概要
16式機動戦闘車とは、2016年に陸上自衛隊で制式化された装輪装甲車。
時速100km以上で公道を走行可能な4軸8輪タイヤ式の装輪車体に、74式戦車と同等以上の火力を発揮する105mm戦車砲を装備した砲塔を搭載しており、高い火力と機動力を両立している。俗に言う装輪戦車である。
スペック
- 乗員:4名
- 全長:8.45m
- 全幅:2.98m
- 全高:2.87m
- 重量:約26t
- 最高速度:100km/h以上(整地)
- 武装
- 52口径105mmライフル砲
- 12.7mm重機関銃M2(砲塔上面)
- 74式車載7.62mm機関銃(主砲同軸)
- エンジン:直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージド・ディーゼル(570ps/2,100rpm)
- 製造:三菱重工業
開発・配備
2013年10月9日、神奈川県相模原市にある防衛省技術研究本部陸上装備研究所にて報道陣向けに実車が公開された。当時は開発完了を2015年、部隊配備開始を2016年以降と予定していた。
そして2016年3月、香川県善通寺駐屯地にある第14旅団第15普通科連隊(現第15即応機動連隊)の連隊本部に即応機動連隊準備隊が設置され、完熟訓練用の96式装輪装甲車B型(12.7mm重機関銃M2搭載型)と共に先行配備が開始された。
調達計画としては、平成26~30年(2014~2018年)の26中期防において99両を調達する予定で、これは同中期防において戦車定数を削減して本州から戦車部隊を廃止し、戦車を北海道と九州に集中配備させ、本州・四国に本機動戦闘車を配備する方針であることが記されたため。
……と言うことは、機動戦闘車は「戦車」の定数には(当然ながら)含まれないことになり、分類としては「装甲戦闘車両」に含まれる。
その後の平成35年(2023年)までに約200両から300両を配備する予定で、26中期防での99両を除いた約100両から200両を5年間で調達する計画となる。単純計算で年間25~40両が調達される。
計画は予定通り進んでおり、令和5年(2023年)までに約220両が全国に配備されている。今後もさらに調達される予定。
96式装輪装甲車が20年間で約381両(年間10~30両)、82式指揮通信車が18年間で約230両(採用直後を除き年間10~20両)、87式偵察警戒車は27年間で約110両(採用直後を除き年間1~3両)と言う調達速度を考えれば、16式の制式化から8年間で約220両という調達速度は単純計算で年間27両以上であり、中々にハイペースと言える。
能力
開発においては将来装輪戦闘車両や10式戦車で得られた技術がフィードバックされている。
火力
主砲は52口径105mmライフル砲を装備する。
これは74式戦車の弾薬を転用する為であるが、砲自体は新規開発の国産砲であり、砲身長も74式の51口径に比べて1口径分延長された52口径である。
因みに戦闘室(特に砲塔内部)レイアウトの関係上、自動装填装置は搭載されていない。
また、本車用に74式戦車で使われていた対戦車榴弾「91式105mm多目的対戦車りゅう弾(特てん弾)」と「93式105mm装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)」が調達されている為、対戦車戦闘能力を保有する。お前MBTじゃないよな…?
更に反動制御技術や火器管制装置は10式戦車の技術が流用されており、後述の射撃安定性に繋がっている。
一般にこういった車両は戦車よりも大幅に軽量で、軟らかいタイヤにより接地している為、射撃時には不安定となる。本車両でも重量は約26トンで、10式戦車が約44トンであることと比べると相当軽い。10式も各国の戦車と比較すればだいぶ軽い方である。
しかし防衛省が公開した下の動画では、最も不安定な行進間側方射撃においても動揺が比較的少なく、高い安定性を持っていることが窺える。
また、個人が編集した動画で諸外国の同様な装甲戦闘車両の比較動画が存在するが、比較対象の車両の中では発砲時の動揺が小さい部類に入っている。
それに、これらの動画において機動戦闘車が行っているのは最も難易度が高い「スラローム射撃」。それでこの程度の動揺なのだから恐れ入る。他の類似車両が行っているのは「前方へ向けての行進間射撃」や「停止時の側方射撃」、「静止時の前方射撃」で、物によっては静止時の前方射撃においてもかなり動揺している。このことから機動戦闘車に使われている反動制御技術はかなりの性能を有していることになる。反動どこ行った?
