概要
20式5.56mm小銃とは、防衛省が89式5.56mm小銃の後継として令和元年(2019年)に採用を発表、令和2年(2020年)に報道公開された自動小銃(アサルトライフル)である。
開発・製造は64式小銃と89式小銃を手がけた豊和工業。
陸上自衛隊と海上自衛隊の一部部隊の主力小銃であった89式小銃は、登場時こそ要求仕様をできる限り実現させた優秀な銃であった。しかしながら、冷戦の終結とともにその後の戦争は対テロ戦争が主流となり、技術の進歩と相まって個人用装備の更新サイクルが従来では考えられないほど早くなるなど、それまでの「ソ連軍の襲来」を見据えた89式小銃では不都合が生じる場面も現れた。
そこで、多様な任務に対応し、諸外国のものと同等の拡張性を備えた小銃として本銃が新たに採用された。
沿革
平成27年(2015年)ごろから、89式小銃の後継の本格的な選定を匂わせる情報が見られるようになった。
それまでの主力小銃の製造元である豊和工業が開発する国産小銃か、輸入小銃(あるいはライセンス生産)か、などとさまざまな情報が飛び交っていたが、防衛省は令和元年(2019年)12月に公式ホームページ上で本銃『HOWA 5.56(※注:この時点での仮称)』を採用すると発表。翌年の5月18日に『20式5.56mm小銃』として実銃(試験用小銃)が報道陣に公開された。
- 同時に、9mm拳銃ことSIG P220の後継にH&K SFP9の採用を発表している。
- これより前の2018年ごろに特許庁より公開された豊和工業のスケッチは、ベルギー FNハースタル社製のSCARによく似た、調節可能と見られる銃床や上下面と左右面にピカティニーレールを備えるデザインのもので、同時に空薬莢受けや二脚といった付属品の情報も確認されている。
また、平成26年(2013年)度の防衛装備庁契約情報によれば、H&K(ドイツ)のG36とHK416、シュタイヤー・マンリヒャー(オーストリア)のAUG、FNハースタルのSCAR、SIG(スイス)のSIG516/716などと見られる銃が輸入されており、比較審査か、あるいは国産小銃の開発の参考のために輸入されたと見られている。
平成30年(2018年)に実施された次期小銃の選定のためのトライアル(評価試験)では、豊和工業のHOWA 5.56とH&KのHK416A5(14.5インチモデル)、FNハースタルのFN SCAR-L STDという3種類の小銃を対象に評価を実施している。第1段階評価の「有効射程」や「命中精度」などの試験はすべての小銃が要求水準を満たしていたものの、第2段階評価である「後方支援」(整備・補給)や「経費」の採点では1セットあたりの量産単価が約28万円というメリットを高く評価される形で、HOWA 5.56が最高点を獲得している。
仕様
全長 | 783mm~854mm(銃床最短時~最長時) |
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銃身長 | 330mm |
重量 | 約3.5kg |
口径 | 5.56mm |
使用弾薬 | 5.56ミリ普通弾(5.56mm×45) |
装弾数 | 30発 |
※特記がない限り令和2年(2020年)5月に一般公開された試験用小銃のものである。
89式小銃と比較すると、
- ピカティニーレール、M-LOKの標準装備による拡張性の向上
- 切り換え軸(セレクターレバー)、弾倉止め(マガジンキャッチ)などの操作部の操作性向上・左右両用化
- 調整式の銃床(ストック)による体格や装備に応じた射撃安定性の確保
- 民生品の活用による低価格化
- 排水性・防じん性などの耐環境性の確保
拡張性
まず、89式小銃においてピカティニーレールは支給品の光像式照準器(ダットサイト)を取りつけるもののほかは、市販品を自費で購入して許可を得て取りつけるぐらいしかできなかった。
それに対し、20式小銃では尾筒(アッパーレシーバー)から被筒本体(ハンドガード)にかけての上面にピカティニーレールを、また、ハンドガードの左右側面および下面にはM-LOKと呼ばれる方形の穴が備わり、対応するオプションやピカティニーレールなどが装着できる。M-LOKはMAGPULが開発したアタッチメント用規格で、取り付ける器具の裏側にある金具を挿し込んで表側のネジを締め上げるだけで装着でき、なおかつ不使用時にピカティニーレールより嵩(かさ)張らない。(Wikipedia)
照星・照門(アイアンサイト)は不使用時に折り畳める脱着式で、光学照準器とその他アクセサリー類の使用を強く意識していることがうかがえる。
令和2年(2020年)5月に一般公開された際には、ショートスコープとバイポッド収納型フォアグリップを装着し、拡張性と汎用性の高さがアピールされた。
操作性
89式小銃の弾倉止め(マガジンキャッチ)、槓桿(チャージングハンドル)、切り換え軸(セレクターレバー)はどれも右側のみに備わり、操作性は総じていいとは言い難かった(特に切り替え軸)。
対して、20式小銃ではそれらが左右両用となり、左利きの射手が扱いやすくなるだけでなく、市街地・閉所戦闘などで左右に持ち替えた際の操作性が大きく向上している。また、弾倉止めと切り替え軸は「握把(グリップ)を握ったまま操作できること」が要求され、これまでの「一度手を放してからの操作」が求められていた従来の国産小銃と比べて操作性が向上している。槓桿についても、左右任意の取り替えが可能となった。
セレクターも64式小銃と同様の「ア・タ・レ」(安全・単射・連射)の順に戻され、使用頻度の高い単射(セミオート)に速やかに操作することが可能となった。また、89式小銃の切り替え軸は最大で270°と大きく操作する必要があったが、20式小銃では最大操作角が150~160°程度で指一本で3位置すべてに切り替えが可能となった。3発制限点射(3点バースト)機能は存在しない。
