概要
A300の成功を受けて、もう一つ下の中小型クラスに需要があると見込んだために開発された機体である。
この背景には、ちょうど当時B727が引退の時期を迎え始めていたため、世界中で使用されているB727の後継機にニーズがあると考えられたためである。
実際にこの目論見は的中し、2018年末までにシリーズ合計で8,525機を製造するなど大成功を収め、エアバスをボーイングに匹敵する規模を有する航空機メーカーへと成長させた。
「727の直系の後継機」B737とは文字通り直接のライバルの関係にある。
(なお、A320の直接の祖先といえる機体にダッソー社の「ダッソー・メルキュール」がある。同機はJT8Dエンジン双発・150人乗りなど、B737-100/200型に非常によく似た構成の短距離用ジェット旅客機であったが、「短距離用」と割り切りすぎたことが仇となり、中距離路線での運用も可能な航続距離を有するB737に押されわずか12機の製造のみで終わった。もちろんA320では航続距離の問題も解決されている)
B737と共に世界中の航空会社、特に新興航空会社やLCCで多数使用されている機体である。
日本ではANAが短~中距離用路線に使用している他、スターフライヤー、LCC各社(ジェットスター・ジャパン、バニラエア(旧エアアジア・ジャパン)、Peach)が使用している。
また、内装を変更し燃料タンクを追加したビジネスジェット仕様もあり、こちらは政府専用機として採用される事も多い。
機体
機体は直接の競合機であるB737とよく似た、150~180人乗りのナローボディと25度の後退角の主翼を持つ小型旅客機。
胴体の短い順からA318、A319、A320、A321というモデル区分になっている(B737-600/700/800/900型のような関係だと思えばいい)。この内A318はより小型軽量なリージョナルジェットに経済性で敵わず、現在は生産されていない。
エンジンは10t級の推力の小型エンジンを2発搭載する。この点もB737とよく似ている。
(新)B737がCFM56一択なのに対し、こちらはV2500エンジンも選択可能。ちなみに国内ではジェットスター・ジャパンの機体がV2500搭載機を採用しているほか、ANAもかつてV2500を搭載したA321を運航していた事がある。またA318型はエンジンの下限スペックの都合で、V2500の代わりにプラット・アンド・ホイットニーのPW6000エンジンが選択可能になっている。
胴体はB737より太く、小型の貨物コンテナの使用にも対応している(最も胴体が短いA318は除く)。
また、客室設備においてのB737と違う点として、3列座席の中央の1列は他の座席より少し幅が広くなっているという点が特筆される。ぶっちゃけると「ミドルマンの悲劇(3列以上の座席で通路or窓側以外の席引き当てちゃった人って悲惨じゃね?という考え)」の分のアドバンテージ?みたいなもんだけど。
主翼の先には「ウィングチップフェンス」と呼ばれる矢羽型の小型ウィングレットが装着されていたが、2010年代に入ってからは「シャークレット」と称される大型ウィングレット(ライバル737NG等に搭載される翼端を滑らかに持ち上げた形のタイプ)がオプションで装備できるようになり、後述のneoに関しても同型のものが標準で用意される。ウィングチップフェンス装備の機体に後付けすることも可能。
操縦桿は操縦輪方式(自動車のハンドルのような形状の操縦桿)ではなく、サイドスティック方式(ゲームのジョイスティックのような操縦桿を脇に取り付ける)を採用。これによって空いた前方には折り畳み式のテーブルを設置してスペースを有効活用できるようになり、後のエアバス製の機体にも引き継がれている。
また民間機として初めてデジタル式フライ・バイ・ワイヤ※を採用した。(一応付け加えておくならば、フライ・バイ・ワイヤそのものは民間機ではコンコルドが先に採用している。が、デジタル式を採用したのはA320が初である)
更にコックピットは当時最新の電子飛行計器を使用した完全なグラスコックピットであり、そのレイアウトや操縦性も後に開発されるA330やA340、A380などとの共通化(ただし用途や時代に合わせた改良はされている)が行われており、開発費用を抑えつつ新技術が投入できたと同時に、これらの機種との相互乗員資格制度を適用することでパイロットの機種転換訓練期間を最大でも2週間程度に短縮することが可能となった。特に、1週間あればA320のパイロットが中長距離機のA330やA340のパイロットになれる(もちろんその逆も可)のは、安価に保有機の運航効率を高めたい航空会社にとってメリットとなっている。
※フライ・バイ・ワイヤ:操縦桿と物理的につながった索ではなく、電気信号とアクチュエータを用いて補助翼などの操作を行う方法。
さらに現在開発中ながら、APU(補助動力装置。駐機中などにおいて電源を賄うためのガスタービン発電機)の電力を利用して、自走してタキシングを行うという機能が加わる予定。
要するにAPUで作った電気で着陸脚の車輪を回して「牽引車もメインエンジンを使わずに自走して」滑走路まで向かうということができるようになる。
A320neo
A320シリーズのエンジンを換装した最新型。さらに省エネルギーとなるギヤードターボファンエンジン(ファンを減速ギアを介して駆動させることにより、最適な回転数で駆動するようにしたターボファンエンジン)PW1100G-JMと、B737MAXと同じCFMインターナショナル・LEAPエンジンが選択可能。
日本ではANAが初めて運航した他Peachも発注している。
ANAは国内線の主力機たるボーイング767の後継機としてA321neoを全席シートモニター付で導入しており、多くの国内線路線に投入している。
JALも767の後継機としてA321neoを導入するが、A350同様にウィングレットを赤く塗装して運行する。一方でA350以降のエアバス機によくみられるコックピット窓の黒縁塗装は日本国内の航空会社は採用していない。
また、A321neoには大西洋横断が可能なよう航続距離を伸ばしたA321LRが存在し、ボーイング757の後継機やA320ユーザー向けの手頃な長距離機材として売り込んでいる。日本でもPeachとジェットスター・ジャパンが発注した。さらに航続距離を伸ばし世界最長飛行可能なナローボディ機となる超長距離型A321XLRも開発中。
ライバルとなるB737MAXが事故で信用を落とした事もあり、A320neoの人気は高く、現在発注しても受領まで6~8年待ちという状態になっているらしい(普通は大体2年程度)。
ちなみにneoはnew engine optionの略。これに対して既存型はceo(current engine option)と呼ばれるようになった。
で、B737との見分け方って何よ。
その目的などからB737とよく似た機体であるA320であるが、複数の点が異なる。以下、例を挙げる。
- 機首の形状
B737はやや尖っていて、A320は丸っこい。
- ウィングレット(ウイングチップ)の形状
上述のように矢羽型のウイングチップを採用していればそいつは確実にA320である。
ただし最近の機体ではB737と似た形状の大型のウィングレットを採用している機体もあるが。
- エンジンカウルの形状
B737はエンジンと地上の間のクリアランス(距離)を確保するためにおにぎり型のエンジンカウルを使用しているが、A320は円形のエンジンカウルを採用している。この辺は初期には直径の小さいJT8Dを使用していたB737と、最初から高バイパス比エンジン(=直径が大きい)で設計されたA320の違いもあるかもしれないが。
- 真ん中の座席の幅
先述の通り、3列席のうち中央の列が少しゆったりしている。
関連イラスト
関連タグ
メルキュール - 祖先と言える機体。
ボーイング737 - 競合する機種。