フェアリー ソードフィッシュ(Fairey Swordfish)とは?
イギリスの航空機メーカーであるフェアリー社が開発し、イギリス海軍航空隊によって使用された三座複葉の雷撃機である。基本性能こそ低かったものの、汎用性や操作性に優れ複葉機時代の最後を飾った非全金属製軍用機の傑作。
ソードフィッシュの意味は、魚類のメカジキのこと。
操縦のし易さから搭乗員に愛され、アメリカ製のTBM・TBFアベンジャーが採用されるまで現役を務めた。(アルバコアの事は黒歴史で)
当時既に主流であった金属製単葉機の巡航速度が300km/h、400km/hは当たり前の時代にあって、ソードフィッシュの巡航速度はわずか170km/hという代物だった。
『敵が高速で追尾できない』という例は古今東西に数あれど、『敵が遅すぎて追尾できない』(追い越してしまう)例があるのは本機くらいのもの。そのため、まともに攻撃を当てようとして速度を落とし過ぎ、失速、墜落する戦闘機が出るという前代未聞の事態が発生した。(ユージン・エズモンド少佐の率いる海軍第825飛行隊の6機のソードフィッシュを全滅させた独艦隊のドーバー海峡突破作戦でも、艦隊護衛のドイツのBf109、Fw190は低速のソードフィッシュ攻撃に苦労し、フラップは勿論、脚まで出して速度を落そうと努めたという。ただしこの法則は、一撃離脱のために特化し低速域の運動性が劣悪なドイツ機には有効であったものの、逆に低速域における格闘戦に特化していた日本軍の戦闘機には通用せず、苦もなく狩られることとなった。)
対ビスマルク戦に於いてもその遅さによる恩恵は遺憾なく発揮され、ビスマルクの対空射撃システムの入力下限を下回る進入速度の遅さから対空砲弾がはるか手前で爆散してまともに当たらないという事態が発生している。
また、本機の羽布張りの主翼は燃料タンクを内蔵していないので火が付きにくく銃弾も貫通するだけで、多少の火災が発生しても乗組員が革手袋で叩いて消火できるため、いろんな意味で手強い。確実に墜とすにはパイロットかエンジンを狙うしかないとも言われる。中には175か所に被弾しながらも急所を外れたために帰還した機体が存在した。
銃弾が命中して破れても張り替えて同じ色で塗れば済むという極め付けの整備性の高さから、本機を運用する空母や護衛艦には予備の布が常備されていた。
雷撃任務からは早々と引退したが、その遅さは対潜・哨戒任務にはうってつけであり、かつ搭乗員の負担も少なく、軽い機体は滑走距離が短くて済むため、荒れやすい大西洋上の空母での運用も容易であった。
Pixivのタグとしては、機種名だけの「ソードフィッシュ」で付けられていることが多い。
戦歴
仮装戦記の大家である川又千秋氏が作中で『大英博物館の虫干し』『第一次世界大戦の忘れもの』と評したように
太平洋戦域での対日戦では零戦が既に猛威を振るっていたため(お察し下さい…レーダー装備で夜間雷撃可能なソードフィッシュを配備されていたハーミーズのことは言わないで(´;ω;`)ウッ…)
…事実、太平洋戦域で、うっかり護衛なしでに投入された部隊などは、低空・低速域に強く、小回りの利く零戦に全滅させられている。
(零戦21型の最高速度は533km/h、航続距離は2222kmに対し、ソードフィッシュの最高速度は222km/h、航続距離は880km。この他、機体の構造上、翼面荷重が小さくBf109以上に減速でき、追い越してしまってもBf109ではありえない急速旋回の後に別方向から追いかける動作が連続でできる上、上にいようが下にいようが急上昇、急降下されて逃げきれず、何度でも自由自在に攻撃を加えてくる格闘戦を重視して作られた日本軍戦闘機に対しては致命的に分が悪かった)。
余談ながら、大英帝国の極東植民地経営の牙城であった当時のシンガポールには姉貴分のウィルデビースト複葉雷撃機と同機の後継機であるアルバコアといった複葉攻撃機・偵察機が配備されていたようだが、
日本軍がマレー沖海戦などで ヒャッハー! して太平洋地域からイギリス軍勢力を瞬く間に追い払ってしまったせいか、
資料はともかく日本における著作では多くの場合いなかった(忘れられた)ことになっている。
こうした戦局により、さすがにチャーチルさんもヤバイと思ったらしく大戦後半にはイギリス東洋方面(インド洋・極東方面担当)の空母群からソードフィッシュら複葉機は姿を消し、軒並みシーファイヤやファイアフライら自国製の、もしくはTBM・TBFアベンジャーらアメリカ製の単葉機に置き換わっている。
一方で、ヨーロッパ戦域における主敵であるドイツ、イタリアが艦隊決戦を重視せず(出来ず)、空母機動部隊を持たなかったことが、この軍用機の活躍に大きな意味を持たせている。
真珠湾攻撃の先駆けともいうべきタラント港空襲では夜間雷撃によりイタリア海軍の戦艦リットリオ、コンテ・ディ・カブール、カイオ・ドゥイリオを大破着底させる戦果をあげ、ドイツ海軍の戦艦ビスマルク追撃戦では、みごと雷撃に成功し、舵を損傷させて足止めに成功している。
逆に、巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ、重巡洋艦プリンツ・オイゲンを主力とするブレストのドイツ艦隊のドーバー海峡突破作戦では、スピットファイア戦闘機五個中隊のうち一個中隊の10機としか合流できなかったエズモンド少佐の6機のソードフィッシュは艦隊を護衛する16機のFw190のなかに突っ込む形になり対空砲火との相乗効果で文字通り全滅している。
それでも使いやすさからストリングバッグ(=何でも入る買い物用の網袋)と呼ばれ、その名の通りレーダーやらロケット弾やらを積み込み、Uボート狩りなどに活躍し続けた。
欧州におけるソードフィッシュは、イギリス製の後継機であるアルバコア複葉艦攻やバラクーダ単葉艦攻らが登場しても、前線兵士から『ストリングバッグを返せ』なる声が替え歌で叫ばれるほど重用され、古き良き複葉機の時代、その最後を栄光で飾った名機の一つに数えられている。
(前述したイギリス製後継機群が本機の古臭さがかすむレベルで軒並みポンコツだったからしゃあないのでは…とツッコミを入れるのは野暮ってことで!)
つまるところ、イギリス海軍は、技術革新に失敗しながらも、己と相手を冷静に俯瞰したうえで適切な運用を行ったのである。
…最新鋭のはずなのに運用面で致命的なミスのあったPoWは泣いていい。
参考
関連タグ
九三式中間練習機:機体構造が似ている為、特攻作戦時に期せずしてほぼ同じ現象(機銃弾貫通、近接信管不作動)が発生して対空射撃が無効化され、駆逐艦「キャラハン」が撃沈された。