概要
「資本主義」については多数の定義があるが、本稿ではマルクス経済学における定義を中心に解説する。
カール・マルクスは、著書『資本論』の中で「生産手段が少数の資本家に集中し、一方で自分の労働力を売るしか生活手段が無い多数の労働者(プロレタリアート)が存在する生産様式」として「資本主義」と定義した。
マルクス経済学における資本とは、社会に貨幣を投下し、投下された貨幣が社会を運動してより大きな貨幣となって回収されるという運動体のこと。資本が運動を続ける事で経済が拡大する。資本家が労働者を雇って生産活動を行うと、生産手段の価値は生産物に移転される。価値を作り出すのは労働だけであり、労働が生産物に付け加える価値は労働力の価値よりも大きい。その超過分が剰余価値であり、この流れを通じて資本は価値増殖を繰り返す。
資本そのものは古くからあるが、資本の運動が社会全体を覆うようになり、資本主義と呼ばれるようになるのは近代の工業化(産業革命)以降である。ただし、ひとくちに「資本主義」といっても時代や国によって様々な形態があり、物々交換や無償奉仕(ボランティアなど)、家庭内労働、税といった資本によらない価値の運動も共存しているのが普通である。
この資本主義というシステムの考察と批判から必然的に社会主義という思想が生まれてくるので、資本主義は社会主義と対立するものという考えもあるが、相反するものか、というと必ずしもそうではない。資本主義という経済システムを社会主義という思想の目的のために運用しよう、という思想もありうるからである。
なお、資本主義=民主主義・自由主義ではない。現在の例では鄧小平以降の中華人民共和国、ドイモイ政策以降のベトナム、プーチン以降のロシア、中東の多く、過去の例では朴正煕時代の韓国、蒋介石時代の台湾、スハルト時代のインドネシアように、経済の拡大を優先するために民主制を否定し個人の自由を制限する資本主義社会の例は多い(開発独裁・権威主義的資本主義)。
「金の力によって人権が蹂躙・侵害される」ディストピアにならぬようたゆまぬ努力が必要なのである。