略称
- PMC(Private Military CompanyまたはPrivate Military Contractor)
- PMF(Private Military Firms)
- PSC(Private Security CompanyまたはPrivate Security Contractor)
- PMSCs(Private Military and Security Companies)
PMCという名称が一般的で、公的には2008年にモントルー文書で規定されたPMSCsが正式名称とされている。
成り立ち
冷戦が終結して大規模な戦闘が少なくなり、特殊部隊や一般部隊を問わず多くの兵士が持て余されていたなか、世界がテロリズムという形での新たな戦争形態を見せるようになると、対テロ部隊である警察機関や警備会社が注目されることになる。
しかし、警察機関はSWATなどを保有しているものの、対応が事件発生後の場合が多く柔軟性に欠け、通常の警備会社についても装備が警棒、よくて拳銃程度と軽武装の人員にすぎず、装備以外にもさまざまな面で劣っていた。そのため、民間組織でありながら軍人レベルの練度と武装を備え、テロや暗殺に未然に対処できるレベルの警備を行う組織が必要とされた。
また、旧来の大規模戦争の減少にあわせた予算削減と戦力の集中のために、軍隊の業務の一部を民間委託する必要性があったが、通常の企業では後方での業務はともかく、前線を含む戦地での業務の委託は不可能であった。
そこで生まれたのがPMSCsであり、その発足によって実戦経験の豊富な古参兵がインストラクターとして参加するなど、現役軍人や引退した軍人に新たな活躍の場が与えられることになった。
予算削減のために米軍の一部の業務が民間業者へ委託可能となった直後に起きたイラク戦争などによる需要にともない急激に組織拡大をしたものの、管理・規定する法もない無法状態であったことから、名ばかりの練度が低い人員が派遣される程度では済まず、殺人などのさまざまな不祥事も起こっている。
特にイラクではCPA Order17により免責特権を持っていたことから、違法行為を助長することになっていた。
アフガニスタンでは西側のPMSCsの参入がほぼできず、独占状態となったカルザイ・ファミリーのPMSCsによって米軍への支援が行われているが、その資金が上納金としてタリバンなどへと流れているという問題が起きている。当然米政府は圧力をかけたが、カルザイ政権は反発して西側PMSCsの活動停止および国外撤収の大統領令を出している。
2007年に起きたブラックウォーターUSA(以降BW社、現在の社名はAcademi)の一件を受け、2008年9月17日にスイス・モントルーでアフガニスタン、カナダ、アメリカ、イギリスなど17ヶ国によって批准されたモントルー文書により、拘束力のない指針とはいえ国際的な規制とPMSCsの定義が決まった。この文書により紛争地域で活動するPMSCsは人道主義と人権法に従う義務があることを示しており、依頼国(依頼者)、活動国、会社の母国などを明確化し、どの国が責任を持つのかをはっきりとさせている。
しかし、法整備はいまだ不十分であり、PMSCsのコントラクターは民間人であるために軍法を用いた軍事法廷ではなく民間法廷で裁くべきであるといった意見の対立もあり、完全な管理には至っていない。BW社が起こしたこの事件においてPMSCsの活動が規制された際、外交官などの重要人物の護衛まで外部委託していたために警備する人員が居なくなり、グリーンゾーン(軍により守られた安全地帯)から外に出れず、外交が滞ったという事態が発生し、過剰な民間委託に対する問題も明らかになった。
非合法の傭兵と違い、求人誌やネットなどを用いて正規の手段で人員の募集ができることから、高い専門知識や能力を持つ人員を集めやすい環境となっている。また、必要な人員を部門ごとにより分けることで、業務に応じた人員の派遣が可能となっている。
しかし、拡大していた市場を狙い参入した新規企業には、正規の訓練を受けていない優秀とはいえない人員が集まることもあった。
業務
PMSCsと契約して働く要員は「プライベート・オペレーター」もしくは「コントラクター(契約者)」と呼ばれる。
警備会社であることを強調するためか、自社をPSC(民間警備会社)、戦闘要員をガード(警備員)と呼んでいる場合もある。
- 基本的に武装警備員であり、武力はクライアントと自身を守るための最低限の使用に留めるべきで、戦闘を避けることが主目的になる。
- 攻撃を受けた際の反撃が主であり、追い払うか交戦地帯からの離脱が済めば、それ以上は(依頼時の業務内容内でなければ)業務外である。
- 要人や施設の警護、兵站(へいたん)や輸送、情報収集業務などを主としているが、紛争地域で直接的な戦闘を行う場合もある。とはいえ、相手は敵国(この場合クライアント元の軍と敵対する軍)の軍人やゲリラ兵ではなく、犯罪者という扱いになる脅威、つまりは反政府軍や反体制派の非正規武装集団の対処が主である。
