JHMCS
じぇいへみくす
VSI社がアメリカ軍向けに開発した戦闘機用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)。正式名称は「Joint Helmet Mounted Cueing System」(ヘルメット装着式統合目標指定システム)、略してJHMCS(ジェイヘミクス)である。
JHMCSの原型となる計画はVista Sabre IIと呼ばれ、1993年に運用分析が開始された。カイザーエレクトロニクス(現ロックウェル・コリンズ)は試作品を製作し、F-15において試験を行ったが、高Gでの迎え角時などの状況での問題が浮上し、後継となるVCATS (Visually Coupled Acquisition and Targeting System) が作られた。これはJHMCSとVista Sabre IIの橋渡し的存在であった。
JHMCS開発のための契約は1996年12月に署名され、プログラムは1997年4月に開始。これに対し1996年4月に連携したエルビット・システムズの子会社であるEFWとカイザーエレクトロニクスの合弁会社であるVSI社と1995年に連帯したハネウェルとGECマルコーニ・アビオニクス(現・BAEシステムズ)による合弁会社が競争した。GECマルコーニアビオニクスとハネウェルのチームはユーロファイターのクルーセイダーシステムを提案、VSIはエルビットのDASH IIIおよびカイザーのAgile Eyeをベースにしたものを提案。
1997年に計画はVSI社により開始された。試験は1999年12月に開始され、試験は契約締結後18ヶ月間続き、1999年8月から2000年2月にかけて運用分析が行われた。
2000年5月にはLRIPが承認され、2002年4月に本格的な生産が計画されていたが、運用のテストと評価で明らかになった信頼性と保守性の問題により遅れ、2003年11月より本格生産が開始。
JHMCSの最大の特長は、敵機を機体の正面のHUD内に捉えなくてもミサイルのロックオンをできることにある(但しミサイルと機体の火器管制装置等もJHMCSに対応した物であることを要する)。照準用の画面をラスタースキャン型のバイザーに映すことで、機体の機首方向から左右60度以上に位置している敵機に対して、顔を向けるだけでミサイルのロックオンができるようになっている。加えてFLIRやIRSTなどの情報の表示も可能である。このような戦闘機用HMDの先駆者的存在である、イスラエル空軍のDASHも基本的に同じ機能を有するが、ヘルメットに内装されているDASHに対して、JHMCSは既存のヘルメット(HGU-55/P、HGU-56/P、HGU-68/P)にアダプターを介して装着する点が異なる。このため、ヘルメットバイザーを暗視ゴーグルに換装すれば夜間戦闘任務にも対応可能。
本システムに対応するミサイルは、AIM-9Xサイドワインダー2000やIRIS-Tなどオフボアサイト発射能力を持つミサイルで、対応する戦闘機は
- F/A-18(改修機のみ)
- CF-18ホーネット(改修機のみ)
- F/A-18E/Fスーパーホーネット(Block IIのみ)
- F-15イーグル(米軍のMSIP-2改修機相当の物のみ)
- F-15Eストライクイーグル(改修機のみ)
- F-16Cファイティングファルコン(Block40以降)
などである。F-22は搭載試験が行われたが、コックピット内部の磁気コートによりトラブルが発生したため搭載していない。F-35ではJHMCSをさらに発展させたHMDが標準装備されており、一枚パネル式の主表示装置の採用によってHUDの表示機能を全て備えているため、機体にHUDを装備する必要を無くしている。