概要
日本人の体格と自衛隊のドクトリンに合わせて開発された、ややコンパクトで軽く取り回しのいい自動小銃(アサルトライフル)である。
前作の64式小銃と比較すると、小口径高速弾(5.56mmNATO弾)の採用に加えて樹脂パーツを多用して軽量化を実現し、合理的設計を取り入れて主要部品の点数を減らしている。
そしてもの凄く高価と思われているのは周知の事実。(後述)
公募愛称は相棒を意味する「バディ」。
ただし、一般人はおろか隊員にすら基本は「89(ハチキュー)」としか呼ばれていない。
メーカーである豊和工業では、一時期アメリカ・アーマライト社のAR-18をライセンス生産していた為、これが参考にされている。このため外見がよく似ており、中国やロシアから89式小銃はAR-18の亜種と見られているとか(外面が似ているだけで中身はまるで違う)。
開発経緯
戦後の再武装と共に開発が始められ、1964年に戦後初の国産自動小銃として華々しく登場した64式小銃。ところが、その僅か2年前の1962年には、5.56mm弾を用いるAR-15ことM16が基地護衛用としてアメリカ空軍に制式採用されており、64式小銃が完成した頃には小口径高速弾の軽量アサルトライフルというのちの主流となる銃が普及しつつ有る時期であった。
また、ベトナム戦争におけるジャングル戦では64式小銃と同じクラスのM14がアサルトライフルとして使うには長く重く反動も強いという欠点が明らかになった。1960年代の終わりにはアメリカ陸軍や海兵隊もM16を採用して(初期には色々苦戦したものの)一定の成果をあげていた事に加えて、1970年代にはNATOでも7.62mmNATO弾に代わる小口径弾の選定に着手したことも有り、防衛庁は64式小銃の完成から僅か10年後の1974年にM16等と同様の「小口径高速弾の軽量アサルトライフル」の研究・開発を始める事に成った。
特色
弾薬が64式小銃の7.62×51mm弾から、より反動の小さい5.56mmNATO弾へと変更された他、重量は64式小銃と比較して20%減少、各部の設計はより洗練されて部品点数の削減と64式小銃で存在した大小さまざまな欠点の解消がなされた。
また、89式小銃には3点射(バースト射撃)機能が備わっているが、本銃が設計が行われた1970~80年代は「小口径高速弾の場合1発当てただけでは人体目標に確実なダメージが与えられないのではないか」という懸念から1度引き金を引くだけで2~4発だけ発射して確実に仕留めるという考え方や「バースト射撃の付与で連射による弾薬のいたずらな消耗を防ぐ」という運用思想が勃興した時期で、アメリカやヨーロッパ各国でバースト射撃機能を備えた銃の開発が行われており、89式小銃もこの考え方に則ったものである。
マガジンは20発用と30発用が存在し、いずれも同盟国であるアメリカ軍の使用するM16のマガジン(NATO STANAG 4179準拠)と互換性を持たせている。89式小銃のマガジンには残弾確認用の窓が左側面に開けられ、数字の刻印(白で色入れされている)があるという違いがある。なお明らかに製造工程が増えるため、これも価格上昇の要因になっている可能性が高い。
STANAGマガジンは89式小銃に使えるが、89式小銃用のマガジンはほかのSTANAG規格の銃には使えないという一方的互換のみと言われているが、実際にはちゃんと使用可能。どうも東京マルイ製電動ガンでは、89式にM16/M4マガジンを使用できるが、逆は出来ない為、電動ガンの互換性問題が実銃の話に化けたと思われる。
一方でこのマガジン、MINIMIで使用すると動作不良を起こすので原則使用が禁じられているが、これはマガジン由来ではなく民生型を含めたほぼすべてのMINIMIが持つ固有の問題で、マガジンリップとボルトキャリアの接触などが原因。STANAG互換のマガジンならばMAGPUL製も含めて動作不良を起こす可能性が有る(ただしあくまでSTANAGマガジンの使用は緊急時なのでそれほど問題ではない)。そもそも自衛隊で運用されているMINIMIは、住友のデータ改竄問題で性能が低いことが判明しているため、これも要因の一つと思われる。
