概要
マスケットという単語自体に銃の意味を含むため、正確にはマスケットである。
フランスで銃剣が発明されたことにより、槍としての機能も持つようになる。
特徴
着火方式と銃身の形状により分けられる。
- タッチホール
- 一番単純な方式で、銃身に開けられた穴へと手に持った火種を突っ込み点火する方式。
- サーペンタインロック
- Z字もしくはS字の金具を操作し、銃身に開けられた穴へと火種を突っ込む方式。
- マッチロック
- 機構はトリガーと火種部分が分離しており、バネ等により機構が作動するようになった。
- 点火方法は火皿へと火縄を突っ込み、点火薬を介して銃身内へと火を導く方式。
- ホイールロック
- 黄鉄鉱をやすりの付いたローラーでこすり火花を散らす方式。乱暴に言ってしまえば100円ライター方式。
- フリントロック
- 火打石の付いたハンマーで火打ち金を叩く事で火花を散らす方式。
- パーカッションロック
- 銃身に取り付けた筒にパーカッションキャップ(雷管)をかぶせ、それを叩くことで点火する方式。
- ライフルドマスケット
- ライフリングを刻んだ銃身を持つマスケット銃の事。
- マスケットーン
- 極端に銃身が短いマスケット銃の事。
- ブランダーバス
- 石など適当な物をなんでも詰めて撃ち出せるようにする為、銃口がラッパの様に広がったマスケット銃の事。現代の散弾銃のご先祖とも。日本ではラッパ銃とも呼ばれる。
- カービン
- 馬などに騎乗して撃つ事を想定し通常の物から背負いやすくしたり軽くしたり銃身を短くした銃の事。騎兵銃。
短所
前装式の銃なので、熟練した射手でも射撃速度は1分に2発程度、ライフリングを持つ銃であればさらに遅くなる。
滑腔式である通常のマスケット銃は口径より小さい径の弾丸は銃身に密着せず、発射ガスが漏れることで有効射程が非常に短く(条件が良くて平均80m程度、条件が悪ければそれ以下で殺傷力がなくなってしまう)、手作りのために個体により微妙に口径が異なる、弾丸も球形が主流であったがちゃんとした球形とならずに出来の悪い金平糖のような有様だったため、集弾性を上げるためには現代と比べ物にならない精度や工夫が必要であった。
更に使用する火薬にも問題があり、黒色火薬の燃焼時に生じる煙と刺激性ガスが発砲のたびに周囲に撒き散らされるため、発砲を繰り返せば煙により視界は悪くなり、更にガスにより目はまともに見えなくなると悪条件が積み重なっていく有様であった。
更に点火しても薬室まで火が伝わるまでタイムラグがあり、火薬自体が燃焼速度が安定しない事に加え、(安定しない燃焼速度を無視したとしても)点火薬の量の差によって発射のたびにタイムラグが変わる、等の様々な条件により発射のたびにタイムラグの時間が変わってしまうので、動く目標を追いかけつつ撃つのは難しかった
点火機構の問題もあり、フリントロック式では火花を飛ばすために衝撃を与えるという構造上の問題で衝撃により狙いに影響を与えてしまい、マッチロック式でさえ火種を取り付けた金具がばねで動くという都合上、多少なりとも影響を与えてしまう
フリントロック式では燃焼により形状が変わってしまう火縄等を用いないものの、数発撃つごとにハンマーのあたりの調整をする必要があった。
サーペンタインロック式では直接火種の付いた部分を操作するために衝撃による影響こそないものの、火皿を介さずに直に火種を火穴へと突っ込むのでうまく差し込まれるように火種と金具の両方を調整する必要があった。
要するに一般的には精度が悪く、飛距離も無く、撃つたびに視界も悪くなる為に、相手の白目が見える距離という現代からすると至近距離といえる距離での集団戦術が基本である(至近距離のため、すぐに乱戦に突入する事から視界が悪い中での同士討ちを防ぐ為に派手な軍服が主流となった)。
大口径マスケット銃に複数の銃弾をまとめて装填してショットガンのように用いていたこともあった。
