概要
747や777と並ぶ、ボーイングのベストセラー機。
日本だけでも大手(日本航空や全日空)からLCCまで、ジェット機を扱う航空会社ならたいていは保有しており、よほど小規模な(ジェット機が発着できないような)飛行場でない限りどの飛行場でも見ることができる。
また海外のLCCの場合、事業者によってはサウスウエスト航空のように使用する機体は737一択ということも珍しくない(というより、737の「安い・取り回しがいい・航続距離が比較的長い」という特徴が多くのLCCの原動力となったとも言える)。
いわばトヨタ・カローラや国鉄103系の旅客機版といったところである。
歴史
DC-4やL-188などの、レシプロ旅客機の後継機としての需要を見込んで(&DC-9への対抗商品として)企画された機体である。
しかし、そのスタートは決して順調なものではなく、開発に出遅れたが故にアメリカの主要航空会社は既にDC-9の天下になりつつある状態だったため、ローンチカスタマー(一番最初に発注した航空会社)はルフトハンザドイツ航空、しかも開発継続を決めるには遥かに少ない受注数だった。また、初期型は性能不足などで販売が低迷したものの、改良を重ねていった事で世界的ベストセラー旅客機へと成長を遂げた。
機体の基本設計はあの傑作機・727とほぼ同じ物を採用している(言わば双発版727とも言える機体である。もっと言えば、その727の胴体の元になったのはボーイング最初のジェット旅客機・707である)。
初期型の100・200型ではエンジンは低バイパス比ターボファンエンジンだったが、300型以降は低燃費・低騒音の高バイパス比ターボファンエンジンに変更されている。また、エンジンの変更に関してエンジンカウルや装着方法も若干変更されている(後述)。
特徴
わりとちっこい
定員150~180人の中型機である。通勤電車一両分の定員しか無い。
座席はエコノミークラスで3+3配置、上級クラスで2+2配置が基本であることからもこの機体のサイズがわかるだろう。
しかし小さいということは燃費がよく、小さな空港でも発着できるということでもある。体力的に不利な中小事業者でも採用しやすい。小さいは正義。
「プロペラ機の後継機」「短距離用旅客機」としての設計
737はプロペラ機の置き換えのために企画された機体である。
プロペラ機は速力こそジェット機に劣るが、滑走路距離が短くて済む・燃費が(ジェットと比べて)圧倒的にいいなどの、ジェット機には真似することが難しい特徴もいくつか持ち合わせている。
さらに737企画当時のプロペラ機の守備範囲は地方の短距離路線。上がったと思ったら30分くらい飛んですぐ着陸なんてこともある。それくらい離着陸が頻繁なのだ。
・・・というわけで、「短距離用のプロペラ機の後継機として相応しい設計」が幾つも導入されている。
- 強力な高揚力装置の採用
理由は実はプロペラのある・無しにある。
プロペラ機はプロペラで風を起こしているため、その風を主翼に当てれば揚力を水増ししたのと同じことになる(プロペラの起こす風で、主翼の揚力は低速域でも高速で飛んでいるのと同じような状態になり、結果的に揚力が向上する)。
一方のジェット機にはそんなせこいものはない。ただひたすらジェットエンジンで加速して、浮き上がるために十分な速度を得るしか無い。つまり、プロペラ機よりも滑走距離(≒加速するための距離)を長く取らざるをえない。
これが、地方空港やローカル線のジェット化を阻んでいた要因の一つといってもいい。
この問題を解決しなければ、「プロペラ機の後継機」には成り得ない。
というわけで、737には強力な高揚力装置(フラップ)が搭載され、ちょっとしたプロペラ機並の滑走距離(ANAの公式サイトによれば、737-500型の場合1500m程度の距離の滑走路で離発着可能とされている)を実現した。
- 頻繁な離着陸に耐えうる着陸脚
そのため、着陸脚は頑丈に設計されている。
また、主脚(胴体中央部に付いている着陸脚)は完全には機体内に引き込まれず、機体底部の窪みに収めるような形で収納される。これは、飛行中に低温の外気に当ててタイヤを冷却するためである。
- オプションで自前のタラップも追加できます
2人で飛ばせます
地方の航空会社の泣き所の一つは人件費。
飛行機の操縦を含め、何かの業務に関わる人数は少なければ少ないほどいい。電車やバスのワンマン運転は、ぶっちゃけると人件費を抑えるための施策である(車掌を乗せずに運転手一人で運行できるようにして、車掌の分の人件費を減らすためである)。
