AIM-9
さいどわいんだー
アメリカ合衆国の兵器開発メーカー・レイセオン社が開発した短距離空対空ミサイル。愛称はサイドワインダー。「AIM-9」は型番。
AIMとは「航空機から発射する(Air)対空迎撃(Intercept)ミサイル(Missile)」を示す記号である。
名称の由来となったサイドワインダー(ヨコバイガラガラヘビ)は柔らかい砂の上を移動する為、横方向に進むという独特の動きをする。
更に暗闇でも目の下にある器官(ピット)で獲物の体温を感知できる。
発射時の独特な軌道と赤外線探知能力を持つAIM-9の別称はこの特性にちなんで付けられた。
開発は1940年代末期に着手され、1953年に行われた試射にて初の標的機撃墜を記録。
初期のバージョンでは、シーカーの捕捉能力の低さ故に発射可能域は敵機の後方のみに限られており、激しい軌道を行う目標へ命中させるのは至難の業であった。
その上敵機の放つフレア(おとり熱源)はおろかエンジンの排熱と勘違いして太陽をどこまでも追いかけてしまうという致命的な欠点もあった。
これらの欠点は改良型のAIM-9Lが開発されるまで付いて回ったが、現在では目の前の熱源がエンジン排熱か、それともフレアのようなおとり熱源なのかを識別できるようになっている(フレアも点ではなく面で撒くなど対抗できるようになっており、シーカーが飽和するように撒かれてしまえばさすがにどうしようもないようだ)。
ロケット技術の進歩と共に射程距離も伸び、やればできる子になっている。
また、近年では軽装甲目標への対地攻撃機能の試験が行われており、1本のミサイルで地上や空中の目標物を問わず攻撃できる『エースコンバット』シリーズのような万能ミサイル一歩手前まで来ている。
(もっとも弾頭の破片効果では流石にバンカーや戦車等の堅牢な装甲のある対象の破壊は容易ではないのだが)
構造が割と簡単なので、実用化から半世紀が経過した現在でも改良を重ね今なお現役であり続けている。
中台海峡やベトナムで用いられたAIM-9Bに始まり、21世紀に入ってからは最新型のAIM-9Xが新登場している。
このAIM-9Xは推力偏向制御による高機動や発射後のロックオンが可能になっただけでなく、HMDと組み合わせたJHMCSによって真横の敵機への攻撃が可能となった。
更に陸軍の戦場防空システムMIM-72「チャパラル」、シーカーを換装した海兵隊の簡易対レーダーミサイルのAGM-122「サイドアーム」、ミサイル版CIWSのRIM-116 「RAM」、小型空対地ミサイル「グリフィン」などにも改造やコンポーネントの流用がされて使用されている。
(ただしAGM-122はストックが底をついて再生産されず、運用終了している)
なお、代表的なアメリカ製の空対空ミサイルとしては、レーダー誘導の中射程ミサイル AIM-7スパロー、発展型中射程対空ミサイル(の略)AIM-120アムラーム、慣性誘導と自律レーダー誘導を組み合わせたAIM-54フェニックス等がある。
注意点(?)
サイドワインダーの発射後、パイロットは僚機に「フォックスツー(FOX2)」と警告する。
これは「赤外線追尾ミサイルを発射した。注意されたし」という意味だが、これはベトナム戦争当時のコードであり、現在のコードは軍事機密の為不明である(多分そのままだとは思うが)。
ソ連での試み
中台海峡上空で初めて使用されて衝撃的なデビューを果たし、各西側諸国に配備されたサイドワインダーであるが、その成功をソビエトが見逃すはずがない。
同国は早速サイドワインダーのコピー品であるR-3S(NATO名:AA-2「アトール」)の開発に取り掛かり、MiG-21等の当時の主力戦闘機に搭載された。
しかしながらこちらはサイドワインダーのように末永く改良を加えられる事も無く、その後継にはR-60(NATO名:AA-8「エイフェッド」)が新規開発されている。
こちらはMiG-21やMiG-23、MiG-25・MiG-29にMiG-31、Su-17やSu-27にまで対応する旧東側の標準ミサイルである。
ちなみにだがこのミサイル、実はAIM-9をリバースエンジニアリングしたものと言われてる。というのも先述した中台海峡で台湾空軍のF-86が放ったサイドワインダーが人民解放軍のMiG-17に命中した際、幸か不幸か不発だった為弾頭が炸裂することなく機体にブッ刺さった状態で基地に帰還できた。その後調査の為回収されたもののとても高度な技術の塊であるミサイルは当時の中国の技術力では手に負えず、友好国だったソ連に送った結果できたのがこいつ…と言われてる。