アメリカの独立戦争や南北戦争時には複数の銃身を並べ、一つの火皿で同時発射する大型のボレーガンと呼ばれるものも作られている。
また、多銃身同時発射のノックガンのように携行可能なものも作られており、ボレーガンも銃身数を減らして携行可能にしたものも作られている。
拳銃でもダックフットピストルと呼ばれるものが作られており、複数の銃身を扇状に並べて同時発射する構造となっていた。
ホール式(銃身とは別部品となっている薬室部が稼動するので、銃身を通さず薬室に直に装填可能となっていた)のような後装式に近いマスケット銃も開発されていたが、製造コストが高く、装填が容易ではないことから主流にはならなかった。
パーカッションロック式が主流となると多薬室多銃身でリボルバー構造を持つペッパーボックスピストル、パーカッション式リボルバーのような連射可能なものも登場していた。
長所
射程も威力も弓矢に劣る非常に使い勝手の悪い武器であったが、射手の育成が容易であるという利点があった。
また、射程と威力が劣るとはいうが、それはマスケット以前のアークィバスやハンドガン、またはイングランドや東方国家のように地域として弓文化が発達している地域での話であり、16世紀以後に出てきた大口径長銃身のマスケットは一級品の鎧以外は撃ち抜き、100m前後でもオークの的を2cm程度なら撃ち抜く有効射程を誇っていた。(ただ上述の通り、撃てば撃つほど悪条件が積み重なっていくので、これらの性能は現代のように徹底して整備された完璧な設計の銃とマスケット弾。そして自然環境・銃の特性をすべて把握し、完璧に調整された弾薬を装填した狙撃手の第一射・・・と戦場では不可能な理想的コンディションでの話である。)
後装式の近代銃(ライフル)に比べ性能の悪さが目立つものの、現代にも通用する利点はある。
かつては都市伝説な扱いであったが、煙草の吸殻を束ねた物でも至近距離であれば十分に殺傷能力を持つことが実験で証明された(MythBusters:Ep.84)。
柔らかかったり砕けやすかったりと一見殺傷力のないような物でも距離次第では十分な殺傷力を持つので遊びで適当なものを撃ち出す場合は射線に注意する必要がある。
このためマスケット(前装銃)は「どんな弾でも撃てる銃」どころか「火薬さえあれば何でも銃弾に変えられる武器」とも言える。
歴史
誕生した16世紀の頃、主流であったアルケブス銃(火縄銃)に対し大型の銃のことをマスケット銃と呼んでいた。これはアルケブス銃と比べて威力は高い反面、重いため叉杖を必要としていた。
またこれらの火種を用いる方式を、後述のフリントロック式に対してマッチロック式と呼ぶ。
17世紀にはマスケット銃は軽量化されアルケブス銃と大して変わらなくなり、アルケブス銃もまたマスケット銃と呼ばれるようになった。この頃にはフリントロック式(火打ち石による着火方式)が発明され、18世紀にはこの方式が主流となった。
ナポレオン戦争後には雷管による着火方式(パーカッションロック式)が使われるようになるが、19世紀後期には薬莢の発明により後装式の銃が主流となり、マスケット銃は使われなくなっていった。
マスケットはライフリングのない滑腔銃として知られているが、ライフリングが施されたマスケット銃も存在する。
ライフリング自体は15世紀末から16世紀半ばにかけて発明、改良され狩猟用として広まっていたが高い製作費、遅くなる発射速度、増える弾込めの手間により軍では普及せずに主に猟師が使用しており、戦争ではアメリカ独立戦争当時の民兵が狙撃用に使っていた程度である。
しかし、1849年にフランスでミニエー弾丸と呼ばれる椎の実型の銃弾が開発された。
旧来の丸い弾丸ではライフリングに食い込ませる為に大き目の弾丸を押し込める必要があったが、クロード・エティエンヌ・ミニエーが設計したこの弾丸は内径より小さい弾丸ではあったが発射時の圧力で銃弾後部が膨張してライフリングに食い込む構造となっていた。
