概要
「制圧射撃」とは、メイン画像右側の一団のような、もし顔を出せば敵に頭を撃ちぬかれる(かもしれない)状況に敵を追い込み、行動を制限することにより、味方の行動を助ける射撃手法のことを指す。
制圧射撃を行うことによって敵の攻撃行動を阻害すれば、その間味方が自由に行動することができる。
同様の手法について、味方の行動を助ける部分に注目した場合、これを援護射撃と呼ぶ。本格的な戦争映画で「援護する!」「援護してくれ!」といった場合はおおむねこの制圧射撃のことを指していると思って間違いない。
映画やゲームで銃撃戦を見ていると、あたかも銃撃とは必ず敵への命中を目的とするものであると勘違いしがちだが、現代の戦闘で行われる射撃の大半はこの制圧射撃である。
軍隊の行動目標は敵将兵の捕縛、敵陣地の占領、敵設備の破壊等であり、敵兵の殺傷はあくまで手段の一つでしかない。
制圧射撃は近代軍隊の基本戦術であり、その他歩兵が取るあらゆる戦術は、的確な制圧射撃を前提として組み立てられているといっても過言ではない。
なお、引き金を引きっぱなしで弾倉一本分一気に、ということはなく、撃つのは数発からせいぜい十発程度ずつが基本。
M134等の場合、構造等の都合からもうちょっと増えるが。(M134の場合、GE社製の初期のモデルは短い射撃を行うとジャムが起きる可能性があるため、ある程度の射撃を行う事になっていた)
具体例
・二つ以上の班が交代で制圧射撃を行い、互いを援護しながら移動(前進・後退/撤退)
・一方向から敵兵を制圧し、その隙に側面や背後に回り込んで攻撃
・爆弾を設置する工兵のために敵兵を制圧して時間稼ぎ
・車載機関銃で進行方向を制圧しつつ突破
・輸送ヘリのドアガンで着地地点を制圧してる間に兵士が降下/搭乗
制圧射撃のための武器
機関銃
制圧射撃の概念を生み出した画期的兵器。フィクション作品に登場するM134やM2が敵兵を薙ぎ払うさまは実に爽快だが、現実での役目は撃破ではなく制圧。
長時間敵兵を制圧するため頑丈に作られており、程度の差はあれど、重くてでかく、持ち運びに難がある。
広範囲を制圧するために敢えて精度を落としていることもある。
ガトリングガン
複数の砲身を束ねることにより異次元の発射速度を達成したが、重量も異次元。
歩兵による持ち運びは最初から想定されておらず、もっぱらヘリや車両に積んで運用される。
重機関銃
すごく強い。かなりでかい。クソ重い。
12.7mmクラスの大口径弾が生み出す制圧力はけた違いなのだが、やっぱり重量もけた違いなのでヘリや車両への搭載、陣地への設置がメイン。
どうしても持ち運ぼうとするなら三分割して三人がかり。短い距離ならば分解せずに複数人で銃架ごと持ち上げて移動する事も。
軽機関銃
上気の欠点を改善するべく作られた軽量の機関銃だが、のちに重機関銃的運用でもそこそこ役に立つ汎用機関銃が登場したことによって廃れる。
汎用機関銃
重機関銃的運用から分隊支援火器的運用まで幅広く対応する、重機関銃より軽く、分隊支援火器より高威力の機関銃。
裏を返せば重機関銃より低威力で分隊支援火器より重い。
分隊支援火器
小口径小銃弾を使用するアサルトライフルの誕生により、分隊内で弾薬を共有できる機関銃が求められたために誕生した。
汎用機関銃よりさらに軽く、取り回しが良くなっているが、さらに威力が下がっている。
銃架に載せられたものであっても外して持ち歩く事が出来たりで歩兵の移動方法の変化に追従が可能。
短機関銃
機関銃を語る上で仲間外れにされがちだが、アサルトライフル登場以前、塹壕戦や市街戦においてはサブマシンガンが軽便な制圧火器として重宝されていた。
現代はアサルトライフルにその地位をほぼ譲ったが、後進国や法執行機関等では現役。
アサルトライフル
小銃手でも制圧射撃ができるというのはアサルトライフルが現代歩兵の主力銃火器となった理由の一つ。重たい機関銃は歩兵の動きについてこれないことも多く、そうした状況ではアサルトライフルの制圧力が歩兵を支えることになる。