スライド止め(ボルトストップ)は左右両方から操作が可能で、M16などと同様に再装填時に後退位置で停止したスライドをレバーを押すだけで前進させることができる。89式小銃のものは整備などの際に後退位置で固定する機能が主で、弾倉の再装填後はふたたび槓桿を引く必要があったが、これも時流に乗った改良といえる。
全長も89式小銃の920mmから854mm(銃床最短時783mm)とコンパクトになり、従来より閉所戦闘を意識したことがうかがえる。
銃床
89式小銃には銃床固定式と折り畳み式の2種類が存在するが、双方ともサイズの調整は不可能で、体格や装備によっては無理な姿勢を強いられる場合もあった。
一方の20式小銃では、銃床そのものの長さと頬当て(チークパッド)の高さがそれぞれ調整可能となった。調整式の頬当てはアイアンサイトと光学照準器を使い分ける場合や、光学照準器の機種・装着方法次第で照準に適した位置に調整でき、伸縮式の銃床は隊員それぞれの体格に適した調整が可能であるのみならず、装備の増減(防弾チョッキ、ライフジャケット、防寒着など)による変化を補うことが可能となる。
ただし、設計の参考にされたと見られるSCARは銃床を折り畳むことができるが、一般公開された個体には折り畳みができない銃床が装着されていた。
民生品の活用
20式小銃は費用対効果に優れた民生品を活用することで調達コストの削減を目指している。これはCOTS(商用オフザシェルフ)と呼ばれる手法で、自衛隊では輸送用車両のほかに10式戦車にもすでに採り入れられている。
公開された試作銃では上述のB&T製フォアグリップのほか、MAGPUL製P-MAGとスリングマウント、BCM製GUNFIGHTERグリップが装着されており、量産銃はこれに準じたものになると予想される。
同時にBeretta社製のGLX160A1アドオン式グレネードランチャーも公開されており、本銃とともに調達される見込みである。
排水性・防じん性
これは、ミリタリー誌のみならず一般紙でも広く報じられたが、20式小銃は銃内部へ浸水した際の排水性の確保と、砂塵などの侵入防止に注意が払われた設計となった。
防衛の基本方針が1990年代までの北方重視から、西方重視、つまり九州や沖縄方面の島しょ部重視へと方針転換が図られたため、また、国際協力活動で中東地域などへの派遣が増えているため、上陸作戦や砂漠地域などでの活動に合わせたものだという。
また、試験用小銃の段階で塩分に対する耐腐食性の確保が求められており、これも離島への上陸奪還作戦などを念頭に置いていることがうかがえる。
配備予定
拡張性と耐環境性が向上した20式小銃は、南西諸島の防衛および奪回を担当する水陸機動団や精鋭部隊として知られる第1空挺団など、主として陸上総隊の隷下部隊に優先的に配備される予定となっている。
あわせて、陸上自衛隊全体の教育や装備研究を担う富士学校や、同校で優れた射撃技術を磨くAASAM訓練隊など、大臣直轄部隊にも並行して配備される可能性も挙げられている。(『月刊アームズマガジン』2020年8月号、25ページ)
その他
- 64式小銃および89式小銃で使用される06式小銃てき弾は、本銃でも使用できる。また、銃剣は89式小銃と同様で、鞘(さや)に改良が加えられるという。
- 平成19年(2007年)に、防衛省技術研究本部で89式小銃をベースにした「先進軽量化小銃」が発表された。その後開発・試作が重ねられたが、本銃の開発とどこまで関連性があるかは現時点では不明である。
- 本銃と同時に、基本設計が同一で7.62mm弾を用いる小銃が計画されたが、いまのところ制式採用や実銃の公開はされていない。
- 平成26年(2014年)に作成された試験用小銃の仕様書には「努めて、3発制限点射ができるものとする」という要求があったものの、公開された個体にはその様子が見られず、各誌の取材によれば「費用対効果の問題から削除された」という。また、その仕様書には折り畳み銃床についての記述があり「選択可能なものとする」となっていたが、今後折り畳み銃床が量産されるかは不明。
- 採用試験と同時に1-8倍の照準眼鏡(スコープ)が調達されている。実際に公開された個体には長野県のディオン工学技研のMarch 1×-8×24ショートスコープが載せられていた。ただし、試験用小銃向けの特注品で、2020年上半期時点ではどの機種をどの程度調達するかは未定。
- 20式小銃の銃身長は330mm(13インチ)であり、420mm(16.5インチ)の89式小銃と比較して「弾道の低伸性が悪くなるのでは」と懸念する声も上がっている(『月刊アームズマガジン』2020年8月号、33ページ、『月刊Gun Professionals』2020年8月号、8ページ)。実際に、368mm(14.5インチ)の銃身長であるM4A1は、アフガニスタンなどにおける野戦の状況下において、銃口初速の不足による弾道の落差が問題となっている。
関連イラスト
関連動画
陸自30年ぶり新型小銃 引き金近くに「ア・タ・レ」 - ANNnewsCH(2020年5月)
関連タグ
銃 小銃 ライフル アサルトライフル
日本 自衛隊 陸上自衛隊 水陸機動団
豊和工業 64式小銃 89式小銃
SCAR HK416
外部リンク
参考文献
- 神崎大、Jien、SHIN(解説)『月刊アームズマガジン』2020年8月号 株式会社ホビージャパン 2020年6月27日発行 24~33ページ
- 松尾哲司(解説)『月刊Gun Professionals』2020年8月号 株式会社ホビージャパン 2020年6月27日発行 6~12ページ
- 火器用語(小火器)NDS-Y0002B