機体解説
サイファーの管理下を離れたスカルフェイスが、ソ連と共にアフガニスタンで極秘裏に建造を進めていたメタルギア。機体コードはST-84。STとはサヘラントロプスの略。
開発にはMSF崩壊後に、XOFに囲われていたヒューイが携わっており、彼がその前に手がけたメタルギアZEKE、そして後に彼の息子のハルが開発するメタルギアREXにも通じる意匠を持ち、その系譜の機体だと思われる(この事からも、REXの開発に使われたデータはヒューイが残したものだった可能性が高い)。ただし、本機はグラーニンを発端とするZEKEやREXのような従来のタイプのメタルギアからは、やや外れた系統に位置する機体である。
アフガニスタンのような、高低差の激しい地形での運用を目的とした「直立二足歩行兵器」として開発されており、これによってREX形態から直立二足歩行形態への移行が可能となっている。その結果、サヘラントロプスは人間さながらの直立歩行やメタルギアにおいては唯一腕部を持つその状態での武器の携行を可能とし、それによってより自由度の高い歩行と、その全高を活かして遠くにいる敵を発見・攻撃する事が出来る。
なお、この直立二足歩行形態については技術的な難易度の高さと、前述の高低差の克服を目的としていた為に、他の歴代のメタルギアには搭載されていない完全に本機独自の機構である。
また、本機の特徴として装甲には劣化ウランが使用されている。これは、装甲に含まれる微量のウラン235を、ウランを代謝する性質を持つ極限環境微生物「メタリックアーキア」によって急激に濃縮する事で、サヘラントロプスそのものを巨大な核爆弾として自爆させる為である。
劣化ウランに含まれるウラン235は本来ごく微量であり、本来なら核兵器に利用できるものではない為に、あらゆる監視の目をすり抜けて輸出入が可能な、一種のステルス核兵器なのである。そしてスカルフェイスにとっては、このウラン濃縮アーキアこそが最も重要だったのである。
というのも彼の真の目的は、劣化ウランさえあれば極短時間で兵器グレードのウランを精製できる云わば「核兵器手作りキット」を、核開発関連の技術を持たない小国に販売し、大国の核が持つ政治的・戦略的意義を封殺する事にあり、サヘラントロプスはそのデモンストレーションの為に用意されていたに過ぎず、彼の計画においてはサヘラントロプスの存在を、世界に知らしめる事自体が肝要であった。つまり本機自体は、最初から殆ど使い捨てのような機体である。
なお、これらの機構はブラックボックスに仕込んであり、少しでも触ると即座に自壊するようにセーフティを掛けているので中を見たところで何も分からないし、既に自壊しているため起動もしない。
クレームが入っても「組み立て方間違えたんじゃないですかぁ?」「変なとこ触ってないですよね?」とすっとぼける算段である。
武装は頭部ガトリング砲、背部レールガン、股間部火炎放射器の他、右腕部パイルバンカーや、メタリックアーキアの働きによって、地面から爆発性の金属塊を隆起させる事もできる蛇腹剣「アーキアル・ブレード」など、格闘戦を想定した装備が施されている。腰部にマウントされた専用投擲弾「アーキアル・グレネード」には、腐食性のメタリックアーキアが充填されており、戦車やウォーカーギアといった機械兵器を腐食させて動作不可にしてしまう事が可能である。他にも脚部の誘導ミサイルとバックパックから発射されるサーチミサイルによって戦闘ヘリなどとも充分に渡り合える。また、本編では使用していないが、オプションとして腕部にマウント可能なシールドを携行する事も出来る。
しかし、兵器の直立歩行というコンセプトは技術的観点から開発の難航を招いており、当初は有人制御を前提に開発されていたが、機体制御用AIを機体内部に組み込んだ結果、性能をそのままにサイズを十分の一までダウンサイジングしたにも拘らず、コックピットは大人が入り込めないという致命的な欠点を抱えてしまう(少年兵でようやく乗り込める程度のスペースしかなく、その為にヒューイは当時4歳にも満たなかった息子のハル(オタコン)を実験台にして、搭乗実験を行なっていた)。頭部を大きくすれば問題の解決はできるが、そうすると頭を支える体もそれに合わせて膨れ上がるので、機体のサイズが現実的ではなくなってしまう為に、開発は行き詰まる。
