概要
アサルトライフルであるHK416を原型として開発された歩兵用自動小銃(分隊支援火器)。
これまで米軍では専用設計の分隊支援火器であるM249を使用していたのだが、
- 機関銃の射手は遠目でも目立つために優先的に狙われる
- 銃自体が重すぎる、大量の弾がかさ張る
- 一戦闘あたりの使用弾数の減少
- 専用の訓練が必要で分隊の誰もが使えるわけではない
- 機関銃の射手は機動力が低下する
などの問題により、アメリカ海兵隊は独自に「分隊の誰もが使えるアサルトライフル型の支援火器」を開発するというIAR(Infantry Automatic Rifle)プロジェクトを発足させた。基本的にはM16やM4カービンと同じ操作で、専門の訓練を必要としないことが前提となっている。
プロジェクトにはコルトディフェンス(6940 IAR)、LWRC(M6A4)、FNH(SCAR IAR)、H&K(M27)、ゼネラルダイナミクス(ウルティマックス100 MK.5)、パトリオットオードナンスが参加し、最終的にH&K社のM27が採用された。
M27では精密射撃能力と軽さを重視しているためにバレル交換機構は採用されていないが、連続射撃に耐える16.5インチ長のヘビーバレルを採用している。そもそも、IARを必要とする状況ではM249でも長く撃ち続けるような運用はされておらず、ある程度狙ってバースト射撃を繰り返す制圧射撃を行なうため、銃身交換はほとんど行なわれていない(装備の軽量化のために予備銃身を持っていかないこともある)。
HK416譲りの精度も健在で、M16以上に正確な射撃を可能とし、アサルトライフル、マークスマンライフルとしても非常に優秀である。550mの有効射程を持ち、800m先まで制圧効果を発揮することができる。また、着剣機構を持つために銃剣の装着も可能で、海兵隊が得意としている銃剣突撃も可能となっている。
給弾機構はベルトリンク給弾のできないアサルトライフルのままなので、1マガジンあたりの弾数は減るものの、C-MAG(100発装填)やSureFireやMAGPULなどが開発した複々列マガジン(60発や100発装填)などの大容量マガジンを使用することで解決は可能となっている。しかし、マガジン自体の給弾不良や壊れやすいといった問題、軽量な分隊支援火器というコンセプトに合わないといったことから大容量マガジンは廃案となり、既存の30発装填のマガジンが使用されることになった。(なお、廃案となったものの大容量マガジンのテスト自体は継続されている)
M249の後継として採用されているが、完全に置き換えるものではなく、併用される(中隊指揮官が使用を判断する)ことになっている。
ほかのプロジェクト参加銃はオープンボルト(ボルトの閉鎖とともに発射し、発射時に閉鎖の衝撃があるので一般的に命中精度は劣る)とクローズドボルト(ボルトは閉鎖状態で発射)が併用可能で、精密射撃時にはクローズボルトで、フルオート射撃時にはオープンボルトで作動するという機構を搭載したものもあったが、M27ではそのような機構は採用されず、HK416と同様にクローズドボルトのみとなっている。
導入当初は不満たらたらだった現場も、使ってみると手のひらをひっくり返したように「こいつは一人二役をこなせる銃だ」「コイツの一発は従来の分隊支援火器の3、4発分の効果がある」と大絶賛している。携行弾数は規定では通常500発~1,000発(ベルトリンクの収まった200連マガジンや100連マガジンを複数)を携行するM249に対し、M27IARは最低480発、最大630発(30発入り弾倉×21個)と弾数は減少しているものの、M249以上に精密な射撃が可能であるため一発あたりの効果も増し、必要弾数が減るため、むしろM249よりも長く戦闘を継続することができる。
傾向としては余裕があるなら30発入り弾倉は規定以上の数を携行することが多いが、M249用の弾倉はかさばることから余分に持つことはほとんどないため、IAR使用時の実際の携行弾数は900発以上とM249とほとんど変わらない例もあるとのこと。また、共通の弾倉を用いることでアサルトライフルを使用する兵士から分けてもらうだけでなく、逆に機関銃手が他の兵士に弾を分け与えることも可能となった(ベルトリンクで繋がった弾薬を用いている場合はリンクから分解して弾を込めなければならず、戦闘中の受け渡しは不可能である。また、MINIMIでアサルトライフル用の弾倉を使用することは動作不良を起こす可能性もあり、あくまで緊急用で常用は避けることになっている)。
