概要
「中距離多目的誘導弾」とは、日本の陸上自衛隊が配備しているミサイルシステムである。
対戦車ミサイルに分類されていることも多いが、名称の通り「多目的」なミサイルとして様々な目標を攻撃できるのが特徴。
そのまんま略した「中多(ちゅうた)」の通称で呼ばれることもある。
名前に自衛隊装備でおなじみの「〇〇式」がついていないのは、部隊使用承認という形式で配備されているため。これだと仕様変更の手続きがしやすく、民生品パーツのバージョンアップなど細かい改良の反映が早い。
開発
元々は87式対戦車誘導弾、通称「中MAT」の後継機として企画されていたもので、開発中はXATM-6と呼ばれていた。
誘導機能など全体的に能力を近代化しつつ、87式の「撃つ時は移動用の車両から地面に降ろす必要がある」という欠点を「車載のコンテナから直に撃てる」形に改善している。
また「重MAT」の方である79式対舟艇対戦車誘導弾の後継機だった96式多目的誘導弾システム(MPMS)が高性能と引き換えに大規模で高価なシステムになり調達が進まなかったため、中多にはMPMSの不足を埋める重MATの後継という役割もこなせるだけの性能と、調達と運用がしやすい低価格で軽便なシステムであることが求められた。
その結果、以下のように従来の国産対戦車ミサイルの改善かつ良いとこ取り的なシステムとして結実することになった。
- 発射機と管制装置を高機動車1台に全部載せ切り、載せたまま発射可能
- 赤外線、ミリ波レーダー、レーザー照射指示の誘導機能を使い分け可能。戦車、船、歩兵、熱源の弱い陣地などなど、だいたい何でも狙って撃てる
- ロックオンに成功すれば、目標を狙い続けなくてもミサイルが自力で向かっていく「打ち放し能力」を実装
- 発射した後にミサイルが飛びながら目標を指定できる発射後ロックオン(LOAL)が可能らしい
- 複数の目標を連続攻撃するマルチロック的なことができるらしい
- 持ち運べる照準装置を使い、オペレーターが発射機から離れて安全に狙える機能は引き続き採用
- いろいろな要因から年度ごとの差が大きいが、だいたい1セットで20億円ほどしたMPMSに対して10セットで41億円ほど。防衛省が買い物のしかたを改善していく時流もあって比較的ハイペースで110セット以上を配備
- 寸法がほぼ高機動車のままなので輸送機による空輸や投下、CH-47輸送ヘリに積んでのヘリボーンが可能。地上でも中型トラックが走れる程度の道があれば進入できる
現実のミサイルはアニメやゲームで描かれるより地味で面倒な照準の制約や誘導の手間が必要な場合も多いのだが、何でも狙える、打ち放し、マルチロックを実現している中多は「ミサイルと言われて連想される便利な性能」を割と実現しているとも言える。
なお、他の装備品もそうだが具体的な射程距離や破壊力などは防衛秘密なので不明。
ミサイル自体が大きく有翼型のMPMSよりは短射程と考えられるが、いずれにせよ基地公開イベントなどで紹介される際は「よく飛ぶ」「だいたい(地名)から(地名)ぐらいは届く」などとごまかされている場合が多い。
近年では陸自総合火力演習の常連メンバーでもある。観客から見える射台に発射機が単独で出てきた後、遠方の的へのミサイル直撃を実演するという、1両での自己完結性を示す様子を見せている。
構成
一般に「中距離多目的誘導弾」として紹介されるのは、6連装ランチャーと誘導システムを積んだ高機動車ベースの車両だが、これは「発射機」である。
実際には「高機動車,中距離多目的誘導弾(射撃指揮装置用)」という、通常の高機動車とほぼ同じ外見で指揮装置を積んだ、いわゆる「隊長車」のような車両と、複数の発射機、前進観測員がチームを組んで行動する。
車両の詳細は防衛省公開の仕様書を参照いただきたい。
とはいえ、射撃指揮装置や情報処理装置など、発射機以外の車両を含む部隊を組む必要のあった96式と比べるとかなり身軽になっているため、同じ輸送力でより多くの手数を運搬できる。
軍用車としては小ぶりな四輪車だけで完結しているため、ちょっとした側道や山道に入り込める、渡河の手間が少ないといった機動性に優れ、ミリタリー界隈では「どこに湧いてくるかわからない対戦車級火力」の脅威が言及されることも少なくない。
非装甲なので防御力はともかく、戦車を仕留められる火力の車両が野を越え山越え海を越えヘリボーンしてくるかもしれない上に、車両を1台隠せそうな雑木林などがあれば、そこからミサイルが飛んでくるかもしれない。
また、発射機を見つけ出し撃破しても分離型照準器で乗員が生き残り様子をうかがっているかもしれないし、チームを組んでいるため他の発射機からの反撃が飛んでくるかもしれない。
こうした複数のかもしれないへの警戒を強要できる点で、敵対側からするとかなり厄介なシステムとなっている。
関連イラスト
中距離多目的誘導弾に関するイラストを紹介してください。