概要
7.62mm×51 NATO弾を使用する汎用機関銃で、ベルト給弾方式を採用。ガス利用ピストン後退式による射撃を行う。有効射程はおよそ800メートル。重量10.7Kg。バリエーションとして、74式車載機関銃がある。
備え付けの二脚での軽機関銃としての運用以外に、三脚に乗せて重機関銃としても運用できる。
戦後の日本が本格的に開発した初の機関銃であり、傑作と名高い九九式軽機関銃の実質的な後継機関銃として開発された。その為、本来は面制圧火器でありながらも、高い命中率を誇る機関銃（6発発射6発命中など）であり、専用のスコープを取り付けることで狙撃もある程度可能。現代では機関銃にスコープを装着するのは珍しい事ではないが、当時から機関銃で狙撃する発想は、旧陸軍からのある意味伝統芸。キャリングハンドルと一体化した銃身は僅か数秒で交換が可能で整備性にも優れた一品である。
その実態は・・・
と、ここまで聞けばなんだかすごい銃に聞こえるが、それは機嫌のいい個体（通称「LOVEマシーン」）に限るのであった。
例えば……
- 11kg近くある重量のせいで持ち運びには一苦労。
- 部品点数が多く、整備に手間が掛かる。
- 部品同士のクリアランスが大きく部品脱落が頻発。
- 上述のクリアランスが大きいせいで安全装置を掛けていても衝撃で暴発。
- キャリングハンドルを持って運搬中にやけに軽い為に手元を見ればハンドルに繋がった銃身だけを運んでいた。
- 30口径の銃の規模に比べて銃身が細い為、銃身が曲がり易い。
- セミオートでの命中率に比してフルオートでは命中率が悪い。
- 一発、若しくは数発撃っただけで弾詰まりを起こす。
- 上記とは逆に引き鉄から手を離しても射撃が継続する（自然撃発）。
- 正常動作中でも真下に排出される薬莢の勢いが強過ぎ、カートキャッチャーを装備していないと地面に跳ねて射手の手に当たる。
- 同じ弾薬を使用する64式小銃より正式採用が早かったため主力小銃より弾が小さい機関銃という珍妙な状態が暫く続くことになった。尤も実際に配備されたタイミングはキッチリと調整されていると思うが…(弾の大きさよりも互換性の方が問題のような気もするが)。
上記のようにあまりの信頼性の低さから、本銃は隊員達から「M1919を返せ！」と言う嘆きの声以外に、「62式言うこと聞かん銃」「無い方がマシンガン」「キング・オブ・バカ銃」「62式単発機関銃」などの蔑称がつけられた程である。誰が上手いこと言えと。
そもそもなぜここまで作動不良が多発したのかと言うと、試作段階から発生していた不具合を、力技で無理矢理解決しようとした為である。
まず、軽量化の為に銃身を細く作る→そのせいで薬莢が薬室に張り付く→ガス圧を上げて遊底を高速で動かして引き抜く力を増す→薬莢がその力に耐え切れず引き千切れる、反動が強くなって命中精度が低下する。
といったプロセスを経て、最終的には部品を追加して薬莢を前後に揺すって徐々に引き抜くという独特の作動機構を搭載するに至った。
つまり細身の銃身が全ての元凶。
当時64式小銃を開発していた豊和工業の技術陣は7.62㎜NATO弾を射撃する場合、銃身の肉厚は34ミリ以上は必要であるという知見を得て62式機関銃を開発する日特金属工業（当時）に助言したが、日特(後に住友と合併)が独自設計と軽量化に意固地になった結果取り入れることなく、肉厚28ミリと言う薄い銃身としてしまった為である。
また、遊底の後退量が多過ぎることも不具合の原因となっており、前述の自然撃発は、何らかの要因でガス圧が不足すると遊底がシアに到達しなかった場合、再度遊底が前進して射撃を継続するという、銃としては致命的なトラブルを抱えることとなった。
この欠陥は、調達開始から終了までの約40年間、改善されることはなかった。
なぜ改良されなかったのかというと、改良案を出すと自衛隊のラスボスである大蔵省（現：財務省）から「高い金で欠陥品を作ったのか」とケチをつけられ、自衛隊全体の予算を減らされる可能性があったという見方が強い。(日本の銃は本当に値段が高い!)当時はまだ自衛隊に対しての世間の風当たりは強かったため、なにがきっかけで予算を減らされるか分からない状況だったために、なにが何でもそれを「不具合」ないし「仕様」と無理やり言い切り、現場レベルの改修で使い倒さなくてはならなかった。現在ではそういった体質は改善された…と思いたい。
