概要
米軍制式採用の自動小銃。AK47と並んで有名なアサルトライフルである。
弾薬を選んだりメンテナンスの手間があるが、命中精度が高く軽量で全体的に扱いやすい構造であり、反動も極めて小さいと言われる。
登場した当初は木製部品を使う事が当たり前だった銃火器業界において、全体的に黒い色で一際目立つデザインであったため「ブラックライフル」と呼ばれた。
ベトナム戦争の時期に採用・実戦投入され、改良を受けつつ現在まで制式ライフルの座を守っている。
「M16」は米軍の形式番号であり、アーマライト社及びコルト社の商品名としては「AR-15」。
本体の主要部品にアルミ合金を使用し、プラスチックも多用されている。ライフルと言えば鉄と木で出来ているという開発当時の常識を破る画期的な製品で、後続に多大な影響を与えた。
ピストルグリップ付きで、銃身からバットプレートまでが直線状に並ぶ直銃床のため、連射時の反動を受け止めやすい。
ジョンソンM1944軽機関銃を参考とした、本体後方のバッファーチューブ(レシーバーエクステンション)の中にリコイルスプリングを入れた構造が反動軽減に役立っているが、このためストックの短縮可能距離に制限がかかり、横方向への折り畳みが出来ない。
民生品には機構をそのままに折りたたみ可能とするカスタムパーツが登場しているが、折りたたんだままでは射撃不可能となるものが殆どである。ショートチューブに交換した場合は専用のボルトキャリアやバッファーウェイト等を必要とする場合もあり、互換性の問題が生じる。なお、.22LR仕様はバッファーチューブ不要のため、折りたたみストック化も容易。
リコイルスプリングをバレル上部へ移したLR-300は大幅に構造が変えられている。
これはバッファーチューブの問題であり、M16タイプのダイレクト・インピンジメント方式の問題では無く、DRD Paratus-18はM16の作動方式を採用しているがストックの折りたたみが可能である。
開発の経緯
航空機メーカーのフェアチャイルド・エアクラフト社の銃器開発部門であるアーマライトの技術者 ユージン・ストーナーにより開発された。
M1ガーランド後継銃のトライアルに、M16の原型となったAR-10も参加したが、スプリングフィールド造兵廠のT-44が勝ち残り、1957年にM14として制式採用された。
しかし、トライアルを見学していた米本土総軍司令官ウィラード・ゴードン・ワイマン大将は、SCHV(Small Caliber/High Velocity) 弾薬共通化へ向けてのライフル試作に、アーマライトの参加を要請する。
試作にはウィンチェスターがM1カービン、スプリングフィールド造兵廠がM14ライフルをそれぞれ.223レミントン弾仕様にしたもの、アーマライトはAR-10を縮小したAR-15で参加し、AR-15の評価が高かったが、まだM14を制式採用したばかりだったこともあり、計画は白紙に戻された。その後、AR-15の製造権は75,000$でコルト社に売却された。
アメリカ軍はベトナム戦争でM14の取り回しの悪さに苦しめられ、AK-47などを装備する北ベトナム軍やベトコンに対し不利な戦いを強いられた。
1961年、アメリカ空軍がM2カービン(※M1カービンのフルオートモデル)に代わる小銃としてAR-15を「M16」として制式採用。1963年、アメリカ陸軍がAR-15を「XM16E1」として実験的に配備し、.223レミントン弾が制式化されM193弾となった。1967年にはM16A1として陸軍に制式採用された。
M16の製造はコルト社が担当し、委託によりゼネラルモーターズ社やH&R社が製造したこともあった。コルト社の経営危機により、現在は製造権がアメリカ政府に移り、主にFNH USAで製造されている。
保守的な兵士には、未だにM14などの.30口径小銃の方が優れていると主張する者が多い。これはアメリカ特有のもので、19世紀末のモロ族との紛争の経緯で今でも.45ACP拳銃が神聖視されているのと似ている。
仕様
全長 | 985mm(M16A1)/999mm(M16A2) |
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銃身長 | 508mm |
重量 | 3,350g |
口径 | 5.56mm |
