戦闘ヘリの革命児
このKa-50は既存の攻撃ヘリコプターに比べて珍しい特徴が多くある。
まず、乗員が1名である事である。
Ka-50は最初から単座機として設計されており、オペレータと操縦は兼任である。
これなら機体を小型にする事が出来る利点があるのだ。
次に攻撃ヘリコプターとしては世界で初めての採用となる二重反転式ローターである。
従来のヘリコプターでは、機体を支えるメインローター、反動で機体が回転するのを抑えるテールローターを持っている。
しかしKa-50は違う。
この二重反転式ローターはタンデムローターと同じく二枚のローターが逆回転してトルクを打ち消すためテイルローターを不要とするのである。
当然、これには複雑なギアボックスや共振現象を抑える工夫が必須であり、その開発には相当なノウハウが必要である。
しかし、カモフはかねてから多くの二重反転ローター機を製造してきた、二重反転ローターの酸いも甘いも知り尽くしたメーカーであった。
最後はこれまた世界初の試みヘリコプター初の射出座席の採用である。
本機はK-37ヘリコプター・エジェクション・システムを搭載している。
これは6枚のローターブレードを爆破装置による分離後、コックピットの天井が開き、索で繋がったシート後部のロケットによりパイロットは引っ張り出され(シートは機内に残る)、安全距離まで離れた後にパラシュートが開く構造となっている。
革命児の直面する常識
さて、当初はいかにも小型で「もしかしたら対空攻撃ヘリでは無いか」とさえ噂されたKa-50だが、実際のウケはそう良くはなかった。
「乗員が一人で済む」という特徴も、「2人分の仕事が必要なので、外を見る余裕が無くなる」と不評だったのだ。
元々Ka-50は、「対戦車ヘリ」から発展した従来の攻撃ヘリと異なり、かつてのIl-2のごとき「回転翼の対地攻撃機」を意識したとも言われているが、ふさわしい運用法を確立できなかったようだ。
また、ヘリコプターとして初めてとなる射出座席の採用だが、想定される運用は低空での攻撃任務であり、被弾して墜落中に使うだけのヒマがあるかどうかは話が別だと考えられたのだ。
また、価格が高いのも欠点となった。
時は「ソビエト崩壊」後の混乱期であり、ロシアには開発に必要な資金が無かったのだ。
一度は制式採用されたKa-50だったが、ここに来て見直しとなってしまったのだ。
結局Mi-28がロシアの主力攻撃ヘリコプターの座に返り咲いてしまい、Ka-50はごく少数が採用されたまま調達を打ち切られてしまったのである。
その後のホーカム
Ka-50はその後、乗員を2名に増やした「Ka-50-2エルドガン」や「Ka-52アリガートル」へと発展した。
このうちKa-50-2は縦列複座(タンデム方式)、
Ka-52は並列複座(サイドバイサイド方式)である。
Ka-50-2はトルコ向けの輸出機で、イスラエル製の電子機器が使われているという。
便宜上はNATO向け輸出機とは言われているが、本気でEUでの採用を目指した訳ではないとか。
と言うより、西ヨーロッパには仏独共同開発のティーガーがいるし、旧ワルシャワ条約加盟国はMi-24系統を使用している。
Ka-52は乗員を増やした他にも対地センサーが強化されており、2014年には最新のデータリンク機器の試験を行い、同年中にその試験を終了する予定。
射出座席も引き続き採用されている模様。
Mi-28の補完用としてロシア空軍が発注したほかロシア海軍も採用を決定した。
(余談だが、西側諸国と異なりソ連/ロシアの攻撃ヘリは空軍所属なので、Ka-50/52も陸軍所属の機体はない)