漢羅漢
かんらかん
「謎解きが得意なようですな?」
CV:桐本拓哉
片眼鏡を付けた狐目の軍師で位は太尉、茘の国の軍部の最高幹部。
官位で呼ぶなら「漢太尉」だが、奇抜な言動から変人軍師と呼ばれることが多い。独身。
何故か壬氏と猫猫にちょっかいをかける事が多い。特に壬氏に対しては「嫌がらせか」と思われる程に仕事を滞らせている。
さらにはあまつさえ雑事、特に厄介事を無茶振りするようになってしまい結果、壬氏は猫猫を頻繁に引っ張り回す羽目に陥り二人にとっては迷惑の種。そして壬氏の言動から、その存在を感じ取った猫猫は壮絶に嫌な迷惑顔を見せた。
ぶっちゃけ物語初期において壬氏がとても忙しくなった原因のひとり。
出自と地位の経緯
漢の名はこの茘の国では珍しくもないが、漢の名がつくこの国の重鎮は彼くらいのものらしい。
というのも、本来彼の家は一応名門とはいえ「子」や「卯」や「馬」といった『名持ちの一族』というわけではない。
しかし「漢の羅の家」(羅の家とも呼ばれる)というのは比較的傑物を輩しやすい研究者肌の家であり「名持ち」のごとく恒常的な権勢を保持する事は無い(研究者肌の家であるため「子のために権勢を保持しよう親のために権勢を継ごう」という発想を基本的にはしない)ものの、茘の国の歴史においては要所要所で学問的イニシアティブを取ってきた家のひとつであった。ゆえに基本的には「名持ちに準ずる家」として扱われている。『名持ちの一族』が集う「名持ちの会合」に参加する権利も与えられており「名持ち以外の一族」においては指折りの古さ(家歴)を持っている。
しかし羅漢が若かった頃、羅の家はとある理由から、かなり権勢を落としていた。
ゆえに羅漢は物語開始前の15年程をかけて実力で現在の地位に着いている。この間に折り合いの悪かった実父を含んだ家族を排斥し「漢の羅の家」の家督を奪った上、邪魔をする者やちょっかいをかけてきた者を尽く破滅させ、中には一家離散にまで追い込んだ事例まである。羅漢はどの派閥にも属することなくこのトンデモ立身出世をやってのけており、周囲に理解不能な奇行も相まって、宮中では彼に関わるのはタブー視されている。
「世が戦国ならその才幹を遺憾なく発揮できたであろう」と惜しまれているが、よく考えると傍迷惑なだけで、本人は社会的には大成功している。
現帝も一目置いているが、派閥すら無いため制御できる人間が殆ど存在しない厄介な人物でもある。
能力・特技
彼の突出した能力は「人材登用」。現在では昼行灯をしていても仕事が回るように手配してある(お前も働け)。
また、嘘が全く通用しないことも知られている。
盤面遊戯の実力者でもある。囲碁は国内最強の棋聖に6:4で負け越しの実質2位、将棋は相手になる者が全くいない程の最強の打ち手とされる。
しかも当の棋聖ですら羅漢を相手にする時は、羅漢が苦手な辛い点心を出して集中力を切らしてでのその戦績であり、万全の状態の羅漢では勝つのが困難と語るほど。当の羅漢はそうした搦め手を含めることを良しとしており、辛い点心は嫌いだが棋聖のその戦い方には納得している様子。
独身、離婚歴もない。
上記の通り家族すら排斥したが、甥の漢羅半を養子にしている(というか、羅半も結託して家族を排斥した様子)。数字を扱わせたら並ぶものが無く、財テクに優れ沢山の副業に手を出している。
諸事情から壬氏を嫌っており彼にあたりが強い。
猫猫からは毛嫌いされてるが…?
