概要
XM29、XM8と失敗続きだったH&K社が直後に発売したアサルトライフル。
ガス直噴式で排莢口からガスが排出される構造ゆえに、サプレッサーを装着するとガスの勢いが強まって射手が危険にさらされるAR-15の欠点を解決するため、ガスピストン式のARコピーとして開発された。
当初はHKM4という名称だったが、コルト社から商標侵害訴訟を受けたためHK416となった。
名前の由来は「M4」と「M16」から。ガスピストンAR-15の火付け役。
H&K社がL85の改修を請け負ったため、アメリカ軍もM4カービンの改修を依頼した。H&K側からの営業ともいわれる。また、開発には元デルタフォース所属で、現在はインストラクターやガンスミスを行っているラリー・ヴィッカーズ氏が関わっている。
民間型の名称はMR556およびMR223。
基本的には同じもので、ヨーロッパではMR223、アメリカではMR556として売られているが、MR223はCIP規格(ヨーロッパの民生用銃火器・弾薬標準規格)の仕様で、マズルデバイスが交換できないようになっている。MR556はSAAMI規格(アメリカの民生用銃火器・弾薬標準規格)の仕様に対応したものに変更したうえで法規制が異なるのでマズルデバイスを純正品以外に交換可能としている。これらはフルオート化を防ぐために一般的なAR-15ロアレシーバーとの互換性を捨てており、専用のロアレシーバーしか使えなくなっている。A1以降では互換性がある。
ただし、MR556はHK416と同じボルトやレシーバーといった一部パーツに同じものを使用していない(製造工程が同じではないものがある)ことから若干の性能差があり、正確にHK416=MR556とは言い切れない部分がある。
公的機関用にHK416D SF(シングルファイア)というセミオート限定のSBRが出回っていたが、これらを使うなら上記のMR556を使った方が早いためか、現在ではその姿はあまり見られない。それらの極少数は、何らかの形でアメリカの民間市場に放出されたらしく、MR556ではなく「HK416」というポイントから中古価格は高騰しているようだ。
「416」というネームバリューは大きいようで、MR556の刻印をHK416に打ち直すサービスを行っている企業もあるほか、416用の軍用パーツの値段もかなり高騰している。
近年では、さまざまなAR-15派生銃器の復刻やクローンの製造を行っているBrownells社が、BRN-4という名称でHK416/MR556用パーツと互換性があるアッパーレシーバーのクローンパーツを低価格で製造している。
2011年にDEVGRUがウサマ・ビンラディンを襲撃した際の作戦に使用されたとされ、一気に知名度を上げた銃である。(実際に射殺したのはこの銃、もしくは同社のMP7とされている)
仕様(HK416D14.5RS)
全長 | 804-900mm |
---|---|
銃身長 | 368mm |
重量 | 3,490g |
口径 | 5.56mmNATO弾(5.56×45mm) |
装弾数 | 20/30/100発(ドラムマガジンなど)+1 |
特徴
M4カービンとの目立つ違いは、レシーバー上部、セレクターマーク、アイアンサイトなど。
ロアフレームのレシーバーエクステンション(バッファーチューブ)近くにほかのAR-15にはないピン穴があるが、これはバッファーリテイナー(バッファーが飛び出さないようににするピン)を抜けないようにするピンを入れるためのもの。通常のAR-15ではレシーバーエクステンションで固定しているので、レシーバーエクステンションを抜く際に飛び出さないよう抑える必要があるが、HK416ではその必要がない。
ハンドガードを固定するボルトは、初期の変形十字穴のものは銃の部品を使用すれば分解可能であったが、無理な分解・組み立てによる変形は動作不良につながったので、軍用のマルチツールやナイフなどを使用する形式に変わっている。
ハンドガード内部にネジ脱落防止のスプリングを装備し、取り外しの際にネジの行方不明を避けるだけでなく、ゆるみ止めも兼ねている。さらに、ネジの先端側にも溝が切られていて、折れた場合でも特殊な工具を用いずに抜くことができる。
ガス圧作動方式は、AR-15のガス直噴式からショートストロークガスピストン方式に変更されている。機関部やボルトキャリアにガスが直接吹きつけられることがなく、清掃時の手間が減り、部品も長持ちする。
開発動機のとおり、サプレッサーも問題なく使用可能。