これを見越して、従来の旅客機は機長・副操縦士・機関士の3人体制でコクピット乗務を行なっていたところを、737では機長と副操縦士の2人だけで飛ばせるようにしてある。
勿論、この仕様は当初は「機関士の仕事を奪う気か!」と反発を受けていたが、今では「旅客機は2人で飛ばすもの」というのが当たり前になってしまった。(恐らく機関士達も『操縦士』の免許を取得して、エンジン制御のパネル操作から操縦桿を握る側になったのだろう)
シリーズ
第一世代(737オリジナル)
- 737-100
全てはここから始まった。737シリーズ最初の機体。
727をベースとした胴体に、主翼に低バイパス比ターボファンエンジン・JT-8Dを装架するという構成で登場した。
エンジンは一般的な旅客機のようにパイロン(主翼に何かを吊り下げるためのハンガー)を介してぶら下げるという方法ではなく、主翼に直接取り付けている(見方によってはイギリス製ジェット機のように、主翼にめり込んでいるようにも見えなくもない)。
これにより、地上とのクリアランス(距離)を確保している。
低バイパス比エンジンのため、逆噴射装置はエンジン後方のノズルに蓋をして、コアエンジンの噴気を逆噴射される形式のものを採用している(低バイパス比エンジンは性格的にはターボジェットエンジンに近く、推力はコアエンジンからの噴気が主であるため)。
ちなみにシリーズ中で最も小柄な機体である。
僅か30機しか製造されず、-200型に製造は移行した。
- 737-200
100型の胴体延長型。
航続距離も延長されている。
また、貨物仕様もラインナップに加わった。貨物仕様型737の特徴として、一般的な貨物機に見られる「メロンパン入れになってまーす」と前後が開くドアではなく、トラックのガルウィング式ドアのように上方向に開くドアとなっている点が挙げられる。
初期型は上に書いたように「2人乗務」への反発や、さらに性能不足もあって販売が伸び悩んだが、改良型は1100機近くを売り上げた。
また、1971年には離着陸性能の強化と客室内インテリアの改善を行ったアドバンスド型が登場している。
第二世代(737クラシック)
- 737-300
USエアウェイズの要望を受けて改良された第二世代の737。
最大の特徴は、なんといってもエンジンが今の旅客機の主流である高バイパス比ターボファンエンジン(CFM56)に変更された点である。
高バイパス比エンジンに変更されたことにより、静粛性と何より燃費が飛躍的に向上。乗客には快適な空の旅を提供でき、空港周辺住民は騒音に悩まされることがなくなり、航空会社は燃料代の節減が可能となった。
しかし、ここで一つ問題がある。
高バイパス比エンジンは、前方に巨大なファンがくっついたため従来の低バイパス比エンジンと比較して直径が大きい、つまり太いのである。
そのまま取り付けたら地上とのクリアランスが確保できない(最悪、地上にぶつかってしまう)。
さて、どうするか。
そこで300型以降では、エンジンカウルをおにぎり型の断面のものに変更し、さらに若干主翼の前方にずらすことで地上とのクリアランスを確保している。
後期型からは757や767のように、グラスコクピット化(針式や数値表示式のメーターではなく、ディスプレイを使って情報を表示するタイプのコクピット)化がなされている。
- 737-400
300型の胴体延長型。
日本航空が導入した機体には花の愛称が付けられていた。
- 737-500
ちなみに日本がボーイングと共同開発する予定だったYSXは、本モデルをベースとして90席程度の機体(要するにエンブラエル機とか、DHC-8とかと同クラスの機体)にする予定であった。
お流れになったのはだいたい717ことMD-95のせい。
第三世代(737NG)
- 737-600
- 737-700
- 737-800
- 737-900
(当時の)最新鋭機・777の技術を取り入れたモデル。
ネクストジェネレーション(NG)の名の通り、もはや、初期の737とは完全に別物である。
どんくらい別物になったかといえば、「アルミ車体とVVVFインバータ制御になった0系」(もはや初期モデルそのままなのは台車のみ)とか、「4WD、四輪独立懸架やパワステやエアコン、CVTを装備、4気筒水冷エンジンを搭載したスバル360」(それって360の皮をかぶったサンバーでは?)みたいな状態である。
主翼は設計を一新した高効率のものに変更。主翼で最も目立つのが、主翼の端についた巨大なウィングレット(オプション)であろう。
このウィングレットは、乱暴に言うと飛行中に発生する空気の渦を減らして空気抵抗を減らすための装備である。
この装備により巡航速度の向上や、航続距離の延長を実現している。
