妖精
ようせい
妖精とは、精霊の一種または別呼称で、本質的には精霊である。精霊とは、人間が日常的に生きる世界としての「この世界」から超越した「超自然の世界」に存在する、心的・霊的な存在である。
超自然的な心的・霊的存在としては、神や、神々がまずあると考えられる。精霊は、神や神々よりも、一段階低い霊的存在として考えられる。一神教や多神教のように、明確に「神」の存在を信仰の対象とするような世界観では、精霊は、人間よりも上位で、神々よりは低い位置の超自然的な霊である。
他方、自然崇拝の宗教では、精霊が最上位の霊的存在になる。通常、自然崇拝は、多神教と重なっており、強い力や影響力を持つ精霊が、神々と見なされ、他の精霊は、神々に仕えたり、従ったり、あるいは神々とは独立に存在する霊的存在となる。
妖精は、様々な精霊のなかで、「ある種類の精霊」をそのように呼ぶとも考えられる。このような妖精は、日本語や日本の文化では、相対的に美しく、華奢で、神秘的・甘美な雰囲気を持つ、少女や少年の姿でイメージされる。通常、背中に蝶やトンボなどの翅(はね)がついており、時に、翼がついている。薄暗いなかでは、翅や身体から、淡い光を放っていることがある。
日本での妖精は上記のように、翅を持った華奢な少女や少年の姿でイメージされる。このようなイメージは、イギリスの十七世紀以降の「妖精画」の伝統によるものが大きい。
妖精は、ブリテン島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)及びアイルランドにおいて、二千年前から民間伝承や自然宗教のなかで考えられていた。
しかし、十七世紀より以前の時代では、妖精はイギリスの精霊であり、そのイメージは現代の日本で考えられているようなイメージではない。妖精は姿が見えないか、または見える場合、青年や成人男女の姿、あるいは人間とは異なる姿でイメージされていた。
シェイクスピアとイギリス妖精画
十六世紀にウィリアム・シェイクスピアは多数の戯曲を書き、彼の書いた文章は、近代英語の基本的な形を方向付けた。彼の作品に『真夏の夜の夢』があり、この作品には、妖精の王オーベロン、女王タイタニア、彼らに従う多数の妖精の一族などが登場した。
これを絵画的に表現するなかで、イギリスの妖精画が誕生し、様々な人が妖精の姿を絵に描いた。このようなイギリスの妖精画の伝統のなかで、妖精は、全体的に、美しく、華奢で、善良な存在として描かれることが多かった。
子供の姿の妖精イメージ
子供向けの本の挿絵に登場する妖精は、更に、子供の姿で描かれ、背中に翅や翼を持った華奢な少女や少年の姿でイメージ化された。ただし、子供向けの本でも、恐ろしい妖精や、邪悪な妖精は存在し、それらは、色の黒い、醜い姿で描かれていた。
日本に伝わったのは、ケイト・グリーナウェイのような、十九世紀の児童書の挿絵画家が描いた妖精のイメージであった。掌サイズの小さな妖精のイメージも、十七世紀以降の妖精画の伝統から主として来ている。(20世紀初頭のコティングリー妖精事件で、このようなイメージが広く流布したが、この捏造写真を本物と信じた人が、コナン・ドイルを初めとして多数いたことは、それ以前から、小さな妖精のイメージが一般であったことを示している)。
妖精のなかには、人間の家に出入りして、色々と悪戯などをする者もいると考えられたが、その姿を見た者はいない。非常に小さいので気づかれないのだろうと考えた結果、小さな姿の妖精がイメージされた。これは野外や森の妖精にも適用された。
妖精は、英語では fairy(faery)と呼ぶが、この faery を世界中の宗教や土着文化で考えられていた精霊を指す言葉として使うことがあった。英語で編纂された「妖精事典」のなかには、欧州の精霊を妖精として扱うだけでなく、地中海域の様々な地域や、オリエント、西アジア、インド、東南アジア、中国、日本の精霊なども取り上げるものがある。しかし、河童や天狗が妖精だというのは、日本の文化の感覚からは異様である。
無論、「日本の河童という妖精の姿は」という説明で、かなり歪んでいるが、日本での河童のイメージに近い説明があり、日本語での「妖精」とはまったく異なるイメージであることは記されている。しかし、ペルシアの妖精とか、イスラムの妖精、インドの妖精、日本の妖精などは、むしろ「精霊」と呼ぶべきである。