使用弾薬 | .223 Remington弾(~M16A1)/5.56mmNATO弾(M16A2~) |
装弾数 | 20/30発 |
M16のアメリカ軍用モデル
M16
1962年8月に南ベトナムに軍事援助として送った965挺のAR-15がジャングルの遭遇戦で戦果を上げ、その報告書が当時国防長官であったロバート・マクナマラを動かし、アメリカ空軍と南ベトナム軍に配備された。
最初期モデルで、先端に三つ又のフラッシュハイダーが装備されている。弾倉の装弾数は20発。ハンドガードは三角断面。
前線の特殊部隊に試験的に配備してみた所、報告書では「M14に比べて様々な点で勝っており、戦闘において高いアドバンテージを持つライフル」と評価が高かった。
一方で、ボルト閉鎖不良時は強制閉鎖する機構が無いためにボルトが引っ掛かり、整備のために分解すらできないなど、初期の設計ゆえに煮詰め切れていない部分もあった。
XM16E1
1963年11月、アメリカ陸軍の要請に基づいてM16に改良を施して登場したモデル。陸軍はXM16E1として試験採用し約85,000丁を発注。1964年にはベトナム戦争に投入された。
陸軍の要求によりボルト強制閉鎖機構(ボルトフォアードアシスト)を追加、フラッシュハイダーは三つ又から鳥かご型に交換された。
M16のチャージングハンドルは、ボルトと直結しておらず引っ張り方向しか作用しないもので、操作性や反動の少なさ等のメリットがあったが、作動不良のリカバリーや信頼性はやや難があった。
ボルトフォアードアシストの追加は「ボルトが正常に閉鎖しないときは銃か弾薬にトラブルを抱えており、無理して使用することは危険である」と考えるストーナーにとっては不本意なものであった。強制閉鎖機構を付けるなら後付ノブではなく、銃の設計を大幅に変えてボルトキャリアに直接ハンドルをつけて操作できるようにしたかったとの事。
チューリップと渾名されていた先が割れたフラッシュハイダーは、三叉の溝の部分に枝が挟まったり、銃口をぶつけてフラッシュハイダーが曲がると極端にクルービングが悪化したりと、軍用銃として欠点が目立ったため鳥かご型へと変更された。
初期納入分にはトラブルが頻発した。現場ではXM16E1不使用運動が起きたり、代替としてアメリカ製のHK33が支給されたり、敵から奪ったAK47が重宝されるなど一時期XM16E1の信頼は地に落ちる。
前進不良、装填不良、不発などの作動不良が頻発し、また銃身が細いため損傷しやすく(このため着剣が禁じられた)、白兵戦の際に敵を殴ると強化プラスチック製のストックが破損したりと、耐久性にも問題があった。本国でM14を使い訓練していた兵士が、戦場に行くと見たこともない銃を使わされた事が大きな原因であると言えよう。
ろくに整備もせずに運用され、クリーニングキットやマニュアルも支給されていなかった。
これは、弾薬が仕様と異なる火薬を使って製造されていた他、兵士達の間に(その未来的な外見故に)「整備のいらない銃である」、(コストダウンと錆を嫌いアルミ製に変更した為に)「マガジンを地面に落とすとはまらなくなる」というデマが流れたなど、運用面以外での問題が大きすぎた。(ちなみに落とした程度でマガジンがはまらなくなることはまずないが、給弾に関わるリップ部分が歪んでしまうと給弾不良を引き起こしてしまう。M16に限らずアルミ製マガジンでは起きやすいトラブルではある)
これを受けてメーカーの提示した弾薬の配備、兵士達にクリーニングの徹底を通達、(せくちーなおにゃの子の)イラストを多用した見易いマニュアルの配備、教習用の大型カッティングモデルを準備し構造の理解を深める学習などが行われた。
M16A1
1967年、XM16E1で露呈した欠点を改良したM16A1が制式採用された。
動作不良は過去の物となり兵士達からの信頼を取り戻した。ストック内にクリーニングキットを収納し、マガジンキャッチ周辺に誤作動防止用のリブを追加。歩兵用操作マニュアルの導入が行われた。
しかし、海兵隊など一部の兵士からの不信は拭い切れず、ベトナム戦争中にはM14を完全に置き換えるには至らなかった。
採用とほぼ同じ時期、AKの30連発弾倉に対抗してM16対応の30連発弾倉が新たに導入された。
退役後は支援物資として他国への供与されており、イスラエル等で使用されている。
海軍のものは退役後、倉庫で眠っていたがロアフレームの一部はMk18 Mod0やSPR Mk12の製造に使用された。