ピストンの作動に使用したガスは多くのガスピストン式ARではハンドガード内で放出されるためにハンドガードが過熱してしまうが、HK416は逆流により銃口から放出されるために熱くなりにくい。また、のちのモデルではガスブロック部のフォールディングサイト取り付け部にガスポートが追加されている。銃口部に向かい放出されるので、旧型同様にハンドガードが過熱しづらくなっている。
外装は、ハンドガードや銃身などのアッパーフレーム周りを除いて、オプションのほとんどにAR-15と互換性がある。アッパーフレームは他社製品のロアフレームに取り付け可能であり、すでにAR-15系を導入している場合、アッパー一式とリコイルバッファー、リコイルスプリングのみのコンバージョンキットを購入することでHK416へ変更が可能。米軍では10インチ仕様のものが、M4カービンアップグレード用のSOPMODキットとしても供給されている。
これによって、アメリカの多くの州で定められた所持制度下でロアフレームを銃本体として登録しての所持が容易となり、トリガーユニットやストック、グリップなどのロアフレーム側にカスタマイズを行なっていた場合は、移植や再調整の必要なくそのまま流用できる。AR-15ファミリーを採用している軍や法執行機関も比較的安価に更新が可能となる。
そのため、コスト削減のためにデルタフォースなどはアッパーレシーバーのみを納入し、従来のM4カービンのロアレシーバーと組み合わせて使用している。
また、現在では416のロアにM4のアッパーを載せている構成も存在している。
アドオングレネードランチャーであるGLM(M320)の装着が可能だが、実物はエアソフトガンと異なりハンドガードの下部レールに差し込むのみではなく、専用のアダプタをM320へと取り付け、ガスブロック部の穴へも固定する。(M320のエアソフトガンはM16やM4カービンへの取り付けは対応した銃用のアダプタを取り付けてM203同様に銃身へと固定する機構を再現しているものはなく、すべてレールを介した取り付けとなっている)
現在、H&K製標準スチールマガジンは、通常のNATO STANAGマガジンより少し長いものとなっている。
ポリマーマガジンはMAGPULなどと異なり、全体が半透明樹脂となっている。
欠点としては、ガスピストン式ゆえにARと比較して重量がかさむ、反動がきついなどの問題がある。
また、銃身の薬室周辺が一般的なAR-15とは寸法などが異なっており、同じ長さでも通常のライフルの銃身と異なりバレルエクステンション部が長く、それに合わせてアッパーレシーバーの銃身固定のネジも長めになっている。
さらに、位置決めピンも異なり、一般的なAR-15の円柱状の部品をバレルエクステンション部に差し込んでフレームと合わせる構造ではなく、銃身とフレームの切り欠きにキーを差し込む構造となっている。このため、フレームを含めてAR系統のカスタムパーツとは互換性がない。
なお、高精度の設計と生産数の少なさにより値段が高めであったが、最近では量産効果によりこなれてきている。参考までに調達価格はM27IARは約33万円、HK416Fが15万円(銃身を除く)、日本では20式小銃が28万円。
改修
採用にあたり要求等により改修モデルが作られており、2021年時点での最新モデルはHK416A8となっており、G36に代わってドイツ軍に採用されることが決定した。
A5ではアッパーの銃身根元が弱いという問題が改修されており、外見的にはレールの銃身側付け根部分にピンが追加されている。(このため、銃身やバレル固定用ナット、ガスピストンカラー、アッパーフレームなどの互換性がない)
さらに、ロア側はファイアリングピンセーフティの搭載、ロアフレームの形状を変更してマガジンキャッチやボルトリリースレバーが左右どちらからも操作可能となる、ガスブロックにレギュレターの追加、2ステージトリガーの採用、ハンマーダウン時にセーフティポジションが選択可能となるディスコネクターなどの既存の改修に加え、セレクターの操作角が45度になる変更がなされている。
改修により使用可能なオプションが増えており、MAGPULのポリマーマガジンのように既存の製品への対応のみならず、サプレッサーのように専用に開発されたものもある。
銃身のアメリカ納入分最終工程は、現在はダニエルディフェンス社が担当している。基本的にヘビーバレルが使われているが、ガスブロックの改修によりハンドガード内の銃身部分を細くすることが可能となり、軽量化された銃身へと変更されている。
