無反動砲
むはんどうほう
文字通り「反動」を「無」くす機構を備えた携行式の大砲。
砲口の反対側に噴射口を備えており、ここから反動と逆向きの推進力を発生させ、反動を相殺する。
正確なことを言えば、物理学の法則の関係から完全に反動を消すことはできないものの、通常の大砲では強すぎる反動で使用者がノックバックを起こして転倒したり、その反動で弾道がずれることがあるため、それを抑制することができる。
また従来では反動を抑えるために衝撃吸収機構を必要とし、大口径砲の場合は砲弾の装薬の炸裂に耐えるために砲身が肉厚で重くなってしまっていた。しかし無反動機構を備えた結果として砲身の軽量化に成功しただけでなく、発射の力の強い大口径砲弾も併用することが可能となった。
一方、無反動機構のためにガスや火薬を多量に必要とするため、コスト面では従来の携行式の砲に劣ってしまう。また射程距離も無反動機構の影響で短くなり、同じ砲弾でも従来の砲と無反動砲では無反動砲の射程の方が短くなってしまう。
近年ではロケット砲や対戦車誘導弾の普及でかつての鳴りをひそめてしまったものの、前者に比べれば口径の幅に融通が利くため汎用性が高く弾道も比較的安定しており、何より安価な為に、現在でも現役で活躍している。
見た目や仕様用途などから
・バズーカ
などとも呼ばれたりもするが、ロケットランチャーやバズーカは(ロケット推進装置をもった)ロケット弾を使用する。
だが無反動砲は(文字通り)装薬の爆発で砲弾を飛ばす大砲の一種である。
そのため、本来はまったく違うカテゴリに分類される。
さまざまな無反動砲
一口に無反動砲といっても、パンツァーファウストやカールグスタフ、AT-4のように個人が携帯できるものから、
- カールグスタフ
60式自走無反動砲やM50オントス自走無反動砲といった車両搭載の大型なものも存在する。
(ちなみに両方とも砲そのものは同じ)
- M50オントス自走無反動砲
変わった物ではデイビー・クロケットという核砲弾を使用した無反動砲もある。
もちろん核兵器の一種に数えられる。
デイビス式
前に砲弾を飛ばすほか、反動に見合う質量の物体を後方にも飛ばす。
(つまり前後に飛ばして相殺する)
「反動に見合う質量の物体(カウンターウエイト)」には微小なプラスチック片や塩水等が使われ、バックブラストが目立たないという利点がある。
つまり「たとえ室内から発射しても爆風に巻き込まれない」のだが、カウンターウエイト飛散距離は爆炎の到達距離よりも長いので、後方が危険なのには変わりない。
(とくに初期には同質量の金属塊を使う事もあった)
のちにプラスチックや金属の粉末を使うようになって安全性は向上した。
現在の自衛隊で使われている「パンツァーファウスト3」はこの方式である。
クルップ式
『ドイツ式』とも。発射の反動を逆方向の爆発で相殺する方式である。
砲弾発射・反動吸収の両方に装薬が必要で、もちろん余計に必要になる。
パンツァーファウストや、この改良型から発展したRPG-7はこの方法を採用している。
クルップ式・クロムスキット式は高温高圧のバックブラストを盛大に噴出するので、
・後方にいたために吹き飛ばされた
・発射ガスをモロに吸い込んで死亡する
といった事故も起こりうる。
また、いくら安全性が高いとはいえ、デイビス方式でもカウンターウエイトが勢いよく飛んでいくので
・室内のものが飛ばされて射手に当たる
・部屋の壁でカウンターウエイト(もしくは一部)が跳ね返り、射手に当たる
といった事故も考えられる。
どの方式をとるにせよ、(とくに閉所での)後方の安全確保は注意が必要である。
もちろん、
大量のバックブラストは敵に居場所がバレやすい
という事でもあり、『撃ったらすぐ逃げる』のは基本戦術となる。
もっとも、これに限らず無反動兵器の類はたいてい後ろが危険だったりするのだが。
ちなみに
クルップ式無反動砲の一種に挙げたRPG-7は、パンツァーファウストの『射程が30mほどしかない』という欠点を補うため、弾頭後部にロケットモーターを追加している。
このおかげで、最新モデルのRPG-7V2では有効射程550~700mと、弾頭の大きさと本体の小ささの割に射程を稼いでいる。
弾の速度を稼ぎにくい無反動砲と、射程を伸ばすためのロケット推進補助弾の組み合わせは珍しいものではないのだが、RPG-7は発射器本体の構造はクルップ式無反動砲でありつつ、主な用途が対戦車ロケットの発射であり、弾薬のバリエーションにロケット推進機能の無い対人榴弾も用意されている。
このため、基本的にロケットランチャーとして使うが、グレネードランチャーとしても使える軽便な無反動砲という、少しややこしい存在になっている。
もっとも、こうした細かい解説が求められる場面はそう多くないし、ワンセットとも言える大きな菱形の対戦車ロケット弾薬を取り付けた姿が特に有名なため、創作物などでは「ロケットランチャー扱い」される姿がしばしば見られる。
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