ネタバレ注意
「まーおーまーおーっ!! ぱーぱーだーよおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!」
娘「……あの片眼鏡に『爸爸って呼んで♥️』って迫られたら、どう思います? 」
娘の上司「…………あの眼鏡をブチ割りたくなるな 」
娘「 でしょう!? 」
実は猫猫の実の父。
彼女からはぞんざいに扱われており父親として扱われてないが本人はどこ吹く風で猫猫を溺愛しており事あるごとに愛情表現をあらわにしては空回りしている(娘に嫌われている理由については後述と娘の方の項目のネタバレ節を参照のこと)。
猫猫の養父で彼自身の叔父である羅門に対しては慕っており恩義もある為、頭が上がらず素直に言うことを聞く。羅門は作中において羅漢を制御できる数少ない人物のひとりである。
そして壬氏への風当たりが強いのは(羅漢視点では)「中途半端に自らを偽っている者が娘に馴れ馴れしく近付いていやがる」という事実を警戒しているため。ほぼ娘への過保護がそうさせている。
あと壬氏を通して猫猫に厄介事を押し付けたのも単純な話我が娘の大活躍を見てワクテカしたいという側面もあり、いわば猫猫の一番の厄介ファンという一面もある。
もちろん壬氏の正体についても薄々は勘づいており「男か女かも判らん(嘘つきの)半端者」「裏でコソコソやらかして表に出る気力も気概も持てない臆病者」と、それはそれは口さがない(これらに関しては壬氏ひとりの責任でもないのだが、おそらくはそれすらも解っててあえて言っている)。
その経緯につき、さらなるネタバレ注意
原作2巻のクライマックスは羅漢の視点で展開する。
その中で羅漢は人の顔が判別できないことが明らかとなる。実は猫猫は羅漢のこの問題(というか持病)を知っており、その説明から自閉症、そのハイスペックさからサヴァン症候群の範疇と思われる。
そのため幼い頃は人との付き合いができず、ゆえに実の父からは「できそこないの欠陥品」扱いされ実母からも省みられず見捨てられ、異母弟の方ばかりが後継ぎとして可愛がられるのを遠目で見る日々を送っており、それを当たり前の事として受け入れていた。
彼は人間の顔がわからず碁石に見える。その状態を不憫に思った叔父である羅門よりアドバイスを受け、体格・行動・音声で識別するよう心がけた。すると結果として、他人の嘘や能力を、他者よりずっと正確に捉えることができるようになった(この時に羅門の姿が「もっとも強い駒」に見え、そして自らの叔父の偉大さを直感。さらに実父の矮小さにも気付く事となる)。
ここに名門の長男ということが加わり、武の素養が無いのに盤面遊戯の強さを応用して用兵術を発揮、後に出世できる素地ができた。
若い頃に同僚に連れられた緑青館で「花街で負け無しの妓女鳳仙vs軍部で負け無しの羅漢」という囲碁勝負で、この猫猫の両親は出会う。羅漢はここで鳳仙に惨敗するが、その打ち筋に感銘を受けると同時に鳳仙を「顔」で認識できるようになる。羅漢が生まれて初めて「人の顔」を認識できた瞬間だった。やがて二人は客と妓女として、碁と将棋を打ち合う仲となる。ちなみに囲碁は鳳仙の全勝だったらしい(作中最強ではなかろうか)。
やがて鳳仙は人気妓女となり会う機会が減った上、鳳仙へ複数の身請け話が出てしまう。そんな折に鳳仙は羅漢に賭け勝負を持ちかけるが、果たして気付けば2人は手が重なっていた。
この直後、羅漢は羅門追放の騒動の煽りで都を3年も追い出され。ようやくの思いで都に戻るも自室にて自分宛の手紙と切断された指が置かれていたのを見つけて事態を知り、真っ先に緑青館を訪れる。
しかし肝心の緑青館は鳳仙が子を生んだために信用を失墜し潰れかけており、鳳仙とその子の行方もわからなくなった(しかも、この時に緑青館の遣り手婆から「お前のせいで鳳仙は死んだ。子どもなんか知らない。たとえ、お前の子がいたとしても誰も面倒など見ないのだから野垂れ死んでいるに決まってるだろう」と罵倒され絶望の一歩手前にまで立たされた)。