その後もAI制御による無人操縦や、遠隔地からのリモートコントロールなど複数の操縦方法が提案されたが、いずれもデメリットの多さや技術力の不足が指摘され(AI制御は、参考にしようとしたレプタイルとママルのハイブリッドAIが、当時AIの開発者だったストレンジラブが既に死亡した事でヒューイの手には余り、そして遠隔操縦の方は精度に難がある上に、ジャミングに弱くなるので兵器としての信頼性に欠ける為に)不採用となり、最終的にピースウォーカー等と同じくAIを外付けにする方向性に仕様変更される事になる。
しかし開発に、あまりにも時間が掛かり過ぎる事から(上半身を折り畳んで重心を下げたREX形態であれば辛うじて動かせたのだが、それ以上を求めるとなると必要なデータの量がバカにならなかった)、ビッグ・ボスが目覚めた事で計画の為に時間が無くなったスカルフェイスは、未完成のままこの機体を持ち出し、自らの報復心に感応した「第三の子供」の超能力を使って無理矢理稼働させる事に成功した(普通に開発を進めても完成しない事を察したのもあったのだろう)。
第三の子供のサイキックは、ヒューイの想像を超えた機動性と人間的な挙動を可能とし、開発者であったヒューイや、これを実際に目をしたヴェノム・スネークらを驚愕させた。
結論を纏めると、本機は兵器としては完全にただの欠陥品であり、ここまでの解説を読めば明かだが、第三の子供がいなければ本来は動く事すらなかったような機体である。直立二足歩行形態の技術がこの時代の技術では実現不可能だったのは勿論の事(というか結局後の時代でも実現はされていない)、開発段階では有人操作を目指して開発を進めていたにもかかわらず、途中でAIに切り替えた結果、有人機としても無人機としても不完全などっちつかずの機体になってしまった。だからこそ、スカルフェイスは第三の子供のサイキックを使って無理矢理ブレイクスルーを起こして起動させたのである(サヘラントロプスが起動して自由に動く事は、開発者のヒューイ曰く「ライト兄弟がそのまま月に行くようなもの」レベルのブレイクスルーであるらしい)。第三の子供がいなければ動かす事もできず、本機自体が核を搭載している訳でも無く、メタリックアーキアがあったとしても出来るのは自爆だけである等の理由から、カズヒラ・ミラーからも「目立つだけで兵器ですらない」と評されている。(スカルフェイス自身も核兵器手作りキットはウォーカーギアに搭載して世界中にばらまく事を計画していたので、目立つ事だけが存在意義だったのではと推測される)
作中では、イーライが直接搭乗して操縦していたが、当然ながら有人操作の技術も未完成で、イーライは特殊なパイロットスーツを着用して体への負荷を軽減していたが、それでも負担を最小限にした上で機体の操縦を可能にしていたのは、全てイーライに共鳴した第三の子供の力である。
本機の装甲について
脚部や操縦席内部といった弱点以外に通常の火器が通用しない傾向のある他のメタルギアと異なり、本機は(攻撃に弱い/強い部位はあるものの)概ねどの部位にも攻撃が通じることもあってか、一部のプレイヤーから「装甲材として適していない劣化ウランが使われているため、他のメタルギアより防御力が低い」と言われているが、これは誤りである。
まず、劣化ウランは米軍の主力戦車であるM1エイブラムスの改良型の装甲材として(拘束セラミックス装甲が開発出来なかったため、という理由ではあったようだが)採用され、現在も使われている程度には優秀な装甲材である。いくらかセラミックスより劣るとはいえ、劣化ウランを採用したことで大幅な防御力の低下が起こるとは考えにくい。
また、作中のカセットテープでは「(劣化ウランは)同じ重量なら(セラミックスに)強度で劣る」とされている一方で、「セラミックスよりも容積は落とせる」とも評されている。
開発者であるヒューイも、劣化ウランの採用理由として「直立歩行ビークルとしての要所のバルク(容積)を抑える目的があった」という内容を(本当の採用理由を隠す意味合いもあったとはいえ)説明している。
それらを踏まえると、一概に劣化ウランがセラミックスよりも劣っているとは言い難い。
