概要
『機動戦士ガンダムSEED』PHASE-17「カガリ再び」にて、キラ・ヤマトがサイ・アーガイルに向けて放った台詞である。
続けて発言した『本気でケンカしたら、サイが僕に敵うはずないだろ…』とセットで語られる。
ざっくりとした流れとしては、別れを告げた元彼のサイ・アーガイルに付きまとわれていたフレイ・アルスターが今の彼氏であるキラ・ヤマトのいる場所に逃げ込む。
その後フレイはサイに対してキラが現在の彼氏であり、サイに関しての未練は一切ないことを告げるが、サイはなかなかその事実を認める事ができずにいた。
キラ・ヤマトはフレイが嫌がっているからやめろと納得しない彼を咎めるが、サイは現実を受け入れずについに暴走。キラはやむを得ず彼を押さえつけ、放った言葉...というのが上記の台詞となる。
実際にはこの話に至るまでに色々と複雑な要因が絡むが、基本的な流れとしては大体こうである。
当時のネットの反応
本気になった彼には何人たりとも勝つことなど出来ないということを象徴する発言だという人も。
キラが嫌いという人の大半がこの一件を口にする事が多い。あまりにも印象的なセリフだったので、企画もできた。
このシーンでキラ・ヤマトは沢山の視聴者に悪いイメージが定着し友人の許嫁寝取り名人、上っ面だけの外道、最悪のキャラと現在までにガンダムキャラで嫌われる原因となりネット上に沢山否定的なページを立ち上げられ悪いイメージを払拭出来ないものとなってしまった。
発言の解釈
このセリフ自体はあくまでも皮肉的な表現であり、このあとの「フレイは優しかったんだ。(略)僕がどんな思いで戦ってきたか、誰も気にもしないくせに!」という一連の発言を踏まえて解釈する必要がある。
経緯を補足すると、彼らが乗る母艦アークエンジェルで、ザフトのMSに対抗しうる戦力はストライクガンダムのみであり、それを操縦できるのはコーディネイターであるキラのみであった。
アークエンジェルの乗員たちは、キラが友人たちのために命がけで戦闘することも、(知らぬこととはいえ親友さえいる)コーディネイターらを殺害することも、「キラがコーディネイターであるのだから当然」と認識するようになっており、そもそもつい先日まで喧嘩すら出来ない(弱いという意味ではなく誰かを傷つけようとする事ができなかった)ような優男だったにもかかわらず望まぬ戦いに身を投じるしかなく苦しむキラを気にかけ、感謝の言葉を伝えたのは唯一(元から反コーディネイター的思想であった上、とある出来事からキラを憎悪しており、自分に都合のいい道具として籠絡しようとしていた)フレイ・アルスターのみであった。
キラにとって、フレイは新たな「アークエンジェルを守る理由」であり、裏を返せばフレイを引き離されればもはやアークエンジェルを守る理由はないという精神状態に追い込まれていたのである。
そのような状況を全く理解せず(出来る状況ではなかったが)、フレイを引き離そうとして殴りかかってきたサイに対して「戦うだけの超人だと思っているのなら、当然そんな超人にかなうはずないだろ」という皮肉がこのセリフの真意である。
SEEDの基本描写として「口にしなければ伝わらない、口にしたら伝わってしまう」があり
彼の負荷を軽減できるであろう立ち位置にいた先輩MA(モビルアーマー、この時点では戦闘機の事)パイロットのムウ・ラ・フラガは敵を殺すことに悩むキラに「(変に悩まず)何をすべきかに集中しろ(悩むのは後からでもできる)」と先輩軍人として新兵にするような叱咤をしているが、キラは「そういう思考転換法」としてのアドバイスを言葉通りに真に受け(カッコの中身は伝わっていない)てしまい、キラが「自己主張せず敵が来たら殺す(やるべきことだけをやる)機械」と化し、一時期寝る時も休む時も何もしてない時もストライクのコックピットから降りなくなる等する遠因を作ってしまうなど、SEED序盤はこういったとことんまですれ違った挙句キラも周りも精神衛生が悪化していく描写ばかりがされている。
また、捕虜となっていたラクスが暇潰しに歌っていた歌に対してサイが呟いた「やっぱりアレも遺伝子弄った結果なのかな」という(暫定敵高官に対して)の何気ない軽口をキラは「サイもコーディネイターにそういう印象を抱いている、自分がこの艦で居場所を貰うには嫌でも戦うしかない」と受け取ってしまい思い詰めるなど、そう言った積み重ねがこの台詞が放たれる現状を作ってしまった事は留意しなければ、キラはおろかこの台詞に対しても正しい評価は出来ない。(ブライト艦長の「殴ってなぜ悪いか!?」を初代ガンダム放送当時の時代背景も作中の背景も考えず体罰肯定の発言と非難するのと同じである)