M16A2/M16A3
老朽化しつつあったM16A1を置き換えるべく開発されたモデル。
ハンドガードをリブ付きの丸型に変更、ストックを延長、使用弾薬をM193弾から5.56×45mmNATO弾に変更、ケースディフレクターの追加、アイアンサイトやグリップの形状を変更など、各部のさらなる強化を施した。アイアンサイトのリアサイトは、従来のモデルの簡素なものから一転して、精緻な修正が簡単にできるものとなった。
また、戦訓を元にA2ではフルオートを廃止して3点バースト機構が導入された。しかし、この3点バースト機構には信頼性が低く、後にフルオートモデルであるM16A3が開発された。
スチール製マガジンへの変更も検討されたが、軽量化に反するとして結局はお蔵入り。
A1~A2の時期のM16はM203と共に英陸軍特殊部隊SASに採用されており、元SASのアンディ・マクナブ氏によれば「ジャングル戦において非常に優秀な性能であり、整備をろくにせずとも動いた。その性能の高さから整備をしない兵士もいた。」と、ベトナム戦争の頃から一変して非常に高い評価を得ている。
M16A4
A2/A3のキャリングハンドルを着脱可能にし、ピカティニーレールを増設したもの。
左側にもセレクター刻印がされるようになった。
既存のアルミ製マガジンやマグプル製ポリマー製マガジンに混じり、スチール製マガジンもわずかではあるが使用されている。
短縮モデル
XM177/GAU-5
陸軍(XM177)と空軍(GAU-5)で使用された短縮モデル。将校や車両・航空機乗員の自衛火器として、或いは特殊部隊向けの小型で強力な銃として開発された。
M16シリーズとしてはごく初期にあたる1960年代半ばから仮採用モデルとして使用が始められ、制式採用を目指して数種類の改良モデルが投入された。
しかしながら、広く使用されたにもかかわらず仮採用の域を出ることは無かった。
その後もM16のショートモデルは広く使用されている。詳しくはCAR-15を参照。
GAU-5A ASDW
空軍で2018年6月に採用されたAircrew Self Defense Weapon(搭乗員用自衛火器)。
M4カービンをベースとしており、銃身部はCRY HAVOC TACTICAL社のQRB(Quick Release Barrel)Kitにより分割可能、グリップは折りたたみ可能なものを採用することで射出座席に収められるサバイバルキット内に入るサイズになっている。
M4カービン/M4A1カービン
M16をベースに製作された短縮モデル。
米軍に制式採用されたカービンライフルとしてはM2カービン以来54年ぶりの新規採用である。詳しくは「M4カービン」を参照。
M16による狙撃
スポーツシューティングやタクティカルシューティングでもM16(AR-15)系統のカスタム銃が使用されることは多く、M1911や自動装填式ショットガンと共々、愛用するシューターは多い。
なお、錆よりも変形による動作不良や装填不良を嫌う為、P-MAGといったポリマー製やスチール製のマガジンを愛用するシューターは多い。
M16A4にスコープをつけ、簡易狙撃銃として使用している、2010年頃のアメリカ海兵隊兵士の写真もある。
これはあくまでMk12SPRやRECCE(Seal Recon Rifle)といった軽量狙撃銃が配備されるまでの繋ぎであり、一般的にアメリカ軍ではマークスマンライフルとしてはM14系のセミオートマチックライフル、狙撃兵の武装としてはM700系等のボルトアクションライフル等が使われる。
または、M16の7.62mmNATO弾仕様であるナイツSR-25を狙撃銃M110、H&KG28(HK417)をM110A1として採用し、運用している。
Mk12やRECCEにおいてはM16より短い銃身でありながらライフリングピッチを変え専用弾を用意する事で高い精度を有しており、更に些細な発射ガスの乱れでも弾道へ影響を及ぼす事からガスブロックへと発射ガスを導く銃身の穴の位置にも気を使って製造されており、銃身製造上の都合からライフリングの位置が個体差が出るため、銃身によりガスブロックの位置が微妙に異なっている。
イラク戦争等において、都市部では大口径弾を必要とする長射程の狙撃は少なく、小口径弾ゆえの威力不足とされていたのは(ACOG等の低倍率光学照準機器の普及により)効果的に命中していなかっただけと判明し、ボルトアクションライフルでは不可能な速射(連射ではない)を必要とする事態も発生した。
