概要
MP5(Maschinenpistole5の略、直訳すると5号機関拳銃)とは、ドイツの銃器メーカーであるヘッケラー&コッホ(H&K)社が製造しているサブマシンガン(短機関銃)。
1960年代に、G3自動小銃のバリエーションHK54として開発され、西ドイツ軍のトライアルでUZIに敗れた。
1966年にドイツ連邦国境警備隊に制式採用されMP5の名称が与えられたが高精度ゆえ他のサブマシンガンと比して耐久性が低かった事、高価だったこと、そもそも当時のサブマシンガンはフルオートでバラまく用途で使うのが一般であり、当時の用途とは真逆の性能のMP5は過剰性能と揶揄され、当初はいらない子扱いであまり注目されなかった。
そのため採用は西ドイツ国内の部隊が中心となり 輸出は低調だった。
しかし、1977年ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件と1980年駐英イラン大使館占拠事件で評価は一変する。
ハイジャック事件では、ドイツ特殊部隊のGSG-9が制圧の際MP5を用い、テロリスト3名を射殺、1名を逮捕する一方で、人質全員をわずか5分で救出するという大戦果をあげた。また、続く大使館占拠事件でもイギリスのSASが制圧に使用し、(犯人に人質を1名射殺されたが)犯人5名を射殺し、人質となっていた26人を解放してのけた。
これにより、MP5は「特殊部隊御用達短機関銃」として一躍その名を轟かせる事になり、「特殊部隊といえばMP5」というイメージを定着させた。
その後、シュタイヤー社のTMPなどのMP5の座を狙った高性能サブマシンガンは幾つか登場したものの、開発から50年ほど経った現在までその悉くの台頭を許していなかったが、近年においてはMPXやAPC9、スコーピオンEVO3等の登場により牙城は崩されつつある。
だが冷静に考えてほしい。常に最新兵器が開発されている昨今、銃器など十年保てば長生きな方である。むしろ未だに現役である方がおかしいのだ(こういう事例は他にも多数存在し、ハンドガンなら百年経っても未だ最前線M1911、アサルトライフルなら老兵から少年兵までAK47、機関銃ならコスパ最強M2、そしてサブマシンガンがご存知MP5である)
数多くのモデルがある故に様々なパーツがあり、それらを組み合わせることで理想のモデルを完成させることが可能となっている。
通常の購入ではベースとなるモデル+オプションパーツという形態となるが、ある程度の量の注文をした場合、管理用に固有の名称が付けられ、オリジナルモデルとして余剰部品が無い状態で購入が可能となる。
MP5Fはこれにより生まれたモデルである。なお、H&K USAでは既存のスライドストックは絶版となり、F型ストックのみとなっている。
基本データ
全長 | 550mm |
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銃身長 | 225mm |
重量 | 3,080g |
使用弾薬 | 9×19mmパラベラム弾 |
装弾数 | 30発 |
シリーズ
主なバリエーション(9mm×19弾モデル)
HK54 | プロトタイプ。全てはここから始まった |
MP5 | HK54の量産モデル。固定ストック |
MP5A1 | MP5の可動ストックモデル |
MP5A2 | MP5をフローティングバレル化 |
MP5A3 | A2のストックを可動式にしたもの |
MP5A4 | A2の改良モデル。3バースト機構を搭載し、これ以降のモデルはロアレシーバーが所謂Navyレシーバーとなる。ストックは固定 |
MP5A5 | A4のストックを可動式にしたもの |
MP5F | A5のフランス向けモデル。 日本警察が採用したモデルはFとほぼ同仕様 |
MP5SD | 銃身とサプレッサーが一体型したモデル |
主なバリエーション(MP5Kシリーズ)
MP5KのKとは、ドイツ語で短いを意味する「Kruz」からきている。
MP5K | MP5Kシリーズの基本モデル。銃床の替わりにスリングスイベルの付いた底板が装着されている |
MP5KA1 | 照準器を単純な門星型にして極限までコンパクト化したモデル |
MP5KA4 | 点射機構を追加した4モードのセレクターを装備した新型ロアフレームモデル |
MP5KA5 | KA4の簡易照準器モデル |
MP5Kコッファー | アタッシュケース偽装型。そのまま撃てるものと外装が排除されるものがある |
MP5KPDW | PDW(個人防衛用装備)として開発されたモデル。 折りたたみストック付 |
PK1 | パキスタンのPOFが製造しているMP5Kクローン。伸縮ストックになっている |
主なバリエーション(HK94シリーズ)
MP5からフルオート機能とレバー式のマガジンキャッチ排除しセミオート仕様としたモデル
HK94 | MP5の民間向けモデル 法的に「ピストルカービン」(銃身を延長して銃床を装着した拳銃)扱いとするため銃身が伸ばされている。80~90年代前半までの洋画に出てくるMP5は大体これを短く切り詰めてフルオートコンバートしたもの。 |
HK94K | 比較的銃規制の緩い国向けのモデルで、銃身がMP5のそれと同じになっている。 |
MP5SF | HK94の公的機関向けモデル。 SFはSingle Fireの略で、主にFBIやSIT等のフルオート射撃が禁じられている機関が使用する。こちらでは公的機関用ということもありレバー式のマガジンキャッチが復活している。 |
SP89 | MP5Kの民間向けモデル。 こちらもセミオート仕様のみで、法的に拳銃扱いとするためバーティカル・フォアグリップが無い。 |
その他
MP5/10 | 10mmAuto弾使用。弾のセールスが成功しなかったこともあって2000年に製造終了 |
MP5/40 | .40S&W弾使用。UMP40の開発もあり、2000年に製造終了 |
