ユーロファイターとは、ヨーロッパを表す「ユーロ」と戦闘機の意味の「ファイター」を繋げた名前からも分かるように、英・独・伊・西のヨーロッパ四カ国が共同開発したマルチロール戦闘機である。
別名にEF-2000、愛称はタイフーンで、これを繋げたユーロファイター・タイフーンのタグが付けられた絵も多い。
日本の(第四次)F-Xの候補ともなったことから、もし日本(航空自衛隊)に導入されていたら……という設定で描かれたものも多い。
概要
NATO加盟国であるドイツ、イギリス、イタリア、スペインの4ヶ国が共同して開発した、カナードデルタと呼ばれる機体構成を持つマルチロール機。
あのF-15にも匹敵するレベルの機動性を持ち、限定的ながらスーパークルーズも可能というその機体の高性能さから、戦闘・攻撃任務を同時に遂行できる(つまりそれまでの戦闘機と違って爆弾を抱えたままでも空中戦ができる)事を売りにしており、マルチロールと区別する意味で「スイングロール」とも呼んでいる。
計画当初は上記の4ヶ国に加えフランスも参加していたのだが、要求する内容の食い違いなどから脱退した。(脱退したフランスが開発したのがラファールである)
3段階に分けた生産・アップデートを行う形式を採用しており、さらにその中をブロックと呼ばれる細かい仕様違いで分けている。
開発計画の変更によりトランシェ3はAとBに分けられ、開発が進められることになった。
現在は第3段階であるトランシェ3Aまで開発が完了、トランシェ4の計画も存在する。
開発国以外ではオーストリア、サウジアラビア、オマーン、クウェート、カタールで採用されている。
で、実際はというと…
対地攻撃能力
現在、限定的ながらも対地攻撃能力を完全に実装するトランシェ3Aまでは開発が済んでいるものの、欧州諸国で運用されている現行の機体は、未だにレーダーが古いメカニカル式で、同世代機では当たり前のように搭載しているAESAレーダーなどを装備しておらず(最近になってやっと装備が始まる様子)、対地能力を持たない、もしくは限定的でマルチロール機とは言えない機体が運用されている。
トランシェ3Bは開発中止の可能性が高く、イギリスは調達中止して予算をF-35導入に振り分け、ドイツでも同様にキャンセルとなっている。トランシェ3Bの代替となるP1E(フェーズ1エンハンスメント、輸出仕様はP1EB)、ユーロファイター2020(こちらはコンセプトのみ)といったトランシェ3とは別の能力向上計画も提示されている。
これは、元々ドイツとイタリアが純粋な迎撃戦闘機を求めていて対地攻撃能力の付与には消極的だった事が影響している。
兵装ステーションは13か所とF-35(ウェポンベイ内4+外7)より多く、合計最大6,500kgまでの各種兵装を搭載可能、重量のある大型爆弾が搭載可能な兵装ステーションが多い、といった具合に大量の爆装が可能な事をアピールしているが、実際にはデルタ翼という形状と主翼部の兵装ステーションの位置関係から全ての兵装ステーションにフル搭載すると組み合わせ次第では後方に重心が寄ってしまい、空力的にもアンバランスとなり運動性が大きく低下、実質飛べるだけとなってしまい、積載量や兵装ステーションの多さは活かせないのが実情。
加えて、搭載可能とされている兵装は開発各国が採用していないものも含まれており、規格が合うので搭載可能なものを挙げただけで実際に運用できるかは試験していないのではという疑いもある。(乗せることが出来ると運用できるは全く別物である)
実例として第4次F-Xの候補に挙がった時点ではブリムストーン空対地ミサイルが搭載可能となっていたものの、実機での発射試験が行われたのは2017年、運用能力を得るのは2018年以降となっており、この疑いは正しいのではないかと思われている。
また、空中戦能力しかない初期型のトランシェ1はセントラルコンピューターが旧式でトランシェ2以降へのアップデートに費用がかかりすぎるという問題もあり(まあこれはF-35の初期型も同じなのだが)、イギリスではドロップアップグレードと呼ばれるトランシェ1ブロック2の能力向上が行われており、ドロップ1パッケージではトランシェ1ブロック5相当の限定的な対地攻撃能力を持たせる事が出来、ドロップ2パッケージではアビオニクスをアップグレードする。余剰機は退役させて売却する方針。
ドイツではトランシェ1の代替機としてトランシェ3Aをベースとしたトランシェ4の導入が予定されている。同時に既存のトランシェ2,3のレーダー及び火器管制システムの載せ替えも行いトランシェ4相当とする予定。
空中戦能力
では空中戦能力一本の制空戦闘機としてなら優れているのか?というと、これまた微妙なところである。
確かにユーロファイターはパワフルなのだが、実は機体の空力特性が思いのほか悪く、ロッキードの技術者に「軽トラックにF1のエンジンを搭載したようなもの」と揶揄された事もある。カナード翼の配置がコックピット前方で主翼から離れているというデザインのためカナード翼の恩恵を受けにくく、空力的には通常の無尾翼デルタ翼とあまり変わらないどころか、むしろ抵抗が増えるデメリットの方が目立ってしまったのである。このため現代の戦闘機としては珍しく低速性能はいい方とは言えない。
