重水素またはデューテリウムとは、原子番号1番の水素の原子核に中性子が1つ付いた同位体。
放射能をもたない安定同位体である。
1931年にアメリカの化学者であるハロルド・ユーリーによって発見された。
化学式は「²HまたはD」。
性質*
陽子の数や電子状態が水素とほぼ等しいため、化学的性質は通常の水素と非常に似通うほか、重水素と酸素が2:1で結合すると重水を生成する。
しかし、中性子があることにより質量が異なるため物理的な性質は異なり、重水は普通の水よりも比重が大きい、沸点や融点が微妙に異なるなどの差がある(後述)。
また、水素より反応性がやや強い(重水素効果)。
自然界の水素の内0.015%が重水素である。
他の同位体としてトリチウム(3重水素)が存在する。
用途としてはトリチウムと併用する核融合燃料、半導体の耐久性を高める等が挙げられる。
製薬業界では代謝を阻害する働きを利用し、より長い間有効成分を体に残すような新薬の開発にも一役買っている。
重水
酸素原子1つに重水が2つ結合した、常温で液体の物質。
水と非常に似通った化学的性質を持つ。
化学式はD₂Oもしくは²H₂O。
また、自然界に存在する重水は大抵が2つの水素原子、のうち1つが重水素原子になった半重水(DHO)である。
水との相違点がいくつかあり、以下の表の通り。
融点 | 沸点 | 質量 | 色相 | |
---|---|---|---|---|
水(H₂O) | 0℃ | 100.0℃ | 1.00g/cm³ | 淡青 |
半重水(DHO) | 2.04℃ | 100.7℃ | 1.05g/cm³ | 淡青 |
重水(D₂O) | 3.82℃ | 101.4℃ | 1.107g/cm³ | 無色 |
その他重水の特徴
- 主に原子炉や放射線医療機器の減速剤として使用され、これは重水素が通常の水素に比べ中性子を取り込みにくい性質を持つためである。
- 電気分解が水に比べ遅いため、これを利用して水と重水を分離する事が出来る。
- 生物が体内に多く取り込んでしまうと代謝に影響をきたす事がわかっており、重水中では植物を含め生物が生きられない。
- 水に沈む氷のトリックがあるが、ここで使われているのは重水の氷で、重水の氷が通常の水より密度が大きいために起こる。
- 当然ながらトリチウムの重水も存在する(トリチウム水:T₂Oまたは³H₂O)。
日本では、福島第一原子力発電所内の原子炉で発生したトリチウムが酸素と結合して放射能を持つトリチウム水が生成されている。