分隊支援火器が最前線での制圧役を引き受けるようになったが、分隊支援火器は数に限りがある(費用の問題もあるが、分隊支援火器を増やしすぎるとアサルトライフルでの精密射撃役が減ってしまう)ので、アサルトライフルの制圧力も不要となったわけではない。
分隊支援火器的な役割を持ったアサルトライフルも登場している。
榴弾砲
着弾地点から半径数十メートルの敵を殺傷するということは、着弾すると思われる地点から半径数十メートルの敵に避難を強要できる、ということでもある。一列に並べて一斉発射すれば敵を大隊単位で塹壕や建造物の中に引きこもらせることが可能。歩兵部隊にとって砲兵はまさしく女神。
運用できる場所は限られるものの、戦艦等の艦砲射撃も同様の役割を果たす。
迫撃砲やグレネードランチャー等も規模こそ小さくなるものの、輸送や携行が比較的容易で、同様の役割を果たす。
航空機
航空機が機関砲を向けて降下して来れば、歩兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出すほかない。
ただ爆撃にしろ機銃掃射にしろ、一度通り過ぎたら戻ってくるまで攻撃が出来ないため、持続的な制圧力がない、というのは大きな欠点。
上空を旋回するガンシップや留まる事のできるヘリなら話は別だが。
フィクションにおいて
本格的な戦争映画ではまず間違いなく登場するが、一方アクション性、娯楽性の強い作品だと、機関銃が次々と敵を倒していったり、敵の乱射で主人公が物陰に制圧されているのに一向に前進してこなかったり、なんてこともしばしば。
まあ、銃弾は次々当たった方が気持ちがいいし、制圧射撃は素人からすると無駄弾を撃ってるようにしか見えないんだから仕方ない。
戦争を扱うゲームにおいても描写されることは少ない。先述したように銃弾というのは当たった方が気持ちがいいので、快適なゲームプレイを演出するため、プレイヤーがどれだけ濃密な制圧射撃を展開しても、敵は無防備に飛び出してきてくれる。
一方プレイヤー同士においても、現実と違って弾が当たっても痛くもかゆくもなく、至近弾に恐怖も感じないため、二、三発の被弾は気にせず突っ走る、なんてことが当たり前に行われてしまい、制圧効果はほとんど発生しない。
もちろん全てで制圧射撃が意味がないわけではなく、被弾時に硬直して無防備になる事がある、数発もしくは一発でも食らえばあっさり行動不能となる、被弾しなくとも近場に弾が降り注ぐことで画面が見辛くなったり照準がぶれやすくなるなどの不利益が生じる、というゲームもある。
ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)開発のタイムクライシスシリーズなどは基本プレイヤーは制圧射撃を受ける側で、遮蔽物や盾等に隠れながら射撃のすきをついて攻撃していく事になる。
UBISoft開発のBrothers in ArmsやTom Clancy's The Division等では、敵兵に対する制圧射撃が前提にバランスが整えられており、制圧射撃を行えば敵兵を遮蔽物の向こう側に制圧し、索敵能力を大幅に下げ、その隙に分隊員を接近、迂回させて決定打を与える、といった戦術も可能となっている。
The Divisionではカバーしている敵を制圧状態にすることでプレイヤー側が遮蔽物間の移動速度の上昇やヘッドショット威力の上昇等の有利な効果が発生するタレント(特殊能力)を持つ装備があり、単純に敵の動きを制限するのみではない重要な要素となっている。
一方、任天堂開発のSplatoonも、戦争の臭いは欠片もしないカジュアルゲーでありながら、非命中弾による制圧射撃的戦術が非常に重要となっている。
サバイバルゲームにおいては基本的には一発でも当たってしまえばヒットとなり退場となってしまうため、非常に重要な行動ではあるが、近年のエアソフトガンでは銃の種類を問わず(やろうと思えば拳銃でも)に大量のBB弾を長距離から絶え間なく撃ち続けることも可能となっており、ゲームが硬直状態に陥りやすくなり、非常につまらないゲームとなってしまう。その為、携行弾数や1マガジンあたりの弾数を制限する事等が行なわれている。