高圧ガスのエネルギーを用いてタービンを稼働させ、仕事をするエンジン。
ジェットエンジンとの違い
ガスタービンエンジンはジェットエンジンの同類とされる事が多い。これは大間違いではないものの、分類という観点では正しくない。
閉サイクルガスタービン機関のように、外部に噴射を出さないガスタービンエンジンも存在するので、ジェットエンジンとガスタービンエンジンは同類とは言い難いのである。
【動作原理による分類】
ジェット(噴射)エンジンは、名前の通り「何かを噴射した反動で推進力を得るエンジン」という熱機関の大分類なので、構造上タービンが存在せずガスタービンエンジンではないラムジェットエンジンやパルスジェットエンジンなども含んでしまう。
この大きな分類のうち「高圧ガスのエネルギーでタービンを駆動してジェットを生み出す」ターボジェットエンジンやターボファンエンジンがガスタービンエンジンの一種なので、このカテゴリー分けで考えると、
熱機関>噴射の反動を利用するジェットエンジン>ジェットエンジンの中でもガスタービン駆動式のものがターボジェットやターボファン
という上下関係になる。
【動力の取り出し方による分類】
「ガス圧駆動のタービン機関」の総称でもあるが、実用面では主に陸上用と船舶用を「ガスタービンエンジン」と呼び、航空機用を形態ごとに呼び分ける事が多い。
- ガスタービンに取り付けた軸から回転動力を取り出すもので、車両用、船舶用、発電などの施設用→ガスタービンエンジン
- 軸動力を取り出す形式でヘリコプター用のもの→ターボシャフトエンジン
- 軸動力を取り出す先がプロペラになっている航空機用(ジェット噴射がメインではない)→ターボプロップエンジン
- タービンを回して作った噴射で推力を得る→ターボジェットエンジン
- ターボジェットの軸前方に送風ファンを取り付け、タービンを通さない空気も一緒に後方に吹き出すもの→ターボファンエンジン
どれも基本となる燃焼ガスの膨張でタービンを回すという構造はほとんど同じなので、航空用のターボジェットエンジンやターボファンエンジンに出力軸を取り付けてガスタービンエンジン化し、発電設備や船舶機関に流用する例は枚挙にいとまがない。
蒸気タービンとの違い
ガスタービンがエンジン内の燃焼ガスでタービンを回す内燃機関であるのに対し、蒸気タービンはボイラーの熱で作った蒸気をタービンに導いて回す外燃機関であって両者は全くの別物である。
…が、ガスタービンの排気は高温なので、この熱をボイラーにしてお湯を沸かし発生させた蒸気で別に設置した蒸気タービンも回す「コンバインドサイクル」というものもある。このシステムは熱エネルギーを余すところなく利用するので、熱効率は50%を超える。詳しくは蒸気タービンの記事へ。
特徴
構造は基本的にターボジェットエンジン(内部にタービンがあるタイプ)と同じなので、利点も欠点もターボジェットエンジンと大体同じになる。
利点
- 出力の割に軽量コンパクト。いわゆる「パワーウェイトレシオ(出力重量比)」が非常に高い
- 燃料の種類を選ばない(航空用でなければ)
- 振動が少ない
- 起動が早い
- エンジン1基に軸一本で一方向に回転しつづける構造なのでレシプロエンジンに比べると造りが単純。構造という面では製造と整備が(比較的)楽に済む
欠点
- 超高回転&超高出力&超低トルクと出力特性が特殊で、効率よく扱うには高回転状態の維持が必要
- 最高回転数は高いので減速機を介せば高い馬力は得られるが、それだけの高回転に耐える専用のクラッチやギアを作る技術が必要となる
- トルクが細く高回転を常用する特性は、一般的な車両用のエンジンに向いていない
- 高回転を常用する関係でキーンと高周波な作動音を出し続けるのでやかましい
- 燃料をバカ食いする。出力を絞っても改善しないのでアイドリング中の燃費も悪い
- レスポンスが鈍い。車で言うならアクセルを踏んでもすぐに回転数が上がらない感触
- 作動中は非常に高温となるため耐熱性の高い素材とその加工技術が必須であり、高い技術水準とそれをインテグレーションする製造体制が必要。材料工学の面では製造と整備が難しく、材料費も高価になる
- 使用過程での劣化の速さからオーバーホールの頻度は高く維持コストが高額になる