- 諜報機関の人手不足や、拘束・殺害された際のリスクが少ないことにより、テロリストなどの捜索の際に代わりの人員として派遣されることもある。(これは軍と関わりが深く、実質カバー企業となっているPMSCsのみである)
- 犯罪者相手ではないが、平和維持活動の一環として行なわれる元兵士や元少年兵などの兵士としての生き方しか知らないものを相手とする社会復帰プログラム(DDR:Disarmament, Demobilization, Reintegration)の委託がされる場合もある。
- ICRC(赤十字国際委員会)やUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの戦力を持たない組織が戦地や情勢不安定な地域で活動する際に警備のために雇用しており、こういった組織が活動するためにはなくてはならないものとなっている。
戦地での業務ばかり注目されるが、情勢不安定な国での企業などの施設・人員の警備、先進国内といった戦地以外で既存の警備会社と同様にイベントの警備や個人の護衛、海賊対策、油田や発電所などの重要設備の警備、被災地での(機能麻痺に陥った警察などの政府機関の一時的な代替として)治安維持や救難支援を行うPMSCsもある。
あくまで警備員に過ぎないため、誘拐された人質の救出や脅威の除去などは行うことはできず、それらを行う必要がある場合には現地の政府軍や法執行機関へと依頼することとなる。
- 銃火器は基本的には自衛用の小火器のみで、爆発物や車載用を除いた機関銃だけでなく狙撃銃すらも制限されており、映画などのようにロケットランチャーなどの重火器を持ち出すことは基本的には不可能である。
- 業務を行なう地域、国により装備の制限は異なり、情勢が不安定であったり法執行機関等が機能していない地域では重装備も可能だが、先進国などでは銃すら持てないということもありえるのである。
何も銃を持ち戦闘を行う可能性があることばかりが業務ではなく、基地内でのPX(売店)や食堂の経営・調理といった基地内での兵士の生活に関わる業務を行い、訓練時以外に銃に触れることはめったにないということもある。
また、兵士の訓練を企業に委託する例も多くなり、兵器の複雑化に伴いそれらのメンテナンスも(軍事機密的に問題ない範囲で)彼らに任されることも多い。
後進国の法執行機関だけでなく、先進国の特殊部隊などに訓練を施すこともある。民間企業と違い、政府機関では最新の装備や戦術、設備などは役に立たないものも混じっていることからすぐに採用されることは少なく、遅れて採用することがほとんどだが、PMSCsが先行して運用することで欠点の洗い出しや改良などを済ませたものを学ぶことにより、効率化を行っている。
航空戦力も保有する大企業であれば、軍の仮想敵役を務めることもある。
映画制作会社から訓練機関へと転身した企業もあり、映画製作で培ったノウハウや俳優を用いてリアルな戦場を再現しつつも安全な訓練環境を提供している。
さらに、ベトナム戦争などの教訓から、戦地に適応した兵士を派兵終了後すぐに平和な自国へ帰すと社会に再適応しきれず、さまざまな問題を起こすことから、安全な後方で社会復帰訓練が行われるが、その際にPMSCsに委託される場合もある。
戦績
過去には敵国の軍とぶつかり戦況を覆すほどの成果を挙げる例もあった。
南アフリカで誕生したエグゼクティブ・アウトカムズ社(以下EO社)は以前正規軍や準軍事組織に所属していたが、アパルトヘイト廃止の影響で行き場をなくした白人兵士や周辺国の内戦で国を追われた黒人兵士といった精鋭といえる人員を引き込み、Mi-24やMiG-23、BTR-60といった東側の余剰兵器を買い取ることで銃火器以外にも豊富な装備を持っていた。
従業員への待遇は良好で、報酬は南アフリカ正規軍の5倍近い額であり、生命保険と医療保護を標準としていた。
EO社は戦況を覆すほどの実力を契約政府の軍に身につけさせ、アンゴラで20年続いていた紛争をたった1年で終結近くまで導く、シエラレオネのダイヤモンド鉱山をめぐる内戦では鉱山を奪還して平和交渉の席につかせることに成功するなど、内戦が続くアフリカで大きく活躍していた。
(アンゴラのMPLA政権はソ連といった東側の支援を受けていたことから西側各国からの圧力によりEO社との契約は解除させられ、国連による平和維持活動が行われたが、対処しきれずにアンゴラは内戦へと逆戻りしている)
しかし、EO社の名を騙る企業が複数現れるなどの問題が起きたことから、南アフリカで制定された外国軍事援助規制法を作成する際に情報提供を行うなどEO社は協力し、法に則り認可を受けたが、南アフリカ政府により非合法企業と認定されて1998年に解体、EO社の元社員はほかの企業へと移ったか、元の貧しい暮らしへと逆戻りしている。