ウィングレットにより空気抵抗が減少したのに加え、燃料搭載量そのものも増えたことにより航続距離は6000km程度にまで向上している。
型番に関しては、数字が大きくなるほど胴体の長さが長くなっていくというルールを採用している(つまり600型が最も短く、900型が最も長い)。
その他の基本仕様に関しては、各形式ともに共通である。つまり、胴体の長さと定員くらいしか差異が無い。
このうち最も胴体の長い900型は、定員数で見ても757とさほど変わらないレベルに達しているため、757のシェアを食ってしまっていたりもする。
他の三機種は、順に全シリーズの500型、300型、400型に相当する定員数とされ、これらを効率良く置き換えできるようにした。ただし600型はボンバルディア、エンブラエルなどのリージョナルジェット機との競合にも巻き込まれて受注が伸びず、700型に後を託す形で生産を終了した。
2010年からは787の仕様を元にして、機内照明にLED照明を採用するなど、インテリアまでも大幅に使用変更した「BSI(Boeing Sky Interior)」仕様も登場している。
ちなみに直接のライバルはエアバスのA320シリーズ(こちらは小さい方から順にA318・A319・A320・A321)。
737 MAX
- 737 MAX 7
- 737 MAX 8
- 737 MAX 200
- 737 MAX 9
- 737 MAX 10
初期の737の後継機として開発された、737シリーズ最新モデル。
エンジンをさらに高効率化したCFMインターナショナル・LEAPエンジンに変更し、ウィングレットも新設計のものに変更されるなど機体のデザインを一新した。
更にこれまで在来機の延長であるが故に採用を見送っていたフライ・バイ・ワイヤも採用するなど、またもやほとんど別物レベルに抜本的な改良がおこなわれている。
しかしながら根本的な設計の旧式化がここにきて足を引っ張ることとなり、特に主脚の短さによる主翼と地面の距離の近さが問題となった。
改良を最小限にするため、MAXでは前脚を若干かさ上げし、エンジンナセルを前上方へ移動させることで地面とのクリアランスを確保することに。
だが前進したエンジンナセルは大迎角時に揚力を生んで機体の機首上げを加速させるようになってしまったため、新たにMCASを搭載することとなった。
MCASは機体の迎角が危険な領域に達した場合に強制的に機首下げを行い、迎角を安全な範囲に保つシステムである。
しかしながらこのMCASが暴走しやすい上に解除が面倒で、しかも解除すると別の電動アシストまでカットされてしまって状況次第では操縦がほぼ不可能になるという八方ふさがりの欠陥が発生してしまった。
2018年10月29日のライオン・エア610便、
2019年3月10日のエチオピア航空302便(どちらもMAX 8)の墜落事故はこの欠陥に起因するものとみられており、それぞれ乗員乗客189人、157人が死亡した。
この事態を重く見た中国、インドネシア、モンゴルは、エチオピア機墜落の翌日11日には自国での当該機種の運航停止を指示、他の国でも数社が運航を自粛した。
以降運航停止国は拡大し、3月14日には全世界で737 MAXが運航停止。ソフトウェアの改良には手間取っている様子で、発注のキャンセルが相次いだ結果2020年1月からは生産そのものが停止し、安全性が証明されるまでは生産を再開できない状態に陥る。さらにボーイング777Xの開発の遅れや新型コロナウイルス感染症による航空需要激減が追い打ちをかけ、ボーイング社の経営自体が危うくなりかける事態となった(一部のメディアで倒産の可能性やアメリカ政府による支援が報じられたほど)。
生産は同年5月末から再開され、さらに11月頃から各国で運航も再開され始めた。日本でも翌年1月から運航再開に向けた申請を受け付け始めてはいるが、そもそも日本にまだ運航している航空会社がない(後述するが導入の計画がある航空会社はある)ので実質運行停止が続いている。
軍用型
737には軍用型も存在する。
近年有名なのは早期警戒機737AEW&C(イラスト)や哨戒機P-8ポセイドンだろう。
製造数
現在までに生産された機体の総数はシリーズ通算で8000機近くにまで到達しており、受注総数ともなると1万機を超える大ベストセラー機である。この記録はジェット旅客機としては世界一であり、どのくらい凄いのかと言うと、日本で年間に受領される旅客機は全社併せてだいたい20~30機程度であり、同じボーイングで40年以上にわたって生産されている747の総生産数はこの4分の1にも満たない1500機程度である。
