概要
ダットサイト/ドットサイトとは、銃用の光学照準器のひとつ。近中距離用の照準機器で、等倍のものが一般的である。
慣れればアイアンサイト(照星・照門)を使用するのに比べて格段に速い照準動作が可能なので、軍民問わず欠かせないアクセサリとして普及している。
「ダット/ドット」とは「dot(点)」を意味する。「dot」の本来の発音は「ドット」のほうが近いが、日本の銃砲・エアソフトガン業界では、より本格的な気分になれる「ダット」とされることが多い。
もともとは「Red dot sight」と呼ばれていたもので、直接対象にレーザーを照射するレーザーサイトとは異なり、スコープ内に備え付けられた湾曲鏡により赤色発光ダイオード(LED)の光を投影して、スコープに中心点を表示するというものだった。
技術の向上により必ずしも「赤い光点」ではなくなったことにより、反射鏡照準器の通称として「ダットサイト」が定着した。
より細分化するなら、レンズと光線の間を開放したタイプを「オープンダットサイト」、レーザーホログラフィックにより図形を投影するものを「ホロサイト」と呼ぶ。
性能
機能
ダットサイトのハーフミラーはわずかに湾曲しており、投影像が無限遠で結像する仕組みとなっている。実際にサイトを覗いてみると、あたかもはるか彼方の宙空に、レティクル(多くのものは光点だが、一部のものは丸などの図形型の光が浮かぶ)がポツンと浮かんでいるかのように見える。
この光点は、どの目からの距離が異なっても同じ大きさで浮かんで見えるため、設置位置を問わず取り付けることができる。そのため、射手の扱いやすい位置に取り付けることが可能となっている。
対物側のレンズには、レティクルを見やすくするためのコーティングが施されており、光量次第とはいえ光点はほとんど見えない。このコーティング次第では、偏光フィルタなどを通して見たのと同様に、肉眼で対象を見るよりも見やすくなる利点が生じるモデルもある。
また、コーティングやレンズによる外光の反射や、不必要な角度からの光の侵入を防ぐことを目的とする「キルフラッシュ」と呼ばれるメッシュ状のフィルターを対物レンズ側に取り付けることもある。
ダットサイトに用いられる光点のサイズや色、形状にはさまざまなものがある。光点の色は赤だけでなく、緑や黄色などといったさまざまな色が用意されており、射撃する環境や射手の好み、相性によって選択する。光点の形状もさまざまで、丸い点がひとつ光るものもあれば、三角やサークルなどの異なる形状、弾丸の落下量に応じて縦一列に複数の光点が並んだもの、と多彩なバリエーションがある。
光点のサイズは、例としては3.5MOA(100m先で10cm相当)は遠距離射撃や精密射撃向けで、7.0MOA(100m先で20cm相当)は近距離射撃や移動射撃向き、となっている。
光源は主にLEDであるが、蛍光物質とトリチウムガスを封入したトリチウム発光チューブ、自然光を取り込んで光源とする集光チューブといったものを使用した電源不要なものも存在する。
「ホログラフィック・ウエポン・サイト」などもダットサイトと同様の効果を発揮する照準機器であるが、レーザーホログラフを利用しているため原理・構造は異なる。
軍・法執行機関向けのダットサイトのなかには、パッシブ(受光)式のナイトスコープ(暗視装置)と組み合わせ可能な光量を抑えたモードを持つ上位モデルがある。今ほどイルミネーションレティクル(レティクルの一部、もしくは全体が発光する)の搭載されたスコープが普及していなかったころには、スコープの前に取り付けるといったことも行われていた。
初期のダットサイトは対物側がふさがれており、片目で光点を見つつもう片目で対象を見ることで映像を合成して照準をしていた。現在でも、ダットサイトの使い方に慣れるために同様に対物側をふさいで練習する射手もいる。
従来のアイアンサイトは、照星(フロントサイト)と照門(リアサイト)とを一直線に目標と結ぶ必要があり、フロントサイトに焦点を合わせつつも目標を見る必要があるために、正確な照準が難しく慣熟に時間がかかっていたが、ダットサイトは光点ひとつを目標に重ねるだけで正確な照準が可能であり、比較的短時間で慣熟することができる。
薄暮時に暗くかすんでしまうことがない点でも、通常のアイアンサイトより優れている。実際に、アメリカのノリッジ大学にて拳銃でダットサイトとアイアンサイトの比較実験を行った結果、射撃経験のないものでも光学サイトを搭載した銃のほうが効果的であるという結果が出ている。
弱点としては、大気の状態などから零点規正(ゼロイン)がわずかにずれることがある。銃口からアイアンサイト以上に高い位置に照準装置があることが多いため、ゼロインに使用した距離と違う距離で射撃した場合は着弾位置にずれが生じる。
また、遮蔽物を利用した射撃などで、銃口位置を気にせず使用した場合、サイト上の照準では問題なくターゲットを視認できていても実際の射線は障害物に遮られていた、ということもある。
ダットサイトの多くは電源を必要とし、故障の可能性もゼロではないことから、不意に使用不能に陥る危険性があるため、零点規正のずれの対策も兼ねてバックアップサイトとしてアイアンサイトとの併用は重要となっている。また、光点により目標が隠れるため、精密射撃分野には適さず、その分野では精密射撃用のピープサイト(アイアンサイト)や等倍のスコープに劣るといえる。
形状
ダットサイトにはオープンタイプとチューブタイプの2種類があり、用途や使用状況に応じて使い分けられている。