2004年4月4日、イラク中南部の都市ナジャフでCPA(連合国暫定当局)の施設の警護を少数のアメリカ海兵隊やスペイン軍などとともに米軍に雇われたBW社のオペレーター8名が警備についていたが、数百人にもなるシーア派の武装勢力に襲撃された。警備が業務であったが、負傷や正規軍による支援が断られるなどにより共に警備していた兵たちのみでは対応できない事態となったため、業務の範疇(はんちゅう)を超えて共に戦闘に参加、支援を断った米軍からの指示を無視してヘリコプターによる弾薬の補給や負傷者の輸送なども行い、武装勢力を退けて施設を守り抜くことに貢献している。
賛否
長所
- 迅速で的確な対応が可能
- 正規軍ではないために戦力の移動に議会の承認が不要
- 正規軍ではないために戦力を持ち込んでも政治的問題が起きにくい
- 不祥事が起きた際に企業に責任を押しつけることができる
- コストパフォーマンスが非常に高い
- 不足する特殊技能を持つ人員の調達が比較的容易
- 通常の企業では行えない戦地での業務を行うことができる
- 自軍の戦死者に数える必要はない
- 要人警護といった正規軍兵士では適さない仕事を任せることができる
- 政治の派閥や宗教などとは無関係な人員を雇える
- 民間企業やNGO、個人などでも雇うことができる
- 企業利益と雇用契約によって縛ることができるため、裏切りや逃亡などが傭兵より少ない
- 正規兵を優先度の高い任務に回すことができる
- 戦後復興のために職を失った現地の元正規兵への雇用を確保できる
短所
- 入札がない可能性がある
- 質が一定ではない
- 愛国心の欠如による裏切り、契約金額面による鞍替えの発生
- ストライキを起こす可能性がある
- 戦闘放棄、敵前逃亡による取り締まりがなされない
- 不祥事が起きた際に罰することが難しい
- 捕虜になった際の処遇が国際的に決まっていない
- 不祥事の際の裁判方法が決まっていない
- 国家の優秀な軍人が、より稼げる民間方面に流出してしまう
- 送金設備が整っていない地域で雇った場合、支払いのために多額の現金を現地へと持ち込む必要がある
- 危険度が高くなればなるほど保険金が上乗せされて高額な契約金となる
- 保険などの制限により、高危険度の地域に派遣できない可能性がある
- 最終的に高くつく可能性がある
などが挙げられる。
サブカルチャーなど
現在、サバイバルゲームなどにおいては装備に自由度が高く、軽装でありながら(ゲーム特化ゆえの)いいかげんではない装備を整えられるため、初心者や上級者を問わず人気のテーマとなりつつある。
- PMSCsは正規軍と違い、特定の銃火器やアクセサリーのみを使用するということは少ないほか、民兵のように最新装備の入手機会が少ないということもないため、銃の選択肢の幅は広い
- (特に米軍の)一般的な歩兵のように重装備をする必要もない
- 特殊部隊と違い、高価な小物といったものも揃える必要はない
- 正規軍の兵士と間違えられないように訓練などを除いて迷彩服を着用しないため、コスプレ入門用としても優れている
- カジュアルな格好の上にプレートキャリアなどの少ない装備を身に付けるだけで済ませることも可能ということもあり、公共交通機関での移動などで荷物の量に制限がある際には、少ない荷物で済むので負担が少ない
といった利点がある。
こういった人気から、モデルガンなどを発売する東京マルイ社もPMSCsが扱うことをテーマにした銃をリリースしている。
ゲームにおいては、カジュアルなPMCとして『MGS4』を筆頭とする『メタルギア』シリーズや『ドールズフロントライン』、『COD:AW』などが挙げられ、航空機を専門とするPMC作品では『H.A.W.X.』や『エースコンバットX2』などがある。
『MGS4』では、先述したPMCの問題点の多くをSOPと呼ばれる戦場管理システムでひと通り解決しているものの、ほかの作品ではそれらの問題が浮き彫りになっている。
漫画などではそれほど多く描かれておらず、傭兵や警備会社などの方が登場する機会は多い。
映画などでは紛争地域やイラク戦争などの近年の情勢をモチーフにした作品で登場している。また、会社自体がカバー企業で、社員は退役したことになっているが本国とパイプを維持したままスパイ活動を行なっている、といった描かれ方をすることもある。
前述のとおり、比較的自由な服装でミリタリーとして認められうるため、キャラクターにオシャレと武装を両立させることができるのがメディア作品として扱う際の強みとなる。
日本のPMC
日本は法律上、銃などの所持は不可能で盾や警戒棒などは護身用具に設定されているため、真の意味での民間軍事会社は日本では成立せず、主に自衛隊出身やフランス外人部隊所属の隊員がアメリカなどのPMCに所属することがほとんどだった。
なお、2014年には『ピーエムシー株式会社』と呼ばれる会社が設立されていたこともあった。しかし、自衛隊にも所属したことがないただのミリタリーマニアで素人だった創立者は、ISILに拘束されて1年後には処刑されてしまった。
関連タグ
両津勘吉:コネを用いて何度かPMCに相当する会社を興している。