日本の座敷童は、善良で、可愛らしいところのある精霊であるが、イギリスの妖精とはまったく違ったイメージである。古代ギリシアのニュンペー(ニンフ, nymphe)は若く美しい娘の姿をしており、イギリスの翅を背中に持つ少女の姿とは、まったく異なる存在である(そもそも、ニュンペーは、古代ギリシア語で、「花嫁・若い娘」の意味で、「若く美しい乙女」なのは当然である)。
神秘的で不気味でもある妖精
日本語でも、妖精は、字で見ると分かる通り「妖しい精」であって、「幼い精(幼精)」ではない。イギリスの妖精画においても、いかに華奢で美しく、愛らしく描かれても、本質的に、妖精は超自然的存在で、神秘性を備えており、美しさ可愛らしさと同時に、不気味さを持った存在である。
イギリスにおいて、またアイルランドにおいて、妖精と呼ばれるが、善良ではなく、人間にとって悪いことをする妖精があり、醜い姿や不気味な姿の妖精も当然に存在する。
イングランドのスプリガンは醜い外見をしているだけでなくその大きさを変えることが出来、ケルト神話には妖精犬なども存在する。また、デュラハンも元を辿ればアイルランドに伝わる妖精の一種である。
イギリスの妖精(faery, fairy, faierie)は、古フランス語の faerie から派生している。faerie は、「fae + -erie」で、この言葉は、世俗ラテン語の Fata(ファータ・運命の女神, Fate)から来ている。ヨーロッパの言語で、妖精に対応する言葉が、フェイ(fee, fei)のような形のものがあるのは、ラテン語の運命の女神(ファータ)から派生したものだからである。
アイルランド(ケルト)のシー
アイルランド語またはゲール語では、妖精を「シー」と呼ぶ、シーは、sith, sidh, sidhe 等と書かれるが、これは土地の名シー(Sidhe)から来ている。すなわち、Sidhe(シー)は、アイルランド及びスコットランドの民間伝承にある、神話的な丘の名で、シー族の故郷である。シー族は、英語の faery に対応するとされ、シーは「ケルトの妖精」になる。
ここから、ケット・シー、バンシー、リャナンシー、ディーナ・シーなどがある。また、「クー・シー」はクー(犬)+シー(妖精)で「犬の妖精」と解釈できる。
現代のアイルランド語では、Sióg(シーオーグ)と呼ぶが、これは、si + óg で、óg は指小辞で、シーオーグは、「小さなシー」のようなニュアンスで、基本的には「シー」である。
※妖精の種類については「妖精一覧」の記事を参照。
言語 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
英語 | フェアリー | Fairy |
アイルランド語 | シーオーグ | Sióg |
ドイツ語 | フェー | Fee |
フランス語 | フェ | Fee, Fée |
イタリア語 | ファータ | Fata |
スペイン語 | アダ | Hada |
ルーマニア語 | ズィゥヌ | Zână |
ロシア語 | フェヤ | фе́я (Feja) |
ウクライナ語 | フェヤ | фе́я (Feja) |
ポーランド語 | ヴルシュカ | wróżka (Vrushka) |
スウェーデン語 | フェ | Fe |
デンマーク語 | フェ | Fe |
バスク語 | マイタガリ | Maitagarri |
フィンランド語 | ケイユ | Keiju |
ハンガリー語 | トゥンデール | Tunder, Tündér |
トルコ語 | ペリ | Peri |
アラビア語 | ジンニヤ | Jinniyya |
ベトナム語 | ティエン・ヌー | Tien Nu, Tiên Nữ |
マレー語 | パリパリ | Pari-Pari |
インドネシア語 | プリ | Peri |
韓国語 | ヨジョン | Yojeong |
中国語 | 小仙子(シャオシェンツー) | Xiaoxianzi |
別名・表記ゆれ:妖精さん ようせい ようせいさん フェアリー/Fairy
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