概要
エアバスA350 XWB(Airbus A350 XWB)は、欧州の航空機メーカー・エアバス社がエアバスA300、エアバスA330ceo、エアバスA340の後継機として2010年代に新発売した最新鋭の双発ワイドボディ機。
当初はA330の形をベースとした機体を「A350」として発表していたのだが、機体設計などが不評で対抗となるボーイング787に受注数で水をあけられ開発を一度断念し、一から設計をやり直した。
その後、2006年7月のファーンボロー航空ショーで完全新設計のエアバスA350 XWB(eXtra Wide Body)を発表したところ多くの航空会社から発注を獲得し、エアバス社の新たなベストセラー機となった。
なお一度開発が立ち消えとなった初期構想型はエアバスA330neo(Airbus A330 neo)として2014年によみがえり、こちらも(A350ほどではないが)一定の受注を獲得できている。
A350 XWBの発表時点では胴体が短い方からA350-800、A350-900、A350-1000の3種類があったが、-800型だけは受注が低迷したことに加えて後発のA330neoと機体規模での被りが多くなってしまったため開発中止となり、残った-900型と-1000型の2機種のラインナップで構成されている。
対抗機種は米国ボーイング社のボーイング787及びボーイング777シリーズ(X型も含む)。
後述するとおり本邦の日本航空はB777シリーズの後継として本機種を採用し、これ以降は(かつてボーイング社贔屓だった)日本航空とエアバス社が接近するきっかけが生まれた。
エンジンは英国ロールス・ロイス社製の「ロールス・ロイス トレント XWB」しか選択できないため、全てのA350が純ヨーロッパ製の機体であるといえる(元々米国のゼネラル・エレクトリック社ともエンジンの交渉をしていたが、最終的には決裂した。その後GE社は対抗機種となるボーイング777Xのエンジンを独占することとなった)。
機体
カーボンファイバーを全面的に採用し、機内環境の改善(与圧・加湿面で)や軽量化、高々度の巡航を可能とした。
航続力も長く、双発機最長の航続力を持つA350-900ULR型(世界ではシンガポール航空1社のみ運用しており、全機プレエコとビジネスのみの仕様である)はシンガポールからニューヨークまでひとっ飛びすることが出来るほどである。また豪州のカンタス航空はA350-1000ULR型を2026年頃に導入予定で、「Project Sunrise(日の出計画)」と銘打ったシドニー〜ロンドン直行路線の開設を目指している(なおこの計画ではカンタスがA350-1000とB777-9のどちらを選ぶかが注目されていたが、エアバス社に軍配が上がった)。つまりほぼ地球の真裏であっても直行便で結ぶことが出来るということであり、これまでの飛行機では考えられなかったような飛行性能を備えているのである。
ビジネスジェット仕様に至っては航続距離が2万キロメートルを超える模様。
機体断面は従来エアバス機の円形型からダブルバブル構造(円を2つ重ねた形状)に変更され、座席数増加や大型コンテナ対応を実現させた。
ウイングレットは曲線的な形になっており、これは鳥の翼を参考に設計されたとのこと。コックピットの窓も曲線的な形状かつ黒縁となっている。これは視覚上のアピールと眩しさ軽減(野球選手が目の下に黒いシールを貼っているのと同様)のためで、A350以降のエアバス社の新型機(A321neoなど)ではこのような黒縁コックピットが多くなった。
最大離陸重量の増加に備えて900型はタイヤが4本、1000型はタイヤが6本と、同じ機種でタイヤの個数が違う珍しい機種としても知られる。ただし、ライセンスは2種で共通。
先行して販売された対抗機ボーイング787で洗い出された問題を踏まえ、いくつかの点では従来の技術を踏襲したという特徴もある。
- B787で就航直後にバッテリートラブルを起こしたリチウムイオン電池は採用しなかった。
- B787は機体構造が筒状の単位となっているが、A350は従来通りパネル単位であるため部品の交換が簡単になっている(重量が少し重くなるというデメリットはあるが)。
- B787では圧縮空気系統(ニューマチック・システム)が廃止されたがA350では従来通り搭載されている。
- B787は胴体がほぼカーボンファイバーであるが、A350はバードストライク等で強い衝撃がかかる可能性を考慮して機首だけ金属製としている。
- B787にあった電子シェード(上からシェードを下ろすのではなく、スイッチで窓の明るさが変わる仕組み)は整備性や遮光性、電波を通さないというデメリットの都合からか採用されていない。