ちなみに、NATOでは共通化の為に5.56mmNATO弾用の着脱式マガジンをSTANAG 4179という規格で統一しているものの、製造国、製造メーカーの違いにより細部に差があり、例えばL85で他国製のマガジンを使用するとジャムの一因が消える様に、組み合わせによってトラブルが生じたりするのは珍しくはない。
そのため実際に使ってみるとトラブルが起きる、という事も有り得るのである。
運用状況
最大のお得意様はご存知陸上自衛隊の普通科で、固定式の銃床のものが多くを占める。
銃床を折り曲げてコンパクトに出来るモデルも存在し、こちらは第1空挺団等の空挺降下を行う部隊や、機甲科(戦車部隊)の戦車乗員の自衛火器として採用されている。
陸上自衛隊以外では長らく小銃の更新が遅れていたものの、海上自衛隊のうち小銃での戦闘が想定される立入検査隊や基地の警備に当たる陸警隊等に配備される様に成った。
自衛隊以外では、警察機関(海上保安庁や警視庁の特殊部隊)にも幾つか使用される例が有りその扱い易さが窺い知れる。しかし、一丁30万円前後と高価で有る為に組織によっては普及率が低く、ドクトリンが異なるのも有るが未だに64式小銃を使う組織も少なからず存在する。値段が高いのは年間製造数が少なく、自衛隊が制作元である豊和工業の言い値で買っているからでも有る(後述)。
自衛隊が登場する作品には決まって登場するが、魔法少女や図書館の司書さんが使用していたりと二次元での運用は非常に広い。
FPSでは、日本版限定で登場するとか。
お値段に相応しい性能のアサルトライフルではあるのだが、如何せん実際の戦場にて使用された事が無いのでその実力ははっきり言って未知数である。実戦が無いのが望ましいのは当たり前だが、この事が89式小銃への根も葉も無い悪い噂を広めてしまっているところも有る。
ちなみに、イラク派遣前に米国で行われた実戦訓練にて使用された際、経験豊富な米軍兵士から命中精度の高さや耐久性、二脚(バイポッド)の取り回しの良さを高く評価されている。
銃器の専門家達の意見を纏めると「細かい不満点は有るが、致命的な欠点の無い普通のアサルトライフル」という評価に落ち着く。
性能
口径 | 5.56mm |
---|---|
使用弾薬 | 89式5.56mm普通弾 |
装弾数 | 20/30 |
全長 | 916mm |
重量 | 3,500g |
有効射程 | 約500m |
※wikipediaから概値
長所と短所
長所
- 日本人にかみ合っている
なんといってもこれ。コーカソイドとは体格や頭蓋骨の形状が異なる日本人にとって構え易くする為、銃床の左側を削り、全体のサイズを短縮し、軽量に作られている。それでいて射程、威力、堅牢性、持続射撃能力などについて世界水準に勝るとも劣らない能力を有している。
単に日本向けを極めるだけでなく、特に銃口周りの設計は諸外国の銃と比べても非常に優秀で、同じ性能の弾薬を使っているにもかかわらず、M16等とは明らかに反動が違うという話も(但しこのために大きな問題も発生している)。
また、反動の抑制は単に通常の照準や射撃を容易にするだけでなく、ちょろいもんだぜの様な構えでの射撃も可能でありフルオートの制御も容易にしている(フルオートなんてめったに撃たせてもらえないんだけども)。
短所(と言い訳)
- 価格(後述)
- 隣に立つと怪我をする
上述した反動低減に最も貢献している銃口の消炎制退器が、発射ガスを真横に鋭く吹き出すために同僚に怪我をさせる可能性がある。特にCQBなどにおいては無視しがたい問題。
設計当時密集した隊列を組む事態が想定されていなかったので仕方ないと言えば仕方ないが、もともと5.56mm弾は連射を想定して反動が小さくなるように設計されたものであるため、この上デメリットを生んでまで更に突き詰めた89式の反動低減は過剰という意見もある。
- 部品脱落しまくりでビニテ欠かせないってどーよ?
これは89式小銃の設計に問題が有る訳では無く、先述の高価さ故に新品が回ってこない事に問題がある。数が足りなくて後方や訓練用にはどうしても古い銃しか回ってこないのだ。特に教育隊の訓練用備品は分解と組み立てを繰り返し行なっている為に部品がガタガタだったり。
一応最前線での戦闘が予期される部隊には、そんな心配とは無縁な個体が配備されている(はず)だが、念には念をと使用の都度ビニールテープが巻かれている。
- 今時レールもついてないのはどうなの?
