「ロータリーエンジン」と呼ばれるエンジンは二種類存在する。
1.ローター(回転子)の回転運動を出力として取り出すエンジン。ここでは唯一実用化に成功した「ヴァンケル式ロータリーエンジン」について説明する。
2.本体が回転するエンジン
1.の概要
燃料の爆発をピストンの往復運動として取り出し、クランクで回転運動に変換するレシプロエンジンと異なり、燃料の爆発をおにぎり型のローターを用いて直接回転として取り出すのが特徴である。
このため、レシプロエンジンとは全く異なるエンジンであるとされるが、熱力学上では同一とされている。
特徴
このエンジンに関してはレシプロエンジンに比べ、以下の特徴がある
メリット
- 弁がなく、比較的構造が単純で回転を直接伝えるためエネルギーのロスが少ない。
- エンジン自体がコンパクトで出力の割に軽量。
- エンジンの動作音や振動が少ない(電気モーターのようなフィールとたとえられることもある)
- 構造が単純なため分解組立が容易(ただし、ロータリーに精通した技術者が少ないという問題はある)。
- 高回転での運転に適する。高速運転時の出力は大きく、高回転時のトルクが滑らか
- 比較的燃料の質を選ばない。オクタン価の低い燃料でも問題なく動作可能
- 排気が高温になりにくいため窒素酸化物が少ない
- 排気弁がないため排気ガス排出時のロスが少なく、ターボチャージャとの相性が良い。
デメリット
- バルブを用いずローターの移動でポートの開閉をしている関係で吸排気の制御が不安定なため 特に吸気の流速が低い低回転時に新しく吸い込む空気に排出しきれなかった排気ガスが混ざってしまういわゆる内部EGR状態が発生しやすく安定性及び燃費が良くない
- 細長くて扁平で熱損失の大きな燃焼室のため不完全燃焼を起こしやすく、未燃焼成分である炭化水素の排出が多い
- アペックスシールなどのガスシールを保護するために燃焼室へのオイル噴射を行っているが回転数の増加に合わせて噴射量が増えるため高回転使用時のオイルの消耗が激しい。また噴射されたオイルのうち燃え残たぶんはスラッジ化し排気ポートなどを汚しエンジン不調の原因ともなる。
- 排気バルブが無いため排気騒音が大きく大型のサイレンサーが必要
- ガスシールの気密性能が汚損に対して敏感なため性能を維持するためにこまめな整備が必要となる
- エンジンの発熱量が大きく大容量の冷却装置が必要。
- 更なる出力増のために有効な排気量増が困難。これは、排気量増のために有効なボアアップができずローター数増が必要だが2ロータ以上になるとエキセントリックシャフト(レシプロではクランクシャフトに相当)を分割式にしないと組み立てができないため。
※上記のうちガス交換不安定の問題はRXー8用の13B-MSP型『RENESIs』で行われた排気ポートのローターハウジングからサイドハウジングへの移設のよる吸排気オーバラップの適正化で大幅に改善(それまでアイドル時に常時必要だった2次エアーポンプの作動が始動直後の極短時間のみにすむほど安定)したがそれ以外はロータリーエンジンの基本構造に起因するため改善は極めて困難とされている。
※2ロータ以上でのエキセントリックシャフトの組付け性の問題はマツダ社内でも相当苦労しており、精度確保まで様様な構造の試行が必要だったほか純正仕様がキー&セレーション方式で固まったあともマツダスピードの専門技師以外ではまともな組み立てができず2ロータ以上で唯一市販された20B型でも販売店でのオーバーホールを禁止しマツダスピードの専門技師が整備したエンジンをリンク供給していたほど。
歴史
ドイツの技術者フェリクス・ヴァンケルがロータリーポンプ(油回転真空ポンプ)をもとに1957年に発明したエンジンである。ゆえに英語では、他のロータリーエンジン理論との区別も込めてヴァンケルエンジンと呼称される。
日本においては、このエンジンを開発者とNSU(西ドイツの自動車メーカー。のちにアウディに買収される)が自動車用に開発したものを東洋工業(現・マツダ)がライセンスを結び、改良して使用できるものとしたため、マツダが命名した「ロータリーエンジン」の呼称が一般的である。
利用
自動車のガソリンエンジンとして用いられたが、実際にはこの用途にはあまり適していない。理由は「高速回転にしか向かない」「排ガスがそれほどクリーンではない」点である。開発自体は「ロータリーに手を出さなかったのはBMWだけ」と言われるほど多くの自動車会社により行われたが、結局は発売されないということが多く起こった。結局は1970年代のオイルショックや排ガス規制のため、西側のほとんどの会社が手を引いた。マツダもラインアップを大幅縮小せざるを得なかった。
- ただし、当時ロータリーエンジンと並んで「未来のエンジン」と考えられていたガスタービンよりは陸上交通に向いている。理由はローターにそれなりに重量がありフライホイール効果があることと、ガスタービンよりは低速トルクがあること、過給器(ターボチャージャー・スーパーチャージャー)で低速トルクを補えること、等。陸上交通に対するガスタービンの弱点についてはキハ07の項目を参照。
このエンジンを使った車はマツダとNSUの他にはソビエト連邦の車(ヴォルガやチャイカ)に多く、またSUZUKIも二輪車に搭載して販売したこともある。このほかシトロエンやメルセデス・ベンツも少数販売したが、各社のロータリーエンジンは結局のところ未完成の試作品の域を脱しておらず、量産とともにトラブルが続出。結局ロータリーエンジンをまともな商品として仕上げることができたのはマツダだけであった。
ロータリーエンジンは、本来ガソリンよりもガス燃料との相性が良く(燃料を噴射する部屋と燃焼する部屋が異なるためレシプロエンジンで問題になるバックファイアを起こしにくく、常温で液体の燃料と違って排ガスに気を遣わなくても良い)、過去にLPG仕様に改造されたロータリー車が販売されていた。特に、水素燃料エンジンとしてはロータリーエンジンはレシプロエンジンより適しているとされ、マツダでは水素ロータリー車の研究が進められている。
自動車の他には、軽量小型で振動が少ないことから航空機に搭載されたり、モーターボートや模型飛行機に搭載したものが販売されている。
さらに、小規模発電用の発電機として注目されている。軽量小型であることから発電専用エンジンとして自動車に乗せたハイブリッドカーとしたり、このエンジンを外燃機関にして「熱からエネルギーを取り出す装置」として利用する研究が行われている。
実際に2023年9月(実売は11月)からマツダから新型ロータリーエンジンである8C型を搭載したハイブリッドカーとしてMX-30が発売されている。
フィクションにおいて
洋画、『超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ』にてエアーウルフのメインエンジンとして使用されている設定である。
関連タグ
コスモスポーツ マツダ・コスモ ユーノスコスモ Spirit-R RX-7(サバンナ、SA22C、FC3S、FD3S) RX-8 ファミリア
参照
2.の概要
レシプロエンジンの一種であり、主として航空機に用いられた。星形配置されたエンジンを回転させることにより、「空冷の効率が増し」、「部品が軽量化が可能」というメリットがあった。
しかし、これは飛行機が低速である間のみであり、高速飛行を行うようになると「回転しているため遠心力でオイルをまき散らす」、「変な慣性が付き、構想飛行時に飛ばすことが面倒になる」という耐え難いデメリットが生まれた。結局はシリンダーの構造の見直し等によりこのエンジンは航空機に採用されなくなった。
自動車やバイクのタイヤの中にエンジンを搭載したものも少数作られ、それに用いられたエンジンもこう呼ばれる。