その後
この後、サイはコンプレックスの爆発からストライクを操縦してorzとなったり、キラもフレイと別に拠り所となってくれる少女が現れ、更にフレイが自分を利用していたことを察してしまうなどで、三人の溝はより大きくなっていく。
しかしイージスとの死闘の末にトール・ケーニヒがKIA、その後立て続けに今度はキラがMIA(しかし誰もがKIAと判断した)となり、サイは自分がキラを大切な友人だと思っていたことに改めて気付き、身勝手にもよりを戻そうとするフレイを拒絶する。
更にその後、キラが新たなる剣を駆ってアークエンジェルの危機を救うと、サイはキラが生きていたことを心から喜ぶと同時に、これまで抱えていたキラへの劣等感を共に吐き出す。キラはそれに対し、「君に出来ないこと、僕は出来るかも知れない。でも、僕に出来ないこと、君は出来るんだ」と優しく告げる。
そして、キラの言った通り友情と死の恐怖の板挟みになる友人を、サイは優しい言葉で送り出すことに成功する。それを物陰から見ていたキラは、優しく、そして何処か誇らしげな表情をするのであった。
他媒体において
小説版
細かな心理描写の補完に定評のある、そして重要そうな場面がカットされていたりもする小説版でもしっかり描写されている。
まず時系列がいろいろと圧縮されており、ストライクでアークエンジェルの船体にカモフラージュネットを掛けた後、カガリがキラの元にやって来てヘリオポリスで別れた後何がどうしてこうなったのか尋ねるシーンの直後の出来事となっている。
その関係で、原作では通り掛かりだったカガリは小説版ではキラ、サイ、フレイらのただならぬ気配を感じて咄嗟に隠れたと描写されている。
セリフが微妙に変わっている部分はあるが概ねそのまま再現されている。
やはりキラとしても別にサイを見下していた訳ではなかったものの…唯一の救いだったフレイが奪われようとする事や、今まで散々フレイとの仲を見せ付けて来たことへの怒りから、
一瞬で沸点まで達してしまった事でつい口を衝いて出てしまった発言と描写されており、またキラとしてもサイはサイなりに良くしてくれていた事も自覚していた事から、
怒りと同時に勢いでつい言ってはならない事を言ってしまったという罪悪感も感じている。
一方でサイも、当該シーンでは詳細な心理描写は無かったものの、直後のタッシル襲撃の報告を受けた後に場面が追加されており、フレイが自分を捨ててキラに擦り寄っていくことに対して(キラなんて、コーディネイターじゃないか……)とつい思ってしまい、口ではキラを仲間だ何だと言いつつも自身の根底にはコーディネイターに対する無意識な差別意識があった事を自覚してしまい、
フレイを奪ったキラへの憎悪と同時に、そのような自分への自己嫌悪を覚えている様子が描かれている。
なお、地面に倒れるサイとそれを見下ろすキラの図は挿絵付きである。
機動戦士ガンダムSEED 友と君と戦場で。
GBAにてリリースされた作品。
ミリアリアがシチューを作ってくれる(だが不味過ぎて食べたキラが気を失う)とかムウがカガリにセクハラを働くなど、
本編に描かれなかった面白エピソード目白押しな本作でも「やめてよね」イベントは発生するが、「やめてよね」という発言自体はまさかのカット。
場所がアークエンジェルの廊下になっている以外、キラとサイが口論になるまでの流れは原作と同じだが、
「昨夜も戦闘で~」の下りの後でサイが掴みかからず、そのままキラの「フレイは、優しかったんだ……」に飛んでいる。
その後は場面転換となるため、この会話は原作通りのタイミングで終了する。
本作はキラを操作してあちこちで会話イベントを進めながら時間とストーリーを進めて行くのだが、
会話イベントの進め方によっては、野戦任官により少尉殿と二等兵らという関係になってしまった学生組が、
「情勢故に止む無く上司と部下になってしまったが、これからも関係と友情は変わらずに行こう(要約)」という心温まる会話の直後に発生してしまう。
