こちらも参照→自閉症スペクトラム
概要
DSM-Ⅳ 第一軸の「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」における広汎性発達障害に分類される。英語では「Autism」と表記されるが、日本語訳の際に「自閉症」と訳されるために誤解が生じやすい。
DSM-5及びICD-11以後の基準で、同様の行動・性格傾向が見られる障害は自閉症スペクトラムとしてまとめられ、単純に「自閉症」といった場合、特段注意がない場合古典的な知能や言語に遅れが見られるグループを指す。本記事でも基本的にはこちらを中心に記述する。
障害特性など
- 対人関係の特異性
- コミュニケーションの質的障害
- イマジネーションの質的障害
これらの3つの症状(障害特性)が現れている場合に診断される。
ごく簡単に言えば、社会性や協調性等の他人とのコミュニケーション能力に対する症状と、他人との交流の欠如や特異な行動パターンが見られる。しかし、個人によって症状(特性)にはバラつきがある。
具体的には
- 言葉の習得が独特で遅い
- 他人と目を合わせられない
- 自分の興味を他人と共有できない、他人の感情や感覚に共感できない(社会的な想像力が弱い)
- 自分の話したいことだけ話す、冗談や皮肉が通じないなど、会話がかみあわない
- こだわりが強く、ささいな変化でパニックを起こしてしまう
- 「好きなこと」や「楽しいこと」と「そうでないこと」に対する興味関心の差が大きい
- 曖昧な指示、感覚的な表現が苦手
- 抽象的な物事より、具体的な物事のほうが好き・得意な傾向
- 過剰なほど几帳面、数字や規則性への強いこだわり
などの行動特性や性格の傾向が見られる。
「自閉」というと「自分の中に閉じこもり、他人を拒否する」という印象があるが、この場合は「自己完結的」というような意味合いである。
ドイツ語名の「Autismus」および英語名の「Autism」はギリシャ語のautos(自己)と、ismos(状態)を合わせたものに由来しているが、これには「外部からの介入を受けない、自律的に動く」というような意味合いが込められている。1937年に日本精神神経学会が「Autismus」の訳語として「内閉性、自閉性」としており、これが「自閉」という言葉の初出とされる。
知的発達および言語発達の度合いで、大きく「アスペルガー症候群(高機能自閉症)」・「アスペルガーとカナーのボーダー」・「カナー症候群(低機能自閉症)」の3つに分類される(※実際には「スペクトラム(幅)」という言葉で表されるように、一定の特性を持つ人たちがグラデーション状に分布していると考えられており、明確に特性や程度が分かれているわけではない。例えば、自閉傾向は比較的弱いが知的障害が重いというケースや、知的障害はないが他の発達障害を併発し情緒面での障害が重度化しているというようなケースもある)。
アスペルガー症候群は基本的には知的障害を伴わないグループ、対してカナー症候群は知的障害を伴うグループである。カナーは、いわゆる「古典的な」自閉症と呼ばれることもある。また、知的障害を伴わない発達障害が一般に広く知られるようになったのは比較的近年(おおむね1980年代後半以降)であり、現代でも「自閉症」というとカナー症候群に相当するような知的障害のあるタイプを指すことが多い。
大前提として、遺伝性の疾患や脳の奇形など先天的な要因が大きいと考えられており、親からの遺伝や出産前後の環境要因(例として妊娠初期の喫煙や低栄養など)もある程度影響があると見られるが、発病に至る明確な原因はわかっていない。幼少期の事故や病気が原因の場合を含む知的障害とは異なり、あくまでも生まれつきのものである。
近年ではイギリスとアメリカの研究者によって、自閉症の子どもはそうでない子供に比べて脳幹の発達度合いが異なるところまで発見されている。
目から入ってくる情報を優先的に処理する「視覚優位」であることが多く、映像記憶が得意であったり、物の配置など些細な変化にもすぐ気づいたり、といった傾向が見られる。
しかし、興味のあるものにだけ強く反応するこだわりや、全体像の把握よりも細部の特徴に目が行きやすいことから、例えば旅行に行っても「行くときに乗った電車の車両番号や立ち寄った休憩所の前になんの花が何本咲いていたかは覚えているが、すれ違って挨拶した人のことや自分の着ていた服のことは全くわからない」というような偏りが見られる。