このため、M16やM4をベースとした軽量狙撃銃が開発・運用されるようになった。命中精度向上のために弾頭重量を増し、射撃競技専用弾並みの高品質専用弾であるMk262弾の開発も行なわれた。
また、低倍率光学照準器の普及と訓練内容の見直しにより狙撃用では無い一般歩兵用のM16やM4でも的確な急所への命中が可能となった。狙撃兵ではない一般の兵士でも長距離から頭部等に当てることが容易になり、米軍兵によるゲリラへの処刑ではないかと誤解されたほどである。
強制閉鎖機構であるボルトフォアードアシストはボルトキャリアを横から押す構造である事から、命中精度に影響を与えるのではないかとも思われている為、精密さを売りにしている狙撃銃の場合はアシストノブは除去されているが、銃自体の問題や環境により閉鎖不良は起きてしまうものであるために構造上必要である事に加え、ゆっくりとチャージングハンドルを戻して意図的に閉鎖不良を起こしてボルトフォアードアシストで閉鎖することで静かに装填作業を行なえる、プレスチェック(薬室内への装填確認のために少しだけボルトを後退させる)後にも閉鎖不良とならずに確実な閉鎖を行なえるといった理由から、他の多くのボルトとチャージングハンドルが直結ではないセミオートマチックライフルにはない利点があることも明らかとなっている。
M16のガス直噴式について
発射の際のガス圧を機関部内に導いてその圧力を利用するダイレクトインピンジメント式(ガス直噴式)を採用している。ガス直噴式はリュングマンAG-42で実用化したため、リュングマン式と呼ばれることもあるが、AG-42の構造はガスでボルトキャリアを外から押すガスピストン式に近い構造となっているのに対し、DI方式はボルトキャリア内にガスを導いてその圧力でボルトキャリアを中から押す構造となっている。
長所
- 通常のガスピストン式と比べて反動を軽くする事が出来、M16系銃の場合バッファーチューブも相まってほとんど発砲の反動のみになる。
- 銃身上にあるのフロントサイト兼用のガスブロックと筒であるガスチューブと重くなりがちなフロント部分の重量軽減につながる。
- 部品点数の削減、同時にコストの削減。
- 一般的なガスピストン式と違いバレル上方で重量物が移動しないため、一瞬にして銃口が跳ね上がることがなく、M16は連射しても射撃精度が高い。カービンのM4でも距離100mでテニスボール程度の面積に纏まる精度を持つ。
- ストーナー式ガスピストン(ボルト内にガスピストンを持ち、DI式同様に機関部内にガスを導き作動する)と比べて構造が単純。
- 低速弾でのアドバンテージではピストン方式に勝る。
- 一番面倒なピストン部分およびレギュレーターの掃除の必要がなく、ガスチューブは消耗したら交換するので、メンテナンスは比較的簡易である。
- チューブを通ってボルトにガスを吹き付けるため、多くのピストン式のようにハンドガード内にガスが放出されてハンドガードが加熱してしまう恐れが無い(すべてのピストン式がそうなるわけではなく、HK416等の一部のガスピストンモデルではガスブロックでハンドガード外に向けて放出する構造にする等の対策がされている)
- 寒冷地帯などで活動する際、銃が凍ってしまった時等では発射するごとにボルトが過熱しやすい為、ピストン式よりも直しやすい(ノルウェー軍の兵士が2009年にHK416Nの問題点としてピストン機構が凍結してしまうという点が報告された、これは特殊部隊が使用しているC8カービンも凍結を起こすがリカバリーは416より容易だという。)
短所
- 動作機構上、発射ガスが機関部内に吹き込むため機関部内の汚れが激しく、カーボンが生じやすい装薬を使った場合は頻繁なメンテナンスを必要としてしまう。
- 動作機構上、高温の発射ガスがボルトキャリア内に入るため、ボルト部に負担がかかり、ファイアリングピンや給排莢機構等の寿命が短くなる。
- 一部のサウンドサプレッサー(サイレンサー)やフラッシュハイダーなどガス膨張室の役目を持つ部品を銃口側につける事で機関部内に吹き込むガスが高圧になり射手の顔前にあるチャージングハンドルが飛び出すといったトラブルも起きる。(溝を掘ったり穴を空けるなどでガスの逃げる先を作ったチャージングハンドルやボルトフォワードアシストノブ、通常片方のみを使うチャージングハンドルラッチ溝を両側から挟む事で飛び出しを抑えるチャージングハンドル等の対策部品がある)
