間もなく二週間にもおよぶ戦闘場面の撮影が行われた。俳優達の荒んだ雰囲気の中に何も知らないマット・デイモンが現場に颯爽と現れたため、より険悪な雰囲気となり、一連の相乗効果によって演技はリアルで緊迫したものとなった。
ヒュルトゲンの森の戦いを描く「WHEN TRUMPET'S FADE」(1998年)の邦題は「Private」の意味を全く理解していない配給会社が本作にあやかったのか「プライベート・ソルジャー」なる珍妙なタイトルが付けられてしまった。
とはいえこの「プライベート・ソルジャー」も陰鬱な戦場を克明に描写しており鑑賞して損はしない映画である。