概要
宇宙に最も多く存在する物質でもあり、陽子と電子のみで構成された唯一の物質。ただし、重水素と放射性同位体である三重水素については原子核に中性子がある。
天然に存在する同位体は水素と重水素、三重水素のみであり、それより質量の大きい同位体は人工の物質となる。四重水素(陽子1、中性子3)から七重水素(陽子1、中性子6)まであるが、これらは陽子に対し中性子の数が多く不安定で、七重水素では半減期が約0.00000000000000000000002秒(1,000京分の1秒の5万分の1)ときわめて短い。
保管する際、日本の保安規則ではボンベの色は赤と定められている。
物性
フッ素の単体に対しては爆発的な反応をおこしフッ化水素となる。これはガラスを侵す性質があるため、すりガラスの製造やガラスに目盛りを刻んだりする際に使われる。
また、塩素に対しては外部から閃光を当てるなど刺激を与えると激しく反応し塩化水素となるこれの水溶液が塩酸である。
酸素と混合して火をつけると激しい爆発を起こし、水が生成される。爆発する混合比は4.65%~93.3%と広い。
また、その原子の小ささからガス漏れしやすく、また金属結晶内に入り込み機械的特性を低下させる水素脆化と呼ばれる現象が起こる。そのため、貯蔵容器の材質には注意を払う必要があるが、-250℃以下で液化すると体積は1/800になり、しかも軽いので低温貯蔵には優れる。
また、ガス惑星の中心部のような超高圧下では物性が変わり液体金属化しているものと考えられている。
金属水素
極めて高い圧力下では金属化すると考えられている水素は、1996年にローレンス・リバモア国立研究所のグループが、140GPa(約138.2万気圧), 数千℃という状態で、100万分の1秒以下ではあるが、液体の金属水素を観測したと報告している。その後も実験は行われているが、固体の金属水素の観測はまだなされていない。
金属水素の期待される用途
励起状態の水素を金属化すると極めて強烈な爆薬になると理論計算が行われ、研究されている。
また、金属化した状態では室温でも超伝導状態になるのではないかという物質の周期と物性から予想がある。
製法(工業的製法)
炭化水素の水蒸気改質や部分酸化の副生成物として大量に得られる。これを精製する。
用途
- アンモニアや塩化水素の材料
- 油脂の改質
- 脱硫
- 化学工業における還元剤
- 燃料(主に宇宙開発用打ち上げロケット)
- 冷却材(漏れ易いので継ぎ目は高圧の油で封ずる必要あり)
- 洗浄剤(半導体産業におけるアンモニアやフッ化水素の代替)
- 代替燃料(発展途上中)
過去
- 浮力ガス(飛行船ヒンデンブルク号の爆発事故など非常に危険なので、現在は不燃性のヘリウムが使われる)
未来
- 核融合炉の燃料(期待される用途)
- 恒星間航行レベルの宇宙船の燃料(宇宙に普遍に存在するため、回収しながら航行する宇宙船の案がある)
同位体の別表記
重水素と三重水素については元素記号の別標記が存在する。
同位体 | 元素記号 | 元素記号の別表記 | 半減期 |
---|---|---|---|
重水素 | ²H | D | なし(安定同位体) |
三重水素 | ³H | T | 12.32年(約12年4ヶ月) |
自動車の代替燃料
石油を使わない自動車として候補に挙がっているが、水しか出さない反面、なんだかんだ言っても実はさまざまな問題を抱えている。
水素タンク
ガソリン車と同じレベルの走行距離を得るためには、70MPa(690.1気圧)もの圧力に耐えるタンクが必要となり、また液体水素は極低温であるため、低温を保たなければならない。また、安全の保証のため小銃で接射する試験があり、このような損傷を受けても安全が保たれる事を保証できなければならない。
また現在の技術でも補給後、1ヶ月も保存できずに蒸発してしまう。
エンジン
高温によるエンジン本体の水素脆化(特にシリンダーブロック)が起こりやすい。火がつきやすいことによるノッキングやバックファイアが起こるため、どうしても出力を落とさざるを得ない。
また、炭化水素に比べると燃焼熱が低いため、どうしてもリッターあたりの走行距離(ガソリン換算)が短くなってしまう。
燃料電池
触媒が非常に高価な上に消耗品であることと、水が関わる反応なので0℃以下100℃以上での使用ができない、また一酸化炭素が混ざっていると触媒が反応しなくなってしまうので、電池として容易に破壊されてしまう。
営業職や配達といった近回りの用途に限定した場合、定置型燃料電池+電気自動車の方がインフラや変換効率から有利になる。(定置型燃料電池はとても乗り物に搭載できるようなシロモノではないが、その代わり電力への変換効率は高い。また水素の供給もガス会社からの供給のほうが乗り物に補給するより容易)
総合的に見ると・・・
水素を車に補給し、走行するまでに大量のエネルギーを使ってしまう。
他の代替燃料車の存在
今までの車の構造を流用できる代替燃料車があるためそちらを利用したほうが総合的によい可能性がある。また、有機物から燃料(炭化水素系化合物)を精製できる植物の研究も進んでいたりする。
気になるお値段は…?
ちなみに、水素燃料化した場合の大体のお値段は下表のようになる。
燃料電池車 | 1億円以上 | 燃料電池+EVなので非常に高価 |
---|---|---|
燃料電池車(最近) | 数千万円前後 | 触媒に使われる貴金属の使用量を減らす工夫をしたもののやはり燃料電池が価格の大半を占めている |
水素エンジン車 | ベース車価格+100万円程度 | 安く上がるがエンジンの水素脆化がネック |
JR東日本E231系 | 7800万~1億円 | 1両あたりの価格参考 |
余談だが、量産効果と供給拠点の普及を狙って1台700万円前後という誰がどう見ても大赤字な値段で発売を決定したキチガ・・・もとい変態企業もいたりする。
さいごに
まだまだ問題山積の発展途上の技術であり、さまざまな工夫がまだ必要なことをお忘れなく・・・。
あとがき
身近なものでありながらまだ未知の領域が多く、便利なのに厄介、扱いやすいのに危険、古くからあるのに新しいガス・・・それが、水素である。