- 装薬の種類によっては刺激性ガスが多く生じるが、それが機関部から漏れ出したりボルトキャリアを通って排出された際に射手の顔へとかかってしまう。(上記のような対策部品でガスの逃げる方向を顔にかからない方向したり、眼前にあるチャージングハンドル部の隙間から漏れるガス対策としてガスバスターと呼ばれるガスの漏れにくいチャージングハンドルもある)
- ピストン式と比べて弾薬を選ぶと言われていて、低品質な弾薬を使うと動作不良が起こりやすくなる(AR-10、AR-15のガス直噴式はさほど弾薬を選ばず、滅多にジャムる事はない)。
- 短銃身化と共にガスチューブを短くしただけでは発射ガスが吹き付けるタイミングが早まり、発射サイクルが早くなりボルト開放のタイミングが狂い薬莢が膨張したタイミングで排出しようとしてエキストラクターが薬莢のリムを引きちぎり薬莢を排出できずに二重装填、といった動作不良を起こしてしまう(銃口から銃弾先端がはみ出している2インチバレルでも、銃身に合わせて弾頭形状、装薬量等を調整された弾薬を使えば動作不良無しという事例もある。ガスブロックより先の銃口側を短くしてガスチューブ長を変えていない銃身を使用することでも回避でき、民間市場でも短銃身向けやガスタイミング調整用のスパイラルガスチューブやS字型のガスチューブ、ガスレギュレーター付のガスブロック等の製品が出ている)。
- 動作のために発射ガスはボルトキャリア内部にガスが通過する為、ボルトキャリアの掃除には手間が掛かるが、ガスピストンと違い小さな部品が多く手間がかかるボルトキャリアを分解しなければならないと面倒が多い。
- ガスレギュレーター付の部品を付けた場合、メンテナンスが更に面倒になるうえに物によってはレギュレーターどころかガスチューブすら分解が出来ず、手間のかかる方法で掃除をするか丸ごと交換となる。(ガスブロック毎交換の場合は銃身周辺を完全に分解する必要があるため、手軽な交換は不可能である)
ベトナムでの故障の原因は「火薬の使いまわし」「メンテナンスの不徹底」が招いた事態である。
定期的かつ理想的なメンテナンスを行える環境があるならば、M16は直噴式の精度を存分に発揮できる名銃である。半世紀の運用実績は伊達ではない。
しかしながら、軍隊の戦闘は一日二日で終わるとは限らず、ろくにメンテナンスをする暇もない、もしくは雑なメンテナンスしかできないまま数日、などという状況も想定される。
更に弾薬によってはカーボンがたまりやすい等掃除の手間が増してしまう装薬が採用されていたりと状況によってはメンテナンス期間が短くなる可能性すらある。
このような過酷な運用に関してガスを直接ボルト内部吹き付けるDI式のM16が不利であるのも事実。
この欠点を嫌ってかガス直噴式のアサルトライフルは少数派であり、アサルトライフルの主流はガスピストン式である。米軍でもガスピストン式のアサルトライフルが使用がたびたび見られる。
しかしDI式のM16が作動不良を起こす環境でガスピストン式なら大丈夫という保障は無く、ガスピストンの設計や銃に依存し、DI式もガスチューブやボルトや銃に依存する。
また、ガスピストンARもバレルの根元に強い負荷がかかるため、摩耗してバレルが首から折れてしまうこともあり、アッパー一式を専用設計にして互換性を排して強度を高めたものもある。
構造上の欠点と解決法
レシーバーエクステンション
「概要」を参照
ガスシステム
「M16のガス直噴式について」を参照
フレームのがたつき
ロアフレームとアッパーフレームは前後二本のピンで結合され、整備時には前側のピボットピンを軸に回転させるという構造上、摩耗によりがたつきが生じやすい。
また、フレームの寸法誤差により組み合わせによっては新品であっても隙間が生じてがたつきが起きてしまい、がたつき音や射撃の際の命中精度に影響するだけでなくピンの落下によりトラブルが起きる可能性がある。
対策部品として各ピンをねじ込むことで広がるテンションピンで固定してしまったり抜け防止スプリングを内蔵したピンにすることで少しでも抜けにくくする、ロアフレームのテイクダウンピン側にゴム状の部品(Accu-Wedge等と呼ばれている)を入れて押し上げる事で動きを抑えるといった事が行われる。
