概要
冷やしたい対象に向けて空気の流れを作り、対象物の温度を下げてオーバーヒートさせないようにすること。発熱する物体にヒートシンク(放熱板)やフィン(ヒレ)などを取り付けて冷却効率向上をはかるが、これでは間に合わない場合、冷却ファンを使って強力な空気の流れを作り強制空冷を行う。
対置される「水冷」(液冷)に対し、冷却水(冷媒)やラジエーターを付けずに済むため、強制空冷であっても一般的に安価で整備性も高いが、冷却効率は高くない。
対象物
レシプロエンジン
主に二輪車や定置式エンジンで用いられる。水冷に比べ機構が簡素である(1300クーペのように凝った冷却方式を採用したものはその限りでない)一方、冷却能力の安定性には劣る。特に(シリンダーあたりの)排気量は大きくなると空冷では冷却が間に合わず、長時間にわたるアイドリングなどをするとオーバーヒートの危険が大きくなる。エンジンオイルも冷却に効果がある(油冷)ため、空冷エンジンであってもオイルクーラーを取り付けることもある。
ネイキッドのオートバイでは排ガス規制や騒音規制などから少数派となりつつあるものの、現在でも空冷がよく採用される。エンジンを露出させることで、シリンダーのフィンを伝った熱を直接走行風で冷却することができ、空冷二輪エンジンの美しい冷却フィンを愛するライダーも多い。シリンダーをV型に配置(Vツインなど)させたものが多いのも、シリンダーが独立することでの冷却効果向上を図ったものである。
スクーターには、エンジン軸で回転させるファンを使って起こした空気の流れを冷却に用いる強制空冷エンジンが広く用いられてきたが、近年では50ccの原付1種でも水冷を採用したものがある。
過去にはビートル、ポルシェ911など四輪車にも見られた。日本でも大衆向け小型車によく採用され、特に軽自動車ではスバル360を筆頭に2ストの強制空冷エンジンを搭載したものが多かったが、1970年代に排ガス規制の強化が進むと温度管理が難しい空冷エンジンは廃れた。騒音の大きさや、廃熱をヒーターなどで有効利用することが水冷エンジンに比べ難しいことも要因である。
プロペラ機ではエンジン全体を冷やすためにシリンダー配置を星型に設定し、飛行時に空気を取り込んで冷却した。
第一次大戦の軍用機にはロータリーエンジンというプロペラの回転トルクを利用してエンジンそのものを回転させて強制的に冷やすという方式が主流だったが、これはエンジン馬力が100馬力程度だった昔だからできた方法であり、馬力が向上するにつれてトルクが強くなったため廃れていった。第二次大戦の時代だと主に日本軍やアメリカ海軍が使用した。星型になると構造上どうしても前面に空気抵抗ができてしまうため、戦闘機用としてはあまり理想的ではなかった。にもかかわらず空冷エンジンが使われ続けたのは生産性や整備性が液冷エンジンに比べ良かったことや被弾に強かったことが挙げられる。中にはF4Uのように優れた空力特性とエンジン馬力でゴリ押して速度を上げた例や雷電のように機種を細くしてプロペラとエンジンの軸を長くすることで空気抵抗を減らし、空気流入口が狭くなった分は軸に強制冷却ファンを取り付けて補うなど様々な工夫も行われた。
コンピューター
コンピューターの構成部品である半導体は電圧と動作周波数を上げると高い処理能力が見込める反面、消費電力が増大し発熱も大きくなる。過熱すると熱暴走や部品の破損を招くため、近年のCPUやメモリなどの半導体製品はあまりに温度が高くなると(製品によって60〜100度と異なる)、強制的に動作速度を抑えて(周波数と電圧を下げて)故障を防ぐ機能が備わっている。昔の電子部品にはこのような安全装置が備わっておらず、冷却装置の取り付けが悪いと熱で壊れてしまうCPU製品もあり、自作PCユーザーには「焼き鳥」などと呼ばれて恐れられた。
コンピューターが安定した処理能力を確保するためには、発熱の大きい部品(主にCPU、GPU、電源、SSDやハードディスク)の冷却を考慮する必要があるわけだが、デスクトップパソコンでは筐体の電源に電動ファンが取り付けられ、内部にたまった熱を逃がす。CPUやGPUは低発熱のものであれば金属製ヒートシンクで間に合う場合もあるが、高性能なものは発熱も大きいため、相応に大型の冷却ファンが必要になる。SSDやDRAMにもヒートシンクを設けたものもある。
スーパーコンピューターなどの高性能サーバーではこれでも冷却が間に合わず、水冷を採用したものもある。パソコンでは水冷は少数派だが、夏場などの外気温が高い環境でも安定して冷却ができることから、ゲーミングPCなどのハイエンドモデルではショップブランドを中心に水冷モデルも販売されている。
ノートパソコンは電源が外付けとなっている。このため消費電力(=発熱量)が低いモバイル向け製品を中心にCPUやGPU、SSDを放熱板を介して筐体に密着させた設計とし自然放熱を前提としたモデルもあるが、ある程度負荷の重い処理に対応できるよう空冷ファンを設置したものも多い。外気温の高い夏場の冷却力向上のため、外付けファンやアルミ製ヒートシンクも発売されている。
スマートフォンやタブレットPCではモバイルPC以上に構成部品の消費電力が低いので、いずれも自然冷却を前提にした設計になっている。それでも夏場に負荷の大きなゲームなどをすると筐体が熱々になったり、動作速度の低下を招いたりすることもあるので、スマホ用の外付けファンもある。
(人間を含めた)哺乳類
基本的に各臓器で発生した熱は血液で体表に運び、皮膚で冷却する「液冷」だが、陰嚢(睾丸)に限っては精子の適温が体温より少し低くなっているため体外に露出している。クジラやゾウのオスは睾丸を体内に内蔵しており、低温の静脈血で冷やす液冷式を採用している。