使用状況
世界各国の軍隊・警察で使用されている他、日本でも警察の特殊班SATが採用している。
ドラマや映画では特殊部隊が持つ銃としてM4カービンと共に多い。
よく耐久性が低いと言われているが、これは他のオープンボルトのサブマシンガンと比較した場合であり、実際は軍用アサルトライフルと同等の耐久性がある。
また、精密故に汚れに弱いとされているが、内部はほぼG3と同じであり、G3が汚れに弱いという話は特にないため、銃の精密さからくるただの印象論の可能性がある。
G3の密造品やそれに順ずる品質しかない低品質製品はまともに動作しないが、カラシニコフライフルは密造品でも最低限は作動するといった印象も影響していると思われる。
ただし、ガス圧を使用せず、直接反動を利用するローラロッキングシステムは弾薬の反動が違えば部品を変更する必要があり、MP5も減装弾や訓練弾を使うなどの弾薬を大きく変更する場合はボルト周りを分解整備し部品変更する必要がある。(ガス圧駆動ではある程度のガス圧の違いであれば調整弁などを設けて動作できる)
しかし、それらを補ってお釣りがくるくらいの性能の高さを持ってるのも事実。
故に短期間で決着を付けることが多い特殊部隊には特に寵愛される。
ちなみに・・・
その知名度の高さから、数々の映画・マンガ・ゲームなどに登場しているMP5。
しかし、その構造上アメリカの法律で販売が規制されているため、民間人が購入する事は不可能となっている。
またHK94シリーズも、初期型はロアフレームの交換が可能でロアフレームをフルオート機能付きの物に交換する事でフルオート射撃を可能にしたが
この改造もアメリカの法律で規制されている(ただし、厳格な審査が下りれば一部地域では未だ所持は可能)ため、現在はロアフレームが交換できないように設計が変更されている。(この改造は、専門の資格を持ったガンスミスが行っても罪に問われる)
そのため.22口径でMP5に似た外観のGSG-5というライフルを民間人が購入するケースが昔は多かった。
社外オプションによって見た目のみ変えることが可能であり、ロアフレームはバーストやフルオートの刻印がされ(もちろんバースト射撃等は不可能)、バレルはダミーサプレッサーカバーによって隠すことでサプレッサー付のMP5風やMP5SD風に変えることも出来る。
だが、2015年には正式にライセンスを取ったクローンモデルであるZenith Z-5が発売された。
また、2019年にH&K社から最新の本銃の民間用モデルである「SP5」が発売された。
民間人では入手しづらいSBRモデルもあるが、近年流行りの所謂「ピストル」モデルのバリエーションもあるため、民間人でもそれほど見た目を損なわずに容易に購入が可能である。
アメリカの80~90年代の洋画で使われているMP5は大体この改造が行われているHK94であり、アップで映るレシーバーやレバー式のマガジンキャッチが無い部分で見分けられる。(一番わかりやすいのはダイ・ハードの「引き金を引くときはな、ためらうんじゃねえよ!」のリロードシーンだろうか。)
現行のMP5はNavyレシーバーと呼ばれる刻印が赤くバースト射撃があるアンビセーフティのものが生産されているが、映画で用いられるのはもっぱらA3以前の所謂SEFレシーバーであるためか現在でもこちらの人気の方が高くMP5のクローンでもSEFレシーバーを採用しているモデルが多い。
また、後にMagpulがMP5用のロアレシーバーを設計した際にはSEFとNavyの折衷のようなデザインとなっていた。
東京マルイのスタンダード電動ガンのイメージもあるせいか、軽いというイメージを持っている人は少なくないが、実際の重量は通常モデルで約3kgと素のM4よりも重かったりする。
MP5に限らずG3ファミリーを使用する際、コッキングハンドルをロック位置で固定した状態でマガジンを交換し、コッキングハンドルを叩くようにしてロックを解除するシーンが映画で観られるが、映画オリジナルの演出と思われる事があるが実物でも同様の事が行なわれている。(HKスラップ)
マガジンを交換する際、一杯まで詰めたマガジンを叩き込むと初弾がボルトキャリアに当たった際に弾薬がマガジン内に押し込まれずローラーロック機構の破損を引き起こしてしまう事がある。しかしG3ファミリーにはMP5/10等の一部機種を除いてボルト開放のためのボルトストップ機構がないためコッキングハンドルをロックすることでボルトストップとしている。
現在
精度が高く、また多くの国で採用されて安価になったMP5だったが、現在はボディーアーマーの性能向上や普及により9mm弾では威力不足となってしまった。
事実9mm拳銃弾を使うので射程距離も短く、相手がライフルを使っていた場合などは射程外から一方的に撃たれる事もあった。
そのため、威力が高いM4カービン等に置き換えたところもでてきた。
より威力があり、なおかつ9mm弾のように副次被害を抑えられる弾薬の開発が必要である。
しかし理想的な弾薬の開発や、また既存の弾薬からの入れ替えには長い期間が必要であり、適した場所で使えば十分すぎることから今後もしばらくMP5が主力を務める見込みである。特に警察ならば、犯人の殺害ではなく逮捕を目的とするため、過剰な威力は必要なく、貫通による副次的被害の少ないほうが都合がよい。
対抗のために9mm弾と互換性を持つPDW用弾のような性質を持つ特殊弾が開発されている。
一方でライフル弾の過剰な威力による副次被害の拡大や、PDW自体やPDW専用弾の低価格化が進まない、9mm弾の高性能化、サウンドサプレッサー装着時にカービンでは長すぎる、等の理由や、高性能かつ小型のSMGの登場により自衛火器を拳銃からSMGに切り替える等の理由から再びSMGの新規採用に踏み切ったところもある。(ただしMP5は調達コストが高く設計が古すぎる事もあり、再びMP5が採用される事は少ない)