カスタムフレームにはグリップを取り付ける事で隠れる部分にゴムチップ付きのイモネジを入れるネジ穴を設け、Accu-Wedgeを入れているのと同じような機能を持たせているものもある。
しかし軍等での運用では改造に類するこれらをすることが出来ず、各自が違反を承知で一時しのぎ的な対策で運用されている場合もある。
ボルトキャリアの捻れ
ボルトキャリア後退時にボルトキャリアが傾くことで後端部がレシーバーエクステンションの下側の段差に接触し、異常な削れが生じたり、引っかかってしまう。
ガスピストン式ではボルトキャリア上部に力を受けて後退する事から傾きが起きやすいと言われている。
ガス直噴式の場合はボルトキャリア上部はガスを受けても導くのみで、後退の力が生じるのはボルトキャリア内部の為に傾きは起きにくいが、起きないわけでない。
殆どのボルトキャリアは整備時の事を考えて後端部の角を落としており、殆どひっかりを生じる事は無いようになっているものの、摩耗は避けられない。
対策されたレシーバーエクステンションではネジ部下側を伸ばし、ボルトキャリア後端より前方に段差を移すことで引っかる可能性をなくしている。
曲床銃仕様のAR-15の場合はボルト自体の構造が異なり、下方向に後退してく動きも異なるため、そもそも起きない。
レシーバーエクステンションのゆるみ
レシーバーエクステンションはロアフレームにねじ込んでキャッスルナットを締め込む(カービンストック)、レシーバーエクステンションを既定トルクでねじ込みストック側を緩み防止構造にする(固定ストック)、といった固定がされるが、分解を前提としたカスタムベースでそもそも固定がされていなかったり、固定が甘い等の理由から使用によりゆるみが生じてしまう。
固定式ストックの場合はストックの凸がロアフレームの凹とかみ合い回らない構造となっており、ストックの固定ねじのピッチが異なることで緩み防止となっているが、更に脱脂してネジロックなどのケミカルタイプのゆるみ止めを用いる事でゆるみを防ぐ事が可能。
カービンストックの場合はキャッスルナットを締め込んだ後にナットの窪みに合わせてエンドプレートをセンターポンチで変形させて緩み止めとする、固定用のナットに加え緩み止め用のナットを追加してダブルナットとする、キャッスルナットを用いず固定するレシーバーエクステンションを使う、ゆるみ止め機構の付いたエンドプレートとナットのセットを使用する、バッファーディティント(レシーバーエクステンション内のバッファーの飛び出しを抑えるピン)を回り止めとして利用してナットが緩んでも回りにくいレシーバーエクステンションを使う等の対策がある。
トリガーピン及びハンマーピンの回転
通常のモデルは各スプリングで抜け止めがされているものの円柱状のピンが差し込まれているだけであるため、射撃等動作の際の振動でピンが回転してしまい、ピン及びフレームが削られてがたつきが生じて動作不良を招くだけでなく、最悪はピンが抜けてしまう。
その為、対策部品であるアンチウォークピンやアンチローテションリンクと言われるパーツでは二つのピンを繋いで回らないようにしており、連結せずに各ピンを個別にフレーム左右からネジ止めしてしまう事で回らないようにしている部品もある。
カスタムフレームではピンの端の部分を円柱そのままではなく多角形形状としたり、偏芯させる等により各フレーム専用形状としたうえで回らないようにしているものもある。
検証動画
「M16は軽く、命中精度に優れるが、異物等が入ると動作不良を起こしやすい」というベトナム戦争時代のイメージを引きずっており、未だにM16シリーズを使い続ける米軍へ疑問や非難を持つ者が少なくない。しかしそのイメージは覆されつつある。
AR-15(M16)に泥をかけた状態でのテスト。マガジンを差し込みチャンバーに装填した状態で、ダストカバーを閉じたまま泥を掛けて5発撃ったが作動不良はない。ダストカバーを開いてボルトむき出しのまま泥を掛けても作動不良はない。
ベトナム戦争当時に発売された民生用M16(コルトSP1)が、ダストカバーを開いたままでも快調に動いている。Troy製の復刻版GAU-5/A/Aも快調に動いている。
