概要
危険な場所で頭部を保護するために被るもの。兜や防護帽とも言われる。
「ださい」と揶揄されることがあるが、見た目よりも安全性重視な装備なので仕方ない。実際ヘルメットで命を救われた人や、逆に「ヘルメットを着用していれば大事には至らなかった」といった事例も多い。
着用を進めるためにもデザインが良いものも登場しており、例えば自転車用ではスポーツ向け風の形状であったり、布を被せて帽子に見えるヘルメットも登場している。
素材は金属やプラスチック、繊維強化プラスチック、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン等。用途により単一の素材ではなく複数の素材を組み合わせることもある。
使用場面
他より頭部を負傷するリスクが高い仕事が多い。
ロボットアニメに出てくるロボットのパイロット達も着用することがある。宇宙で戦闘を行う場合に被ることが多く、宇宙服としてパイロットスーツとセットで使われる場合が多い。
車両用
二輪用
自動二輪車運転の際には、ヘルメット着用が義務付けられている。事故時に脱げないように顎紐をしっかり締めることが重要である。
視界の確保、軽量化、空気抵抗低減など多岐にわたる機能が求められ、様々なメーカーがしのぎを削っている。詳細はバイク用ヘルメットの記事参照。
四輪用
上方、下方の視界が要求されないため開口部が狭めである。
四輪用では送風用のダクトや給水ホース等を接続することが出来るもの、HANS(ハンス:「Head and Neck Support」の略称)等の、首を保護する器具用の金具が取り付けれるものもある。
HANS等の器具は衝突などの事故時の衝撃で首が伸び、頚椎を痛めたり頭部をハンドルやドアガラスなどにぶつけることを防ぐものである。
HANSは首から肩にかけて取り付けられ、ヘルメットとはテザー(伸縮性の低い紐)で繋ぐ。
HANSの肩部を四点式以上のハーネスのショルダーベルトで押さえる事で固定するため、公道で使われる一般的な三点式シートベルトでは固定できない為、ハーネスのない車両では付ける意味がない。
また、体の側ではなくシートのヘッドレスト部分にテザーを取り付けるもの(当然乗り降りの手間はかかるようになる)や、肩だけでなくと胴体部まで装着範囲を広げる事でハーネスの種類を問わずテザーを繋ぐ器具を固定するものもある。
スポーツ用
野球用
デッドボールから左耳を保護するために耳あてをつけている(左打者は右耳。高校野球では両耳につけている)が、衝撃を逃がすために顎紐はつけていない。ただし、かつて近鉄バファローズに在籍していたマニエル選手は顎にデッドボールを受け、鉄製の網がついたフルフェイス・ヘルメットをかぶったことがある。
2010年代後半頃から耳当てを延長したフェイスガード付きヘルメットを使用する選手も増えてきた。
歩兵用
軍や法執行機関などが用いる歩兵用のヘルメットは、基本的に拳銃弾や砲弾等の破片を防ぐ、衝撃から頭部を守るためのものであり、小銃弾を防ぐことはできない。
(技術的には小銃弾を防げるヘルメットを製作する事は可能だが、大変重いものになってしまう、頭は守れても着弾の衝撃で頚椎等を痛めてしまうなど、耐爆スーツのような特殊な用途以外では作る意味が薄い)
歩兵用ヘルメットの歴史
ブロディヘルメット | M35スチールヘルメット | M1ヘルメット |
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古いデザインのヘルメットは爆風等を受けた際に顎紐が外れる構造ではなく、英国のブロディヘルメットのような頭頂部だけを覆う構造では問題とならなかったが、ドイツ軍のM35スチールヘルメットや米軍のM1ヘルメットのように頭の多くを覆う構造になると、爆風を受けた際にヘルメットに引っ張られる事で頸部損傷を招くという問題が表面化することになった。
また、現在の物のようにしっかりと固定がされない為、ヘルメットがずれて視界を遮ることもあった。
そのため、更にずれやすくなることを承知で、顎紐をあえて外すことが(特にアメリカ軍は)多かった(第二次大戦物などの古い戦争映画や記録写真などで、兵士がヘルメットの顎紐をぶらぶらさせているのを見ることができる)が、ベトナム戦争以降のヘルメットでは顎紐は一定の力がかかると外れるようになっているので、顎紐をつけるのが原則である。
が、相変わらずずれやすいというのは変わらず、ずれて視界を遮ることや紐に施された爆風対策を信じずに顎紐を外すことが多かった(特にベトナムでは暑いという理由もあった)。
しかし、WW2では比較的安全な後方では顎紐を外す兵士が多いが、前線ではしっかりと顎紐を締めている兵士が殆どという写真が残っている、被害が生じた事例のはっきりとした記録が無いなどの理由から、この爆風で首を持っていかれるという事例は都市伝説であり、『コンバット!』等のエンターテイメントの嘘とも言われている。