時代を得て多くの派生型が作られ、もはや名称以外はほぼ別物になったこのミサイルだが、実はサイドワインダーには海軍系と空軍系が存在する。最初の実戦配備がなされたAIM-9BはHVARと呼ばれる無誘導ロケット弾(第二次大戦時の米軍主力ロケット弾。P-47やP-51、F6FやF4Uに搭載された)を基に海軍兵器実験ステーション(NOTS)の研究者達の自主研究を元に作られたものである。B型は海空軍機両方が使用していたが、海軍は「AAM-N-7」、空軍では「GAR-8」とそれぞれ別の正式名で採用されていた。双方がAIM-9Bという呼称になったのは1963年に命名規則が改正され各軍での呼称が統一されてからである。B型以降の発展型で空軍系と海軍系で別れていくのだが、その経緯は空軍が「海軍と同じものは使いたくない」という駄々から始まった。
海軍系
- AIM-9A/B:この型までは空軍も海軍も同じものを使っていたが、開発は上述した通り海軍が発祥なので初期型は当然海軍系である。ここから上述した理由で海軍系と空軍系で枝分かれしていくことになる。
- AIM-9C:誘導方式が赤外線誘導からセミ・アクティブレーダー誘導に変更したタイプ。全天候・全方位交戦能力を付与する試みで作られた。サイドワインダーしか搭載できないF-8に搭載されたが誘導方式的に短い射程とは相性が悪く中途半端な性能だったため同機が退役すると共に退役した。この系統は続いておらず空軍系ではそもそもレーダー誘導タイプが存在しない。
- AIM-9D:B型の冷却装置を改良してシーカーの誘導精度と追尾速度を向上させたタイプ。センサー窓の素材がガラスからフッ化マグネシウムに変更され、空気抵抗を低減するために先端を丸みを帯びた円錐形に変更した。
- AIM-9G:SEAM(Sidewinder Expanded Acquisition Mode)機能を実装しており、ミサイルのシーカーを、戦闘機の火器管制レーダーに追従させて動かすことができる。これによりより高精度かつ迅速な照準が可能になった。また、内部構造に半導体素子が用いられるようになった。
- AIM-9H:G型よりもシーカーを高精度化し、追尾角度を増強したモデル。また、全部の制御翼の形状がダブルデルタ翼に変更された。
- AIM-9L:H型を元にシーカーをより高精度なものに改良し、全方位交戦能力を獲得。冷却装置の冷媒を窒素ガスからアルゴンガスに変更し、IRCCM能力(フレアに対する耐性)が実装されフレア対する耐性を獲得。またレーザー近接信管を実装し、命中精度と加害範囲を向上させた。この型から空海軍のミサイルは統合された。
- AIM-9M:Lから更にIRCCM能力を強化すると同時に低排煙モーターを導入した。また冷却装置の構造も一部変更されている。
- AIM-9X:制御翼を前から後ろに移し、推力偏向機構を実装。これにヘッドマウントディスプレイ(HMD)を併用することにより真横や真後ろむけて撃つことが可能になった。また誘導方式を赤外線を点の集合として扱うレティクル方式から赤外線を広がりのある点の分散として扱う画像誘導方式に変更し、IRCCM能力をさらに向上させた。
空軍系
上述した通り現行のモデルは海軍系から派生したモデルであり空軍系はすでに途絶えている。海軍系の方が空軍系より性能面が優れていたことや改良しやすかったためだと思われる。空軍系サイドワインダーの成績は、必ずしも良好ではなく、一部の部隊は海軍から借用したG型の導入を検討したものの、赤外線センサの冷却方式が異なるためにランチャーの互換性がなかったため実現しなかった、という話がある。
- AIM-9E:B型の改良型。改良内容はD型とほぼ同じだが冷却方式が異なる。
- AIM-9J:H型と同様に半導体素子化を進めるとともに動翼のアクチュエータを強化し、ロケットモータの燃焼時間を延長したもの。
- AIM-9P:J型にL/Mの技術をバックフィットさせたもの。要するに海軍系と空軍系のキメラ。L/M型よりも安価なものとして位置付けられ、輸出用モデルとして開発されたが、アメリカ空軍も採用した。複数のモデルが存在する。
- AIM-9P-2:低排煙モーターを導入したモデル。
- AIM-9P-3:誘導・操作装置に改良を加え、追尾性能を強化したモデル。
- AIM-9P-4:シーカーにL型の技術を使用し、全方位交戦能力を獲得したモデル。
- AIM-9P-5:P-4を元にIRCCM能力を向上させたモデル。
P型以降は海軍系サイドワインダーが主流になり統一された為、これ以降空軍系サイドワインダーが新規開発されることはなく系統は途絶えることになった。
始祖を作った海軍に対抗したにもかかわらず海軍系にシェアを奪われるとはとんだ皮肉である。