概要
「B747では輸送力が過剰となる長距離路線」での使用を前提とした機体であり、同じ4発機であるB747と違い二階建て構造とはなっていない。
A330とは基本構造を共有する兄弟機である。
エンジンが4発となった理由は大洋横断を行う航路に投入される際、「もしも」の時に備えてのことである。
もっと突っ込んで言えば、A330・340が企画された当時はまだジェットエンジンの信頼性がそれほど高いとは言えないため、レギュレーション(当時のETOPS。後述も参照)によって「双発機で大洋横断を行うのは控えた方がいい」となっており、このために4発エンジンが採用された。
機体
機体はA330と基本構造が共通である。
言い方を変えれば、「A330の長距離版」が本機といえる。
(A330は大洋横断は考えていないが安い機体、A340は少し高いが大洋横断に使える機体という位置づけである)
エンジンは当初はCFM56シリーズを採用。これはB737やA320と同系列のエンジンである。ただし4発とはいえ大型機であるA340のエンジンとして使用するため、シリーズ中でも最大の推力を発揮するCFM56-5C系列(推力139~151kN)が採用されている。
B747のCF6やJT9Dと比べると推力は小さいが、燃費(=航続距離)の劇的な向上に寄与し、B747どころか3発機のMD-11よりも燃費がいい。これが後に厄介な問題につながるわけだが…
エンジンがロールス・ロイス トレント500シリーズに変更された後期型500・600型はより大型化し、特に最も大きい600型は登場当時世界一全長が長い旅客機であった。
他にも、後期型のユニークな特徴として、床下の貨物室の一部を化粧室やギャレーなどに当てる事ができる(つまり、その分メインデッキが空いて追加の座席やラウンジを設置できる)というものがあり、床下化粧室は実際にルフトハンザドイツ航空で採用されている。
基本設計などがA330と高度に共通化されているため、パイロットが相互に機体を乗り換える際に講習にかかる日数は最短で1日あれば十分と言われている。共通化したコックピットのおかげで、より小型のA320からの転換も1週間しかかからない。
※4発機は同クラスの双発機と比べるとエンジンの合計推力が小さめとなる事が多い。
これはもしエンジンが1発故障などで止まったとした場合、双発機では一気に推力が1/2(50%ダウン)になってしまいもう片方のエンジンで肩代わりできるだけのパワーが必要になるため一発あたりの推力を大きく取らざるを得ないのに対し、4発機では3/4(25%ダウン)になるだけで済むので影響が比較的小さいためである。
そのような場合、むやみに推力の大きなエンジンを搭載しても却って燃費が悪化するだけであるため、双発機とくらべて合計推力は小さくなる事が多い。
なお、日本の国産ジェット哨戒機・P-1が4発ターボファンエンジンとなっている理由は、低空で潜水艦捜索などを行う哨戒機という特性上、もし敵艦や敵戦闘機に攻撃された場合の「緊急時のパワーの確保」や「エンジンが故障もしくは破壊された時の生存性を向上させるため」などの理由があると言われている。
脅威の航続距離
比較的小型のエンジンを採用したなどが功を奏し、A340の航続距離は文字通り驚異的なものとなった。
最も航続距離の長い500型は、大洋横断どころか世界一周ルートにも余裕で使えてしまう。
その脅威の航続距離は、シンガポール航空がA340を世界最長の航路となるシンガポール-ニューアーク線に投入していたことからも窺えるだろう。ちなみにシンガポール航空は同区間に直行便だけでなくフランクフルト経由便も運航しているため、途中たった2回の着陸だけで地球を一周できてしまうということである。
ETOPS改正、そして…
そんなA340であったが、ジェットエンジンの信頼性が向上したことでETOPSが改正(緩和)され、双発機が大洋横断にも進出したことで本機の運命は変わった。