設計・配備開始時にそもそも存在していなかった物(ピカティニーレールの登場は1994年)は付けられん。被筒部の改修予算をくれ、というような単純な話でもなく、一応最近普及率が高まっているダットサイトが載せられる程度のレールがこそあるものの、そもそもこの場で愛好家らが期待する様な長寸で4面に有る様なレールはフォアグリップやらレーザーサイトやらフラッシュライトなど銃に装着する器具がそれなりの量存在して(あるいは装着する必要が生じて)初めて必要と成る訳である。
ところが自衛隊(64式や89式)の場合、全体的には現在ではダットサイトの普及率こそ高まっているものの、他の器具については「(私物や小型のレールを含めて)やや普及しつつある」程度であるのが現実。特に、多くの付属機器が官給品や部隊購入品として広く支給されている場合であれば予算を組んで改修すべきという結論になるが、隊員が任意で購入する私物が多い場合は予算を組む事が難しく成る。20式では付属品も一式で調達することで、この問題に対処している。
自衛隊と同様に、銃の付属機器の普及率が高いとは言えないロシア連邦軍の一般部隊でも、載せる付属機器が無い為に登場から30年ほど経ったAK-74Mを「ほぼ素のまま」使っている兵士が多いので有る。かの国の場合はバリエーションは豊富なんだけど…。
アメリカ軍ではというと、装着するアクセサリは種類も装着する位置も限られ、ピカティニーレールのおかげで銃身側は重くなる(装着する物が多ければ、総重量も増加する)、ハンドガードが太くなって握りにくい、熱くなるのでカバーを付ければ余計に太くなる、と4面ピカティニーレールの問題点が判明。精度の必要な上側のみ残してそれ以外のピカティニーレールは必要な部分のみ付けるように変更している。
2015年に行われた上陸訓練では、西部方面隊普通科連隊(※のちの水陸機動団)の隊員がピカティニーレールを追加した本銃を使用していた事から、多様な任務を行う可能性が高い=様々な機器を使う可能性がある一部の部隊はピカティニーレール搭載改修(あるいは研究)が行われているものだと考えられる。
その翌年に宇都宮駐屯地で行われた駐屯地創立記念行事における訓練展示にて、中央即応連隊所属隊員の一部がOTS社のレールハンドガード(このカタログの最終ページに乗っているA型ハンドガード)に付け替え、ウエポンライトとバーティカルフォアグリップを装着している姿が確認されている。
また2022年に中央特殊武器防護隊がホビー紙の取材協力を行った際、一部の隊員が上記OTS社とは別種のレールハンドガードを装着している様子が同隊の広報用Twitterにアップロードされているのが確認できる。
このハンドガードは、下記SYSTEMA社が販売している89式小銃の電動ガン(PTW89)の物に酷似している。
近年は後継の20式が配備されるようになったためか、ハンドガードを変更した89式の写真が公式アカウントでよく掲載されている。
- 三点バーストはいらない
滅多に使わないし、ユニット化されているため個人の整備レベルでトリガーパックから外して単射にしてしまう事も出来る。この三点バースト機能は、「二発で発射を中断すると、カウントをリセットしまた三連射してくれる」という高性能なものになっており、再三言われている値段の高さに一役買っている事は間違いない。(ちなみに、M16A2のギアラック式バースト機構は機構こそ単純であるが、二発で発射を中断すると次は一発しか撃てない問題を抱えた三点バースト機構である。FNCやStg90等は不明だが、M16のような不満が聞こえない事から89式小銃と同様にリセットされるものと思われる)。
おまけにこの機能がセレクターの選択肢を増やしてるせいで、セレクターが人間工学的に無理が有る構造に成ってしまっている。
前述の通りバースト射撃機能の搭載はアメリカ・ヨーロッパ問わず一時期流行したものの、その後衰退してしまい米陸軍では上記の欠陥に加えて戦術の変化も有ってM4カービンからフルオートのM4A1へと置き換える方向に進んでいる。
後継の20式小銃でも廃止され、セミオート・フルオートのみに成っている。
- 左手で構えにくい
西側では小銃は右手で撃つものが標準であった採用当初の90年代はともかく、昨今重要視されている近接戦闘(CQB)においては、構えを左右に機敏に切り替えられる能力が要求される(曲がりの角から向こう側を覗く様な際、基本的に右構えと左構えでは体の露出面積が大きく異なる)。しかし、日本人が右手で構える事に特化した形状をしている89式小銃は、左手では構えづらく、操作も行ないにくい。