なお、この問答の後のフレイの表情は、原作ではキラを気遣う様な優しい表情だったが、
本作でのそのシーンでのフレイの顔グラは悪事が思い通りに行ってほくそ笑むかの様な物凄い悪人面になっている。
『SEED』のシリーズ初参戦作となった本作ではほぼ完全に再現されている。
しかしこの作品ではキラ含むアークエンジェルはヘリオポリス出港時点からオリジナル主人公含む、今や幾度もの修羅場を乗り越え百戦錬磨にして精鋭無比となったロボットチーム「αナンバーズ」と行動を共にしているので原作のような深刻さはない状況。
しかもキラと似た性格と境遇・経験のパイロットも居たため、キラにとっても頼れる者や近い目線から彼をケア・フォローできる者が若干名居た。
つまり似ている様で原作での深刻さとは遠い状況だったのに再現されてしまったことで、勘違いしたユーザーも居ると思われる。
更に他のαナンバーズの仲間にまで喧嘩を売る様な発言をし始めたため、カミーユ・ビダンにはそれを自惚れや甘ったれなどと断じられ、カトル・ラバーバ・ウィナーや碇シンジといった同年代かつキラ同様に穏やかな気性ながら戦う者にも嗜められるというオリジナル展開に繋がっており、そのせいで『ただ傲慢でナチュラルを見下す意識が垣間見える』な台詞になってしまっていたりする。
一応次シナリオで気晴らしとしてバナティーヤの街に買い出しに行かせる際に特殊な立場が作った心の壁を打破した先輩やαナンバーズの跳ねっ返り娘の先輩(?)、人為的な背景で生まれた存在の先輩を同行させて心のケアを図っていたりもする。
それにしても「い、いくらカミーユさんでも、僕には…!」とは言っていたが、前述の通りαナンバーズは死線を幾度も乗り越えていてカミーユ以外にも心身共に強いメンバーが大量に居るので、
カミーユの「その台詞を俺達全員に吐く気か!?」も道理であり、シナリオライター的にも難しい場面だったことは理解できるがおかしな場面となっている。
なお『SEED』の参戦が少ないことと、そもそも再現が難しいシーンであるため第3次α以外ではあまり再現されていない。
というか第3次αではこれに限らずSEEDのシナリオ再現は例えばニュートロンジャマー関連でも相当無茶な描かれ方をされており、
当時は『とにかく再現しよう』ということで手一杯だったことが覗える。
そんなわけで『スーパーロボット大戦J』では「やめてよね」のシーンが再現無し。
『スーパーロボット大戦W』では砂漠の虎関連の再現が決着シーンから始まるためカット。
『スーパーロボット大戦X-Ω』ではキラが南十字島に漂流するところから始まるため再現無し。
キラにとってもサイにとっても厳しいシーンであるため、あまり再現されないのも寧ろ幸福かもしれない。
関連タグ
ガンダムSEED キラ・ヤマト フレイ・アルスター サイ・アーガイル
SEED FREEDOMにて
「仕方ないだろ。“君らが弱いから”嫌だけどやるしかないんだ!」
ラクスを奪われ、自分の進んできた道を糾弾され、心が折れたキラがついに発した言葉
それはフレイを奪われそうになった彼が必死に叫んだ本項目の台詞と同じ「自分に全部押し付けてくる癖に、これ以上背負わせようとするな」という拒絶であり、弱音であった。
そのあまりに傲慢な言葉をアスランは真っ向から殴り伏せ、頭に血が上ったキラの反撃も全て捌き逆に殴り返す始末
そして「ラクスがお前にそんなに多くのものを求めたのか!?こうでなきゃ嫌だ、ああでなきゃ嫌だと押し付けたのか!?俺の知ってるラクスはそんな娘ではなかった!」「お前なんか言うほど強くないんだ、お前こそそうやって一人で背負おうとするな!!」と叱咤、ついに彼は自分が強いから求められていたのではない、みんなに背負わされていたのではないと自覚、弱い自分のままでも、ラクスに相応しくなくとも「ラクスに会いたい.....ただ隣で笑っていてほしい..」という長い間秘めていた欲望であり、ありふれた願望であり、紛れもない本音を言うことができた。
ガンダムSEEDからDESTINY、FREEDOMと長い間精神をすり減らし、自分を追い詰め、必要以上のものを背負わされ続けてきた彼が、ようやくガンダムSEED砂漠編を象徴する本項目の台詞を言い放った時の精神状態にまで持ち直してきたことの証でもあり、それですらかなりマシといえるような凄惨な精神状態のまま戦い続けてきたという事をも物語っている。