概要
「ボートを用意しろ」とは、厄介者のヒューイを追放する為の台詞であり、島流しをさせる事である。本人は「お前たちこそ人殺しだ!」「まともなのは僕だけか!?」等と喚くが、ビッグ・ボスことヴェノム・スネーク達はそんな事もお構いなしに、彼を乗せたボートを海に放ったのである。
MGSVをプレイした事が無くても、この台詞を聞いた事がある者も多い。
pixiv等をはじめをしたSNS関連でメタルギアシリーズ(特に儀式の人関連)のイラストや動画のコメントで、(主に投稿者や投稿作品の登場人物にとって都合の悪い)ヒューイ風ツッコミや指摘(例「何がビッグ・ボスだ!ただのSARUじゃないか!まともなのは僕だけか!?」)がされた時にその返答を「ボートを用意しろ」と返すのである。場合によっては続けて「一人乗りでいい」や「水と食べ物を」をいう時もある。誤表記で「水と食料を」と誤認する者もいる。
当該の場面(一応真面目な解説)
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詳しい事は本人の記事にも書かれているが、作中の終盤にて、ダイアモンド・ドッグズにより裏切者のヒューイの裁判が行われ、次々と罪状が明らかになった。
罪状を読み上げられながらも必死に自分は無実と否定するヒューイ。
その判決をスネークが下すことになり、多くは死刑を望んでいたが、そのやり取りの流れが…。
ミラー「こいつをどうするか ボスあんたから言ってくれ 始末は俺達がする」
しばらく長い沈黙をする…
スネーク「ボートを用意しろ 一人乗りでいい 水と食べ物を」
ミラー「ボス?」
スネーク「出て行ってもらおう」
ミラー「おい……俺たちをこうした、張本人だ!あの時の仲間も……なのにこいつだけは……こんな奴が俺達の、本当の敵なんだ!」
スネーク「カズ……そう、こいつは敵だ。仲間じゃない。だからこそ、俺達にこいつは裁けない。ただマザーベースは降りてもらう」
その後は、僅かな水と食料を与えられたヒューイはインド洋に流されていったのである…。
裁判の流れを見れば彼があのままでは処刑されていたのは間違いなく、一応はヴェノムに命を救われた立場であるにもかかわらず、その事に感謝するでもなく安堵するでもなく最後まで自身の正当性とヴェノム達への非難を喚き、そのくせボートが沈みそうになると、それまで命より大事だと言っていた自身の歩行ユニットを迷う事なくあっさりと海に投げ捨てて去っていった(オセロットからは、「既に無くしたファントムすらも捨てた」と評された)。
それは『自分の脚で立って自立した人間になれ』と、発破をかけられた前作のラストに対する最悪の解答とも言える惨めな最後だった。
本当に黒だったのか?処刑すべきだったのか?
結論から言えば、裁判のきっかけとなった声帯虫に関しては間違いなく黒と断定できる。詳細は後述するが、少なくともこの件でヒューイを無実とするには色々と無理がありすぎるのが大きい。
しかし裁判に関してはちょうどいいとばかりにカズが自身の中にある「報復」や「幻肢痛」を和らげようと、それらを作り出した元凶を「DD全体のガス抜きも兼ねて正当的な理由で殺す為に「裁判」を行った」と思われる。
9年前のマザーベース襲撃の件でヒューイが裏切ったという根拠は、そもそも襲撃の原因になった偽の核査察団の受け入れを、何故かビッグ・ボスやカズに事前に確認もせずに独断で進めたのがヒューイであり、さらにマザーベースに武装解除をさせた上で、査察団に偽装したXOFを案内し、マザーベースへの攻撃開始の前後で姿を消したからというものである(ヒューイは車椅子に乗っている為に、当然ながら誰かの手を借りなければ失踪などできない)。
加えてその後のヒューイは、実際にサイファーやスカルフェイスの下に渡って、代理A.Iやサヘラントロプスの研究・開発を行っていた事も判明している。確かに限りなくクロに近い上に、何の関係性も無かったと考えるのは無理がある。
だが、同時に完全なる裏切り者だと言い切れる明確な証拠は不足しており、「スカルフェイスがマザーベース壊滅を遂行させるためにヒューイが協力しないという逃げ道を失わせた」という可能性を無視している。
とはいえこの件に関しては、故意にしろそうでないにしろヒューイ自身の過失が大きかったのは事実なので、遅かれ早かれ何らかの罰を与えないと周囲に示しがつかないというのは当然の判断だと言える。
イーライの脱走の件は「ヒューイが手引きをした」というより、どちらかと言えば「イーライがヒューイを利用した」可能性の方が高い。(イーライの側に人の心を読む事ができる「第3の少年」がいたのだから尚更である)