セレクターを左側にも取り付けることでしのいでいるが、銃床の形状だけはどうにもならない。
※銃床形状に関しては、右頬をつける銃床左側の削り部分が反対側には無いというだけなので、左手で構えづらい訳では無く、右手で構える時の構え易い配慮が逆サイドには無いだけである。
- 銃床が調節できない
個人差に対応できず、軍用装備で着ぶくれすると非常に構えにくくなる。
ただ、伸縮銃床を取り入れると、銃床左側を削る事は難しく成るので一長一短。
こればっかりは、固定銃床共通の問題である。
- セレクターの使い勝手が悪い
設計が少々古いこと、日本向けにガラパゴス化している事を考えても、これだけは説明不能。「これさえなければ文句なしの名銃」とも。
グリップ上方、握ったままでは指が届かない位置に「安全→連射→三点バースト→単射」の順に九十度ずつ回転するセレクターがついている。これにより、もっとも使用頻度が高い単射を使用するには「グリップから手を放し」「親指と人差し指で挟み」「270度回転」させなければならない構造をしている。他国の小銃が、右手親指が届く位置に「安全→単射→連射」のセレクターがついているものが大半である事を考えるとえらい違い。
これは「匍匐(ほふく)の時に誤動作を起こさない様に」と安全性を過度に優先する悪癖と、「近接遭遇の様な緊急時は連射に一発で入った方が良い」というよく分からない考えによるもの。おかげで自衛官は「一挙動で270度セレクターを回転させる」という職人芸の様な操作を習得しなければならなくなった。その影響か、その使いにくそうなセレクターの切り替えが恐ろしく速い隊員も見受けられる。
実際に問題と思われている様で、アンビ化の為に追加された左側セレクターは、右手親指を伸ばして「安全→連射」まで切り替えられる様に角度がずらされており、射撃大会などに持ち込まれた特殊仕様は「安全→単射→」の順に改良されているものも確認されている。豊和工業が開発した新型小銃『20式小銃』も、セレクターの構造は他国に倣ったものとなっている。
よく同様に右側セレクターで「安全→連射→単射」のAK-47が挙がるのだが、こちらは単射までの動作角が30度程度と非常に小さいため一発で単射に入れることが可能。反射的に操作すると連射を通り過ぎて単射で止まるという安全策にもなっている。
また指の可動域を無視している分、レバーを大ぶりで頑丈に設計することができ、分厚い手袋をしていても操作しやすく、また凍りついたとしてもテコの原理で氷を引き剥がすことが可能である。
まぁこれはこれでAK-12の試作型で他国に準拠した位置、順番が検討された辺り、不満もあったようだが(残念ながら結局ボツに)。
動作角度が90度ずつと大きめな事については「指先で触れてどの位置に有るか分かり易く、誤操作も少ない」というメリットが存在する。M16はこの形で「安全→単射→連射orバースト」がそれぞれ90度で操作角は最大180度。FNCは「安全→単射→バースト→連射」で、操作角は最大270度と成っている。どちらもセミオートで発射するには90度で良いので89式よりずっと使い勝手が良い。
この使い勝手の悪いセレクターが採用された背景は未だによく分からないが、識者からは「過度に安全性を求めたが故の弊害」「あまり実戦で使われる状況を研究していなかった」と推察されている。
- マガジン(弾倉)が少し特殊
マガジンはSTANAG規格なのだが、左側面に残弾確認孔(30連は5個、20連は3個)、数字の刻印及び色入れがされているなど、自衛隊特有のものとなっている(64式にも存在するが、20連で2個)。残弾確認孔自体は他の銃でも見られるものなのだが…。
当然穴がある分、異物混入のリスクは一般的なSTANAGマガジンに比べ、僅かだが上がってしまう。更に残弾確認孔を設けるため、製造時に余計な手間(工程)が掛かってしまい、結果としてコストも上がっていると予想される(仮に一般的なマガジンと値段差が同等かそれ以下の場合も、無い方が更に安くできる事になる)。
20式で採用されたマガジン(マグプル)でも残弾確認孔は存在するが、異物が混入しないよう窓から見える形になっている。これは島嶼防衛の関係上、上陸する際に砂などが入らないようにするためと思われる。
調達価格の課題