昨今ではそもそも416のパーツはARとの互換性が薄く、パーツの値段が高いことが仇となりアメリカ軍では代わりにSCARを採用したり、NoveskeN4やSIG MCX、ガイズリーGA-M4(10.3インチ)といった新たな銃が採用され始めたことにより、特殊部隊では段階的に廃止され始めている。しかし、代替となる銃にトラブルが生じるなどにより再びHK416を使用する例もあるため、完全な入れ替えはまだ先となる模様。
特殊部隊での採用が減っている一方で、価格がこなれてきたことにより一般部隊での採用が増えており、本国ドイツ陸軍だけでなく、アメリカ海兵隊、フランス陸軍、ノルウェー陸軍で主力小銃として採用された。
フランスでは採用にあたってフランス製銃身を採用している。後に民間用向けでは上記のBrownellsが銃身を含む専用パーツを販売。
派生型
HK416C | ショートモデル |
HK416N | ノルウェー向け |
HK416F- | フランス向け。A5ベースだがガスレギュレータがない。14.5インチ銃身モデルはHK416F-S(Standard)、11インチ銃身はHK416F-C(Commando)となる。現在はFA-MASに代わってフランス軍に正式採用された。 |
HK416SF | 公的機関向けで単射のみ |
HK417 | 7.62mmに口径を拡大したもの |
M27IAR | アメリカ海兵隊モデル |
M38SDMR | 分隊選抜射手用モデル |
HK337 | .300AAC BLK口径 |
MR223/MR223A1 | ヨーロッパ・カナダ向け民生型 |
MR556/MR556A1 | アメリカ向け民生型 |
MR223A3 | HK416A5のヨーロッパ・カナダ向け民生型。ガスレギュレータはない |
HK416.22LR Rifle | UMAREX社の22LR仕様の416レプリカ。製造はかつてのライバルであり、現在はUMAREXの子会社になっているWalther社が担当している。 |
CA415 | アメリカのコハリーアームズ社の民生クローン |
BNR-4 | アメリカのBrownells社の民生クローンアッパーキット |
採用国の装備や運用方法、気候などに対応したモデルも用意されている。
登場作品
映画
- ザ・レイド
主人公を含めたSWAT隊員全員がサプレッサー付きのモデルを使用している。
プロップ自体はWE-Tech製のエアソフトガンでの空撃ちにVFXで薬莢のエフェクトを追加して撮影している。
- エクスペンダブルズ2
ブルース・ウィリス演じるチャーチが終盤の銃撃戦で使用する。エイムポイントM68が装着されている。
- ゼロ・ダーク・サーティ
DEVGRUのメンバーのほぼ全員が装備している。使用されたプロップはMR556A1をモックアップしたものでよく見るとフルオートシアピンが無い。
- キングスマン
マーリンがマグプルの20連マガジンを装着したモデルを使用するほか、キングスマンのアクセサリールームに複数用意されている。
- テネット
名もなき男がメインアームとして使用するほか、時間の挟み撃ち作戦などでほかの隊員の一部が所持している。
主人公のジョン・ウィックが一作目にてアメリカ製クローンであるコハリーアームズのCA-415を使用している。
ゲーム
14.5インチバレルのモデルとCモデルが使用可能。キャンペーンではブードゥーやマザーによって使用される。
14.5インチモデルが「M27」の名称で登場する。
- Escape from Tarkov
HK416A5が登場する。
余談
ゲームなどではしばしば名称が「M416」になる場合があるが、これは版権回避のために作られた架空の名称である。
というのも、HK社はこのような銃の版権に関しては他社と比べてもライセンス料が高いことが原因とされる。(UMAREX社やCyberGun社も同様な模様)
エアソフトガンでは、M4カービンなどのほかのAR-15と部品を共用するために外見に影響のない内部構造の一部をAR-15と同一に変えており、再現されているのは一部の高級カスタムやHK417などの一部に限られている。
関連イラスト
関連動画
HK416とMR556(HK416民間モデル)の比較 - Vickers Tactical(2015年2月)
HK416を用いた移動射撃 - T.REX ARMS(2018年2月)
HK416A5 最新モデルの紹介 - Garand Thumb(2021年8月)