トーネード
とーねーど
1960年代後半、イギリス・西ドイツ・ベルギー・オランダ・イタリア・カナダの各国では、主力戦闘機であるF-104の後継機を選定する時期になっていた。
これを受けて1968年1月、次世代機の共同開発計画である『MRCA開発計画(Multi Role Combat Aircraft)』が立ち上がった。
この計画に対し、
の各社が『パナビア・エアクラフト』を合同で設立。開発計画は本格的な始動を迎えるのであった。
だが、ここでオランダとベルギー、カナダが資金難を理由に計画から離脱し、カナダはF/A-18を、オランダとベルギーはF-16をそれぞれ採用する事になるのである。
かくして開発は残った4か国で継続することになり、作業は主にイギリスと西ドイツが担当して、残りをイタリアが担当して進められる事となった。
ここで開発されるのが『トーネードIDS(InterDictor-Strike:阻止攻撃型)』で、後の各型にも発展する基本型である。
一番の特徴は可変翼を採用する割には小型なことで、戦闘機の価格は大きさに比例するという法則に基づくものである。開発当時に世界各国で注目されていた可変翼は離着陸のしやすさと飛行性能の高さを両立するメリットがあるが、トーネードの基本型となるIDSは対地攻撃が想定されており、離着陸時や低空では主翼を前進させて操縦し易くする、という使い分けがされていた。
胴体の断面も四角に近くしてあり、これは電子機器を詰め込みやすくする為である。当初から採用国の都合に合わせ、違った電子機器を搭載する事が想定されていたのだ。(実際、イギリスは防空戦闘機も欲しがっていた)
着陸滑走距離を短く抑える為にスラストリバーサも装備しているが、これは車輪のブレーキと連動ており、したがって飛行中は動作しない。間違って着陸侵入中に作動させたら即座に失速し、墜落してしまうからである。
流行っただけの可変翼
1960年代~1970年代は可変翼(VG翼)が流行であり、同時期開発の戦闘機にはアメリカのF-14やF-111、旧ソ連のMiG-23にSu-24等がある。フランスもミラージュG4を計画していたが、こちらは開発中止となった。
可変翼には可変機構の問題・可変前後で変化する空力の問題などがあるので、以降は設計に困難があり、機構が複雑かつ費用もかさむ可変翼は廃れていく事になる。
イギリスの思惑
新型の戦闘爆撃機としてだけでなく、実はF-4やBACライトニングのような迎撃戦闘機の後継にする思惑もあった。この決定は開発パートナーである西ドイツやイタリアの反発を生み、機体の要求仕様にも根ざす問題となった。(身軽な単座か、作業を分担できる複座か等)
結局はIDSを基にイギリスが独自の型を開発することになり、『トーネードADV(Air Defence Variant:防空型)』として完成することになった。独自仕様として、高性能のレーダーと中射程の空対空ミサイルを装備している。
相違点としては胴体が延長され、燃料搭載量が増えている。レーダーが対空用のものに換装されたため、機首がすらりと長いのも特徴。
初期型のトーネードF.2と本格生産型のトーネードF.3があり、イギリスの他にもイタリアやサウジアラビアでも運用された。後ににAIM-120 AMRAAMにも対応、主翼後退角の自動制御も可能になり、更に対レーダーミサイルを装備して防空網制圧にも使える、トーネードEF.3にも発展している。
ドイツ空軍と海軍、イギリス空軍、イタリア空軍、サウジアラビア空軍が採用した基本型。NATOで採用されている航空機用兵装の殆どを運用できる。ADVに比べると機首が短いのが特徴。
ドイツ海軍航空隊の機は海上哨戒・攻撃用に使われており、コルモラン対艦ミサイルを4発装備できる。ただし、冷戦終結を機にドイツ海軍のトーネード飛行隊は解隊されたため、現在これらの機体は空軍で運用されている。
湾岸戦争ではイラクの飛行場攻撃など、比較的低高度での作戦が多かったので損害は多い方だった。(米軍のF/A-18やAV-8B程ではないが)