加えて、同テープ内には「劣化ウランが頑丈なのは確か」「ソ連製砲弾の多くを受けとめるのは実射試験で検証済み」など、本機の装甲が強固であることを示す台詞も多い。
そもそも、どこを撃ってもダメージを与えられるというのも、単にゲームバランスを考慮した結果である可能性が高く、根拠としては非常に弱い。
まとめると、サヘラントロプスの防御力が低いという評価は「一部のプレイヤー間に広まった、根拠の薄い考察」であり、事実とは異なると考えられる。
ゲーム内にて
最初に戦うのは、アフガンCBCからヒューイを回収する際だが、この時はレールガンとレドームが付いておらず、武装も頭部機銃とサーチミサイル以外は全てハリボテであり使ってこない。
その代わり、倒す事が想定されていないのでかなり強い。しかし、一応ある条件を満たす事で機能停止状態にする事は可能な上に、部位HPがべらぼうに高いが部位破壊も一応可能である。
本格的に戦うのは第一章のラストを飾る「サヘラントロプス」での戦闘。本編で装備しなかったシールド以外の全ての武装を駆使してこちらを追い立ててくるが、部位破壊によってその部位に対応した攻撃が誘導性能の低下・発射数の低下・威力の低下・判定の弱化などの弱体化を起こし、加えてある条件を満たすとサヘラントロプスが一時的に機能停止に陥り、そこに自動で砲撃が仕掛けられて大ダメージを与える事も可能である。
ちなみに、初戦で機能停止したサヘラントロプスの真下にトラックを置き、トラックをフルトン回収すると、トラックが消滅するまで擬似的だがサヘラントロプスが持ち上がる。
名前の由来、サヘラントロプス・チャデンシス
機体コードの由来となった「サヘラントロプス」とは700万年前に生息していた霊長類「サヘラントロプス・チャデンシス」に由来し、その骨格から初めて二足歩行した霊長類、即ち最古の人類であるとされている(それまで最古の人類とされていたアウストラロピテクスより300万年も古い人類である)。
人類は直立二足歩行によって脳の巨大化、発声に適した気道の形状を獲得したと言われており、これが言語の獲得に繋がったとされ、スカルフェイスの標榜する「言語による民族解放」、あるいはMGSV:TPP全体の裏テーマである「言語(VOICE)」そのものの象徴となっている。
MGSVの時代設定は1984年であるが、現実世界においてサヘラントロプス・チャデンシスの化石が発見されたのは2001年の事である。実はメタルギア世界においては、サヘラントロプスの骨格は発見後に人類統制の為の手段として遺伝子研究に固執し、人類の進化を解き明かそうとしていた当時のサイファーによって秘匿されており、サヘラントロプスという霊長類の存在についてこの時点では、一般には知らされてはいないという設定になっている(一般にその存在が公開されたのは、現実と同じく2001年だと思われる)。
現実のサヘラントロプス・チャデンシスの化石について、大後頭孔が頭蓋骨の中央から下に向かって開いており、首ひいては脊椎が頭の真下から真っ直ぐ伸びていたと考えられる。これは直立歩行する上で必要な特徴だと言われており、現実のサヘラントロプス・チャデンシスも直立歩行していた可能性が高い(対してチンパンジーやゴリラなどの類人猿は、頭蓋骨のより後方から斜めに向かって開いており、歩行時は前傾姿勢になる為に直立歩行する事ができない)。
ただし、発見されている化石が潰れた頭蓋骨しかなく、肝心の胴体や手足が発見されてはいないので、サヘラントロプス・チャデンシスが、実際に直立歩行していたかどうかは未だに議論が分かれている。
ちなみにサヘラントロプスとは「サヘルの人」という意味であり、中央アフリカのサハラ南端(サヘル)のチャドで発見された事に由来する。また、“トゥーマイ”の愛称でも知られている。
顛末(ネタバレ)
作中での初出は、壊滅したハミド隊が隠し持っていた携行地対空ミサイルを回収するミッションの時である。この時は深い霧に覆われていた事もあり、全容はハッキリせずにヴェノム・スネークを手で掴み上げて、逆さ吊りにする程度で終わった。
