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概要編集

言うまでもないことだが、固定翼機には滑走路が必要である。VTOLジェット機はあるが、これも世間一般で知られているほど気軽に離着陸できるシステムではなく、結局のところ航空基地でなければ離着陸はできない。

一方回転翼機には滑走路が必要なく、ローターがぶつからないだけのスペースがあればどこでも着陸できる。しかしながら固定翼機に比べて燃費が劣悪で、航続距離がかなり短くなってしまう。


そこで、固定翼機と回転翼機のいいとこどりを狙った機体が開発されることとなった。

具体的には、主翼の両翼端に、固定翼機用と回転翼機用の中間くらいの大きさのローターを持ち、この回転面の角度を90度以上可変することができる航空機。ローターをティルトする(傾ける)からティルトローター。


低速ではローターを上に向けヘリコプターとして振る舞い、そのまま速度を上げていき主翼の生み出す揚力が安定したところでローターを前に倒し高速飛行に移る。

ローターが地面に当たらない程度に前方へ向けることで短距離滑走離陸も可能。こうすると搭載量が増して燃費もよくなる。

現状実用化しているのはエンジンごとローターを回転させる方式。他にエンジンは完全固定でシャフトだけ折り曲げる方式も考案されている。


基本的に低速での運用になるのでヘリコプター用のターボシャフトエンジンが使われる。(ジェットエンジンでそれを行うティルトジェット(エンジン)という形式も一応はあるが燃費がガタ落ちするため使われない。)垂直上昇から水平飛行に移る際のエンジンの角度変更が難しかったが、コントロールをコンピュータに任せることで実用化の目処が立った。

輸送機V-22オスプレイで実用化され、現在は民間用小型旅客機のAW609(タイトル絵の機体)をレオナルド・ヘリコプター社(アグスタ・ウエストランドから改名)が開発中。長い滑走路が採れない山間部や離島部での活躍が期待されている。そのために「パワード・リフト(Powered Lift)機」という新たな型式認定も取得中。

ベル社も負けじとオスプレイの次世代機とも言えるV-280Valorを開発中。V字形の尾翼とローター部分だけを折り曲げる新ティルト機構が特徴的。


構想は意外に古く、研究は1908年から既にあった模様。しかしながら回転面を可変させる複雑な機構がなかなか実現できず、結局実用化は2005年末になる。それでも現状はまだヘリコプターで十分間に合っているところが多いため、普及は当分先の事になりそうである。


メリット デメリット編集

メリット〔利点〕編集

垂直離着陸可能編集

VTOLジェット機のようななんちゃって垂直離着陸ではなく、ヘリコプターに迫る俊敏かつ手軽な垂直離着陸が可能。このため物体を吊り下げ運搬したり、ヘリボーンにも使える。


長距離高速巡行編集

それでいてヘリより長く、速く飛ぶ。ヘリの場合、速度を出すほど機体左右での揚力の差が生じ、どれだけ調整しても約300km/hが限界とされているが、高速時の揚力確保を主翼に任せることで限界を大幅に超えられる。ローターが推力を稼ぐことに専念出来るので燃費も大幅に向上する。


デメリット〔欠点〕編集

複雑編集

エンジンを回すにしろシャフトを折り曲げるにしろ、他の航空機ではあり得ない動作をする機構を組み込む必要があり、当然複雑化する。片方のエンジンが停止した場合に備えて左右のプロップ・ローターをシャフトで結合する機構が大半の機種に組み込まれているが、結合距離がヘリコプターのテイルローターよりも長くなるので、当然トラブルも増える。


ヘリモード時の動きが鈍い編集

本格的な回転翼機に匹敵する規模まで回転翼の羽根の円盤面積を大きくできないので、回転翼機より機動性が低く、特に低速やホバリング時は機首の回頭角速度は鈍くなる。しかもモードチェンジにも時間がかかる(V-22で最短11秒程度)ためヘリボーン時の空域侵入、離脱が遅くなり、攻撃される危険性が増加する(ローターの短い直径を補うために各々の羽根の翼断面は捻り下げ式で設計されてはいるのだが、上記の欠点を補い切れていない)。


ローター強度の工夫編集

ローターを前面に向けた巡行状態で着陸するとローターが地面に接触、損傷してしまう。そのためティルトローター機は、巡行状態での着陸はできないことになる。

しかしながら、現代の航空機はある程度の故障を前提に設計しなければならず、ティルトローターは回転面の可変機構が故障して巡航状態から移行できなくなった場合を考慮しなければならない。

するとローターは地面に叩きつけられるわけだから、その破片が機体を傷つけたり、或いはローターが地面に突き刺さって金づちよろしく機首を叩きつけたりしないよう、ローターが綺麗に粉々になるように作る必要があるのだが、単純に脆くすると、今度は鳥の衝突(バードストライク)や被弾に弱くなる。この矛盾点の解消は難しい。


プロペラが片方止まるとどうにもならない編集

多くの固定翼機は片翼のプロペラだけでも飛行が可能になっているが、ティルトローターの場合は推力差が大きすぎて片方のローターのみでの飛行はできない。

そのためティルトローターは片方のエンジンだけでも両方のローターを回せるように双方のプロップ・ローターをシャフトで結合してされるのだが、物理的にローターが破壊された場合はこの限りではない。


オートローテーションができない編集

「できない」というよりは「やりにくい」というべきか。構造上、通常の回転翼機よりもオートローテーションができる速度域、高度域が狭く、ティルトローターが通常ヘリモードで飛行する領域でのオートローテーションは困難。

ただこれに関しては、ティルトローターがヘリモードで飛ぶような飛行状態では通常の回転翼機もオートローテーションは困難であるから、比較してあげつらう問題点ではない。


高コスト編集

上記のデメリットへの配慮が必要となるために、ティルトローター機は非常に高価なものになり、同等の搭載量を持つ固定翼機、回転翼機を大きく上回る価格になりやすい。


総括編集

上記は単純な箇条書きである。一見するとデメリットの方が多そうに見えるが、航続距離の延長と手軽な離着陸はそれらを考慮してなお達成すべき価値のある重要な目標なのだ。「めちゃくちゃ速く飛べるヘリコプター」の潜在需要は意外と大きいのである。


空想世界にて編集

アニメ作品等の世界でも、このティルトローターを使った機体が出てくることがある。宮崎駿監督のジブリシリーズでも姿を見せ、代表的な物は、天空の城ラピュタに登場するタイガーモス号。厳密に言うと飛行船の部類に近いが、主翼はティルトローターとなっている。

また押井守監督も好んで自作に登場させており、ケルベロス・サーガの「Fa-666ヤクトハウンド」やアヴァロンの「Mi-96Dブラン」、イノセンスの天使の翼をモチーフにしたヘリなどをデザインさせている。

近年においては、SFアニメ作品『宇宙戦艦ヤマト2199』にも、コスモシーガルと言う汎用型輸送機が登場し、主翼がティルトローター式となっている。


関連タグ編集

ティルトウィング:ローターだけでなく主翼ごと稼動する機構を持つ場合

ティルトジェット:ジェットエンジンの場合

複合ヘリコプター:ティルトローターに対するヘリコプター陣営からの対抗策。

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