一夜の過ちが鳳仙を死へと追いやってしまった、という自責と後悔が荒れ狂う絶望を誘い羅漢を襲った。彼の頭の中には絶望ゆえの自死すら過り、その生と心は荒れに荒れた。だが、その荒れ狂う絶望の嵐の中で彼はひとつ、たったひとつ、その、たったひとつの存在に至りつきすがりつき、自らを捉えんとした死神の魔の手から逃れた。
それこそが鳳仙が産み落としたであろう我が子の存在である。婆には「子どもも既に死んでいるだろう」と言われていたものの、その言葉はあくまでも予測に過ぎなかった(あるいは婆の言葉に「嘘」を嗅ぎとり、それが子どもの事と思ったか)。現実を見ればあまりに儚く愚かしい希望的観測ではあれど羅漢はそれに、ただひとつの人生の希望を見出だし、我が子に(死んでいてもいいから)一目だけでもまみえたいと願い、そして死の誘惑から打ち勝ったのである。
かくて羅漢は子どもを諦めきれず、我が子の情報を得るため何度も緑青館を訪れては館の管理人である婆や花街の人々からこっぴどく打ち据えられては追い出される事を続けた。
そして花街の人々に、しつこく付きまとい打ち据えられ路地にボロ雑巾のように放り棄てられるのが日常になったある日、たまたま指の歪んだ顔の認識できる幼い娘を見つけ自分と鳳仙の娘と直感する。そして娘の側に養父として羅門がいる事も相まって直感が正しいと確信する。
(バージョンによっては、ここで我慢が効かず衝動的に猫猫を連れ出して拉致誘拐騒動を引き起こした事が匂わされており猫猫に嫌われているのは、この時に彼女にトラウマを負わせた可能性も示唆されている事がある)
彼は猫猫に恨まれていても仕方ないと思いつつも、このたった一人の家族を引き取りたい一心で父と弟から家督を奪い、軍部で出世し、緑青館へ本来の倍額近い弁済をし、やり手婆に猫猫の身請けを求めていた(家督を奪ったのは甥の羅半が祖父の、つまりは羅漢の父の不正に気付き家の危機として泣きついた事もある。単に父と弟一家の不正であれば「切り捨てた家族の事」であるため羅漢も無視したが「家長による一族の不正」と見なされてしまえば連座制によって羅漢自身はおろか羅門や猫猫にも類が及ぶ可能性があった)。
が、猫猫の身請け話は、もともと緑青館側にとっては羅門の存在もあって乗り気ではなかった上、他ならぬ猫猫自身が後宮女官にされた上で身柄の確保に壬氏まで出張ってきたために事実上、反故にされたも同然となってしまっている。壬氏への当たりがキツいのは、その側面もある(まあ十何年も必死に頑張ってきた事が、横からしゃしゃり出た若造のせいで台無しにされれば、怒らない方がおかしくはある)。
ちなみに猫猫の生存と叔父貴が彼女を育てている事を知った頃と前後して、我が子可愛さで孫や孫の嫁や曾孫を蔑ろにする祖母と祖母の苛烈さに逆らえず唯々諾々と従っているロリコンな父親と、そんな祖母と父に擦り寄って甘い汁を吸う寄生虫どもという壮絶すぎる家庭環境に苦しんでいる悩める青年と出会い、自身も無理解な家族に苦しめられた経験があった事から同病相憐れむと言わんばかりに意気投合した。その結果、青年の話を聞きつつ彼が祖母と父を追い込むための知恵を貸す事となり、そのついでに彼から自身が家督を簒奪するための知恵を貸してもらったらしい。
結果、猫猫と初めて出会って10年あまりの時を経て、猫猫の計略によって緑青館の妓女を誰か一人身請けることになるのだが、金がかかる事(この時に「(娘の頼みだから)一万でも二万でも出すが十万はちとキツい」とぼやいている)もあり雑用させる者か勝手知ったる誰かを適当に身請けする事で茶を濁そうとしていた。
しかし、ここで梅梅の手引きもあり、実に17年ぶりに鳳仙との再会を果たす。羅漢にとっては既に死んだものと諦めていたはずの愛する者との奇跡の再会であり彼女の姿を見た瞬間、その瞳からは様々な感情が綯い交ぜになった涙が流れた。
このときの彼女は末期梅毒で顔も身も知性もボロボロになっていたが、羅漢は彼にとって誰よりも美しい鳳仙の身請けを迷わず宣言する。
梅毒でボロボロになった妓女を身請けに出すなど店にとっては恥でありリスキーに過ぎるため緑青館の婆は激怒するが羅漢はそんな婆に対して逆に喝破。「金なら十万でも二十万でも出してやる」と言い切り(サンデー(倉田)漫画版では自らの素手でボロボロの鳳仙の顔を優しく包み号泣しながら「彼女じゃないなら、誰もいらない……」とまで言いきっている)さらに実際の身請け時には彼女のために花街まるごとが三日三晩(バージョンによっては七日七晩)のバカ騒ぎに酔う大規模の総花(見世の貸切)を仕掛けている(そして家計を預かっている羅半が悲鳴を上げる羽目に)。