1990年ごろ(30年前!)に製造開始された製品でライセンス料もかかっていないのに、近年にいたっても24万以上もしてしまうのは結構な値段である。もっともこれは、安い部類であるM16やAKと比較しているから高く感じてしまう面もある。
上述の通り、三点バーストや残弾確認孔が地味に価格を押し上げている可能性が高いため、せめてマガジンを普通のSTANAG規格の物に変更(穴開け、刻印、色入れの工程を無くす)すれば多少安くなりそうだが…。
これは自衛隊の単年度会計方式と、メーカーに小銃製造技術を維持させる為に長期間少しずつ調達させる方針である事が主な原因となっている。一度に数年分たくさんに買う事が出来ない為、いくら買っても量産効果が生まれないのだ。
その上、未だ64式小銃を使い続けている普通科以外の職種や海上自衛隊・航空自衛隊の場合、”本業”の為の非常に高価な装備品に大きく予算が割かれてしまう為、小銃の需要そのものは少なくないにもかかわらず纏まった数を発注できず、この問題に拍車をかけている。とはいえ、1年ごとの調達は流石に非効率と判断されたため制度が是正されて、2年単位で調達できる様に成った。なお海空自衛隊では、89式が本格配備される前に、20式の配備が始まっている。
更に日本の防衛産業特有の事情として、特に小銃の場合は製造できるメーカーが限られる上に、平時には儲からない分野の為に新規参入も無く競争原理も働かない。「輸出すれば安くなるのに」という意見もあるが、89式小銃はとことん日本向けの設計に特化している部分が有り、改修や制度の整備をして軍用銃として輸出したところで実績充分な海外製小銃を相手にしなければならず、民間市場にはコレクター向けなど需要は限られる事が予想される為、たいして安くはならないと思われる。
更には輸出先で犯罪やテロ等に使用された際、その批判を企業が受け止めれるかという問題も有る。もっとも豊和はAR-18で経験があるが、批判していたのは主に野党等の政治家であり、国会で騒がれたせいで生産停止に追い込まれたため、どちらかと言えば政治的圧力の方が問題である。
自衛隊も銃器の独自開発を止めて輸入品で済ませれば、確かに開発費分は安くなるが、そうなると銃器開発のノウハウが途絶えてしまう。常に変動する情勢により原料や輸送費が高騰し、更に為替の影響をモロに受けて結局高くつくこともあり、本来の価格の数倍から10倍近くという例もあるため、一概に輸入がいいとも言えない状況になっている(更にいえば、輸入なら絶対に不具合がないわけではなく、警察のM360Jで問題が発生した例もある)。
更には製造終了などにより、銃本体や部品の購入が不可能となる可能性も有る。場合によっては、供与という名目で更新により余剰となった中古品を売りつけられる可能性も有る(日本でも米軍から火器の供与を受けており、近年でも新生イラク軍などで同様の例がある)。
また、有事となった際には部品の輸入を待つ事は難しいという理由も有る。日本の事情がより特殊化し、海外で開発されるアサルトライフルでは要求を満たせないとなった場合、自国で小銃を作る能力が無いのは致命的である。
これは日本に限らず、自国で小銃を開発しなければならない事情を抱えた国々にとっては共通の悩みである。東西冷戦が終結して以降、世界の軍需産業が衰退の一途を辿っている現状を鑑みると、他国の銃器メーカーに頼り切ってしまうのは考えものであり、予算的に多少無理をしてでも自国で銃器を賄うのは決して間違った選択では無いのである。
とはいえ、さらに値が張る制式採用アサルトライフルや一時はとんでもなく高かった制式採用アサルトライフル、他国製を買ったら納入価格が高価となったアサルトライフル、元から結構高いが改修費用で更に高く成ったアサルトライフルも普通に有ったりするが。ちなみに、M4カービンの納入価格は約16万から20万円(2008年コルト製)、約8万円(2013年FNH製)程度の模様。
まとめ
開発当時のドクトリンに見事に適合した優秀な自動小銃である事は間違いないが、三点バーストの様な過剰機能(上記のように当時は過剰とはいえなかったが)、セレクター関連の不便など、軍用兵器開発のノウハウの足りなさや日本独特の政治的事情による問題点がそこかしこに現れている。また、設計完了が1989年という事も有って現代の防衛省のドクトリンとも噛み合わない部分が存在する。特に、現在重要視されている市街地での近接戦闘や、昨今防衛省が重視しているゲリコマへの対処については課題が残る。