顎紐を締めずにいて、負傷するほどではない爆風でヘルメットを失った直後に至近弾等で破片等が飛んでくれば防ぐ事も出来ずに負傷・死亡してしまうため、当たり前と言えば当たり前だが。
現代の歩兵用
顎紐の改良に加えてヘルメット内部をネット状のライナーで隙間を作っていた構造からクッション状のライナーに変更して隙間をなくすように変更、更に顎紐を2点留めから4点留めに変更したり、頭部の前後を絞めて固定する構造とすることで、ずれやすさの解消や耐衝撃性能の向上、頭部衝突損傷防止性能の向上、爆風圧のヘルメット内への侵入による頭蓋の損傷の低下が行われている。
IED等の爆発から身を守る際に爆風によりヘルメットを失なったり頭蓋損傷を防ぐ為、ヘルメット以外の装備でも補助を行っており、ボディアーマーに取り付ける追加の防護襟の形状を変更する事で防御姿勢とると爆風がヘルメット内に入りにくくなるように改良された。
また、爆風圧が眼窩より頭蓋内部への侵入を緩和する為、ガスケットを持つ隙間のないゴーグルの装着の徹底も行われている。
最近の兵士はライトやナイトビジョン(及びカウンターウェイト)、ビーコンライト、ウェアラブルカメラといった、それなりに重量のある装備をヘルメットに装着するため、頭部の形に合うようにライナーや顎紐を調整し、顎紐をして頭部へのしっかりとした固定は必須となっている。
また、ヘッドセットを併用するために耳周りを膨らんだ形状としたり、大きくカットしたものも登場している。
ヘッドセットは分解して専用の部品を介してアクセサリーレールへと取り付けることで頭部への負担の減少、ずれにくさの向上が行うことが出来るものも登場している。
更にIED対策の一環としてヘルメット内に衝撃センサーを設置し、爆発の衝撃を浴びた兵士のダメージを記録、致命的となる前に治療を施したり後方へ下げて回復を待つなども行われている。
一方でこのような改良などは先進国でも米軍等の限られた国のみが行っており、WW2時から大して変わっていないヘルメットや装備を用いているところもある。
歩兵用ヘルメットは自衛隊では鉄帽(または鉄鉢(てっぱち))と呼ばれるが、現在の制式鉄帽の88式鉄帽は複合材料製である。
GENTEX LIGHTWEIGHT HELMET | Crye Precision AirFrame Helmet |
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米軍のPASGTやOPS-CORE等の製造するバリスティックヘルメットもケブラー等を用いた繊維強化プラスチックであり、OPS-COREやクレイ・プレシジョンなどが製造する(空挺降下や水中での行動などにも使用するため破片防護といったものを考えていない)ヘルメットは、カーボンファイバー樹脂や樹脂といった軽量素材で出来ており、鉄製ではない。まだ正式な製品は登場していないものの、超高密度ポリエチレンを用いた軽量防弾ヘルメットも発表されている。
プロテック等のスポーツ用品メーカーが製造するアイスホッケーやスケートボード、カヌー等のアクアスポーツなどのスポーツ向けのヘルメットを用いることもあり、ヘッドセットとの併用やナイトビジョンマウントの取り付けを考えたデザインへと変更したミリタリーラインのヘルメットを製造しているメーカーもある(ちなみにウェアラブルカメラ等の普及により一般のスポーツ向けのものでも軍用と同じ規格のマウントを用意しているものもある)。
空挺降下や潜水など、通常のヘルメットでは抵抗により着用したままの行動が不向きな環境向けに純粋な軍用のものでも、スポーツ用のように穴の開いたヘルメットも登場している。
戦車などの装甲車両に搭乗する兵士もヘルメットを着用する。
こちらは車両の被弾や走行時の衝撃で車内で頭をぶつけたり、砲弾の装填といった作業の際に頭部を保護するためのものとなっている。
無線や車内での会話、耳の保護のためのヘッドセット、目の防護のゴーグルと取り付ける装備も最低限。
防護性能といったものは一般的な歩兵用と異なり劣るものが殆どであるが、降車時の戦闘の訓練であったり、物資が劣るために代用していたりと歩兵が被っている事を見ることもある。
また、戦車の車長といった車外に身をさらすこともある場合は一般歩兵用の防護能力の高いヘルメットを使うこともある。
作業用
工事現場などの作業現場では、労働安全衛生法でヘルメットの着用が(事業者・作業者の両方に)義務付けられている。飛来物・落下物からの保護のことだけを考えれば必ずしも顎紐をつける必要はないが、墜落時の保護のために「顎紐は正しく締めて」と指導される。
自衛隊では、作業用ヘルメットとしては旧式の66式鉄帽の中帽(ライナー)を用いる。66式鉄帽は新型の88式鉄帽が採用された後も、中帽のみ2型に更新して作業用として供給が続いている。
比喩的表現として
マッシュルームカットや前髪ぱっつんな髪型のうち、前髪の隙間が見えないほどびっしりだと、ヘルメットと呼ばれてしまうことがある。