10式の技術がフィードバックされている為なのか何なのか、「反動」と「慣性」の殆どをどこかに落っことしてきたかのような反動である。
防御力
具体的な防御力は不明だが、装輪装甲車である事から極端に高い防御力は無いと思われる。
歩兵携行式対装甲火器(無反動砲とか対戦車ミサイル)に対しての抗甚性はあるとされているが、車体下部のサスペンションや駆動系統に防御はされておらず、地雷や即席爆発物(IED)に対しては脆弱性を危惧されている。
もっとも、IEDは爆薬の量や構造によってはTUSKを装着したM1エイブラムスといった戦車やMRAP(耐地雷・伏撃防護車両)ですら耐え切れないものもあり、すべてのIEDに耐えるなど不可能であること、大型化・重量増をしているMRAPのようにIED対策のために他の性能を犠牲にする必要がある、日本国内では戦後のイラク等と違い調達が難しい強力な爆弾を使用したIEDを仕掛けるのは難しい、といった事から国内で展開のみであればIED対策に関しては不要といった考えもある。
南アフリカ製を含めた他国の耐地雷構造を持つ装輪装甲車には意図して駆動系を露出させている機種もあり、壊れやすい部分は最初から耐える構造とすることを諦めて地雷等で破壊されても交換修理を容易にし、コストや重量の増加を抑えている車両もある。
車体も車体底部は高さは取っているものの、底部は平らなままでNATO STANAG基準の防御力ははあるものの、高い防御力は持っていないと推測される。
下方からの爆圧を逃すV字型車体は効果を最大に活かすには急角度の底とする必要がある為、MRAPのように車高を非常に高くする必要がある事から重心が高くなって横転しやすくなり、安定性を必要とする(105mm砲を乗せる)機動戦闘車とのコンセプトとも合わない。
MRAPでも問題となっているが、悪路での走破性の低下も起きてしまい、最悪は舗装路のように整った路面しか走れないとなってしまう。
背が高くなるということは被弾面積が増えてしまうということも考えなくてはならない。
また、後述する16式をベースとした装甲兵員輸送車「MAV(機動装甲車)」には地雷やIED対策としてフローティング・シートが車内に採用され、車体底部にもV字型の増加装甲を装着できるとされており、16式のIED対策は後付けなら出来なくもないと思われる。
ただしMAVは自衛隊で採用されておらず、16式への増加装甲の調達計画も現状では存在しない。後付けすれば上記の重量増といった問題も考えられる。
その他の防御能力として、レーザー誘導式ミサイルに対する防御の為のレーザー検知器や発煙弾発射器も装備されている。
機動力
4軸8輪のタイヤにより、舗装路を最高時速100キロメートルで走行できるが、一方で不整地走破能力は装輪式故に低い。しかし装輪戦闘車開発において「路外走行時の動揺制御技術」が研究されている為、路外機動性の克服にもある程度の目処が付いた為とされている。
戦略機動性に関しては、役所への届け出が必要なものの高速道路をそのまま走行可能で、日本国内なら高速道路を経由してすぐにどこへでも展開できる。戦車の場合は73式特大型セミトレーラや特大型運搬車といった戦車運搬車を使用しなければ高速道路は移動できず、しかも自衛隊は運搬車の保有数があまり多くないので、単独で高速道路を機動できることは大きな利点と言えるだろう。
派生型
本車のコンポーネントを流用した車体をベースに「共通戦術装輪車」と呼ばれる装甲車ファミリーが開発されており、
- 24式装輪装甲戦闘車(歩兵戦闘車型)
- 24式機動120mm迫撃砲(機動迫撃砲型)
- 名称未定(偵察戦闘車型)
などが配備予定。いずれも16式機動戦闘車と同じ、全国の即応機動連隊などに配備される。
また、過去に開発元の三菱重工が16式機動戦闘車をベースとした「MAV(機動装甲車)」を開発し、96式装輪装甲車の後継として提案していたが、防衛省はフィンランドのパトリアAMVを採用したため、不採用に終わった。
関連イラスト
量産型と試作型では砲塔形状に多少の差異がある。
量産型
試作型