「男の精子に生きた生命体があるということを大学全体として信じない所があります。
しかし、このことは私は気にしていません。私は自分が正しいということをよく知っているからです。」
──────レーウェンフックの手紙より
解説
運動性を持つ雄の生殖細胞のこと。
運動性を持つ移動形態の生殖細胞、接合体としては雌性配偶子と結びつく雄性配偶子に分類される。精子の遺伝子情報により、子孫の性別が決定される。
主に動物、藻類やコケ植物、シダ植物、一部の裸子植物(イチョウなど)にみられる。
日本語の精子は「細かいもの」という意味、英語の「Spermatozoon」とはギリシア語の「シード(種)」と「生きているもの」を英語に置き換えたものである。
微生物学の父、オランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフックが1677年に発見した。
しかし専門的な教育を受けた訳でも、研究者でもないアマチュアの科学ファンだったレーウェンフックの発見が認められるには、紆余曲折があったようである。
ヒトの精子は睾丸(きんたま)で製造され、一度精嚢に保存される。
睾丸内には精細管という細かな器官が集合した部分があり、その精原細胞が精子を作っている。これは精子形成過程といわれ、元になる細胞を精母細胞、ここから分離したものが精細胞となり、最終的に精子になる。
その後、精嚢分泌液、前立腺液などと共に性交、自慰、夢精などの性的興奮により男性の尿道口から射精された精液に含まれる。
精子は、まず遺伝子情報を保管し、卵子に突入するための膜、被帽部分を持つ長径約5.1μm×短径3.1μmの楕円形の頭部と頸部、そして鞭毛運動により精子を動かす50μmの尾部からなる。
頸部は最も小さいパーツだが、ここが尾部をコントロールしていると考えられている。
精子の運動は精液が体内、体外に放たれるかでも異なるが、ヒトの精子は精液のアルカリ性が膣内の分泌液により中和されることを条件に活動を始める。漫画などでは睾丸の中、射精管、尿道などでも精子は運動している描写があるものの、これは医学的には誤りである。精子が運動を始めるまでには20~30分かかる。
精嚢から前立腺、尿道を通る間はフィブリンによって血餅に包まれている。精液がドロドロなのは、このためで、時間の経過と共にフィブリノリジン(タンパク質を溶かす酵素)の働きにより、精液が徐々にサラサラになることで運動できるようになる。
精子がどうやって運動しているのかは分子レベルでも謎のままになっている。一説では精液に含まれる果糖から運動の為のエネルギーを供給されているとも言われている。これが無酸素運動のため、精液は酸性に傾く。
精子は毎分1~3mm泳ぐとされ、対する膣が7cmほど、子宮は親指ほどの大きさしかないが精子にとっては広大な空間と言える。また卵子が子宮のどこにあるのか精子には判断できないこともあり、9割が卵子に辿り着く前に死滅する。
漫画では亀頭や陰茎が子宮に収まっている描写があるが、子宮の体積は2~3mlしかない。「子宮が一杯になるまで射精してやるぜ!」なんて台詞もあるが一回の射精分の精液すら収まらないのが現実である。
まさに現実は非情である。
精子は精液の約2~4%を占める。1mlに約5000万~1億個存在すると言われている。
一度に放出される精子は2億~5億と言われているが、個人差があり10億個を数えることもある。ヒトの射精は約2mlと言われるが、これではティースプーン一杯分ほどで、これより多く射精しているという覚えのある男性もいる筈である。仮に大さじ一杯なら15mlなので約7億~15億個は精子が含まれているはずである…恐らくは。
1秒間に1500個作られているとされ、3日ほどで精子を保管する精嚢は満たされる。その後、精子は老化し、古い精子は分解されて体内に吸収される。このサイクルは、約11日間が目途と考えられている。
精子の生存期間は短く、膣内の酸性ペーハー値で生存が脅かされ、約48時間程度と考えられている。しかし温かい場所でなければヒトの精子は生存できないため、体外や水の中では死滅してしまう。
子宮内の卵子にたどり着ける精子の数は全体の1割と考えられている。しかしながら、まず精子の数に個人差があり、次に卵子と精子が出会うの場所が子宮のどこか、あるいは卵管で起こっているのか、受精がどういったメカニズムで発生するのかすらハッキリ分かっていないので怪しいモンだ。
最終的に1つないし複数の精子が卵子と融合することで受精する。この際、頸部が尾部を切り離し、先端の核の部分だけが卵子の中に突入する。
この時に精子の遺伝子情報のX染色体、Y染色体で子供の性別が決定する。また双子や三つ子などが生まれることもあるのである。
精子は、ひょっとしたら我が子となる可能性を秘めていた存在と言える。
世の男性たちは、日常的にオナニーなどでそれを大量に廃棄しているのである…。
泳ぎ方
300年以上に渡り、精子は本体から生えたべん毛を左右に振って泳いでいる、と思われて来たが、2020年8月、イギリスのブリストル大学などの研究チームが新たな知見を発表した(「340年間信じられてきた「精子の泳ぎ方」が覆される、3Dで泳ぐ精子を再現するとこんな感じ)。
精子はドリルのようにきりもみ回転しながら前進している。この3次元的挙動の解明は、オリンパスの顕微鏡とナックイメージテクノロジー社のハイスピードカメラを使用することで得られたものである。
研究チームは、精子のしっぽ部分について解明することにより、不健康な精子の発見する診断ツールを開発する基礎となる、とコメントしている。これが出来れば、不妊の理由の半分を占める男性側の原因を解消する事も可能になるかもしれない。