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水陸機動団

すいりくきどうだん

水陸機動団とは、陸上自衛隊の部隊のひとつ。同隊唯一の水陸両用作戦能力を持つ。
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概要編集

水陸機動団(英:Amphibious Rapid Deployment Brigade、ARDB)とは、陸上自衛隊の部隊である。平成30(2018)年3月27日に、陸上総隊の直轄部隊のひとつとして、離島奪還などの水陸両用作戦を行うことを目的に創設されている。

略称は『水機団』。水陸両用の部隊であることから、メディア上ではアメリカ海兵隊にあやかって『日本版海兵隊』とも称されている。

団本部は長崎県佐世保市にある相浦駐屯地に置かれており、団の隷下(れいか)部隊も相浦のほか、崎辺、竹松、湯布院、玖珠(くす)の各駐屯地・分屯地に所在している。


部隊のモデルとしているのはアメリカ海兵隊だが、規模的に敵国領土への着上陸は不可能であり、あくまでも日本の領内において、開戦初期に占領された離島を奪還することが主任務とされている。理想は敵の占領を許さずに撃退することであるが、広大な領海と多数の離島を持つ日本において敵の完全な撃退は困難であるほか、一度陣地の設営を許してしまうと空対地、艦対地攻撃のみで敵を殲滅することが難しく、補給路封鎖により敵を飢餓に追い込む長期戦とならざるを得なくなり、住民が取り残されている場合にはこの手法はとれない。そこで、強襲や隠密などの各種手段によって敵の占領を許した島に上陸し、近接戦闘によって最終的な排除をする部隊として本部隊が創設される運びとなっている。


また、小野寺五典防衛大臣(当時)は水陸機動団について「島嶼(とうしょ)部の防衛に加え、災害救助にも役に立つ」(『西日本新聞』1面、2013年12月22日)としているが、水陸機動団はあくまでも上陸を主眼に置いた戦闘部隊であり、海兵隊のように大規模な輸送能力を有するわけではない。

災害時における展開能力については他部隊と比較してさほど秀でたものではない。一応、水陸両用車であるAAV7は冠水地域での活動に使えないこともないが、輸送の手間を考えた場合、活用可能なのは基地近傍での災害のみとなる。


装備品は陸上自衛隊普通科のものに準ずるが、上陸作戦のために水陸両用車AAV7、水陸用の戦闘装着セット、水泳用装備なども有する。さらに20式小銃9mm拳銃SFP9などの比較的新しい装備が優先的に回されている。


沿革編集

平成14(2002)年3月に、南西諸島の島々を防衛・奪還することを目的として西部方面隊内に設立された西部方面普通科連隊を部隊のルーツとしている。同連隊は、敵の上陸を許した島嶼部にヘリコプターや偵察ボートなどの各種隠密手段を用いて上陸し、島を占領する敵部隊に対して襲撃や破壊工作を行うという「水陸両用の遊撃部隊」とも言うべき特性を持ち合わせていた。

西部方面普通科連隊は、設立間もない平成17(2005)年以降から『アイアン・フィスト』や『ドーン・ブリッツ』といった日米合同演習に訓練部隊として参加しており、そこでカウンターパートであるアメリカ海兵隊から、水陸両用車AAV7を用いた強襲上陸作戦をはじめとする各種のノウハウを習得している。


一方で、西部方面普通科連隊が創設された当初の2000年代の世界では、イラクアフガニスタンをはじめとする中東地域において、テログループや武装勢力を相手に非対称戦を行うのが戦争の主流であった。しかしながら、時代が下るにつれて中国ロシアといった修正主義国の軍事的影響が高まるようになり、とりわけ中国については南西諸島地域の近傍において官民双方の示威行動を活発化させるようになっている。このように国際的な脅威が移りゆくなかで、日本の陸上自衛隊は平成末期から「創隊以来の大改革」に着手し、その一環として西部方面普通科連隊も「強襲上陸作戦も実施可能な旅団規模の部隊」という形に格上げされることになる。


