他の用例については後述。
概要
近鉄はこれまでも伊勢志摩方面への観光輸送へは力を入れていたが、少子化、そしてモータリゼーションの浸透と、近鉄に限らず鉄道会社に求められるサービスの質はより高いものとなっていた。そこで、2013年に伊勢神宮で行われた第62回式年遷宮に照準を合わせ、この時代のニーズに応えた新たなる観光列車を計画した。
開発にあたっては21000系『アーバンライナー』以来行われてきたマーケティング調査、そして伊勢志摩方面への観光客への調査を行い、求められる理想の車両像を浮き彫りにしていった。その結果、
- 広々とした座席空間
- 快適さを追求したプレミアムシート
- 様々な旅のスタイルにこたえるバリエーション豊かな客室
- 気持ちよくご乗車いただくための設備、サービス
を開発コンセプトとし、「単なる移動手段ではなく、乗ること自体が楽しみとなる」、そんな未来志向の観光列車として登場したのが本列車である。謳い文句は『プレミアムな風に、乗ろう。』。
運行開始は大阪難波・名古屋発着列車に始まり、2013年3月21日。『しまかぜ』の名は、列車名であると同時に専任の50000系電車の愛称でもある。翌年10月10日からは京伊特急の運行を開始。
同列車のPRは運行開始前から積極的に行われ、試乗会はもちろん、現車落成前から主要各駅にてプレミアムシート展示を行った。またCMも放映され、CMキャラクターには女優の檀れい、イメージソングにはクリスタル・ケイの「風の彼方」がそれぞれ起用された。
なお、50000系電車は2014年ブルーリボン賞を受賞している。現在、6両編成3本が在籍。
車両
しまかぜに使用されるのは、専用に開発された50000系車両で、前述した開発コンセプトに沿って開発された同形式は、まさしく観光特急としては近鉄トップクラスといってもいいグレードを誇る車両となった。
エクステリア・性能
車体はこれまでの近鉄車両と共通の普通鋼製。しかし、6枚のガラスエリアで構築された直線基調のシャープな先頭部は、在来車との違いを大きく主張している。塗装はクリスタルホワイトに、「伊勢志摩の晴れ渡る空」をイメージしたブルー、「近鉄特急の頂点としての品格」をあらわすゴールドのラインをまとう。平屋車両の車端部には『Premium Express SHIMAKAZE しまかぜ』のロゴマークが、「心地よい風」をイメージしたブルーのラインを添えて描かれている。
※因みに発表当初のイメージ図では前車が白と水色のツートンカラーとなっていた
ドアはこれまでと同様、外側にせり出す900mm幅のプラグドアである。
走行システムは21020系『アーバンライナーネクスト』に準拠しており、制御システムはIGBT素子VVVFインバータ制御で、230Kwの三相かご型誘導電動機を1C2M制御で駆動する。最高速度は平坦線で最高速度130km/h、33.3‰の勾配区間でも110km/hで走行できるという強靭な足回りを持ち、下り勾配区間用の抑速ブレーキも装備する。
さらに、台車はこれまでと同じボルスタレス台車を採用しながら、特筆すべきは新幹線以外の鉄道車両で初めて全車両にフルアクティブサスペンションを搭載したことであろう。近鉄が同社にかける期待のほどがうかがえるというものである。
インテリア・設備
50000系しまかぜの真骨頂は、なんといってもその車内設備である。これまでの特急と異なり、レギュラーシートの設定がなく、すべてプレミアムシートor個室orカフェで構成され、利用料金にはさらに「しまかぜ料金」が上乗せされるなど、周囲から一段上の扱いがなされている。
プレミアムシート車(1・2、5・6号車)
しまかぜにおいては、この車両が「一般グレード」となる。近鉄の他の甲特急に備わるデラックスシートすら超越するシートピッチ1,250mmという破格のサイズを誇り、特にハイデッカー構造の両先頭車は床面高さが720mmかさ上げされており、ビスタカーの2階席に近い高さからの眺望に加え、先頭部では前面もとい全面展望も楽しめる、まさに『プレミアム』の名に恥じないグレードの高さである。定員は先頭車で1両あたり27名、平屋の中間車でも30名となる。
