概要
AGM-114は、アメリカ合衆国で開発された対戦車ミサイルである。通称ヘルファイア(hellfire)で、Helicopter launched fire-and-forget(ヘリコプター発射の後撃ちっぱなし)の頭文字を略したものだが、ヘルファイアには英語で「地獄の業火」といった意味合いもある。
AH-64やAH-1Zといった攻撃ヘリコプターに搭載されて運用される。それまで攻撃ヘリが用いていた既存のBGM-71 TOW対戦車ミサイルは有線誘導であり、誘導用ワイヤーを曳きながら飛翔する上にミサイルの操作の為に飛翔速度が遅かった。そのうえ、誘導の為に母機は静止していなければならず、攻撃に対しては避けるために誘導を中断しなければならなかった。
ヘルファイアではセミアクティブレーザー誘導によりワイヤーが無くなり、誘導もミサイルが自律的に行うために母機側による操作は不要となり、飛翔速度が向上して発射から命中までの時間を短縮している。更に誘導のためのレーザー照射は母機だけでなく僚機や友軍の歩兵等からも行えるうえに、発射後に照準レーザー捉える事で誘導を開始することも可能となった。そのため、遮蔽物に隠れたまま見えない目標に向けてミサイルを山なり打ち上げるといった発射方法を取ることで母機の安全性を高める事が可能となった。
改良型AGM-114L、通称ヘルファイアⅡ以降からは、ロックオンした目標にミサイルが自力で向かっていく「撃ちっ放し能力」を獲得。それまでは上記のようにミサイルが目標に当たるまでレーザーで目標を照準し続けなければならず、照射を行う側はその間は動きが制限されて敵の行動を回避できない(回避するような動きでは誘導を中断しなければならない)といった問題があったが、それを解決した形となる。
発射母機としては上記の攻撃ヘリのほか、OH-58D観測ヘリ、MQ-1やMQ-9といったUAVにも搭載可能で、さらにUH-60にもESSS(外部搭載支援システム)で兵器搭載用のスタブウィングを追加することで搭載可能である。また、ストライカー装甲車にも防空用のIM-SHORD型やMSL型など搭載可能な車種がある。
アメリカ以外の西側諸国の軍隊でも広く利用されており、日本でも陸上自衛隊のAH-64Dに搭載されるほか、海上自衛隊がSH-60K/L哨戒ヘリに搭載する小型の対艦ミサイルとして導入している。
2017年には対艦ミサイルモジュールの実験としてVLSからAGM-114Lを発射する実験をフリーダム級USSデトロイトより行っている。
AGM-114はシーカーに目標を捉えるという構造や目標に向けて撃ち出すのでVLSのような軌道を大きく変える必要のある垂直発射は想定していなかった。