加えて、先述したAESAレーダー非搭載などのアビオニクス面の弱さも空中戦ではディスアドバンテージとなる。
トランシェ3Bまで開発が完全に終了した時には(開発開始当時の)Su-27系列機(初代Su-35相当)に圧倒的なキルレシオを持つ…予定となっているが、この評価の基準となったトランシェ3Bは予想であり、性能や外見等が実際のものとは異なる為、この評価は絵に描いた餅ですらない。
現在のところ未完成といえる状態のため、(今後の改修により多少は変わるだろうが)現状の評価はスイスが評したように「優れた部分はあるが総合的にはラファールやグリペンに劣る」とされている。
実際のDACT(異機種間空戦訓練)ではラファールに対し、1対1のガンファイトでは10戦10敗(2007年コルシカ)、BVR(有視界外)戦闘では4対4で4戦4敗、ラファール側を2機に減らした2対4で4戦1勝3敗(2009年UAE)と完敗してしまっている
2015年7月23日、イギリス空軍とインド空軍で行われた演習「インドラダヌーシュ」では、「3~4.5で有利」と言われていたはずのフランカー(正確にはSu-30MKI)相手に0対12で完敗するという失態を犯した。
ただし、2012年レッドフラッグ・アラスカ演習において短距離戦においてドイツ空軍のEF-2000がF-22に勝利した記録も存在するが、ドイツ仕様には搭載されていないはずのPIRTEA(受動式赤外線探知装置)によって遠距離からF-22を捕らえている、F-22側に攻撃の禁止、A/Bの禁止、データリンクの禁止、F-22側は自力で探さねばならないがEF側は相手の位置を教えてもらえる、といったEF側が圧倒的に優位となる制限が加えられたという話もある。しかも当時のF-22は機上酸素発生装置の不具合により制限が加えられており、更に機密保護の為に多数の国が参加する演習では制限を掛けることで全ての性能や戦術を明らかにしないようにするという事も考えると、勝つためだけに通常の仕様ではない機体を用意しての八百長試合の結果とも考えられる。(ドイツ側とアメリカ側の証言が異なっていることもあり、EFの優秀さを示すためであったり、F-22の予算確保の為に話を盛ったという可能性もある)
一方でBVRではF-22からのレーダーシュートに気付かず、電子戦能力が低いという問題が明らかになったという話もある。
さらにインドでは「ラファールより高価でありながら性能は劣り、殲-20(J-20)に勝てない」と判断され採用を逃し、英軍EFの初の実戦であるリビアでの戦闘ではトランシェ1ドロップ1を派遣したものの対地攻撃任務だった為に「役立たずでトーネードの方が使える」とまで言われてしまっている。
最近では、カタールに導入されたばかりの機体がパキスタンのJ-10(こちらも導入されたばかり)との模擬戦で敗北したという話もあり…
その他
開発の遅れと段階的な生産法が完全に裏目に出てしまう最中、2014年にはドイツで後部胴体に製造上の欠陥が見つかり、イギリス空軍とドイツ空軍では納入の見合わせおよび飛行時間の低減(3,000時間から1,500時間に)が決定されてしまった。
さらにドイツ空軍のものは106機中42機のみ使用可能、イギリス空軍では100機中25機と稼働率は半分以下と年間長期稼働率は非常に低く、スペアパーツとメンテナンスコストが問題となっている。
2015年10月には追い討ちをかけるように垂直尾翼部のラダー接続部の穴の仕上げの問題によりクラックが発生する可能性があり(BAE製造担当箇所)、ドイツ空軍は新造機の受け入れを停止。エストニアに派遣された機体では滑走路をタキシング中にネジの破損により右主翼の増槽が脱落、増槽を使用しての飛行を禁止。といった問題が発生。
ついにはドイツでは2018年5月には128機中稼動機は10機、パーツ不足及び弾薬不足で実戦投入可能となるのはたった4機という有様となってしまった。(財政再建の為にドイツ軍の予算削減により弾薬や部品を確保できなかったり、部品納入業者変更による再検証等の理由もあるのですべてが機体の問題ではないが)
まさに弱り目にたたり目な状況の最中にあり、今後を危ぶむ声も少なくない。
肝心のBAEはF-35の分担製造に参加、イギリス政府も予算をF-35調達に振り分けている。しかも、開発国以外への輸出では次々と賄賂などの不正疑惑が発覚し始めている状態。
ユーロファイターの明日はどこだ。
愛称について
「タイフーン」の名称はEU全体ではなく、RAFによって決定されたものが輸出用に使われるようになったものである。このため、本機はタイフーンとしては2代目にあたるのだが、それ故かつて初代にこっぴどい目にあったドイツからは猛反対され、結局ドイツとイタリアでは「タイフーン」の名称を使用していない。
関連動画
メーカーの公式動画
イタリア空軍の公式動画