オーバーホールに関しては、部分的な修理や整備ではなく、ユニットをまるごと予備のものと入れ替える形にして休止期間を短縮するのが一般的で、予備エンジンで回っているうちに、外した方のエンジンをじっくりと整備する。こうした交換作業が容易になるようレイアウトを工夫したものも多い。
特に出力特性の問題はかなり深刻で、レーシングエンジン並の高回転での連続使用に耐えるギアボックスやクラッチの制作は非常に困難なため、出来ても非常に高価なものになってしまう。
そのため試験段階で破損事故が頻繁し、低速域のトルク不足となるのを承知でギアボックスやクラッチの搭載を諦め直結式としてしまうケースもある。そんな状態ではなおのこと出力特性の問題が大きくなってしまうので更に使いづらく、試験結果も悪化してしまうわけだが…。
マイクロガスタービン・ウルトラマイクロガスタービン(UMGT)
ガスタービンエンジンといえば「ヘリ飛ばしたり発電機回したりするデカイもの」という印象が強いが、家庭・事業所用の発電機に使えるくらい小型化された「マイクロガスタービン」というものも開発されている。
読んで字のごとくガスタービンエンジンを小型化したものである。
発電機と一体のパッケージ化されて販売されることが多い。
また、さらに小型化を進め、燃料タンクと発電機を含めても単三乾電池くらいの大きさまで縮小した「ウルトラマイクロガスタービン」(UMGT)というものも開発されている。
現在の電池を超える「小型軽量・大出力の電源」として期待されている。
但し小型化するということは燃焼室も小さく短くなり、現在の「化石燃料を使うガスタービン」とは勝手が違いすぎる。化石燃料は燃えている時間が長すぎてUMGTの小さな燃焼室に適応できないため、燃料には燃焼時間の非常に短い水素を使うことを検討しているとか。
自動車での利用
欠点の項目で挙げたように、ガスタービンエンジンはレシプロエンジンに比べて低中速の燃焼効率やアクセルレスポンスが悪いという問題がある。
自動車は道路状況に合わせて停止と発進を繰り返し、アイドル以上から高回転以下までのスロットルを少し開いたパーシャルの(アクセルを中間ぐらいに踏んでいる)状態を多用するので、高速で回しっぱなしにするのが得意なガスタービンエンジンとの相性は悪いとされる事が多い。
古くから欧州車を中心に自動車への採用例がいくつか存在し、トヨタも70~80年代にコンセプトカーを作ったりはしたのだが…いずれも試験的に制作されただけで、数十台程度の生産で終わっている。
近年ではジャガーが発電用小型ガスタービンを搭載するPHEVのC-X75のコンセプトカーを発表しているが、市販バージョンでは結局通常のレシプロ(ピストン)エンジンに差し替えられており、実用化と呼べるレベルには無い。
古くは米国の伝統的なレースである「インディ500」で、1967~1969年にガスタービンエンジンのマシンが参戦。67年と69年は結果はトラブルでリタイアであったが、トップを快走してその戦闘力を示した。しかしその後ガスタービンは規則で禁止された。
一般車両ではないが、高回転からハイパワーを取り出せるエンジンとして戦車ではいくつか採用例があり、メインエンジンとしてはアメリカのM1エイブラムスやロシアのT-80が、高出力が欲しい時の補助エンジンとしてはスウェーデンのStrv.103やフランスのルクレールが採用している。
これら戦車も、輸出モデルでは利点と欠点を鑑みた上でディーゼルエンジンに乗せ換えたりしているので、万全に使いこなすにはそれなりの運用体制が必要なのが見て取れる。
関連イラスト
- キハ391系気動車(廃車済み)。ガスタービンエンジンを動力としていた。
COGOG(COmbined Gas turbine Or Gas turbine、コンバインド・ガスタービン・オア・ガスタービン)推進艦はつゆき型護衛艦『はつゆき』
COGAG(COmbined Gas turbine And Gas turbine、コンバインド・ガスタービン・アンド・ガスタービン)推進艦はたかぜ型護衛艦『しまかぜ』
COGLAG推進艦(英語: COmbined Gas turbine eLectric And Gas turbine、コンバインドガスタービンエレクトリック・ガスタービン )推進艦あさひ型護衛艦『あさひ』