武器が軽いため兵士の疲労が少ない、ばらまく銃弾が減れば付随被害が減るというメリットも、昨今の戦争では見逃せない。
海兵隊では陸軍と弾薬の調整をするにあたり、ついに主力小銃をM16からM4カービンへと切り替えることもあり、マークスマンライフルとしての運用も多くなっていくことも予想されており、実際に(おそらく海兵隊が使用するMk318弾を使う場合)同口径のマークスマンライフルのSAM-Rより適していると判断され、M27を用いてマークスマンコースでの訓練も行なわれている。
ズームスコープを搭載し、マークルマンライフル仕様となったM27は、2017年12月にM38SDMR(Squad DMR:分隊選抜射手ライフル)として正式な配備がなされている。
また、海兵隊内ではM27は陸軍のM855A1弾薬を使うと給弾不良が起きるといった問題も報告されており、これは陸軍でもM855A1 EPR弾の装弾問題(銃弾先端が覆われずにスチールコアが露出している弾のため、すべりが悪い)が報告され新型のEPMマガジンを採用するにまで至ったが、今回に至ってはM27が問題視されている。
海兵隊では給弾不良に対処するためPMAGを採用することを決定した。当初は原型となったHK416同様にPMAGとの相性が悪く(マグウェル部とマガジンのワッフル模様が接触して使用できない)、一部の部隊では使用を禁止しており、2012年に正式にPMAGを含めた非GIマガジンの使用は禁止となった。当時は対応したEMAGやPMAG(Gen3)が登場していたが、使用は認められていなかったために海兵隊員のなかには私物として使用していたものもいた。その後、PMAG M3を正式に採用、陸軍のEPMマグも訓練用として限定的に採用されている。
しかし、M27にM855A1を使用することによって起きる問題は給弾不良だけではなく、ボルトの故障やバレルの故障も報告がされており、米軍の弾薬共通化の理想実現に新たな障壁が出たともいえる。M855A1は設計当初の想定した弾薬(M855)より腔圧(こうあつ)が高いため、このような不具合が起きることが予想される。
ちなみに、M27IARの初期型にも似たような問題が起きている、HK416のガスピストンシステムは元々短銃身での動作を前提としていたことが原因でバレルの長くなったM27ではM4よりボルトの寿命が低かったことが問題視され、そのときの破損に対しては対応部品への交換による対応が行われた。民間仕様のMR556A1ではバッファーを重くすることによってこの問題を解決させている。
ちなみに、IARプロジェクトは海兵隊独自の計画であり、陸軍などでの採用の予定はない。
また、海兵隊の特殊部隊であるMARSOCはM27IARを採用しないことを伝えている。理由としてはSOCOMアッパーレシーバーを装着したM4A1と比べてメリットがないこと、M27のバレルは長すぎるためCQB等で不利なこと、M27のロワーレシーバーはSOCOMアッパーのM4A1と互換性がないこと、部隊の規模が小さくM27よりMK46やMK48の方が高火力なため都合がいいことなどを挙げた。
その一方で、マークスマンライフルであるM38SDMRには関心があることも示している。しかし、M38に関しても同様の問題があることと、テストをする必要があるとも併せて述べている。
米海兵隊の制式小銃へ
2018年に従来のM16A4/M4に代わる制式小銃となることが決定した。2024年現在、Trijicon VCOG 1-8×28スコープ(2020年にACOGの後継として海兵隊が採用)とKAC NT4サプレッサーを装着したものが主力小銃として配備されている。さらに同じく海兵隊のフォースリーコンはHK416A5の11インチアッパーをM27のロウワーに装着したものを使用している。これはM27RWK(Reconnaissance Weapons Kit)と呼ばれている。
当初は分隊支援火器として採用されたはずの銃が何故か最終的には制式小銃となったため、「M27 IARがM249 SAWの後継というのはあくまで建前で、実は最初からM27という米海兵隊仕様のHK416でM16/M4を更新する計画だった」という説もある。
関連動画
「M27 IAR」 アメリカ海兵隊・分隊支援火器(歩兵用自動小銃)(2015年5月)
アメリカ海兵隊の新型ライフル M38 SDMR(分隊選抜射手ライフル)(2018年5月)