ミニエー弾丸は1857年にフランス陸軍に採用され、他国も追従し採用することとなった。
現在ではむろん骨董品だが、アメリカではライフルやショットガンよりも猟場での規制が緩く、所持規制もゆるい事から、メーカーが『現代風前装銃』を製造するなど、現役の猟銃として一定の需要がある。
過去のマスケットで問題となっていた精度が悪い点も銃身のみならず弾丸の鋳型であるモールダー等が工作技術の向上により正確さが飛躍的に向上しており、制度や飛距離も猟銃として使うのであれば後装式の近代銃と変わらない性能を持つものもある。
銃弾メーカーもマスケット専用の弾も製造しており、丹銅で覆われた弾(フルメタルジャケット)を使用しなければならなかったり、環境規制などにより鉛製の弾が使用できない場合、適さない銃弾の使用による銃身の過剰な磨耗や破損、停弾等を防ぐために樹脂製のサボットで覆われた弾等が用意されている。
火薬は代替黒色火薬が使われており、旧来のものと比べると燃焼速度は安定し発射時に発生する煙や刺激性ガスは抑えられている。しかし、燃え残りやすい問題は残っており、発砲後には火薬滓の再燃焼を気にしなければならない欠点はそのままとなっている。
火薬は従来の粒状のもの以外にペレット状に固められたものもあり、火薬量の微調整こそできなくなったものの装填時に零してしまい量が変わってしまう事はなく、個数により量を調整するので火薬量の計量が容易となっている。
また、現代的なものであれば未発砲時には尾栓を外して朔杖で押し出して排出する際に、尾栓を容易に外せるようになっているものがあり、ものによっては工具すら不要で手で回して外せるものもある。
現代の銃であるAR-15をマスケット化するキットやM700系シャーシに使えるマスケットアクション及び銃身といったものも登場している。
サイレンサー付銃身を使用したものも登場しているが、さすがにこちらは規制対象となっており、相応のライセンスが必要となる。装填もサイレンサー内に火薬が入ると故障や事故の原因となるため、装填用のパイプが必要になるので手間が一つ増えるなど、少し面倒となっている。
日本では国内においても競技団体が存在するが、猟銃としての使用や新規製造は禁止されている。
また法律上は『古式銃』という扱いになる。これは各都道府県公安委員会による所持許可が必要な『銃砲』とは異なり、教育委員会に登録される『美術品』であるため、単に所有するだけなら現代銃より規則が緩い。ただし射撃に際しては火薬の使用許可等を警察署に申請するだけでなく、使用を許可してくれる射撃場を探して出向く必要があるため、いざ撃つとなると現代銃より面倒である。
他国でも現在も猟銃として現役な国はあるが、アフガニスタンではゲリラのアメリカ軍への攻撃の際にマスケットが使用され、敵勢力が使用した武器の資料として押収、保管されている。
ちなみに日本でも著名な「三銃士」でいう「銃士」とは「マスケット銃を使う兵士」の事なのだが、劇中では主に剣での戦闘が多く禄に使用されないため全く印象に残らず、「三銃士」絡みの作品で描写される例も皆無に近い。
最近はとあるトラウマ魔法少女が乱射していたため、急激に日本での知名度を増している。
そのほか、HELLSINGで魔弾の射手ことリップヴァーン・ウィンクル中尉も愛用している。
BLACK LAGOONではロベルタが、ボディアーマー対策に弾込めに使う朔杖を弾丸代わりに発射(OVA版)、通常の弾丸ではなくフレシェット弾を使用(原作漫画)という使い方を披露した。
子連れ狼の連発銃(画を見る限りでは銃身が20本)は上述のボレーガンがモデルと思われる。
関連イラスト
関連タグ
三銃士(The Three Musketters)
ハスクバーナ - 元々はマスケット銃を製造していたスウェーデンの企業