概要
バスク語自身では「エウスカラ(Euskara)」と称する。
ビスケー湾に面し、ピレネー山脈の両麓に位置するバスク地方で話されており、話者はスペインのバスク州およびナバラ州、フランスのピレネー=アトランティック県に分布する。このうちナバラ州の一部とバスク州では公用語となっている。話者はバスク地方の人口300万人のうち80万人ほどと推定される。ほかに南北アメリカへ移民したバスク人の間でも用いられることがある。
スペイン・バスクではフランシスコ・フランコによる弾圧で、フランス・バスクではフランス語純化政策で厳しい立場に置かれていたが、フランコの死後にバスク語による初等教育が解禁され、バスク語アカデミー(エウスカルツァインディア)による保護や普及の活動が行われている。
山がちなバスク地方の地理を反映してか、方言の差異が大きい。バスク語アカデミーによる標準バスク語の制定作業が行われている。
孤立した言語
バスク語はローマ人がイベリア半島に勢力を広める以前から話されていた言語のひとつであり、他の欧州諸語とは別系統……どころか、世界中の現存するあらゆる言語との系統関係が証明されていない。語彙についてはラテン語からの借用語も少なくないものの、文法については他の欧州諸語からかけ離れたもの(ヨーロッパ外ではジョージアのカルトリ語など、類似の文法を有した言語は存在している)であり、「悪魔でさえ7年掛かって『はい』と『いいえ』を覚えるのがやっとだった」というジョークすら生まれる程である。
同様に孤立言語であったシュメール語と文法が酷似している。そのため、シュメール語と近縁関係にあった未知の古代語の方言が生き残ったものという説もある。
文法のみならず、単語レベルでもシュメール語とかなり共通する部分が多い。しかし、これはシュメール語から多数の語彙を借用したアッカド語から、ギリシア語やペルシア語などに借用された語彙が、アラビア語やラテン語を経由して持ち込まれた可能性の方が高く、近縁関係を立証する証拠とはなり得ない。バスク語の話される地域はラテン語の方言の成れの果ててある諸言語の話される地域で囲まれており、またイベリア半島自体がかつてイスラム教の影響下にあった歴史的事実からも、全く近縁関係になかったと仮定しても応分の影響が出ていると考えるのが当然である。
同様に孤立した言語であるアイヌ語の研究者であった田村すゞ子博士(1934-2015)はバスク語の研究も行っており、日本人ながらバスク語アカデミーの名誉会員となっていた。
主な単語・熟語
挨拶など
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
こんにちは(やあ!) | カイショ! | Kaixo! |
はじめまして | ウルテ アスコタラコ | Urte Askotarako |
おはよう(昼食まで) | エグノン | Egun on |
こんにちは(夕食まで) | アラチャルデ オン | Arratsalde on |
こんばんは(兼おやすみなさい) | ガボン | Gabon |
さようなら | アグー | Agur |
はい | バイ | Bai |
いいえ | エス | Ez |
ありがとう | エスケリク アスコ | Eskerrik asko |
すみません(ごめんなさい) | バルカトゥ | Barkatu |
すみません(呼びかけ) | アイス / アイスエ(複数人へ) | Aizu / Aizue |
どういたしまして | エス オレガティク | Ez orregatik |
おめでとう | ソリオナク! | Zorionak! |
生き物
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
動物 | アニマリア | Animalia |
アザラシ | イツァスチャクル | Itsas Txakur |
アナグマ | アスコナル | Azkonar |
イエネコ | エチェカトゥ | Etxe-Katu |
イヌ | チャクル | Txakur |
ウサギ | ウンチ | Untxi |
ウシ | ベイ(牝牛) / セセン(牡牛) | Behi / Zezen |
ウマ | サルディ | Zaldi |
オオカミ | オツォ | Otso |
カワウソ | イガラバ | Igaraba |
クマ | アルツ | Hartz |
コウモリ | サグサル / ガウエナラ | Saguzar / Gauenara |
シマウマ | セブラ | Zebra |
ゾウ | エレファンテ | Elefante |
ネコ | カトゥ | Katu |
ハイエナ | イエナ | Hiena |
ヒツジ | アルディ | Ardi |
ブタ | チェリ | Txerri |
モグラ | サトル | Sator |
ヤギ | アウンツ | Ahuntz |
ヤマネコ | バサカトゥ | Basakatu |
ライオン | レオイ | Lehoi |
トカゲ | ムスケル | Musker |
ヘビ | スゲ | Suge |
虫 | インセクトゥ / ソモロ | Intsektu / Zomorro |
ガ | シツ | Sits |
カリバチ | リストル | Liztor |
クモ | アルミアルマ / アイナルバ / アラム / マラスマ | Armiarma / Ainarba / Aramu / Marasma |
ゴキブリ | ラベソモロ | Labezomorro |
シラミ | ソリ | Zorri |
スズメバチ | リストルツァル | Liztortzar |
ダニ | アカイン | Akain |
チョウ | チメレタ / ピンピリンパウシャ / ハインコイロ | Tximeleta / Pinpilinpauxa / Jainkoilo |
ハエ | エウリ | Euli |
ハナバチ | エルレ | Erle |
蠕虫 | ベルダル | Beldar |