抽象的なもの、曖昧なものを表現する芸術の分野に苦手意識を持つ人も少なくない。例えば絵画・イラストにおいては「ある一つのモチーフは細かく観察して描けるが、全体で見ると形の歪みや線の強弱などバランスが悪い」「『自由な感性』、『見たままに』などの指示が曖昧なため、見ているものを絵や筆に落とし込む感覚が把握できず、画材の使い方が普通と違う」というような形で特性が現れることがある。
しかし、非常に優れた映像記憶を持ち、まるで風景を写真に収めたかのように精密に描き上げる人も存在する。
発達性協調運動障害を抱えていることが多く、本人の元々の身体能力とはまた別に、頭で考えている動きと手足で実行される動きに差が生まれ、(繊細に)体を動かすことが苦手という人も多い。
Pixivにおいて
障害を持つ当事者の自己表現として制作・投稿された作品にタグとして利用されているほか、当事者や家族によるエッセイ等も多く投稿されている。
一方、タグ荒らしとして悪用されていたり、後述するような誤用であったりすることもある。
注意
脳の障害による先天的な障害であって、決して家庭環境やゲーム・インターネットなどの外部ファクターによって後天的に引き起こされる病気ではない。
また「自閉症」という字面から「自ら閉じこもる」という印象を受け、しばしば誤解される事が多いが、単に内向的な性格や、自分の趣味に没頭するオタク、社会とのつながりから遠ざかっているニートや引きこもりといった存在のことではないので注意されたい。
うつ病など、一部類似する症状を示す精神疾患との混同もあるが、基本的に別物である。医者でもない者が相手を勝手にそう決めつけるのは以ての外である(※ただし、自閉症スペクトラムの中には特定の分野において強いこだわりと知識を持つ「オタク気質」な人が多く、社会における人間関係がうまく構築できず引きこもり状態になっている人、二次障害として精神疾患となる人もいるため、一切関係のないものというわけではないことにも注意が必要である)。
もっとも、1933年にアメリカの精神科医ハリー・スタック・サリヴァンが精神発達の遅滞、いわゆる知的障害を持たないが乳幼児期から持続する対人関係の障害として「精神病質(サイコパス)の児童」という概念を提唱しているほか、「カナー症候群」の由来となった医学者、レオ・カナーも発見当初自閉症について「ごく幼少期に発症した統合失調症の一種」と認識しており、「アスペルガー症候群」の由来となった小児科医、ハンス・アスペルガーも同時期に同様の見解を示していたことから、研究者の中でもしばらく混同が続いていた。
1990年代以前は創作においても誤用が目立ち、例えばアニメ『機動戦士Zガンダム』でも、主人公のカミーユ・ビダンが自らを指して「自閉症」と称しているが、カミーユが自閉症と設定されているわけではなく、あくまで自身の性格についてそのように形容したものである。
また、バンド黒夢の楽曲『autism -自閉症-』ではずばり「自閉症」という単語が用いられているが、歌詞の内容からして誤用であり、日本自閉症協会から抗議を受けて一時封印扱いとなっていた。
知的障害や他の発達障害同様、特性や付随する症状をある程度コントロールするという意味での「治療」は可能だが、基本的に障害そのものが「完治」できるものではなく、あくまで療育によって障害と折り合いをつけて生きて行く術を学ぶ、ということになる。
時々「自閉症は治る」とうたった書籍や評論家、自称治療家などがいるが、ほとんどは不勉強か疑似科学方面のインチキであるため注意。便宜上「ほとんど」とは言ったが、先に述べたようにそもそも現代の医療では完治できるものではないため、あくまで「効果がある可能性がある」という研究段階のものや「特性や症状の改善に効果がある」というもの以外はすべて誤りと言いきってもよいほどである。インチキ療法を試した結果、自閉症児が死亡してしまった例もある。
親の愛情不足(冷蔵庫マザー仮説)、誤った育児、家庭環境の悪さ、ワクチン接種などを自閉症の原因とする様々な誤った主張を掲げる者も後を絶たない(「自閉」という言葉からうつ病や引きこもりと混同、あるいは意図的に誤認させて主張している可能性も大いにある)。それが悪徳商法や、一部の政治的思想にも結びついてしまっている。そういった言説は結果として自閉症やその親へのレッテル貼りに繋がってしまっている。現在では科学的に廃れた古い説なのだが、いまだ世間にその影響は根深く残ってしまっている。
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