概要
日本の陸上自衛隊で高射特科部隊が運用している自走対空砲。74式戦車をベースとした車体に、スイスのエリコン社が開発したKD 35mm高射機関砲2門及び三菱電機が開発した各種の電装品を装備する。
戦車の車体に2門の砲身を有することから、自衛隊内外では「ガンタンク」と通称されている。
開発経緯
1970年代、陸上自衛隊(以下:陸自)では運用中であった自走対空砲の旧式化が進んでいた。当時運用していた自走対空砲はM42等の有視界照準タイプのもので、コレではジェットエンジンを搭載した航空機への攻撃は困難である。ソビエト連邦や中華人民共和国との戦闘時、侵入する敵航空戦力を撃墜するため、より高性能な対空火器の導入が求められることとなった。
当時の防衛庁は、西ドイツに配備されたゲパルト自走対空砲の性能に目を付け、これの陸自への導入を計画した。ゲパルトはレーダーとコンピューター式射撃管制装置を搭載した自走対空砲であり、当時のNATO戦力の中でワルシャワ条約機構軍の航空戦力に立ち向かうには、一番優秀な自走対空砲といえた。
結局、日本は類似装備の国産化を決め、1978年から開発が始まった。当初は国産の61式戦車の車体シャーシの流用し、そこに完成した対空砲システムを載せる予定であったが、試作時に車体に対して砲塔が過大だったことが判明し、74式戦車の車体を拡大した新造車体に変更。試作車両は1983年に完成、各種テストの結果1987年に制式化された。
制式化の後
調達は1987年度から開始されたが、1両約14億円という高価格が災いし、調達数は毎年1、2両程度に留まった。調達は2002年度に終了し、調達数もわずか52両である。
当初、陸自が戦闘するのは海自空自が突破された状況、つまり制空権や航空優勢を敵側に取られる前提だっため、このような自走対空砲が必要だった。しかし冷戦終結後、対空ミサイルの発達もあり、元となったゲパルト同様、時代遅れや金食い虫扱いされていた。自衛隊は意外と対空ミサイルの種類(長、中、短)が充実した組織である事も、それに拍車をかけている。
ただし、2022年からのウクライナ侵攻では、ゲパルトが巡航ミサイルや自爆ドローン相手に大活躍したため、結果的に再評価されている。それでも自衛隊内では既に調達が終了しており、現役ではあるが、寿命があと何年持つか不明であるため、今後は11式短距離地対空誘導弾等を充実させる方針のようである。