個室車(大阪・京都発着4号車/名古屋発着3号車)
全部合わせて3タイプの席が用意されている。コンパートメントタイプの「サロン席」は、23000系のものの発展形といってよく、23000系では1+2配列だったものを、通路を片方へよせ6人用(4名利用可能)としたものを3区画配置。和風個室は掘りごたつが設けられ、大型テーブルとリクライニング式の座椅子を用意。洋風個室はL字形ソファーが配置され、どちらも定員4名(どちらも3名利用が可能)、広さは約5.5㎡である。洋風個室は、日本の昼行用座席個室車としては日本最大の利用面積を誇る。他、喫煙室と化粧室も設けられている。
カフェ車(大阪・京都発着3号車/名古屋発着4号車)
同車は、近鉄では20000系『楽』以来途絶えていた伝統のダブルデッカー構造が復活するとともに、近鉄では初めて本格的な供食設備が備えられた。階上には窓向きに13席、階下にはグループ利用も可能な6席が用意され、海側に平床通路を設け通り抜けも可能。この平床部に販売カウンターが設置され、常に4名程度のアテンダントが乗務し、乗客の出迎え・見送りを行い、また個室・カフェ席からアテンダントを呼び出してメニューの注文などができる。その肝心のメニューは、「海の幸ピラフ」、「松阪牛カレー」、「特製うな重」、軽食、おつまみ、お酒類、ソフトドリンク、「しまかぜカステララスク」を筆頭にしまかぜ車内販売ならではのメニュー・お土産品もそろうなど、実に充実した内容である。
なお、近鉄では以前、21000系、23000系車内でも似たようなサービスが、さらに以前も12000・12200系「スナックカー」車内で供食サービスが行われていた。しかしいずれも短命に終わったサービスであり、そもそも供食設備そのものが今日においては時代錯誤とみなされ衰退の一途をたどっていたが、今回はそのリスクを振り切ってのサービス実施となった(ただし、しまかぜ以前に小田急ロマンスカーのVSEがやはりSE車以来の伝統として受け継いでおり、近鉄でも23000系での車内販売は復活していた。車内販売は私鉄でもJRに乗り入れる特急や、東武鉄道でも見られる)。これと前後して供食設備を要した車両は全国的にも復活・新設傾向にあり、しまかぜの旅の魅力の一つとして、愛されることを願ってやまない。
実際に、近鉄社内でも(通勤型からの改造ではあるが)青の交響曲こと16200系が供食設備を備えて登場している。
一方で「近鉄のダブルデッカー特急」でありながら、その象徴ともいえる「ビスタカー」の名は継承されなかった。これまでの近鉄ダブルデッカー車は直系以外の20100系『あおぞら』、20000系『楽』も番外ではあるが「VISTA CAR」のロゴを入れていた。その系譜はこのまま途絶えてしまうのだろうか。なお、編成記号はしまかぜの「S」とビスタカーの「V」を入れた「SV」である。
運用
しまかぜの使命は当然のごとく伊勢志摩方面への観光輸送のため、原則大阪難波・京都・名古屋~賢島間の運用。団体列車の運用もたまにある。
また、近鉄は主に名古屋から伊勢方面、京都から奈良方面へのお召し列車が数年に一度のペースで運行されており、基本的にその時点での最高クラスの車両が使用されており、しまかぜは導入以降、その任に就いている。
停車駅
原則1往復ずつ運転。1週間に1回、運休となる。
名古屋発着:近鉄名古屋-近鉄四日市---伊勢市-宇治山田-鳥羽-鵜方-賢島
京都発着:京都-近鉄丹波橋-大和西大寺-大和八木-伊勢市-宇治山田-鳥羽-鵜方-賢島
大阪難波発着:大阪難波-大阪上本町-鶴橋-大和八木-伊勢市-宇治山田-鳥羽-鵜方-賢島
大阪難波駅、京都駅、近鉄名古屋駅、賢島駅で発車を知らせる際、ヨハン・ブルグミュラーの「18の練習曲」第2番「真珠」が流れる。
補足
なお現在、奈良線への営業運転での入線経験はない(前述のお召し列車か、回送もしくは試運転での入線のみ)。観光特急という特性上、ホームライナーのような運用は不可能に近いため、今後も奈良線での運行の見込みは薄い(近鉄奈良行きだと「しま」かぜでないからというのもあるかもしれない)。奈良と伊勢志摩を直接結ぶ奈伊特急も現在は存在しない(昭和時代に存在したが大和西大寺で方向転換が必要)が、こちらに導入される可能性は「?」である。
