『そこのソバカスの女 お前は居残りだ』
概要
後宮で強い権力を持つ宦官のひとり。数え23歳。一人称は「私」。
「天女のような顔(かんばせ)」「甘い蜂蜜のような声」を持つ、絶世の美男子。道行く人を男女問わず魅了する蠱惑的な振る舞いで、もし女に生まれたら傾国の美女となったであろうとされる人物。常にキラキラした笑顔を振りまいている。
その一方で、国の重要人物とのつながりも深い謎めいた人物である。
ひょんなことから猫猫の優秀さに目を付け、玉葉妃の侍女に推挙してからは、後宮にまつわる事件関連で何かと彼女を頼るようになる。
猫猫からは嫌われてはいないものの邪険に扱われており、元々自然に振る舞うだけでチヤホヤされていた身分の反動からか、猫猫に邪険にされるのがちょっと気持ちよくなっている節もあり、従者の高順からは難色を示されている。曰く、「蛞蝓を見るような目」、あるいは「毛虫でも見るような目」(あくまで「一般的な女性が」蛞蝓や毛虫を見るような目という意味であり、「猫猫が」という意味ではない。寧ろ猫猫は蛞蝓や毛虫なんかよりも遥かに一般的に恐れ、忌み嫌われやすい蛇だろうと蜘蛛だろうと平気……どころか特に毒を持っている種であれば目を輝かせるような人物である)。
なお、猫猫には「年よりも幼く見える」「子供みたいな顔をする」と度々思われている(ついでに嫉妬した官女に詰め寄られ、「特殊趣味」と言い逃れもされていた)。
後宮では神出鬼没で頻繁に顔を出していたことで、猫猫からは暇人と思われていたが、外廷で大量の仕事を捌いている姿を見られてからは認識を改められた。また、武芸の鍛錬でも上達を告げられており、たおやかな顔立ちに反して体つきは均整の取れた筋肉質であることもそれを裏付けている。一見すると非の打ちどころのない文武両道なのだが、どれほど努力しても常に「優」止まりとの自己評価を下している。
人一倍秀でるものは容姿だけとかつては皮肉に思っていたが、長ずるに従って仕事の為の「道具」と割り切っていたことが明かされた。
この事から上述の猫猫の反応に物珍しさを感じるのも道理で、当初は駒として誑しこむ気でいる言動もあったが、美貌にも身分にも媚びることなく(希少な薬や酒には釣られるが)、求める成果を出す聡明さもあって彼女自身を次第に気に入り、理不尽な環境や成り行きをどこか達観して受け入れる姿を見て、簪を渡す。それを皮切りに徐々に強い執着心を見せるようになる。
これは一部の周囲も把握しており、やむなく解雇を言い渡した際は高順だけでなく玉葉妃にまで「後悔しても知らないわよ」と忠告された。結果的に本人希望もあって再雇用となったものの、一連の原因は「言葉足らず」の裏にある身分差の壁であり、壬氏が恐れるものでもあった。
余談ながら、このエピソードで壬氏が猫猫に告げた「俺が買ってやろうか?」はあくまで比喩であり、身請けしたわけではない(そもそも猫猫は妓女ではない)。
彼女が里帰りの保証で想定外に抱えた借金の肩代わりに金子(と冬虫夏草)を払うことにより、緑青館から外邸勤務(この時点では宮廷官女を想定していた)への勧誘が真意である。
物語が進むにつれ、彼女のためならば危険もを問わない一面も見せるようになるのだが……。
関連イラスト
関連タグ
水蓮(薬屋のひとりごと) もし私を処刑する場合、毒殺にしていただけませんか
正体
以下、ネタバレ注意
その正体は皇帝の弟。本名は華 瑞月(カ・ズイゲツ)。
本名を呼ぶことを許されない身分の人間からは「月の君」「夜の君」と呼ばれている。
華 瑞月としては、平時は病弱ということで政などの表舞台に立たない。やむなく公の場に出る際は素顔を隠しているため、壬氏と同一人物であることを知る者はごく僅か。そういった経緯から正しい意味での宦官ではなく、薬で性欲を抑制した上で職務にあたっている。
「火傷跡が酷くて顔を出せない」という噂も流れており、事情を知らない周囲から蔑みの目で見られる事も多かった。
実年齢は数え19歳である(物語の開始時点)。
後宮に入った時は、13歳。その時点で高身長だったうえに、中性的な顔立ちという宦官らしい特徴を持っていたためうまく誤魔化せたらしい。
素性を隠して宦官として後宮入りした目的は、自身の役職と容姿を利用して、皇帝に逆心を抱く者たちを炙り出す為。
なお自身も皇位継承者候補だが、本心では皇帝の座に就く事を望んでおらず、後宮の治安を安定させる事で跡継ぎとなる皇子を一刻も早く育て上げ、候補から外れたいという個人的な狙いもある。
兄である皇帝とは大きく年齢が離れており、その出自には大きな疑問が残されている。彼が後宮のとある人物と面影が似ている事から、猫猫はその人物との関係を仄めかす推測を立てている。
これについて、読者と視聴者は「彼がやんごとなき血筋の者でなければ所持できない筈の麒麟が描かれた装身具(簪)を身に着けていた」シーンを先に見ているので、猫猫よりも早くその正体に気付ける仕掛けになっていた。
素の性格
本来の性格は、実直で生真面目。仕事人間で、幾日も徹夜する事もしばしばだった様子。
基本的には冷静だが、たまに何らかの事でムキになり暴走してしまう事も。
突出した能力を持っていない事がコンプレックスとなっている。それゆえに、卑怯・えげつない・泥臭い手を使う事も多い。
素の性格が出ている時は「俺」に変わる。
また、実年齢はまだ二十歳前なため、年相応の青年らしい言動をとる事もある。あまり外の生活を知らないお坊ちゃんであり、寧ろ少し幼い方かもしれない(上述の猫猫評は彼女の前で年齢を偽っていないという見方もある)。
一見ナルシストのような振る舞いをしているが、実際は当人は自身の顔立ちと声音を気に入っていない。曰く「天女と言われて喜ぶ男がいるものか」。
美貌で判断される煩わしさを我が身でよく知る故か、猫猫の着飾った姿を見た時の驚きも「ソバカスが化粧だった」「見送りの舞を踊れた」という容姿より意外性に対してが第一声である。
幼い頃は、一つのおもちゃだけで遊んでいる子供だったため、母親や乳母からしょっちゅう「お気に入り」を取り上げられていた。「もっと広い視野をもってほしい」という願いからだったものの、当人はややトラウマになってしまった様子。
この事が猫猫に対してしつこく独占したがる一因と言え、引いては軍部の高官である羅漢から良い感情を持たれていない原因ともなっている。
猫猫曰く、「粘着質」「頭は良いが莫迦(ばか)」。
当初は軽薄な人物と思い警戒していたが、こういった一面が見れるようになってからは、次第に態度を軟化していく。寧ろ、時折見せる「素」の表情には惹かれている描写もある。
以下、さらなるネタバレ注意
壬氏の実の両親は先帝と皇太后ではなく、皇帝と阿多妃である。従って、壬氏は作中での真の東宮であり、皇位継承順は一位である。
詳しくは阿多のネタバレ項を参照。
余談
ちなみに彼の股間の蛙の大きさはヨーロッパヒキガエル(平均15㎝)らしい。
人気次第では本当に宦官になるルートが存在していたらしい。
余談だが、アニメ第1クールOPの『花になって』は壬氏目線の猫猫そのものだとファンから解釈されている(特に大サビ)。