Mini-14(グリスとガンオイルの二つ)とロアーがブッシュマスター、アッパーがBCMのAR-15、ベレッタARX160、FNSCAR16(SCAR-Lの民間用)、アーセナル社製のAKが揃っている。Mini-14は両方とも一発でジャム、AR-15は32発でジャムが発生、ARX-160は31発でジャム、SCARは12発でジャムが起きて、AKは1発でジャムが起きた。AR-15はダストカバー無しだと22発になるが、AKもダストカバーを閉めている。SCARが12発でジャムを起こしたのはガスレギュレーターがズレていた為。
AKはボルト周辺のクリアランスがタイトな部分に異物が入ればジャムが起きる。しかしM16はボルトとレシーバーの隙間をよりタイトにする事、エジェクションポートを小さく、チャージングハンドルの特徴や位置関係からエジェクションポート以外からは異物が侵入しにくい構造で、完全にボルトを覆うダストカバーを装備していることもあり、泥や砂の侵入に強い。
姉妹銃のM4(フルオートのM4A1では無く3点バーストのM4)がアメリカ陸軍による2007年の秋に行われたダスト・テストにてXM8、SCAR、HK416と比較試験をされた結果、M4は他の銃の数倍のトラブルに見舞われることとなった。
しかし同年の夏に行われたM4のみに行われたテストではマガジンが原因によるクラス1&2の作動不良を除けば、秋に行われたHK416、SCAR(Mk16)と比べてクラス1&2の動作不良が148回、部品の修理を必要とするクラス3の不良の数が11回と数自体は少なかったという。
またコルト社が自身で2007年のダストテストと同様のテストを行った所、クラス1&2の動作不良が111回しか無かったとも。
これには秋のテストに使用された10丁のM4の内、6丁が約毎分650発とM4の最低連射速度の毎分700発から50発分も低かったのとHK416、XM8は約1,000発でSCARは約920発と基準よりも遥かに高い発射レートを備えていたのが噂されている。
今後
最後までM16にこだわり続けたアメリカ海兵隊も、2015年末にはM4カービンへの移行を決定したため、間もなくアメリカ全軍の主力小銃がM4に切り替わることとなる。
ただM4はあくまでM16の改良に過ぎず、抜本的な変更というわけではない。
またガスピストン式の進化により命中精度面の利点も目立たなくなってきており、完全な新型への移行の話もないわけではない。
しかしながら、主力小銃の完全入れ替えとなるとコストは多大なものとなり、一方でそれによる改善はそれほど劇的なものではない。
M16、M4でも事足りている現状、出費をしてまで入れ替えるほどのものではない、とみなされるようで、後継の話が現れては立ち消える状態。
度重なる改良により直噴式の軽量さが失われているとも言われるが米陸軍特殊部隊のSOPMOD Block3(ガイズリー社のSMR Mk16)の採用によって軽量さが取り戻される。
アメリカ陸軍の新小銃トライアルであるNGSWでがSIGのMCXがXM5(後にXM7に変更)として2022年に採用され2024年に運用テストが開始された事で、M16の構造を準拠しているとはいえ、M4カービンの後継としてM16ファミリー以外が採用されることとなった。(ただし今後は不明であり、運用上問題が出るなどで中止となる可能性もある)
フィクション作品におけるM16
射撃精度こそ高いものの、風に煽られやすい小口径軽量弾を用いるM16は長距離狙撃には向かないが、漫画界屈指のスナイパー・ゴルゴ13ことデューク・東郷はM16を常用している(ちなみに5.56mmNTAO弾は距離600m程度までならば7.62mmNATO弾と比較しても風の影響による偏差は殆ど変わらないとの事)。
これはぶっちゃけると作者の考証不足による設定ミスであるのだが、このフォローのために「一人の軍隊(ワンマンアーミー)」にまつわる設定が追加され、彼のキャラクターにより深みを与えることになった。
ちなみに、世界一腕の立つ殺し屋もM16タイプの銃を用いている。カスタマイズした銃ではなく素のままのカービンサイズのものを使用しているが、その理由は不明である。
(身もふたもない話をするなら銃知識に疎い作者が暗殺狙撃で有名な上記のゴルゴ13を作品として参考にし尚且つ資料そのまま書きしてしまったのだろう説が有力か)
そもそも独特のライフル保持の方法(ストックは肩に担ぎ、左手はそえるだけ)をとる彼のことであり、その選択基準は常人には理解しがたいものがある。