トーネードGR.1
IDSのイギリス仕様。独自装備としてレーザー測距・照準装置を搭載している。
「GR」とは対地攻撃(Grounf attack)・偵察(Reconnoicense)という意味で、実際に偵察カメラを標準装備している。(主に爆撃効果判定に使う簡単なもの)勿論、偵察ポッドを装備すれば本格的な偵察機に早変わりする。後述のECRのように対レーダーミサイルを搭載できるよう、改修を受けた。
ドイツ空軍の電子戦闘偵察型。同様の機はイタリアでも採用されている。搭載していた機銃(27㎜マウザー砲)を降ろし、空いたスペースに電子機器を増設。敵の防空網を制圧する「SEAD機(防空網制圧機)」へと改修されているのだ。レーダージャマーなどの電子妨害機器や、対レーダーミサイルで身を固めている。
イギリスが独自に開発した防空戦闘機仕様。F.2とF.3が相当し、対空戦闘用の高性能レーダー「フォックスハンター」を装備している。胴体も延長して燃料搭載量を増やしており、航続距離も伸びた。
AIM-7から発展したイギリス独自の中距離空対空ミサイル・スカイフラッシュを4発搭載でき、加えてAIM-9も4発搭載することが出来る。あくまで防空戦闘機であり、格闘戦はあまり得意ではないようだ。
実際前任者と比べて哨戒時間やBVR能力で勝っていた反面、原型機からの仕様変更による重量増加に対してエンジン推力が相対的に不足気味だったらしく(それでも強化されたタイプを装備している)、現場では低高度での加速性能に優れる一方で中高高度では加速性能と上昇性能が悪化したため不評だったとか。
また、フォックスハンターレーダーも配備までに不具合解消が間に合わず、F.2は最初レーダーを搭載せず、代わりにバラストとして鉛とセメントを搭載したとか...(ちなみに現場ではかつて存在したイギリス軍のレーダーのレインボーコードと同国のセメントメーカーに因み、これを「ブルーセメント」レーダーと呼んでいたそうである)。結局改善したF.3が配備されると主に訓練用として運用されていたF.2は短期間で配備を終了したが、極少数機がF.3と同様の装備にアップグレードされた「F.2A」として損耗したF.3の穴埋めとして運用された。
余談だが、我が国の航空自衛隊第2次FS-Xにおいて、本機をベースとした対日モデルがBAEより提案された。具体的には本機の延長された胴体によって燃料タンクと兵器搭載スペースを確保する傍ら、フォックスハンターレーダーにIDS同様の対地攻撃能力を付与したもので、シーイーグル対艦ミサイル4発を搭載可能にしていたという。
もっともFSX自体は、ご存知のように米国製F-16をベースとした三菱F-2が採用されている。
イギリスの現在
イギリスでは2011年3月に最後の飛行隊が解散し、退役している。後継機はタイフーンだが、資金難により調達は停滞気味。先のF-Xで提案された機はイギリスが引き取れなくなった機体がそのまま提案された。
他の国の現在
イタリアでは旧式化したF-104とタイフーンの繋ぎとして、イギリスから機体をリースして運用していた。しかしリースの期限切れにタイフーンの配備が間に合わず、更なる繋ぎとしてF-16をリースして運用している。
サウジアラビアではイタリアよりもう少し現役だったようだが、現在はタイフーンに交代している。
トーネード大佐
漫画『ファントムデッドオアアライブ』に登場するトーネードF.3乗り。空戦ではスラストリバーサを使って急減速するという芸当を見せるが、これまた前述の通り、非常に危険な行為である。航空機には、「対気速度」というものが非常に重要で、速度によって主翼が揚力を発生し、機体を空中に浮かせるからである。
急減速するという事は、つまり航空機が落下する金属塊に変化するという事であり、こうなるともはや操縦するどころでは無くなってしまう。空戦中に速度を失うことは、飛行の自由度を失う事にも等しいのだ。