前者は軽量コンパクトな一方、外力によって破損しやすく、剥き出しの光源部やレンズのハーフミラー側にホコリやゴミなどが詰まって使用不能となる場合がある。また、ガイドとなるチューブがないために光点を見失いやすく、特に拳銃などのストックのない銃では光点を見失いやすい。対策として、アイアンサイトを併用する取り付け方法にする、もしくはダットサイトにリアサイトが一体となっている物を使うといった方法がある。
後者は、光源やグラス部分が頑丈なチューブで守られるため外力や汚れに強いが、価格を抑えにくく、重くなりがちである。筒というガイドがあるためか、比較的光点を探しやすい。
ある程度の大きさがあるものが主流であったため、拳銃ではフレーム側に加工を施してマウントベースと呼ばれる部品を取り付け、それにダットサイトを取り付けるという方法が主に取られていたが、マウント用の部品を含めて大型化してしまうことから対応したホルスターも少なく携行には適さず、競技用としての用途が主となっている。
チューブタイプであっても軽量化している現在、自動拳銃の稼動部分であるスライドに搭載可能なものも登場しており、加工や部品交換により搭載するスペースを確保する改造が行われており、銃のモデルによっては純正状態でアダプタを介さずに直接搭載可能なものも登場している。(ただし、ダットサイトの種類により取り付け面の形状が異なるので、その部分に対応するためのアダプタは必要な場合もある)
競技用でないホルスターでも直接搭載に対応したものが登場しており、携行も未搭載の拳銃同様に可能となった。
一例としては、グロック17のスライドへとダットサイトを搭載する場合、スライド上部をフライス加工してネジを切ることで搭載可能とする、リアサイトを取付用マウントへと交換する、社外の搭載可能な加工のされたスライドへと交換する、MOSと呼ばれる搭載可能な加工がされたモデルを選ぶ、といった方法がある。
使用法
ダットサイトはその多くが等倍であるものの、倍率を拡大するテレスコーピック機能を付加する「テレコンバージョンアダプター」などと呼ばれるものがあり、主にチューブ型のダットサイトに対応している。
また、ほぼ機種を問わず使用できるブースターやマグニファイアと呼ばれるスコープ状のものもあり、ナイトビジョンのようにダットサイト後方へとタンデム装着して使用する。ブースターはフリップ機能もしくはクイックリリース機能がついたマウントを使用することで、必要のないときは横にどかすことができる。
スコープと併用するために取付可能なマウントリングを使用したり、ACOGなどの上部に搭載するいわゆる「2階建てマウント」のほか、銃身にレールシステムやマウントなどを用いて45度の位置に搭載(使う際は銃を傾けて狙う)する場合もある。それぞれ一長一短のある取り付け方法のため、どのように取り付けるかは射手の好みによる。
射撃競技においては、的との距離が決められていることから複数のダットサイトを搭載する射手もいる。たとえば中距離用と近距離用にそれぞれゼロインし、的への距離に合わせて使い分けることで照準の修正を行う手間を減らしている。
また、遮蔽物を用いたカバー射撃の際に、銃を当てる肩を変えることなく体を曝(さら)す量を最低限にするために、斜め位置にダットサイトを追加で取り付けて銃を傾けて構えるという使い方もされている。
ELCAN社のSPECTER DR(SU-230/PVS)のようにプリズムを用いて4倍と等倍を切り替えることが可能であったり、倍率変更可能なスコープでも等倍に設定することでダットサイトに近い感覚で使えるものも登場している。
(余談ながら、ACOGは乱暴に言ってしまえば倍率の付いたダットサイトのように扱える低倍率スコープであり、両目を開けたまま右目で使用することを前提とした設計で、直感的に狙えるようにレティクルの右側がぼやけるようになっている)
その他
ダットサイトは大変便利なアクセサリではあるものの、実際に使ってみるまではその性能が実感しにくく、取り付けると銃器のフォルムを崩してしまうものが多いせいか、日本の作品で登場する頻度は(標準搭載の銃はともかく、そうでない銃では)いまのところ低い。
これに対して、海外、主にハリウッド映画などでは定番のアイテムとなりつつある。
ちなみに、銃火器を用意した担当者がこの手の装備の知識に疎(うと)いのか、撮影時には光らせていないために気づかず前後逆に搭載して撮影された映画などがあり、日本のように銃が身近にない地域だけでなく銃大国で撮影されたものであっても同様ということがある。
ダットサイトの製造メーカーは、スウェーデンのAimpoint、イスラエルのITL Ltd.、MEPROLIGHT、日本のサイトロンジャパン(旧タスコジャパン)、東京スコープ、カナダのRaytheon ELCAN Optical Technologies、アメリカのRaytheon Company、C-MORE Systems、Bushnell、Trijico.Inc.、ホロサイトを製造しているアメリカのL-3 EoTech、Bushnellなどが国内でもよく知られている。
あまり知られていないが、国内のメーカーの製品は輸出されており、海外の有名メーカーに製品を供給している企業もある。供給先のメーカーのロゴが刻印されていることがほとんどであり、サイト本体などに製造国が書かれていない場合は日本製とは気づきにくい。
関連動画
Aimpoint Comp M5b - Aimpoint USA(2020年3月)
ライフル用ダットサイトの照準規正の方法について - Vortex Optics(2020年9月)
関連タグ
カイザポインター:設定上は双眼鏡として使用可能で、玩具ではダットサイトの原理を応用してスコープ内に光点を浮かび上がらせるギミックを搭載していた。
カブトクナイガン:設定上はダットサイトという名称の照準器を搭載しているが、レーザー照準器である。