尚、現在は殆どがMINIMIに更新されているが、一部の部隊ではまだ運用している。
一方で、62式機関銃を扱う隊員は国民的スプレー潤滑油である「CRC KURE 5-56」或いは更に粘度のあるスプレー式潤滑油を携行し、突発的不調に備えているという。Togetterより
旧軍から脈々と受け継がれた国産機関銃の伝統とも言うべきか…。
また、この銃はとある自衛隊PKO派遣の際、何丁持って行くかで大揉めし、「複数持って行くのは侵略行為」という意見が出た為、最終的には1丁だけ+大量の予備部品を持って行くことで決定したという。クリアランスが大きい事で、部品の互換性だけは高く、部品をバラバラに組み替えても組み上がるため。
尚この話はあまりにも下らなさ過ぎると海外で酷評されたらしい。そして現場では「実質的な火力はむしろ上昇する」と歓迎した隊員もいたらしい。
ちなみに
派生型である74式車載機関銃は、ピストルグリップではなくブローニングM2重機関銃のような押しレバー式の引き金を持つ機関銃である。車載機銃として設計した為重量制限を無視できるので、本銃の不具合を徹底的に改良したのか堅牢な造りをしており、特に目立った不具合はない…とされているが、自衛隊の戦車搭乗者からは「74式車載機関銃よりキャリバー30(M1919)の方がいい銃」という回答が、インタビュー映像として残っている。
現在でもバリバリ現役であり、車両搭載のほかに、ヘリコプターのドアガンとしても活躍している…が。
2013年に製造元である住友の不正が発覚した。導入開始当初から試験データを改竄し、仕様に満たない製品を納入していたことが分かった(国産である74式の他、M2やMINIMIのライセンス品でも不正があった模様)。
「連射速度試験をクリア出来なかったので、無断で改修して再テストなしで納入した」のは直そうとしている分マシ。「耐久試験・連射速度試験をクリア出来なかったのでデータ改ざんして納入」などというのはもう救いがない。
しかも2014年には、機関銃の試射を無許可で行い書類送検される始末。
不正が発覚する前から「国産の機関銃はダメ」などと自衛隊関係者などからウワサされていたが、紛れもない事実であったようだ。例としては上述のとおり「62式や74式より、M1919の方が性能がいい」や「米軍供与の古いM2重機関銃の方が、新造されたライセンス生産品より優秀」など。
また上記の不正を考慮すると、62式にも何かしら製造時の不具合があったとしても、なんら不思議ではない。これは他の全機種で不正があったのに、62式だけ製造時の問題が無かったとは考えにくいため(防衛産業以外の企業であれば、機種の大半が不良品と判明したら大問題に発展する)。
どうも日本(というか住友)は「機関銃」というカテゴリに弱いらしい。
結果として、機関銃類は全て輸入に切り替えられる方針となった。
登場する作品
- 戦国自衛隊シリーズ
- 62式と74式(主に車載された状態)が登場する。プロップガンとはいえ、62式が登場する作品では一番活躍している。動作不良の描写は無いものの、漫画版の自衛隊装備紹介では唯一、いい面より悪い面の方が多く書かれている。
- ガメラ3
- イリスと陸上自衛隊の戦闘で使用。物凄く軽快に射撃する本銃のシーンがある。映画用のプロップかと思いきや、なんと空砲を使用した実銃射撃である。そのため、実物を知っている経験者が当該シーンのものが本物だと知ると驚愕したという話も。
- 習志野空挺団シリーズ『200000歩2夜3日』
- 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり
- 本銃が本編に出ることはないのだが、特地へと派遣する自衛隊が持っていく装備は壊れたり廃棄しても痛くもないものが選ばれていたので本銃も当然リストに入っていた（5.56mmでは威力不足であったというのもある）が、現場の隊員から「俺たちを殺す気か！」と猛抗議の末にMINIMIに変更されたという経緯がある。上述の通り62式よりはマシとはいえ、そのMINIMI(及び他の機関銃)にも問題があった訳だが…。