しまかぜの山田・鳥羽・志摩線における停車駅はこれまでの阪伊・名伊甲特急と大きくは変わらない。運行前年より甲特急の全ての列車が外宮最寄の伊勢市駅に停車する。ただし名伊便は名阪特急も停まる津を通過し、両便ともこれまで停車していた志摩磯部駅を通過する。(志摩磯部については、20年前の遷宮時に志摩スペイン村最寄り駅として特急停車駅に昇格した事情があり、20年経った現代ではスペイン村へのシャトルバスが鵜方駅発着に代わってしまったことが通過の最大の原因と考えられる)。五十鈴川駅も通過する為、内宮へのアクセスは悪く、三重交通バスとの乗継ぎ利用は宇治山田駅からだと五十鈴川駅と比べてバス運賃が約2倍になってしまう。
一方で阪伊便は大和八木、名伊便は四日市に停車する。土曜休日のみ現在も運行されている伊勢志摩ライナーによる甲特急は両駅を通過するが、両駅とも名阪甲特急のごく一部(四日市は難波発1便のみ)が停車する。京伊便は高の原を通過するが、同駅はしまかぜより下りの前・上りの後の計2往復の特急も通過する(通勤需要を見越した停車のため)。
遷宮最大の儀式である遷御の儀が終了した2013年10月以降、近鉄では遷宮以降の伊勢・志摩地方の観光地としての魅力を高めるべく、3両編成の通勤型・2000系を改造した2013系「つどい」の運行も開始しており、毎週末を中心にしまかぜとの接続を考慮したダイヤで運行している。こちらの料金は一般特急より安価な300円とされた。停車駅は乙特急と同じで五十鈴川駅にも停車するが、やはりこちらも志摩磯部は通過してしまう。
1953年の式年遷宮において導入された2250系でもこのような前面展望車を導入する案があったとされる。
阪神用のATS及び列車選別装置は装備されておらず、阪神線への乗り入れは非対応であるが、あくまで『竣工・落成時点で』であり、22600系の阪神線試運転に伴い「利用率次第ではしまかぜの乗り入れも検討中である」という報道発表も過去にあった。視野に入れているのを如実に示すのが「前面の非常用扉」で、これは本来地下線を含めても近鉄線内では必要ない代物である(※)。ただ、現状ではそれ以上の続報はない上、阪神用のATS・列車選別装置が装備されたという情報もない為、阪神線にしまかぜが乗り入れる目処は立っていない。
※桜木町事故・大邸地下鉄放火事件等に代表される大惨事の教訓から、日本では地下線内を運行するような鉄道車両には、非常用の貫通扉を設置するよう「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の第七十五条で定められている。仮に防災上必要であれば、流線型のひのとり、アーバンライナー、伊勢志摩ライナーは近鉄名古屋線・近鉄難波線・近鉄奈良線での運行は保安上の観点から不可能になるはずである。ちなみに、これらの線区はトンネルの内径が広い為、非常用扉の設置は義務付けられていない。判断基準は、車両限界と建築限界(トンネル内径)の幅が150mmにとどまるか(地下鉄扱い)、400mm以上空いているか(一般トンネル扱い)、である。
関連タグ
ひのとり アーバンライナー 伊勢志摩ライナー さくらライナー Ace 50000系
2200系:遠い先祖で先述の2250系の先輩。個室や勾配区間対応の大出力モーターなど設計思想が類似。
ななつ星in九州:トワイライトエクスプレス瑞風やトランスイート四季島よりも先駆けて登場したクルーズトレイン。同年にデビューしブルーリボン賞候補を競った。
もしかして
こちらの「しま」は「志摩」ではなく「島」。
↑のタグの場合、おおむね艦隊これくしょんの登場キャラクターのことなのでそちらを参照されたい。…というか、単純に「しまかぜ」で検索するとこちらが圧倒的多数になってしまう。
そのためこちらのしまかぜを検索する際は「しまかぜ 近鉄」と入力するのがいいだろう。
当然ながら直接の関係はない。
…が、「2013年にサービス開始/就役」、「青と白の塗装/衣装」、「速い」と共通点もある。