- B787のエンジンはシェブロン(エンジン後縁部のギザギザ加工。騒音や燃費を多少軽減する効果があり、ボーイング737 MAXシリーズでも採用されている)があったが、A350では推力低下のデメリットを考慮してなのか採用していない。
日本におけるA350
2013年10月に日本航空(JAL)が国内キャリアで初めてA350型機を発注。
2019年9月には同社の国内線でA350-900型機の運航が開始、2024年1月には国際線でA350-1000型機が運航開始された。
かつては米国ボーイング社の牙城であった日本市場で、しかもかつては世界最多機数のB747を運用するなど完全に蜜月関係にあった日本航空から、エアバス社が本機種の大量発注を勝ち取ったことは各所から衝撃を持って受け止められ、エアバス社側も歴史的勝利だとして諸手を挙げて歓迎した。
日本航空は旧・日本エアシステム(JAS)から引き継いだエアバスA300を保有していた時期はあったものの、日本航空側から直接エアバス社へ発注を行ったのはこれが初のことであった。
導入後はボーイング787などと並行して運用を行っており、2013年以降もB737MAXやB787などボーイング社への発注も定期的に行っているため完全にボーイング社がJALから見放されたという訳ではないが、A350によってボーイング社が日本航空で築いていた強力な牙城が壊されたことは歴史的な転換点になったと言えるだろう。
当初ボーイングはA350の対抗としてボーイング777XをJALに売り込んでいたが前述した通りA350に受注をさらわれてしまい、2024年になっても結局JALから777Xの受注が得られることはなかった。今後JALはフラッグシップ機材をA350で統一すると見られており、ボーイングにとっては手痛い敗北となった(ただしライバル社の全日本空輸(ANA)からは貨物型も含めて777Xの発注を獲得、その後もANAがA350を発注することはなかったため、こちらではボーイングが勝利した)。
JALにおけるA350の立ち位置は国内線・国際線において広く運航されているボーイング777シリーズのリプレース機種であり、2024年現在も国際線用777-300ERの置き換えをA350-1000で進めている。
また、-900型の1・2・3号機(JA01XJ・赤文字、JA02XJ・銀文字、JA03XJ・緑文字でそれぞれ「AIRBUS A350」)と-1000型の1・2号機(JA01WJ、JA02WJ・どちらも赤文字で「A350-1000」)の胴体後部には大きく機種名を示すロゴが入り、ウィングレットも他機種とは違って全機赤のグラテーションで塗装されている(B737やB767ではこのような赤塗りはなかった。ただし2028年導入予定のA321neoではこの塗装がされているため、JAL側がエアバス機限定の塗装としている可能性がある)。キャビンに至っては国内線ではJAL史上初めて最初から全席個人用モニターを装備する(元々JASから引き継いだ777には同様のものがあったのだが、JAL統合後に座席更新されてなくなっている。ただし、A350の少し後に導入した国内線用787-8でも同じようなモニターはある。)等、フラッグシップ機材としてのJALの本気の入れ方が伝わるような扱いを受けている。JALは過去にも新フラッグシップ機材導入の際にシンボルマークの導入、塗装変更、愛称の付与等を行ってきたので、その流れを受け継いでいるといえる。
日本航空のA350が運航されている路線
2024年11月現在。
A350-900型機
A350-1000型機
- 東京/羽田 - ニューヨーク/JFK
- 東京/羽田 - ダラス/フォートワース
- 東京/羽田 - ロンドン/ヒースロー
事故・トラブル
2024年1月2日に東京国際空港のC滑走路上で発生した羽田空港地上衝突事故では日本航空の国内線用A350-900型機(JA13XJ)が巻き込まれ、A350では世界初の全損事故となった。
また、カーボンファイバーのしなりやすさと柔軟性ゆえか、機体塗装の剥離が非常に起きやすい機材でもあり、これに関して過去にはローンチカスタマーのカタール航空とエアバス社が裁判で大きく争ったという騒動も起きている(2023年に和解成立)。
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関連タグ
エアバスA330ceo・エアバスA340 - 設計にあたって参考とした機種。
エアバスA380 - こちらで確立された新技術も盛り込まれている。