ただし、この件に関しても仮に利用されただけだとしても、実際にマザーベースに大損害を齎したのは間違いないので、やはりヒューイにも責任がある事には変わりはないし、マザーベース襲撃の一件の失敗をまた犯した事になる。(更に少年兵を更生させるというカズの使命を踏み躙ったことを考えれば、この時点でカズはヒューイを処刑するための計画を建てていても不思議ではない)
ストレンジラブ殺害や息子のオタコンを実験台にしていた件については、そもそもダイアモンド・ドッグズとは一切関係がなく、更に録音したテープのストレンジラブを閉じ込めた下りでは、不自然なノイズもちらほら観えるなど、ヒューイを処刑する為の印象操作に利用したとも考えられる。
裁判のやり方も明らかに「魔女裁判」の形そのものである事や、追放後のカズとコードトーカーの会話を纏めると「(ヒューイを除いた上で)初めから裏切り者なんていなかったのに、消えるはずのない「幻肢痛」を消そうと自身の中でスカルフェイスと繋がっていたスパイがいると疑ったことを仲間に伝えた結果、懐疑心を生み出してしまい、自身の報復心の矛先を仲間に向けてしまった」ということから、「ヒューイを自分達と同じ目に遭わせる為のカズによるカズの為の裁判」が作り出されたとしても、何ら不思議ではない。(追放直後の「ヒューイが自分の事を棚に上げて俺達を救いようのない悪党に仕立てるだろう」発言も私怨に近く、カズも(自身と同じ被害者が多くいたとはいえ)それと似たような「裁判」をやっている為、結果論ではあるが結局はどっちもどっちという結論になってしまう)
今作の時点のヒューイは、確かに最低の人間に成り下がっていた上に取り返しのつかない事をやらかし続けた人物である事には間違いないが、仮に全てが黒だとしても処刑をするのは明らかにカズの私情が絡んでおり、正当性も乏しい。
しかし、ヒューイのやってきたことは必要のない犠牲や損害を与えたのは「事実」であり、周りの人間達の中に誰もカズやオセロットの「ヒューイの処刑」を止めようとする者はいなかった。
また、オセロットが直接ヒューイに問い詰めている辺り、罪状がほとんど黒というのは事実と捉えてもいい。
ここで問題なのは、ヒューイを殺してしまえば彼が言う「ただの人殺し」になりかねず、それでもカズの気持ちが晴れなければ、第二第三のヒューイが生まれてしまいかねない。
かといって、相応の罰を下さなければ誰も納得はせず、実際にヒューイは限りなくクロいため、ダイアモンド・ドッグズという組織の統制が取れなくなってしまう板挟みな状況下にあった。
ビッグ・ボスの「ボートを用意しろ」という発言と決断は、そういった状況の中で導き出された適切な判断だったのである。
実際に、その後のDD内でのスタッフ同士の会話を聞くと、ビッグ・ボスがヒューイを追放した件については、「ヒューイは殺されて当然の男だった」「だが、スカルフェイスが死んでも次の矛先を捜していたミラーのようにはなりたくない」「その点ボスは冷静だった」とスタッフ達の間では評されており、この件についての最終的な総評はこれが全てだとも言えるだろう。
なぜ声帯虫に関して黒が確定なのか
これは現状、作中の描写を完全否定できる材料がないという事を前提に解説する。
この事件に関しては人為的に起きた事件であることは確定しており、舞台もDDの隔離施設であるため、DD外の第三者の介入は基本的に不可能であり、作中の現場でもその痕跡はない。
すでに多大な被害を被っているためDD全体で声帯虫には細心の注意をはらっていたのは作中でも明かされている。
もしヒューイが無実で他の人物が犯人だとすればミラーとオセロットの二人となり、その場合の主な動機がヒューイを陥れ、最終的に追放か殺すという事になる。
しかしそうなるとその目的だけで「スタッフを犠牲にし、さらにはDDの壊滅と世界を敵に回しかねない行為」をしたことになる。
ヒューイは最初から信用が無いも同然であったため、単に追い出したり殺すだけなら、適当な理由をこじつけての追放や殺した方が手っ取り早くて簡単な上に、死んだ所でDDの隊員に気にされることはない。
むしろこの方法はスネークのような「人望もネームバリューも極めて大きい人物」にこそやるべきであって、真逆のヒューイ相手にここまでリスキーな方法をとるべきではない。
加えてこの二人にも犯行ができない事情があり、オセロットは自身が守るべき本物のビッグ・ボスが声帯虫に感染する可能性やヒューイの事を「くだらない男」と評していることから、合理的な判断ができる彼がくだらない男を排除するためだけにビッグ・ボスに危害が加わる危険性がある事を画策するわけがない。