ただし、プロペラ機にはこれを越える伝説を打ち立てた機種が存在する。50年以上前に日本でも飛行していたダグラスDC-3がそうで、ノックダウン生産を含めると1万7千機以上が製造されたとされる。(ただし、第二次大戦中の輸送機型であるC-47も含む)。MAXシリーズの生産が続けば、あと10年程度で偉大なる記録も塗り替える可能性がある...と言われていたが、MAXシリーズは事故の続出で欠陥機の烙印を押されたため、その実現には暗雲が漂い始めている。
日本での737
日本では1969年に全日空が737ー200を就航させたのが最初。続いて沖縄を主な運航路線としていた南西航空(現在の日本トランスオーシャン航空(JTA))が1978年に737-200アドバンスを就航させた。
第2世代は、1994年にJTAが737-400を就航させたのが最初で、1995年にはJALも737-400を就航させた。また、同年にエアーニッポン(ANK)が737-500を就航させている。他にもソラシドエアやAIRDOが737-400を導入した。日本航空はローカル線用として、JTAとANKは737-200の後継機としての位置づけだった。737-200は2002年に全機が退役した。
737NGは2005年に全日空が737-700を導入した(運航はANK)。2006年にスカイマークが737-800を就航させ、2007年にはJALも737-800を就航させた。その後、ソラシドエアやJTA、AIRDOなども737-800を就航させ、日本の空を代表する旅客機となっている。第2世代型は2020年に運航を終了。
737MAXについては、全日空が737MAX8を30機発注することが確定している(本来はMRJが納入完了するまでの繋ぎとして10機程度の発注だった)ほか、2023年にはスカイマークも発注している。
737は事故が多い?
737は時折「よく事故を起こす飛行機」と扱われることがある。
しかし、これは737が世界中の航空会社が採用していて、世界中の空港に離着陸しているから絶対数も必然的に多いためというのが実態に近い。
それにくわえて言うなら、設備が十分に整っていない途上国の航空会社や空港にも居るからメンテを十分出来なくてそれが事故につながったというケースも少なくないと言われている。
よーするに、単純に数が多いし、場合によっては設備が不十分なところでも使われることがあるから事故を起こす数も相対的に増えているだけであり、737という機体そのものに重大な欠陥があるとは言えないということである。
早い話、もはや石を投げれば当たるといってもいいくらいに走っているトヨタ・プリウスやホンダ・フィットや各社の軽自動車に対して「お世辞にもマナーがいいとはいえないドライバーが目立つ」や「事故が多い」といわれることがあるのに近いのである。あんだけ走ってりゃ変なドライバーは一定数は居るだろうし、必然的にプリウスやフィット等のクルマが起こした事故の絶対数も少なくない数になるのは致し方ない。737の場合もそれに似ている。
欠陥に起因する事故も無いわけではなく、旧世代は与圧系統に問題があると言われてたりもするが、これに関しても長期間の酷使やよろしくない整備環境が影響したり、単純な飛行回数の多さにより極めて確率の低い故障が発生したりと言う事もあり、737型機の設計が他機に比べてとりわけ安全性を欠いているとは言い難い。
中にはエンジントラブルで付近の堤防(もちろん舗装なんてされていない)に緊急着陸し、乗員乗客が脱出して事故調査が行われた後故障したエンジンをその場で交換して普通に飛び立ったなんて出来事も。
しかし
最新鋭機737MAXの事故続出は重く見られており、上述したように(無茶な設計変更に起因する)欠陥が露呈。FAA(アメリカ連邦航空局)への虚偽報告も露見し、ボーイングそのものの企業姿勢が問われる事態となった。大規模な受注取り消しや、ライバルのエアバスA320neoシリーズへの移行を検討する航空会社も現れるなど、米国航空界を揺るがす騒動となっている。
更に従来型である737NGの一部の機体にも胴体と翼の骨組みを接合する部品に亀裂が見つかり、一部運航停止に追い込まれている。
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ボーイング757 ボーイング767:737にシェアを食われた機体。
A320:直接のライバル。
トヨタ・カローラ 0系新幹線 103系:地上にいるそっくりさん。
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