こうして平成30(2018)年3月に、西部方面普通科連隊は母体を西部方面隊から陸上総隊に移し、編成を拡充されて『水陸機動団』として設立を果たしている。設立された当初は2個連隊を基幹としていたものの、令和6(2024)年3月に3つ目の基幹部隊である第3水陸機動連隊が組織され、ローテーション任務にも対応可能な部隊として編成を完結している。


編成編集

団本部および3つの水陸機動連隊、戦闘上陸大隊、特科大隊、後方支援大隊、水陸機動教育隊、そして団本部直轄の諸職種部隊によって編成されており、令和6(2024)年時点でおよそ3000人の隊員を擁(よう)している。

主な部隊編成は次のようになっている。


団本部および本部付隊編集

水陸機動団全体の指揮を担う本部と、その運営を支える付隊。

団本部は、ほかの部隊の司令部と同様の機能を持っているほか、海上自衛隊航空自衛隊、諸外国軍との連絡・調整も担当している。


水陸機動連隊編集

水陸機動団の基幹部隊となる普通科連隊。第1水陸機動連隊、第2水陸機動連隊、第3水陸機動連隊の3個連隊が存在し、それぞれ660人程度の隊員が所属する。上陸作戦では、これらの連隊が基幹部隊となり、団内・団外の諸職種部隊が指揮下に加わることになる。

各連隊は水陸機動団の前身となった西部方面普通科連隊の特性を色濃く受け継いでおり、強襲・隠密のいずれの作戦も高いレベルで遂行することができる。

また、陸上自衛隊内のほかの部隊に比してレンジャー資格者の割合が高く、レンジャー隊員だけで構成された常設の「レンジャー小隊」が各連隊に編成されているのが特徴となっている。



戦闘上陸大隊編集

水陸両用車AAV7を装備・運用する機甲科部隊。輸送艦(揚陸艦)から海岸線へアプローチして水陸機動連隊の隊員を送り込むとともに、上陸後の火力支援を任務とする。

ピクシブ百科事典内にある「機甲科(陸上自衛隊)」の記事いわく、「任務の特殊性から水陸機動教育隊で教育が行われる。機甲科隊員の中でもズバ抜けた精神力を持つある意味ドMな隊員が多い」とかなんとか。


特科大隊編集

火力支援を担当する特科部隊。特科といっても陸自のほかの特科部隊と違い、火力と即応性に優れ、CH-47輸送ヘリコプターによる空輸も可能な120mm重迫撃砲を装備する。そのほか、同大隊に所属する「火力誘導中隊」は、自隊の砲火力のほか、陸海空の垣根をこえて艦砲射撃や航空支援(空爆)を現地で誘導するという、極めて高度かつ重大な任務を担っている。上陸作戦では、当該中隊から隊員が「火力誘導班」として分遣され、水陸機動連隊に随行することになる。


後方支援大隊編集

水陸機動団の後方支援任務全般を請け負う大隊。

動けなくなったAAV7を回収するための特別仕様のAAV7(回収車型)を運用したり、整備・補給・衛生の各種支援基盤の構成を行なっている。


偵察中隊編集

団本部直轄の偵察部隊。通常の偵察部隊は機甲科部隊であり、87式偵察警戒車16式機動戦闘車といった装甲車を装備するものの、この部隊は諸職種混成(諸兵科連合)で装甲車を装備していない。

上陸作戦では、偵察ボートや潜水装備を用いて海中から、あるいはヘリコプターによって空中から隠密裏に敵地に侵入し、上陸地点の偵察を先んじて行う。場合によっては威力偵察も行うので、その任務の性質上「日本版フォース・リーコンなのではないか?」といった声も一部でささやかれている(というのも、実質的に前身の西部方面普通科連隊の情報小隊では隊員に「特殊作戦隊員手当」が支給されていたためである)