89式小銃に限らず国産開発の銃に共通して存在する「不可解な欠点が目立つ」「根も葉もない悪評が広まり易い」原因は、複数のメーカーが「使用者の為の商品」として切磋琢磨しながら開発する環境では無く、諸元が決められてトップダウンに近い体制で開発される事と、時代に合わせた改良や実使用(実戦はともかく戦闘訓練や演習でも)で明らかに成った欠点のフィードバックを短いサイクルで積極的に行えていないという日本特有の事情も一因ではなかろうか。
後継
採用から30年が経過し、約14万丁が生産・配備された事で64式小銃からの更新という目的はほぼ達成された為、2020年度をもって89式小銃の生産は終了した。
2019年末に防衛省が本銃の後継として『HOWA5.56』の採用を宣告。
のちに制式名が『20式5.56mm小銃』と発表され、2021年度より順次納入されている。
遊戯銃
- 電動ガン(東京マルイ)
東京マルイから電動ガンが発売。
開発にあたっては訓練機材として採用の為に詳細なデータを提供したとの話もあり(真偽は不明)、自衛隊にも閉所戦闘訓練用教材として納入されている。
一般に販売されているモデルや実銃との区別の為に一部部品の色が変更されている。
また、一般に販売されているものは実物の薬莢受けや銃剣などの取り付けが不可能な様に一部部品の形状は変更されており、実銃用アクセサリーを購入したとしても無加工での取り付けは不可能となっている。
またマガジンが特殊であり、全弾撃ちきれる構造になっているのだが、この影響で89式のマガジンはM16等には使用出来ない。そしてこの話が、上記マガジン互換の誤解を生んだと思われる。
新規形状のメカボックスと共に機械式のバーストメカを採用しており、同社のSG550シリーズ(SG550およびSG551)に採用された電子式バーストユニットと違い、バッテリー電圧などの要因から発射数が変動するといった事を防いでいるが、変動に対応する為の調整機能が不要と成った結果、発射数の変更を行う事が出来なく成っている。
また、バッテリーとメカボックスの間にユニットがあるSG550シリーズと違い、メカボックスの分解が必要とバーストメカの除去が非常に面倒となっている。
- ガスガン(東京マルイ)
2018年には待望のガスブローバックモデルが登場。マガジンはM4A1MWSと共用可能。
一説には、訓練機材として使用している防衛省側が「電動ガンはトリガーがスイッチなので、訓練で多用すると隊員らに引き金のガク引きの悪癖が付き易くなる。引き金周りの構造が実銃に近いガスガンを作れないか?」という働きかけがあったとかなかったとか。
内部構造はかなりの再現度らしく、バースト射撃機構も実物と同じく脱着ができる。また外装に関しても、実銃とほぼ同じになっているため、実銃用アクセサリーを取り付け可能。
- 電動ガン(SYSTEMA)
トレーニングウェポンとして電動ガンが発売。
既存のM16やMP5と同様に電子制御式のユニットを備えているが、機構としてはMP5に近いものと成っている(ので個人レベルでは分解整備は困難)。
ハンドガードはオリジナルデザインのハンドガードとなっており、M-LOKモジュラーレイルシステムを備えている。
外装部品の互換性は不明であるが、少なくともマルイ製の通常型のハンドガードの取り付けは加工が必要となっている。
- DAS (GBLS)
アメリカ大使館の訓練に使用されたGDR-15で有名となった韓国のGBLS社製の電動ブローバックガン。
ガスブロに引けを取らない内部メカのリアルさや高い命中精度を誇り、自衛隊で訓練用機材として使用することも念頭に置いて材質や耐久度も高く、操作性や反動もできる限り実銃に近づけているリアルモデル。
ただし、非常にクオリティが高い都合上SYSTEMA社以上の価格となっている。
- その他銃剣など
マルイ製エアソフトガンに付属しない夜間用照準器や空砲発射補助具、銃剣などの部品はガレージキットが販売されている。
過去には有限会社キャロットから東京マルイ製M4カービンを89式小銃風に変更するコンバージョンキットが販売されていた。
主にマルイ製品向けに実銃にはないアクセサリーも販売されており、レール付きハンドガードやAR15のレシーバーエクステンションおよびストックを取り付ける部品などによりカスタマイズが可能となっている。
出演
1990年以降の自衛隊が出て来る作品では大抵これが登場する。下記はその一例。