一般に言われる個人主義は、功利主義の前提となる思想であり、一個人としての価値と権利の主張の上に立って、あらゆる事物を判断しようとするものである。
これは個人の本性を、快楽を求めて労苦を避けようとする自利心にありとする快楽主義や、他人の干渉を受けずに己の欲するままに振舞おうとする利己主義や、国家の個人に対する統制・制馭をできるだけ少なくして各人の自利追求を自由に放任すべしという政治経済上の自由主義となってあらわれる。
宗教による制御も打破され、伝統的な秩序も破壊され、自由勝手な行動を許された人間の当然進むべき方向は、自己の官能生活の満足、即ち功利主義である。官能生活の満足は、享楽の一途である。享楽的欲望は、他のなんらかの崇高な精神生活の標準がない場合には際限があり得ない。
功利主義と結びついた個人主義は伝統的思想とは相容れないものであるが、現今の世界では資本主義を支えるイデオロギーとして隆盛を極めている。
そしてこの個人主義は一般に共産主義とは対立するものと考えられているが、しかし共産主義が個人の自由を制限し、統制を重んじる主張の根底にはこの個人主義的功利主義思想が含まれているのであって、共産主義の個人観は、個人を社会構成の一原子とみて、その機械的集合を社会とみるのである。団体生活の尊重は、手段として尊重するのであって、目的は個人の幸福にある。