施設中隊編集

団本部直轄の施設科部隊。陸上自衛隊のほかの施設科部隊のような陣地構築や障害処理などの建設任務に加えて、水際地雷(≒機雷)を処理する任務なども担っている。もちろん、それらの作業は戦闘地帯でも行う場合があり、大変な危険を伴う作業である。

水陸機動団には海上自衛隊の潜水員課程(陸自の空挺レンジャー課程と双璧をなす難関課程)を修了した隊員もいるとされるが、その隊員らは水際地雷処理を担当するこの中隊に属している可能性がうかがえる。


通信中隊編集

団本部直轄の通信部隊。海上自衛隊のLCACなどの協力を得て上陸し、現地の前線部隊と本部とをつなぐネットワークを構成する。


水陸機動教育隊編集

水陸機動団専門の教育隊。水陸機動団の高度かつ専門的な任務を遂行するための人員を育てるために、各種課程教育を行なっている。


また、部隊移動に際しては、陸上総隊隷下の第1ヘリコプター団や西部方面隊の西部方面航空隊海上自衛隊第1輸送隊などによる支援を受けることになる。


主な装備品編集

車両等編集

  • AAV7(水陸両用車)

戦闘上陸大隊に配備されている装軌(キャタピラ)式の水陸両用車。水上ではウォータージェットによって推進する。固定武装としてブローニングM2重機関銃とMk19グレネードランチャーを装備するほか、車体には追加装甲を施すことも可能となっている。

AAV7水陸両用車


  • CRRC(偵察ボート)

水陸機動連隊や偵察中隊などに配備されている偵察用のボート。オールによる手漕ぎのほか、舷外機によって推進する。敵の目を避けた隠密上陸作戦などに用いられ、輸送艦から直接発進するほか、CH-47輸送ヘリコプターにボートを乗せて乗員と一緒に洋上に投入する方法も行われている。


  • 汎用軽機動車

カワサキモータースが生産・販売する4輪バギー。偵察を行う小部隊が移動のために活用しており、その車体のサイズの小ささから、第1ヘリコプター団の輸送航空隊が運用するV-22 オスプレイに搭載することも可能となっている。


軽火器編集

2020年に部隊使用承認された、豊和工業製の国産自動小銃。拡張性と耐環境性に優れており、採用後いち早く水陸機動団に配備されている。

20式5.56mm小銃


20式小銃と同時期に配備された、ドイツのH&K社製の拳銃。耐塩加工がなされており、上陸作戦でも憂いなく使うことができる。

H&K SFP9


  • 84mm無反動砲(B)

スウェーデンのサーブ社製の無反動砲。複合素材で作られており、従来のものより軽量化が図られている。予備弾を携行することで連続射撃が可能なほか、状況に応じてさまざまな弾を撃ち分けることもできる。



関連動画編集

防衛省 陸上自衛隊 広報チャンネル編集

令和5年度陸自動画コンテスト応募作品「水陸機動団」(2024年1月)


IRON FIST 23(2023年4月)


その他編集

「離島奪還」の陸自特殊部隊 入隊への過酷な訓練に密着『バンキシャ!』 - 日テレNEWS(2024年2月)


関連タグ編集

陸上自衛隊 陸上総隊

第1空挺団:同じく陸上自衛隊の精鋭部隊。空挺団に入れなかった隊員は、優先的に水陸機動団へ配属されるといわれている。

アメリカ海兵隊:モデルとなった同盟軍。共同訓練も頻繁に行っている。

西部方面普通科連隊:前身となった陸上自衛隊の離島対処即応部隊。


外部リンク編集



参考文献編集

  • 『シリーズ 陸上自衛隊の戦闘力 水陸機動団』 イカロス出版株式会社 2020年10月20日発行 ISBN 978−4-8022-0889-5
  • 『MAMOR』2020年4月号 株式会社芙蓉社 2020年2月21日発行 8〜23ページ

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