この時の梅梅のセリフ、及びその後の猫猫視点の解説から、実は二人がずっとお互い想い合っていたことが読み取れる。末期だった鳳仙は翌年の春には亡くなってしまうが、最後に幸せな時間を過ごせたのかもしれない。鳳仙の死後も彼女の髪の房を常に懐に抱き、人にも鳳仙の事を「自慢の我が妻」と呼んでいる。
また、後には自身と彼女の打った碁や将棋の棋譜をまとめて一冊の本にした。この本は見る人が見れば「純愛ものの一大(一代)感動叙事詩」に見える内容であり、茘の国では、この本をきっかけに盤面遊戯の大ブームが巻き起こっている(そしてブームに乗った羅半が荒稼ぎ。鳳仙の身請けと棋譜の出版で浪費した金を全部ではないが今後ある程度なんとかなる程度には取り戻した)。
なお、猫猫は羅漢が「梅梅を身請けしてくれたら良い」などと独白していたが、結果的に両親が結ばれたことを嬉しく思っているような描写がある。
当初はいかにも怪しい知性派キャラで、敵か味方かもわからないような立ち位置で登場したが、実態は妻と娘(と甘味と盤面遊戯)を一途に愛してやまない不器用な男である。
猫猫はそこのところは割とちゃんと理解しており「一回で上手く当ててくれたわけで、恨んでいない。大嫌いなだけ」と述べている。
(それはそれで救いようが無いが…これを聞いていた高順は、麻美を思い出したか哀愁を漂わせている)。
なお、この嫌いに関しては幼少期の記憶に加えて「養父に認められる程の稀有な高い才能」への嫉妬感が多く含まれている。
なお、上述の感動的な身請けシーンの後の羅漢は、登場するたび奇行をかます髭のおっさんというコメディリリーフ的な立ち位置になる。
ちなみに彼は羅の一族の中では天才型との事。
上記のように、彼はほとんどの人間の顔を認識出来ないが、鳳仙(妻)と猫猫(娘)の顔だけ人に見える。
娘を強く求め、溺愛するのも道理である。人が人に見えず苦しんできた彼にとって、二人は救いでしかないと言える。
ちなみに、猫猫の方は「何故か自分と養父の顔だけは分かる」と語っているあたり、この事には気付いていないようである。「人の顔が分からないのは本当に大変だろう」と同情しているが、それはそれでやっぱり嫌っている。
また、嘘を見破る能力について。これはまた、上記にある彼の観察力・洞察力の副産物である。
曰く「汗をかいている」「目が泳いでいる」等、常人には分からない程の変化も彼は察する事が出来る。超常能力ではなく、単純に観察力がずば抜けているのである。
その他にも、何らかのキナ臭い雰囲気、何か大変な事が起こりそうな予感を事前に予測する事が出来る、と猫猫は語る。しかし、自身は面倒なのか動きたがらず、周囲が動いて解決するように仕向けるとの事。
彼の能力は、本作の謎解きパートでは大いに役に立つ。
…はずなのだが、一方で彼は立派な変人かつ面倒臭がり(横着者)でもある。しかもそれゆえに大概はノー説明ノーフォローで結果だけを体現させ行動に移す(あるいは移させる)という、ハタ迷惑極まりないもの(そのため説明やフォローは羅半や猫猫がする羽目になる)。
羅漢による謎解きは目の前の事態の単体そのものは解決に導くものの、それに付随して引きずり出されるより面倒な厄介事を呼び込む種にもなりかねないものである(しかも事態によっては本来は無関係であるはずの者すら無意味に巻き込まれる)ため、そうそううまくはいかなかったりする。つまり羅漢に問題解決に動かれる事は、ぶっちゃけ劇薬を投じる(ボヤ火事にダイナマイト的な爆薬を投じて全てを吹っ飛ばし焦土となった空き地を指して「鎮火した」と称する。いわゆる爆風消火と酸欠消火を行う)事に等しいのである。
猫猫(娘)からは「お前が動け」とツッ込まれる羅漢だが、彼とそれなりの付き合いがある者からは「頼むから解っていても動かないでくれ」と泣いて頼まれるような人物なので、そのあたりはさすがの猫猫も認識が甘いのかもしれない。