一方のミラーは単純に副指令という立場のせいで嫌でも目立って介入の痕跡が残ってしまう。加えてオセロットが自身の報復行為にほぼ賛同してくれるわけがなく、さらにゼロ少佐さえ認める秘密を隠し通す、人を欺くスペシャリストであるため、単独でやったとしてもオセロット相手に騙し通せるとは思えないのが自然であり、仮に自分が起こした声帯虫の異変をヒューイに押しつけたことがバレてしまったら最後、いかにオセロットでもミラーを粛正するように仕向けるのが目に見えているため、それがわからないミラーではないはずである。
この事から、この件でヒューイが無実だとするなら、実行のきっかけと動機となるサイファーとの密談自体が二人のでっち上げである事を大前提に上記の強すぎる要素を覆す必要がある。
そして二人のどちらかの犯行だったとしても「くだらない男であるヒューイ相手にここまでする必要性」を提示するためだけに自身の身も滅ぼす危険な行為をするとは到底思えないという結論をひっくり返すものがない以上、ヒューイの独断行為となってしまう。
もちろん、声帯虫の変異誘発は、カズやオセロットが「異変を発生した装置の検品した人間がヒューイでサイファーと繋がりを持つために変異させるように仕向けた」と決めつけているだけで、明らかに声帯虫の知識の乏しさや自分も被害に遭ってしまう可能性がある中で実行するという今作の彼らしくないやり方を無視しているという違和感(不自然な点)は存在するが、上記の要素があまりにも強すぎことに加えて、ヒューイは声帯虫を開発した人物と裏で内通していた事が明らかになっているので、彼女が「声帯虫を根絶する方法」という嘘のやり方をヒューイに教えた可能性を考えた場合、「ヒューイが犯人でないとおかしい」というのが現状である。
そうなると何故、彼女が声帯虫の嘘の情報を流したかという疑問が残るが、変異した声帯虫は甘い匂いを発するようになり、別の宿主に寄生するために鳥に自身を啄ませるようになることをコードトーカーが語っている為、それを知っている事を前提に「変異した声帯虫のいくつかをXOFに回収させるために嘘をついた」ということをやってもおかしくはないのが答えである。(現に完成された声帯虫はこの時にはDDと行方不明になったイーライの持つ英語株以外では存在していないことやボルバキアの存在を知るとは思えないヒューイを経由してでは彼女も知るわけがない為、「声帯虫回収するだけなら世界全体に何ら影響は出ない」と彼女が誤認するのは自然なのである。)
結局、ヒューイはどうするべきだったのか?
今作の彼は「最低な人間」であると同時に「可哀想な人間」であることも忘れてはいけない。
敵味方問わず、様々な人間のもとにいた彼はその人物たちにとって役に立つ人間になりたかったのは確かなのである。
実際、スカルフェイスにはサヘラントロプスを未完成ながらも動かせることまでは作り上げ、DDにもウォーカーギアを提供し、イーライの指示通りにサヘラントロプスを直すパーツを子供達を介して渡していた。
だが、オセロットの言うように自分に嘘をつきすぎたことで自分が何なのかが分からなくなってしまったことで、結局はその者たちにとって「都合の良い捨て駒」に堕ちてしまったのだ。
ついでに言ってしまえばマザーベース崩壊とイーライ、声帯虫の件の3つが全て都合のいい捨て駒として利用されたと仮定しても、1度目の失敗から何にも学んでいない馬鹿という事になる。
「誰の影響にも受けない自分」という土台を作っていれば、マザーベースの襲撃を前もってボスかカズのどちらかに知らせることを出来たはずなのである。
更に彼の息子であるオタコンことハル・エメリッヒも青年期に差し掛かった頃に義母との肉体関係を持ってしまったことで父親の自殺と義妹であるエマとの決別をやってしまい、自分が作り出したメタルギアREXが兵器として使用されてしまったことで彼と同じ道を踏む寸前まで堕ちていた。
だが、ソリッド・スネークという唯一無二の親友と出会ったことで自分自身を見つめ直し、家族問題も「全部自分が悪いんだ」と色々な責任から逃げていた父親とは真逆の道を歩んだことが彼の評価を決定つけることになった。
ただ、オセロットが言っていた「自分で自分を傷つけているんだ」という言葉で思い直すことが出来れば、まだ自分を取り戻せるチャンスは一応あったのだ。
それを不意にしたことで彼は「自分」を取り戻せることは二度と来ずに、自分の家族にまで「傷跡」を残して死んだのだから救いようのない人間と言われて当然なのである。
余談
2019年にTPPの内部データに入っていたという台本がTwitterにて公開された。内容によるとヒューイの罪状は全てクロということになっている。
ただしこれは公式が発表したものではない点、台本の設定がそのままゲーム中で使用されたかはわからない点に注意。
ちなみにMGS1~PWまでの台本は日本で販売されていたが全て絶版になっているらしい。
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