ジェットエンジンの信頼性の向上により、ETOPSが改正され「もし片方のエンジンが止まっても所定の時間内に最寄りの空港に到着できる(つまりエンジン片肺のみで最寄りの空港に緊急着陸できるだけの滞空が可能である)ならば、双発機でも大洋横断を可能とする」というようになってしまった。
ここでA340の「4発エンジン」と「合計推力の小ささ」が裏目に出る。
合計推力の小ささは巡航速度にほぼ直接影響する。
端的に言ってしまえばA340は「遅すぎる」のである。
A340はB747やB777などの他の大型機とくらべて巡航速度が遅いため、特に長距離路線では航空路を乱してしまうという懸念が出てきた。これにより、「A340専用航路」まで作られるという事態にまで発展する。
また推力の小さい代わりに省エネルギーなエンジンを使っているとはいえ、やはり4発エンジンでは双発機に比べると燃費の面で不利である。もちろんメンテに関してもエンジンの数が多いと面倒なのは言うまでもない。
せっかく航続距離を伸ばした500型もこんな中での販売だったために売り上げが伸びず、最長の航続距離も、B777-200LRの登場で塗り替えられてしまった。より大きい600型は500型よりは売れたものの、それでも同クラスのB777-300ERには経済性で敵わずやはり売れなかった。
こうして「遅いし燃費やメンテの面でも不利」という最悪な状況に陥ったため、次第に本機を発注する航空会社の数は減少していき、エアバスとしても兄弟機A330の航続距離延長が進んだことや他の大型機並みの速度で巡航できる上に巨大な収容能力を持つA380と実質的な後継機であるA350XWBを開発したことから、ついに2011年に生産終了となった。
とはいえ、A340の開発によってエアバスは短距離機・中距離機・長距離機全てをラインナップに揃え、ボーイングと互角の競争力を得るまでに成長したという点では大きな意義があった。
派生型
A340-200
最も小さいモデル。座席数は3クラス構成で240から260席程度。
航続距離こそ長いが座席数の少なさが仇となり、28機しか生産されず。
A340-300
標準型。座席数は3クラス構成で295席程度で、大きさが同じA330-300の長距離版といったところ。
生産数は218機。
A340-500
後期型の長距離型。座席数は3クラス構成で310席程度。
登場当時は世界最長の航続距離を誇っていたが、上述した理由もあって34機しか生産されず。
A340-600
シリーズ最長の胴体を持つ、後期型の大本命。座席数は3クラス構成で380席程度。
こちらも上述した理由で97機しか生産されず。
日本では
日本ではANAがオプション発注を行っていたが、B777の「ワーキングトゥゲザー」(平たく言うと「航空会社に新型機の開発に関して意見などの面で協力を仰ぐ」こと)に招かれたりしたため、結局は(B777とは競合しない小型機である)A321に変更されたという経緯がある。
またJALにも兄弟機のA330と共に提案されていたが、最終的にはB767・777を選択したことによりお流れとなっている。
ただ、4発平屋・スリムなCFM56エンジンという形状はかつて「貴婦人」と言われたDC-8を彷彿とさせるものがあり、国内では「現代のDC-8」などと呼ばれて人気がある機体でもある。
一方で、ルフトハンザドイツ航空やキャセイ・パシフィック航空のような大手からタヒチのエアタヒチヌイまで、多くの外資系航空会社がA340を日本に就航させていたため、00年代〜2010年代前半の成田空港や関西空港では割と目にする機種でもあった。
しかし、2024年現在は後継機へのリプレースが進み、日本へは機材変更で飛来する程度である。
小ネタ
- A380の名称は「A340の2倍の乗客を乗せられる」という意味で、A340の「40」の部分を2倍にしてA380になったと言われている。
関連イラスト
もしかしたら実現していたかも知れない。
関連タグ
A330 - 兄弟機。
ボーイング777 - 競合する機体。
DC-8 - そのスタイルから「現代版DC-8」と呼ばれる事がある。