分隊支援火器
ぶんたいしえんかき
野戦などで分隊(10名程度の最小の部隊)が行軍する際に、隊が円滑に進攻出来るよう、援護、制圧射撃をおこなうための重火器のこと。
上記イラストのような状態に敵を追い込み、行動を一時的に制限することを、軍隊においては制圧すると表現し、そのための射撃のことを制圧射撃と呼ぶ。援護すると言えば基本的にはこの制圧射撃のことを指す。敵を遮蔽物の陰に逃げ込ませ、もし頭を出そうものなら右端の兵士のように撃ち抜かれる(かもしれない)という状態を作り出し、敵が遮蔽物の向こうで動けなくなっている間に味方が前進、あるいは迂回して距離を詰めるのだ。
これを行うために生まれたのが機関銃という兵器である。
だいたいこいつらのせいで多数の敵を薙ぎ払う破壊兵器としてのイメージが強い機関銃だが、本来の役割は敵兵の行動を一時的に制限するというものだ。その間に味方の歩兵が前進、突撃し、敵兵を殺傷ないし拘束することにより戦闘が終結する。
しかし、機関銃は総じて重く、大きく、扱いづらい。陣地にどっしり構えて敵の突撃をくじくという戦法において機関銃は無類の強さを発揮するが、攻勢に持ち込むのがとても難しかった。速やかに前進していく歩兵に継続的な支援を行うため、歩兵に随伴できる軽量な機関銃が求められたのだ。
ライフルよりも多くの弾をばらまき、しかし機関銃より軽くて取り回しやすい、そんなないものねだりに答えたのが分隊支援火器である。
分隊支援火器(分隊支援機関銃)の利点と欠点
上記のとおりである。アサルトライフルより堅牢で長時間の制圧射撃を行うことができ、しかし機関銃より軽くて取り回しやすく傾向性に優れる。また反動制御を容易にするためアサルトライフルと同じ弾薬を使用することが多く、兵站への負担も少なくなる。
逆を言えば、アサルトライフルよりは重く、大型の機関銃には弾幕密度や堅牢さ、銃弾の威力で負けるのが分隊支援火器の欠点である。
また援護射撃兵の育成に関しても、専門分野を一つ増やす結果になるため、各分隊に据え置こうと思うと、人材の補給や再教育が急務となってしまう。
あれば便利ではあるが、計画的な運用法や部隊編成が必要な武装と言えよう。
二つのパターン
・専用設計の分隊支援火器
MINIMI(左)やRPD(右)など。ゼロから分隊支援火器として作るため、堅牢に作ることが可能で、専用弾倉によりアサルトライフルよりも圧倒的に多量の銃弾を連続して発射が可能。MINIMIは銃身交換も簡単。分隊支援火器としての理想を突き詰めることができる。
ただし開発費用がかさみ、ほかの武器との部品共有がほとんどできず、整備、修理の方法も独特であるため、高価になりがちで兵站にも多大な負担をかける。専用弾倉を使用した場合前線で銃弾を融通しあうことも難しい。
使用方法もアサルトライフルとは大きく異なることが多いので、使用者の技術もより専門的なものが必要となってしまう。外観がわかりやすいので狙い撃ちにされやすいというのも欠点。
・アサルトライフルからの派生品
RPK(上)やL86(メイン画像)など。専用設計のものとは利点欠点が逆で、部品の共有化により兵站の負担を軽減し、整備修理使用法もアサルトライフルと似てくるため必要な技術の専門性も下がる。
しかし耐久性や連射力、銃身交換など、分隊支援火器としての性能を妥協する必要がある。
だが現在、射撃理論の発達により、今までのように多数の弾丸をばらまくのではなく、高精度な射撃を丁寧に打ち込むことで制圧射撃の効率を上げようという動きもある。海兵隊が導入したHK416の派生品であるM27IARのように、今まで専用設計の分隊支援火器を使用していた組織が新たにアサルトライフルからの派生型を導入した例もある。
妥協策でしかなかった派生品も、今後は積極的に選ばれる選択肢となっていくのかもしれない。
「分隊支援火器」という和名からその本来の姿をイメージすることは難しい。
字義通り読み取るとマークスマンライフル、グレネードランチャー、小型の迫撃砲なんかも該当しそうだが、分隊支援火器といえば基本的には今まで解説した、威力や耐久性に妥協し携行性を高めた機関銃のみを指す。
これは分隊支援火器がSquad Automatic Wepon(SAW)の訳語であるためだ。「分隊付き自動火器」とか「随伴機関銃」とかもうちょいイメージしやすい訳し方はなかったのかと思うところだが致し方ない。