概要
戦車や装甲車に随伴し、移動・駐留中の部隊を航空機の攻撃から防御するために高射砲や対空機関砲などを装備した自走砲である。ベースの車体は様々だが、特に戦車の車体を利用した車両を対空戦車と言うことがある。
その主任務は部隊の防空(航空攻撃により部隊が損害を受けることを防ぐことが肝心なので、敵航空機を撃墜できなくても、攻撃を撹乱・中止させることができれば目的は達成される)だが、大口径の機関砲や高射砲を搭載することから、火器を水平にし地上部隊に対して射撃を行うこともある。第二次世界大戦中、アメリカのM3ハーフトラックに12.7mm機銃4丁を搭載したM16自走対空砲は、地上攻撃における水平射撃による強大な破壊力からミート・チョッパー(肉切り包丁)と呼ばれた。
昨今は対空ミサイルの誘導能力が向上したため、地対空ミサイル車両やMANPADSに部隊の対空防御の主役の座を奪われつつあるともいう。しかし、ウクライナ侵攻ではドローン迎撃などでドイツのゲパルト自走対空砲がかなりの戦果を挙げている。
歴史
第一次世界大戦~第二次世界大戦
第一次世界大戦以降、航空機の性能が飛躍的に向上し、地上部隊の脅威となる一方で、戦車や装甲車の発達も進み、固定式の対空砲ではこれらの高速で移動する部隊を航空攻撃から守ることが困難になっていった。
そうした中で、機動力を持つトラックやハーフトラック、装軌式車両などに対空砲を搭載し、これを部隊に随伴させることでより効果的な対空防護を提供する為に各種の車両が開発された。
第二次世界大戦においては主要参加国のみならず、一部の中小国もこうした自走対空砲を配備しており、特に大戦後半になり空軍が壊滅し、制空権を失ったドイツでは戦車を含む多種多様な車両に対空砲を搭載して、貴重な戦車を含む装甲部隊や補給部隊を守っていた。
一方、アメリカにおいても各種対空車両が開発されたが、制空権を確保していたアメリカ軍の部隊が敵航空機の攻撃に晒される機会は多くなかったため、生産された自走対空砲は主に地上攻撃に使用された。対人攻撃に使用した際のその絶大な威力は、前述したあだ名が物語っている。
日本
実は日本は世界で初めて自走対空砲を作っていた。
第一次世界大戦も終わったばかりの1924(大正13)年、東京陸軍工廠の発案で、採用されたばかりの十一年式七糎半高射砲を六輪自動貨車(トラック)の荷台に固定した試製十三年式自動車高射砲が制作された。まだ他国では前線部隊用の対空兵器を開発にすら乗り出していない時分である。東京工廠の自信作だったが国産トラックの信頼性すら疑ってかかっていた参謀本部によりあえなく却下、ここに世界初の自走砲にして自走対空兵器は闇に葬られた。
それから10年以上が経過した1930年代後半、九八式二十粍高射機関砲を国産トラックに搭載した自走砲が戦前日本の自走対空砲として唯一整備された。それ以降も1941(昭和16)年には九八式軽戦車の車体に20mm機関砲を搭載したタセ車が試作されるが、思うような成果が収められず、これも1943(昭和18)年に正式に開発中止となった。
第二次世界大戦以降
第二次世界大戦後しばらくはジェット化により速度が飛躍的に向上した航空機に対し技術的な後れを取る状態が続いていたが、レーダーの搭載により高速移動する航空機を攻撃することが可能となった。
特に、1973年の第四次中東戦争においては、エジプト軍がソ連から供与を受けたZSU-23-4 シルカ自走対空砲や移動式地対空ミサイルを含む大規模な防空網を自軍部隊の上空に展開し、ZSU-23-4はミサイルを避け低空から侵入しようとするイスラエル軍航空機をレーダー射撃により多数撃墜した。
レーダー搭載後も残る航空機に対する自走対空砲の弱みとしては、射程外では航空機を撃墜する術を持たない点がある。機動力では航空機の方が圧倒的に上なので、自走対空砲の戦術はどうしても部隊に接近する航空機を察知してから動く受け身の運用にならざるを得ない。だがそれでも、部隊に自走対空砲が配備されているという事は、敵航空機の行動に大きな制約を強いて戦況を動かす力となってきた。
ただし、アメリカ軍は強大な航空戦力により部隊上空の制空権を確保するため自走対空砲の開発はあまり行われず、部隊の防空はもっぱら軽車両や個人が装備する携行型地対空ミサイル(MANPADS)により担われている。
現在
現在では1台の車両に2台のレーダー(捜索用・射撃用)を搭載し、より効率的な攻撃を行えるようにした車両が大半を占める。
自走対空砲は、地形に身を潜めながら低空で飛行し、自走砲が搭載する火器の射程外から空対地ミサイルを発射する攻撃ヘリコプターへの対抗が難しいこと、またMANPADSの配備が進んでいることなどからその数を次第に減らしている。しかし、地対空ミサイルと組み合わせ、低空、近接の防御に使用すれば十分に威力を発揮することができる。
現代の自走対空砲の中には、ロシアの2S6M ツングースカのように対空機関砲と地対空ミサイルを両方搭載し、射程不足を一両でカバーしようとするハイブリッド型の車両も存在する。また、(価格が高いためコストパフォーマンスが良いとは言えないが)地上部隊への攻撃には依然として大きな威力を発揮する。
また数が多い小~中型ドローン相手では、対空ミサイルでは余りにもコストパフォーマンスが低いため、対空機関砲や機関銃等による対空砲火が重要な役目を担っており、これが上述のゲパルト活躍の要因にもなっている(結果的に第二次世界大戦での航空機対策に近くなった)。
一覧
日本
アメリカ
ソビエト/ロシア
ドイツ
イギリス
フランス
スウェーデン
その他
- 40Mニムロード(ハンガリー)
- M-1992自走対空砲(北朝鮮)
- SIDAM 25(イタリア)
- ITPSV90マークスマン(フィンランド)
- スキンク(カナダ)