スカルフェイスの報復心を仲介する第三の少年によって、動かされていた本機だったが、最終決戦においてはより強い報復心を持つイーライに反応し、スカルフェイスからイーライの報復心で動くようになる。イーライの恨みを載せてスネークに襲いかかるも返り討ちに遭い、その残骸はマザーベースの研究プラットフォームに安置される事となった。
これによって、サヘラントロプスの重量から研究プラットフォームは数フィートも海没してしまう事となり、さらに前述の通り兵器としては全く使い物にならない事から、副官のカズヒラなどからも反論があったのだが、スネークの意見ではこれをマザーベースにおける「自分達が報復を遂げた証」にするという意味合いがあったらしく、それを聞いてからは反論もなくなった。
この時点でコードトーカーの助言によって、搭載されていたメタリックアーキアは無効化されていた為に、自らを核爆弾化する自爆機能は失われていた。さらに武装もほぼ全て喪失しており、機体を動かす事も当然ながらできないなど、本機は文字通りただの巨大な鉄の塊と化していた。
その一方で、スカルフェイスの下からダイアモンド・ドッグスへと亡命したヒューイだったが、周囲の不信から本機への接触を禁じられていた。しかし諦めきれないヒューイは、マザーベースに保護された少年兵達を使って間接的に修理を敢行し、本人の予想を超える速さで修理は完了した。
そして少年兵達を裏で操っていたイーライと、その報復心を仲介する第三の子供の力によって本機は再起動して奪取され、彼らの蜂起とマザーベースからの脱走に利用されてしまう。
本編では、ここで打ち切りに近い幕切れとなるが、開発段階ではオチとなる続きがあり、限定版にのみ『蝿の王国』というタイトルで、作成途中のムービーやコンセプト・アートで構成されたディスクが付属している。
それによるとイーライと彼に賛同する子供達は、共にある南国の島へと辿り着き、第三の子供によって手に入れていた声帯虫の英語株を散布して島に住む大人を排除、そこに子供だけの王国を築いて本機をその象徴とした。しかし実際は、これはスネークを誘い出す為のお膳立てであり、それを受けてたったヴェノム・スネークと彼が率いるダイアモンド・ドッグズや、さらにそこに介入してきたXOFとの全面戦争に発展する(XOFの目的は、声帯虫のサンプルの回収である)。
そして激しい戦闘の末に本機は両腕両足を失い、腰部が断裂して完全に大破。頭部以外鉄屑と化した残骸はダイアモンド・ドッグズによって再び回収されたのだが、その後の処分は不明である。
いずれにせよ修理は最早不可能なレベルで大破し、さらに仮に元通りに修理できたとしても、そもそも本機は第三の子供の力が無ければ動かす事もできないので、そのまま解体されて資源として利用されるなりしたと考えるのが自然である(もしくは再び象徴として奉られたか)。
メタルギアサヴァイヴにて
本作はパラレルワールド扱いであるため、正史ではどのようになったかは不明である。
メタルギアサヴァイヴにて再登場を果たした(再登場といっても「蝿の王国」後のまだ動く残骸だが)。
マザーベースと共にディーテ(本作の舞台)に飛ばされていたらしく、機体の残骸丸ごと滝の下流付近に放置されていた。それをダンらカロン部隊の生存者によってロード・オブ・ダスト(本作のラスボス)を倒す為に整備されていた。
主人公一同が、セスによってその存在を知らされ回収に向かいダンと遭遇し、一時誤解をされ銃を突きつけられるがヴァージルの説得によって事なきをえる。
その後サヘラントロプスを回収に成功するが、塵の王(ロードオブダスト)を倒すべく、何とサヘラントロプスで戦闘する事になる(正確にはその残骸の武器を使用して戦うだけだが)。まずアーキアル・ブレードで、ロードの動きを止め装備されているレールガンで倒すという作戦、結果ロードの体の一部の切断に成功するもすぐに再生してしまった(ロードには死の概念が存在しなかった為)。
しかし次の作戦で死を理解したヴァージルがロードと一体化し死の概念を与え、再びレールガンで打ち抜く。結果、ロードを破壊する事に成功する。ヴァージルは、ママルポッドやレプタイルポッドと同じく核戦争を想定されて設計されていた為に、破壊されずに済んだ。
しかし、これ程の威力を持つレールガンを喰らって一撃で死なないヴェノム・スネークは一体…。