概要
ヴルトゥームは火星の地下世界ラヴォルモスに潜む存在で、遥か昔執念深い敵に追われて外宇宙から太陽系宇宙に逃げのびてきたという。
火星に降り立ったヴルトゥームは当時の文明と対立して交戦し、圧倒的な科学力で一部の火星人を支配して優位に立ったが全土征服にまで興味を持たなかったことから、配下と共にラヴォルモスに引きこもっていた。
ヴルトゥームが地上を去ってから長い年月が経ったことで火星人の間では邪神として伝説の中に語られるだけか、一部の下層階級の者から悪魔崇拝の形で信仰される程度の認知度しかない(作中で主人公が現政権に対する革命家の自称だろうと勘繰る場面まである)
しかしヴルトゥームは老いた火星から若々しい地球に居を移すという目的のため、配下と共に地下世界で暗躍を続けているのである。
容姿は幹から無数に枝分かれした根を持つ青白い巨大な球根植物で、朱色の萼と真珠色の妖精のようなものが生えた花のような器官をその頂点に持つ。
時間・空間にわたる広範囲な知覚作用を持ち、幻覚性のある芳香を放つ花を用いて相手を籠絡・支配したり、星間航行技術を持つ人類から見ても驚異的な永久機関や科学技術を持つ。
ヴルトゥームは千年単位で休息期と活動期を繰り返すという生態で、それゆえに計り知れない寿命を備えている。この長命の生態は他者にも付与することが可能であり、彼の配下は全員同じ周期で活動するとされる。なお、休息期に入るためには特殊なガスを使用するため、ラヴォルモスには「眠りの瓶」という特殊な設備が存在する。
ヴルトゥームは理性的で温厚な性格であり、配下を使わして連れて来たボブ・ヘインズトポール・セプティマス・チャンラーを丁寧に応接してラヴォルモス内の自由行動や食事の提供等を行っている。
実際は彼ら二人を地球襲来の為のスパイに仕立て上げることが目的でしかなく、当初は財物や“花”の提供で取り入り軟禁状態にして決断を促す程度だったが、二人が逃亡を図るや無理矢理連れ戻して片方を拷問するという酷薄な手段に出ている。
また、地球に飛び立つための宇宙船を建造しているが、起動の余波で火星の地上都市イグナル=ルスが消滅することを歯牙にもかけない等、根本的に人類と相容れない存在である。
ちなみに作中のヴルトゥームはかなり喋る上に、邦訳では一人称が“わし”で大時代かつ男性的な口調にされている。
クトゥルフ神話との合流
1935年に発表された「ヴルトゥーム」から41年後、リン・カーターが1976年に発表した「Zoth-Ommog(陳列室の恐怖)」において、ヨグ=ソトースの息子でありクトゥルフとハスターの異母弟である神性としてヴルトゥームの名が言及され、クトゥルフ神話体系に合流することになった。
ちなみにラムジー・キャンベルの「湖畔の住人」(1964年発表)に登場するテキスト“グラーキの黙示録”においても少しだけ名前が出ている点も見逃せない。